当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

Twitter はてなアンテナに追加 Feedlyに登録 RSS

邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2019年版)

私的ゴールデンウィーク恒例企画である「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする」なので説明は省略……しようと思ったが、考えてみればワタシのブログを昔から読んでいる人ばかりではないのだから、この毎年一度やってるこの企画を辿りやすいように、「洋書紹介特集」というカテゴリーを新たに作っておいた。

2011年から毎年やっているので、今回で9回目になる。『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のプロモーションもそろそろ終わりなので、つまりは本ブログは再び無期限休止状態に戻る。おそらくは来年10回目はなく、今回で最後になるのではないか。

だからというわけではないが、今回は35冊をこえるかなりのボリュームになった。洋書を紹介しても誰も買わないので、アフィリエイト収入にはまったくつながらないのだが、誰かの何かしらの参考になればと思う。

実は既に邦訳が出ている本を紹介していたり、邦訳の来るべき刊行情報をご存知の方はコメントなりで教えてください。

Virginia Eubanks『Automating Inequality: How High-tech Tools Profile, Police, and Punish the Poor』

アルゴリズム(昨今の一般的な用法に則れば AI と置き換えてよいだろう)が不平等を自動化し、格差社会を助長する問題をいちはやく訴えた本である。キャシー・オニールの本の邦訳は出たけど、こっちも邦訳が出てほしかったんだがな。

デヴィッド・グレーバー(David Graeber)『Bullshit Jobs: A Theory

本田圭佑のお気に入りの本らしい『負債論 貨幣と暴力の5000年』(asin:475310334X)も話題だからこれの邦訳も今年あたり出るに違いないが、それにしても「Bullshit Jobs」というタイトルが何よりインパクトがあって秀逸だし、クソどうでもいい仕事に忙殺される一方で、介護職など本当に意味ある仕事の賃金が低いことの矛盾を突いているように思うのよ。

[2019年5月6日追記]:本書の邦訳が岩波書店から年末刊行予定との情報を Ryutaro Nakagawa さんよりいただきました。

Shoshana Zuboff『The Age of Surveillance Capitalism: The Fight for a Human Future at the New Frontier of Power』

これも「監視資本主義」というフレーズがあまりに秀逸で、これは邦訳が出るに違いない。主に GoogleFacebook によって完成されたものが民主主義を脅かしているという問題意識が、一連の書籍に共通しているわけである。

Primavera De Filippi、Aaron Wright『Blockchain and the Law: The Rule of Code』

ブロックチェーン絡みの書籍もかなーり出ているが、法律との関係という切り口は面白いので、まだ邦訳を出す余地があると思うのである。

[2019年5月6日追記]Satoshi Narihara さんによると、本書の邦訳が刊行予定とのことです。

ティム・ウー(Tim Wu)『The Curse of Bigness: Antitrust in the New Gilded Age』

2018年は、GAFA に代表されるプラットフォーム企業について、もういい加減野放しにはできないよねという合意が広がってきた年だと思うが、そこで独占禁止法に基づく分割まで踏み込んだのがティム・ウーである。今頃になって目指せ GAFA 的な周回遅れの議論をやってる日本にも、この本の邦訳は価値があると思うんだがどうだろう。

John CarreyrouBad Blood: Secrets and Lies in a Silicon Valley Startup

エリザベス・ホームズについては、ドキュメンタリー映画 The Inventor: Out for Blood in Silicon Valley が公開され、Hulu でドラマ化が決まり、何よりこの本を原作とし、アダム・マッケイが監督し、ジェニファー・ローレンスがエリザベス・ホームズを演じる映画化の話が出ているというのに、なんでこの本の邦訳が出ないわけ? おかしいでしょ! よほど権利料が高いとか事情でもあるのかしら。

スタンリー・キューブリック『Stanley Kubrick Photographs: Through a Different Lens』

昨年は生誕90周年記念、『2001年宇宙の旅』公開50周年記念ということで、ワタシも『2001年宇宙の旅』の IMAX 版を観たし、今年に入って『2001年宇宙の旅』本の決定版『2001:キューブリック、クラーク』が発売されたりもしたが、有名になる前に写真家だった時代のキューブリックの写真を集めたこの本も面白いと思うのよね。

Noam Cohen『The Know-It-Alls: The Rise of Silicon Valley as a Political Powerhouse and Social Wrecking Ball』

本ブログでこの本を最初に取り上げたのは2018年のはじめであり、今さらではあるのだけど、ペーパーバック版の Oculus を装着したマーク・ザッカーバーグの上に「知ったかぶり」という書名が掲げられる表紙が強烈で、シリコンバレーの政治との関わりについての本の邦訳もやはり必要だよなと思う次第である。

本書の著者は、最近では「「WikiLeaks」を生み出した男、ジュリアン・アサンジの逮捕から見えてきたこと」という記事を書いている。

Kai-Fu Lee『AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order

データこそデジタル情報社会における石油という話はよく言われ、これからの AI 時代、データをやりたいように集めて実装できる中国こそ AI 超大国になるという見立ては自然な流れである。AppleマイクロソフトGoogleアメリカを代表するテック企業で要職を務めた経験がある中国人の有識者である著者の考えは、AI 超大国としての中国を考える上で必読であり、邦訳が出ないといかんでしょう。

Michael DiamondAdam HorovitzBeastie Boys Book』

書籍の公式サイトビースティ・ボーイズくらいのビッグネームになれば、既にどこかの版元が権利を購入済で、回顧録の邦訳もいずれ出るとは思うが、よろしくお願いしますよ。

Anita SarkeesianHistory vs Women: The Defiant Lives That They Don't Want You To Know

『世界を変えた50人の女性科学者たち』(asin:442240038X)や『世界と科学を変えた52人の女性たち』(asin:4791771095)といった趣旨が近い本が昨年2冊出ているので難しいかもしれないが、昨年こうした本の邦訳が何冊も出たということ自体が重要だろう(そして、いずれも邦訳であり、日本独自の企画ではないという点も)。

Ian Haydn Smith『Selling the Movie: The Art of the Film Poster』

トランネットのオーディション課題になった本なのだから、じきに邦訳は出るに違いないが、いずれにしても「ポスターのデザイナー、スタイルの変遷、政治とイデオロギーの影響、商業がポスターの発展に果たした役割など、ポスターを通して様々な面から映画産業の歴史をひも解く」って面白そうじゃないの。

そういえば、この本の著者が編集に名を連ねる 1001 Movies You Must See Before You Die シリーズの新版(asin:1438050755)が今秋出るね。

ヨハイ・ベンクラー(Yochai Benkler)、Robert Farris、Hal Roberts『Network Propaganda: Manipulation, Disinformation, and Radicalization in American Politics』

ヨハイ・ベンクラーの新刊のテーマが、「アメリカ政治における情報操作、デマ、尖鋭化」という非常にトピカルなものなのが逆に意外というか新鮮だった。

共著者一同が講演し、パネルディスカッションを行う動画が公開されているので参考まで。

Mariya Yao、Adelyn Zhou、Marlene Jia『Applied Artificial Intelligence: A Handbook For Business Leaders』

書籍の公式サイト。もっとも重要な AI 研究論文トップ10を要約して紹介という試みもそうだが、書籍のほうもビジネスリーダー向けの AI 指南書というのもうまいビジネスなんでしょうな。

マーティン・フォード(Martin Ford)『Architects of Intelligence: The truth about AI from the people building it』

書籍の公式サイト。『テクノロジーが雇用の75%を奪う』(asin:4023313661)や『ロボットの脅威 人の仕事がなくなる日』(asin:4532198615)といった AI やロボットに関する著書のある著者だから、AI 分野の重要人物へのインタビューをまとめた本も成り立つのだろうし、これは日経あたりから今年中に邦訳が出るのを期待してしまいますな。

ダン・ライオンズ(Daniel Lyons)『Lab Rats: Why Modern Work Makes People Miserable』

著者の公式サイト。この人の前作は原書が出たときにブログで紹介しているが、思わぬ大ヒットとなり、邦訳『スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家』(asin:4062205882)も出た。

その勢いを受けて、現在のテック系スタートアップの価値観をぶった切る新刊ということで、カタパルトスープレックスの評を見る限り結構まともそうだが、著者はブライトバート・ニュースへの関与が報道されたりしていて、ちょっと大丈夫かねと思うところもある。

ロジャー・マクナミー(Roger McNamee)『Zucked: Waking Up to the Facebook Catastrophe』

Facebook 批判本の一つの決定版と言えるし、著者がその初期の投資家であるというのも示唆的である。そして、この著者は、マーク・ザッカーバーグ個人の資質を批判するのでなく、テック系大企業のビジネスモデルそのものが問題の根源であると喝破しており、これはそのビジネスモデルがアメリカのデモクラシーを蝕んでいるという認識にまでつながっている。

Susan Crawford『Fiber: The Coming Tech Revolution―and Why America Might Miss It』

スーザン・クロフォード先生の本が未だ邦訳が出ないというのも不思議な気がするが、今回もちょっと日本の読者にはピンとこない主題かもしれないのがつらいところ。でも、無縁な話じゃ実はないんだけどね。

Joseph M. Reagle Jr.『Hacking Life: Systematized Living and Its Discontents』

彼の本はいつもワタシのインスピレーションになってきたし、今回もメタライフハック本とは面白いと思うのだが、邦訳が出るかというと難しいだろうねぇ。

asin:B07Q287GBY:detail

Mike Monteiro『Ruined by Design: How Designers Destroyed the World, and What We Can Do to Fix It』

書籍の公式サイト。「デザイン」を主題とする、とても挑発的で面白い内容を含む本になっている。こういう本の邦訳が出ると面白いと思うわけである。

Robert HilburnPaul Simon: The Life』

著者は音楽評論家にしてミュージシャンの伝記本を多く手掛けており、ジョニー・キャッシュの伝記本は、辛口批評で知られるかのミチコ・カクタニがその年のトップ10に入れたほどである。ポール・サイモンの決定的な伝記本と言える本書については、スティーヴン・キングが「優れた才能のあるアーティストの創造性の成長に微妙な光を投じるめったにない本」と称賛している。

すごいのは、この著者が実はポール・サイモンよりも年上なこと。80歳近くでそれだけの本を書けるなんて脱帽である。とにかく、ポール・サイモンの決定的な伝記本なんだから、邦訳が出なきゃいかんでしょう。

Eric A. Posner、E. Glen Weyl『Radical Markets: Uprooting Capitalism and Democracy for a Just Society』

本書の共著者のグレン・ワイルの名前を知ったのは、「平等を実現するラディカルな方法:WIRED ICONが選ぶ「次」の先駆者たち(9)」という記事で、「権力の集中を打ち壊し、みんなに平等なリソースと影響力を与えることについて書いてある」という本書に興味を持ったのだが、もう一人の共著者がエリック・ポズナーというのにおっとなった。

彼の苗字にピンときた人もいるだろうが、著名な法学者であるリチャード・アレン・ポズナーの息子さんですね。

意外なことに、エリック・ポズナーの本はこれまで『法と社会規範―制度と文化の経済分析』(asin:4833223317)くらいしか邦訳がないようで、彼らが書いた「資産の独占化」の打破を訴えるラディカルな本となれば、先物買い的に邦訳が出ると面白いと思うがいかがだろう。

asin:B0773X7RKB:detail

Meredith Broussard『Artificial Unintelligence: How Computers Misunderstand the World』

著者の公式サイト。著者はデータジャーナリズムを専門とするニューヨーク大学の教授である。そうしたジャーナリズム分野における人工知能の役割について研究する著者による「いかにコンピュータは世界を誤解するか」という本は、ある種の解毒薬として求められるものだろうし、『Artificial Unintelligence』という書名自体キャッチ―だよね。

asin:B07CMSQLLH:detail

ハンナ・フライ(Hannah Fry)『Hello World: How to be Human in the Age of the Machine』

著者の公式サイト。著者はイギリス人の数学者だが、のちに『恋愛を数学する』(asin:4255009856)として書籍化される TED 講演で知る人が多いだろう。

新刊はやはりデータとアルゴリズムをテーマにしているが、「機械の時代に人間である方法」という副題は、AI 時代に合ったものではないだろうか。

Anand Giridharadas『The Elite Charade of Changing the World』

著者はインド系移民の2世で、ニューヨーク・タイムズのコラムニストを務めながら書籍を執筆しているが、前著刊行後に行った TED 講演が NHK の「スーパープレゼンテーション」で放送されたことで記憶している人もいるかもしれない。

新刊のテーマ的には、2016年に行った TED 講演の内容が近い。


これはこの変革の時代の勝者から敗者、あるいは敗者と感じている者へ向けた手紙です。そこでは痛みが怒りに変わるまで無視してきたことが告白されています。そして無関心なエリートが実体のない世界を救うために描く理想郷や未来志向をたしなめています。それは地球にいる人々を救おうとせず、火星に人々を移住させることに気を病むといったことです。

アナンド・ギリダラダス: この時代に行き場を無くした者たちへの手紙 | TED Talk

書名にある「勝者総取り:世界を変えるエリートの言い訳」といったフレーズからも著者の立場は明らかである。

この本は、米国のいわゆる「エリート階級」が、いかに権力と富を維持強化するために制度を利用していながら、慈善活動によって「世界を変える」と人助けをしているとうそぶいてきたかを検証しています。

アナンド・ギリダラダス:大学贈収賄スキャンダルが浮き彫りにした富と権力がものを言うアメリカ | Democracy Now Japan

本書もベストセラーとなっているが、ジョセフ・E・スティグリッツビル・ゲイツが推薦の言葉を寄せている。

さて、ここからはまだ刊行されていない本を取り上げさせてもらう。

スコット・ギャロウェイ(Scott Galloway)『The Algebra of Happiness: Notes on the Pursuit of Success, Love, and Meaning』

『The Four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(asin:4492503021)が日本でも大ヒットし、今では GAFA なる呼称をニュースサイトで見かけない日がないくらいだが、そのスコット・ギャロウェイの新刊がもうすぐ出る。

のだが、これが前作の延長線上にあるビジネス書なら間違いなく邦訳も出るはずだが、「幸福の代数学」という書名からもうかがえるし、Derek Sivers あたりが推薦の言葉を寄せていることからも分かる通り、自己啓発本の路線らしいのが難しいところ。

詳しくは書籍の公式サイトをどうぞ。

ジョン・ブロックマンJohn Brockman)『The Last Unknowns: Deep, Elegant, Profound Unanswered Questions About the Universe, the Mind, the Future of Civilization, and the Meaning of Life』

著者は出版エージェントが本職であるが、プレWWW時代の梁山泊エッジ財団(Edge.org)の創始者にして多数の著作を持つ人である。彼の経歴については、21世紀ラジオ (Radio@21) の「奇跡のインタビュアー ジョン・ブロックマン」あたりを読むのがいいと思う。

『33人のサイバーエリート』(asin:4756117929)、『2000年間で最大の発明は何か』(asin:4794209363)、『キュリアス・マインド』(asin:4344014596)など邦訳されている著書も多いし、彼の最近のキュレーターとしての仕事では『知のトップランナー149人の美しいセオリー』(asin:4791768329)あたりが知られているかな。

その彼の『最後の未知:宇宙、精神、文明の未来、人生の意味についての深遠かつエレガントな未だ答えられていない問い』という書名の本を出すんだから面白そうじゃないの。ダニエル・カーネマンが序文を書いてるみたいね。

ランドール・マンロー(Randall Munroe)『How To: Absurd Scientific Advice for Common Real-World Problems』

xkcd でおなじみ……というか、日本では『ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか』(asin:4152095458)や『ホワット・イズ・ディス?:むずかしいことをシンプルに言ってみた』(asin:4152096543)の著者として知られているかもしれないランドール・マンローの新刊は、「現実世界のありふれた問題に対する不条理な科学的アドバイス」をテーマにしているようで、これも面白そうなので来年あたり邦訳出るでしょうね。

ニール・ヤング、Phil Baker『To Feel the Music: A Songwriter's Mission to Save High-Quality Audio』

ニール・ヤングが mp3 などのデジタル時代の音源の音質について強い不満を持ち、Neil Young Archives においてそのキャリアを総括しながら、高音質のサウンドを提供するために Pono というデジタル音楽サービスまで立ち上げたことは知られるが、そのあたりについてのニール・ヤングの考えが綴られたものみたい。

個人的にニール・ヤングの衰えない創作欲にも高音質へのこだわりにも敬意を払っているが、一方でニール・ヤングの客層ってそれほど音質にこだわっているかなというのが少し疑問だったので、本書の邦訳が出て、そのあたりの認識を改められればと思う。

ベン・ホロウィッツ(Ben Horowitz)『What You Do Is Who You Are: How to Create Your Business Culture』

Andreessen Horowitz の共同創業者にして、日本でも『HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』(asin:4822250857)が大絶賛されたベン・ホロウィッツの新刊は企業文化をいかに創り、維持するかをテーマにしているようで、これも邦訳出るでしょうな。

Rana Foroohar『Don't Be Evil: How Big Tech Betrayed Its Founding Principles--and All of US』

著者の公式サイト。著者は CNN の世界経済アナリストにして Financial Times のコラムニストで、彼女のコラムは日本経済新聞のサイトで読める。

その著者の新刊だが、表紙を見ただけでニヤリしてしまうだろう。もちろん書名は Google のかつての非公式社是であり、表紙の色遣いも Google を意識しているのは言うまでもない。

それで「いかにテック大企業は、その創業理念――と我々皆――を裏切ったか」という副題はいかにも皮肉だが、GAFA に代表されるプラットフォーム企業を批判する本は、今回のリストでもいくつもあるが、その創業理念から読み解くというのは面白い試みかもしれない。

マイケル・ペイリン『North Korea Journal』

久方ぶりに『スターリンの葬送狂騒曲』でコメディ俳優としての仕事をしてくれたモンティ・パイソンマイケル・ペイリンだが、この30年は旅行番組のプレゼンター、並びにそれを基にした本の執筆が本業になっている。

昨年の南北首脳会談にあわせた北朝鮮旅行をテレビ番組「発見!北朝鮮の歩き方」にすると同時にいつものように本にもしているのだが、これが発売になる今年の秋ごろ、北朝鮮はいったいどうなってるでしょうな。

いずれにしても、マイケルが旅行番組を作ると、そこを旅行する人が多くなるという "Palin Effect" は、北朝鮮には起こらない気がするが。

North Korea Journal

North Korea Journal

Amazon

さて、ゴールデンウィークも終わりである。ワタシ自身は、連休が始まる前にこれはやろう、当然できるだろと思っていたことが何一つできていないのに情けない気持ちになるが、皆さんはいかがだろうか。

それでは皆さん、ごきげんよう。さようなら。

[追記]

以下、ここで取り上げた本の邦訳が出たのを紹介するエントリをはりつけておく。

yamdas.hatenablog.com

yamdas.hatenablog.com

yamdas.hatenablog.com

yamdas.hatenablog.com

yamdas.hatenablog.com

Spotifyのプレイリストをいくつか作ってみた

これは面白い企画じゃないか! と乗ることに決めた。

Spotify のプレイリストって基本的には曲数が多くて適当に聴き流せるものがいいのだろうが、そういう取り止めがないものを作ろうとするとそれこそ取り止めがなくなってしまうので、勝手に以下の方針を立てることにした。

  • それ自体を1枚のアルバムとして聴くことができる起伏を作る
  • あえて全10曲とし、46分テープにおさまるイメージ
  • 同じバンドの曲は1曲のみ
  • 〇曲目は、その曲が最初にリリースされたアルバムの〇曲目と同じとする

とにかくアナログ盤時代の時間サイズの1枚のアルバムを作りたいと思ったのだ。一番最後の方針がキモで、正直、この縛りを思いついたので俄然やる気になった。のだが、これがかなり難しく、大げさに言えばパズルの領域になる。それまでの流れの中で「この曲がいい」と思っても、それがこの条件に合致することはほぼないわけで。

すべては「アナログ時代のアルバム」という単位にこだわったためなのだが(誰に頼まれたわけでもないのに……)、そうなると、収録曲はアルバムという単位が意味があった前世紀までの曲にほぼ自然と落ち着いた。

うんうん唸って、以下の10曲をリストアップした。

  1. The Cure, "Plainsong"
  2. Sting, "All This Time"
  3. Louis Philippe, "She's Great"
  4. Matthew Sweet, "Looking at the Sun"
  5. Patti Smith, "Summer Cannibals"
  6. Massive Attack, "Unfinished Sympathy"
  7. Steely Dan, "Pixeleen"
  8. Brian Eno & John Cale, "Been There, Done That"
  9. Talking Heads, "City of Dreams"
  10. Roxy Music, "Tara"

よしこれでよかろうと思ったら、Spotify には Louis Philippe がなかった……ガーン! Louis Philippe は iTunes Music にもないのだが、Google Play Music にはあるらしい。なんで?

仕方ない。3曲目を何かに変えるか……と考えるうち、一応これでも5曲(A面)、5曲(B面)で46分テープにおさまるランニングタイムなのだけど、A面とB面でちょっと時間に差ができてしまっている。これも是正したいなと思い、後半もいじろうかとか思ったらドツボで、またうんうん唸って、なんとかまたリストアップした。

  1. The Cure, "Plainsong"
  2. Sting, "All This Time"
  3. Matthew Sweet, "Girlfriend"
  4. Björk, "It's Oh So Quiet"
  5. Patti Smith, "Summer Cannibals"
  6. Massive Attack, "Unfinished Sympathy"
  7. David Byrne & Brian Eno, "Strange Overtones"
  8. Brian Eno & John Cale, "Been There, Done That"
  9. Steely Dan, "Everything Must Go"
  10. Roxy Music, "Tara"

イーノの名前が2回出てくるが、それはもういーの、ということでプレイリストを作ろうと思ったら、そのイーノとケイルの『Wrong Way Up』がSpotifyでは配信されていないorz

なんでこういうことになるかというと、実は上記のプレイリストは、事情によりネット接続環境のないところで考えたためである。つまり、すべてワタシの頭の中で音を鳴らして、この組み合わせならよかろうと曲順をすべて決め(だから、上に書く「うんうん唸って」というのは比喩でなく、本当のこと)、後で実際に Spotify を検索して確認したら、該当曲を配信していないのに気づいたという具合である。

問題のブライアン・イーノジョン・ケールの曲だが、ワタシにとって「完璧なポップソング」の一つの典型であり、今回プレイリストを作る上でプレイリストの核というかエッセンシャルなものだったため、これを外すことは考えられず、正直ここで作成を諦めかけた。

のだが、翌日もうヤケクソになって、こういうプレイリストに絶対入れたくない大ヒット曲、しかも今年とある事情で20年ぶりに流れまくったあの曲があてはまることに気づいて、自己破壊的にプレイリストが完成してしまった。

こうしてみると誰でも知っているヒット曲が多いように見えてアレなのだけど、tag さんの企画に乗れたのでヨシとする。

結局えらく時間をかけたことになり、それを考えると自己嫌悪を禁じえない。高校生時代に好きな人にプレゼントするためにマイテープ選曲してた頃から大して進歩してないように思えてくる。

これだけで終わってはなんなので、4年前にワタシが選んだ100曲選(これも結構な縛りを課したものですね)のプレイリストを作ってみた。

こっちは文句なしに有名曲ばかりで気楽に聴き流せるので、ゴールデンウィークの BGM にいかがでしょう。

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

スティーヴン・キングがお薦めする必読の50冊

よく覚えていないが、確か Facebook 経由で知ったページ。スティーヴン・キングというと彼自身が多作というだけでなく、優れた本や映画を惜しみなくレコメンドすることでも知られている。このページは、その中でも特に強く彼がレコメンドする本を集めたもので、『書くことについて』(asin:4094087648)での紹介が多いのだけど、それ以降に書かれた本も多く入っている。

……のだが、近作は邦訳が出てないものが多い。以下、邦訳が出ているもののリストを挙げておくが、テス・ジェリッツェンやローラ・リップマンなど Wikipedia 日本語版のページがあるクラスの作家の作品でもそうなのだから、かつて翻訳大国と言われた日本の出版業界の現状をこういうとこにも見て少し悲しくなる(邦訳リストに抜けがあるのに気づいたらお知らせください)。

英語圏におけるこうした「必読リスト」に必ず入る定番作品は『百年の孤独』や『真夜中の子供たち』など少なく、エンターテイメント作品寄りなのがキングらしいと言えるか。具体的に彼がどのように賞賛しているかは原文を当たってくだされ。出版社の方は、それを読んで邦訳を出す参考にしていただければありがたい。個人的には、ポール・サイモンの伝記本の邦訳が読みたいところ。

Kindle 版が出ているものもそれなりにあるので、ゴールデンウィークに読む本選びの参考になるかな?

日本人作家の作品では、唯一『バトル・ロワイアル』が入っているが、高見広春って今何してるんだろう?

スティーヴン・キングの作品では、ユアン・マクレガー主演で今年映画化される『ドクター・スリープ』の公開時にまた話題になるのかな。『シャイニング』の原作に思い入れがあるワタシ的にも気になるところである。

ROMA/ローマ

ちょっとブログで書き忘れていたが、3月半ばに近場のイオンシネマまで出向いて観ていた。

もちろん Netflix で配信開始時に観ていたが、明らかに体調が適してないときに観た感じがあり、映画をちゃんとつかんでないのが自分で分かり切っていたので、せっかく映画館で上映してくれるなら、これを逃す手はないと思った次第である。

結論から書くと、映画館で観てよかったねぇ、としみじみ思った。

ずっとカシャカシャカシャと掃除の音だけがして、やがてまったく動かないカメラに映る床にシャーっと水が流れ、そこに映る空、そしてそこに――というオープニング、もうこの時点で映画的興奮がみなぎっているのだが、テレビでの鑑賞時は、ふーんという感じだったのだから、頭を抱えたくなる。

というか、最初観たときかなり退屈に思えた前半部はぜんぜん退屈じゃないじゃないか! それでも寝不足だったため、後半ちょっと眠くなったところがあるが、もちろんクライマックスはすごい内的な盛り上がりがくる。

これは前述のセットとセッティングの問題や、ワタシの自宅のテレビがしょぼいという問題もあるだろうが、端的にいえば、ワタシが鈍いんですね。

映画でも音楽でも、後から再度体験して、これは! となることがよくあるんですよ(だから、一回体験しただけでパシっとつかむ必要がある、評論家とか絶対なれない)。

Netflix 配信作品は果たして「映画」なのか、アカデミー賞を受賞する資格はあるのか、といった議論が本作がオスカーの有力候補となったため本格的に問題となった。個人的にはこれを排除するのは時代錯誤じゃないかと思うのだが、一方で、可能なら映画はやはり大きなスクリーンで観るべきじゃないか、という保守的な感想をもってしまったのは難しいところである。

それだけ『ROMA』が出来が良く、『トゥモロー・ワールド』『ゼロ・グラビティ』と少し違った、でもやはり映画館の大画面で観るべき高度な映像力を持つ作品だからということだが、同時に結構ヘンな映画でもあるよなぁ。

あと、Netflix で観たときもびっくりしたぼかしなしのチンポ、映画館でもまったくぼかしなしで、あ、これいいんだと思ったりした(笑)。

僕たちのラストステージ

アベンジャーズ/エンドゲーム』の公開日、あえてこっちを観に行った。レイトショーの観客はワタシを含め三人で、これはワタシの映画館鑑賞史(?)の中でも最少人数タイの記録だった。

サイレント映画時代からハリウッドのスターだったローレル&ハーディの晩年のストーリーなのだが、よくできている。

よくはできているが、それなりにまとまったハートウォーミングコメディの枠に収まるし、ニール・サイモンの『サンシャイン・ボーイズ』など、類似作はいくつか挙がる。

それでもワタシは本作を観てよかったと思うのは、ワタシ自身が何よりスティーヴ・クーガンが好きだから。ワタシ自身自分をローレルに重ねるところがあるが、現実には体形ははっきり(ジョン・C・ライリーが特殊メーキャップで演じる)ハーディ寄りになってしまっており、厚かましいですね。

最初は「こんなんどこが面白いの?」といささかナメて見ていた二人のコメディを、最後にはハラハラしながら見てしまう。そしてそこに映し出される、二人の家族のちょっとした所作にグッとくる。

キャストでは、バーナード・デルフォント役のルーファス・ジョーンズがジョン・カビラに妙に似ていて、ワタシはジョン・カビラが嫌いでもなんでもないにも関わらず、こいつが出てくるたびにイライラしてしまった(理不尽系感想)。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その20

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、そろそろ反応も出尽くしたかなという感がある。

こうしたツイート一つで元気百倍になってしまうのだが、それでもそろそろこの本の宣伝目的で更新を続けてきたこのブログもまた元に戻るときが近づいてきた。

思うところはこのツイートに始まるスレッドに書いた通りである。

既に購入済の人でも最新版であるバージョン1.1.1に更新していない人は、是非アップデートしていただきたい。誤記訂正だけなら大したものではないが、何しろかなり長い新作文書が最新版には含まれるので。

今年ローレンス・レッシグの本が2冊も出る

この記事を読んでおっと思ったのは、ローレンス・レッシグの近況が知れたこと。大統領選挙に出馬しかけたこともあるレッシグ先生だが、「現在のアメリカの政治家を選出するシステムが完全に崩壊していることやすべての国民の票が平等ではないこと、国民の意見が無視され、民主主義が崩壊していることを憂い、それを変えていくために」Equal Citizens という非営利団体を創設しているとな。

さすがやねと思ったが、そうなると当分(つまり大統領選挙の間)は本とかも出ないのだろうなと念のため調べてみたら、なんと今年彼の本が二冊出る予定になっていて驚いた。昨年秋に久方ぶりの新刊『America, Compromised』が出て間もないのに。

Fidelity & Constraint: How the Supreme Court Has Read the American Constitution

Fidelity & Constraint: How the Supreme Court Has Read the American Constitution

来月出るこちらは憲法学者の本領を発揮した本みたいで、581ページのハードカバーなんだから相当な分量だ。キャス・サンスティーンも推薦の言葉を寄せている。

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy (English Edition)

They Don't Represent Us: Reclaiming Our Democracy (English Edition)

こちらのほうが Equal Citizens の活動に近そうな内容である。レッシグ先生は、今のアメリカ政府は国民を代表しておらず、またその再建が民主主義のために必要不可欠であり、それは可能だと考えているわけだ。

表紙で「THEY」と「US」が分断/対比されているが、これはいわゆる庶民と特権階級の分断を指す「us-and-them」という表現を意識したものだろう。この週末に起きた交通事故とその容疑者の処遇を巡り、「上級国民/下級国民」といった言葉がネットをかけめぐった日本も無縁な話じゃないと思うのよね。

ただ、「政治の腐敗」を研究テーマにするようになってからレッシグ先生の本は邦訳がまったく出ておらず残念なことである。山形浩生「山形の著書訳書など」のページに『腐敗』と題された訳書が予告されているが、これがレッシグ先生の本だったりしないのだろうか。

それはそうと、このエントリの冒頭でリンクした渡辺由佳里さんの記事にあるアンドリュー・ヤングとレッシグ先生の対論の模様は YouTube で見れる。

「バーチャルリアリティの父」ジャロン・ラニアーのアンチソーシャルメディア本の邦訳が今週刊行される

昨年5月に「バーチャルリアリティの父」ジャロン・ラニアーが「今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除しよう」と呼びかける新刊を出していることを取り上げたのだが、その邦訳が今週刊行されるのを知った。

今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由

今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由

ほぼ原題の直訳である邦題を見れば本書の主張は一目瞭然だが、直球のソーシャルメディア批判本である。

しかしなぁ、『人間はガジェットではない』(asin:4153200166)に続く彼の本の邦訳が、ワタシの WirelessWire 連載の記念すべき第1回で取り上げた『Who Owns the Future?』(asin:0241957214)でもなければ、「バーチャルリアリティの父」としての本領を発揮した『Dawn of the New Everything: Encounters with Reality and Virtual Reality』(asin:1250097401)でもなく、アンチソーシャルメディア本という事実には、なんだかなぁという気持ちになるところもある。

そういえば、ジャロン・ラニアーは、ピーター・ルービン『フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」』についてのブックレビューの中でも名前が出ていた。

VRの父(本書では「ゴッドファーザー」)と言われるジャロン・ラニアーは、著書『Dawn of the New Everything』で、VRは「AIと正反対のもの」だと定義している。『WIRED』US版でのルービンによるインタヴューに答えて、ラニアーはこう言っている。「AIは偽り(フェイク)なものです。人々から大量のデータをとって、のちにさまざまに改変された形態で再生します。一方、VRには『人々』が存在します」

VRはリアルだ。それはAI以上にぼくらの世界を激変させる:ピーター・ルービン『フューチャー・プレゼンス』(ブックレヴュー)|WIRED.jp

案の定というべきか、ラニアーは最近の AI をめぐる狂騒にも批判的なんですね。今からでも『Dawn of the New Everything』の邦訳出ないものだろうか。

フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

フューチャー・プレゼンス 仮想現実の未来がとり戻す「つながり」と「親密さ」 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』が今週出てしまう

山下泰平さん、という呼び名はどうしても未だにしっくりこなくて、id:kotorikotoriko と呼びかけたくなるのだが、ともかく彼の初の単著が今週出る。

それにしてもこれを出す柏書房はえらいよな。

文学史&エンタメ史の未確認混沌時代(ミッシング・ピース)!

東海道中膝栗毛」の弥次喜多が宇宙を旅行する、「舞姫」の主人公がボコボコにされる、身長・肩幅・奥行きが同じ「豆腐豪傑」が秀吉を怒らせる――明治・大正時代、夏目漱石森鷗外を人気で圧倒し、大衆に熱烈に支持された小説世界が存在した。
本書では、現代では忘れられた〈明治娯楽物語〉の規格外の魅力と、現代エンタメに与えた影響、そして、ウソを嫌い、リアルを愛する明治人が、一度は捨てたフィクションをフィクションとして楽しむ術(すべ)をどのようにして取り戻したのか、その一部始終を明らかにする。
朝日新聞スタジオジブリも注目する、インターネット出身の在野研究者が贈る、ネオ・文学案内。

「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本(一般書/単行本/日本文学、評論、随筆、その他/サブカルチャー/ネット発/) 柏書房株式会社 ノンフィクション・歴史・古文書の出版社

コトリコさんには11年前(もう、そんななるのか……)一度お会いしたことがあるが、「アナタはどうしてあんなキチガイみたいに面白い文章が書けるんですか!」と訳の分からないことを口走って本当に申し訳なかった。

コトリコさんはそれから変化を遂げながら、しかし変節することはなく、誰もマネできない地点まで来たわけである。素晴らしいことじゃないか。

ところで筒井康隆の最高傑作って何なのだろう?

個人的な話になるが、この何年も自分の両親と同年代の人たちの動向がどうしても気になってしまう。その中でもワタシの中でそれを代表する存在が、今上天皇と皇后様、そして筒井康隆だったりする。

トークイベント「日本SFの幼年期を語ろう」で初めてご尊顔を拝したのが4年以上前で、あれからいろいろ変わったよね(遠い目)。

筒井康隆も近年はネット炎上などあって苦しいところが、個人的にはイギリスにおけるジョン・クリーズ並びにモンティ・パイソンの現在に重なってしまうのだが、間違いなくワタシは筒井康隆のファンだし、エッセイ集や評論など含めると20冊くらい彼の本を読んでいるはずである。が、彼の膨大な作品群からすれば「たった20冊」だし、実際彼の代表的な長編で読んでないものも多い自覚がある。

そこでふと思ったのだが、一般に筒井康隆の最高傑作とされるものって何なのだろう? という疑問である。代表作となれば、文学賞をとった作品を挙げればだいたい押さえられるだろうが、例えば小松左京にとっての『日本沈没』みたいな金看板というか最高傑作と認められる作品って何なのだろうと思い、なにげにツイートしてみた。

他のクローズドな場所でも同じ質問をしてみて、寄せられた作品を以下挙げさせてもらう。

ワタシのツイートの「世間的に」という前置きがよくなかったかもしれない。世間的な認知度だけでいえば、映像化回数がダントツの『時をかける少女』になるわけで(次点は『七瀬ふたたび』かな?)、それでもこれだけいろんな作品が挙げられ、残念ながらワタシが読んでない作品もいくつか含まれるのに頭を抱えてしまう。

実験作としての到達点という意味では『残像に口紅を』になるだろうし、パソコン通信時代の新聞連載小説である『朝のガスパール』の再評価はまだかとか、思えば筒井康隆は短編がいいんだよなとか(思えば、ワタシも昔私家版日本短編小説十選に「都市盗掘団」を選んでいる)いろいろ思うところはあるが、むくむくと彼の本を読みたい欲が湧いてきた。今回調べて、彼の本がほとんど Kindle 化されているのを知ったしね。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』URL一覧への追加(「付録A インターネット、プラットフォーマー、政府、 ネット原住民」)

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』について、文中に出てくるリンクを各章ごとにまとめたURL一覧を公開しているが、これにおよそ2年ぶりに書き下ろした技術コラムにして、最新版で電子書籍にも収録した「付録A インターネット、プラットフォーマー、政府、 ネット原住民」について「付録A インターネット、プラットフォーマー、政府、 ネット原住民」についても、文中で参照する URL を追加させてもらった(リストの一番下です)。

見ていただければ分かるが、参照する URL の数が80超というとんでもないものになっていて、端的に言って狂ってますね。実は一つだけリンク先が消失したツイートがあるのだが、ともかくこれを見るだけでもなかなか壮観である。

今からでも感想を書いてくれる方がいれば、喜んでこのブログで取り上げるつもりだが、この本についてワタシができる仕事はこれでほぼ終わったと思います。

Apacheソフトウェア財団設立20周年を祝して、Apacheソフトウェア財団が手がけるイノベーティブなプロジェクトを20個選んでみた

Apache Software FoundationApacheソフトウェア財団)が設立20周年とのことで、この財団が手がけるイノベーティブなプロジェクトを20個選んでいる。

20ってほとんどプロジェクト全部じゃないかと一瞬思ったが、それはとんでもない大間違いで、Apacheソフトウェア財団の下にあるプロジェクトって350以上に及ぶらしい!

イノベーティブという言葉を当てはめると異論が出るだろうが、ともかく以下のリストになっている。

  1. Apache HTTP Server:ウェブサーバ、これは言わずと知れたものだが
  2. Apache Incubatorイノベーションインキュベーター
  3. Apache Kafkaビッグデータ処理ツール
  4. Apache Maven:ビルド管理ツール
  5. Apache CloudStackクラウドコンピューティング基盤
  6. Apache cTAKES自然言語処理システム
  7. Apache Ignite:分散型データベース
  8. Apache CouchDB:ドキュメント指向データベース
  9. Apache Edgent:エッジコンピューティング
  10. Apache OFBizERP(企業資源計画)システム
  11. Apache SIS:地理空間アプリケーション開発用ライブラリ
  12. Apache Syncope:デジタルアイデンティティ管理システム
  13. Apache PLC4X:PLC(プログラマブルコントローラ)向けユニバーサルプロトコルアダプタ
  14. Apache Commons:再利用可能な Java コンポーネント
  15. Apache Spark:大規模データ処理用統合解析エンジン
  16. Apache Cordova:モバイルアプリケーション開発フレームワーク
  17. Apache TomcatJava ServletJSP などのオープンソース実装
  18. Apache Lucene Solr全文検索ソフトウェア
  19. Apache WicketJava ウェブアプリケーションフレームワーク
  20. Apache Daffodil:Data Format Description Language(DFDL)のオープンソース実装

HTTP Server 本家、TomcatLucene とか今さらと言われそうだし、こうしてみると Java 関連のプロジェクトが多い印象があるが、ウェブサーバ関連にとどまらず、クラウドビッグデータ、IoT、モバイルと網羅性がすごい。

Apacheソフトウェア財団ってよほど組織運営がうまくいっているのか。内部から見たら違うのかもしれんが、そのあたりに取材した記事とか読んでみたいな。

Apache Kafka 分散メッセージングシステムの構築と活用 (NEXT ONE)

Apache Kafka 分散メッセージングシステムの構築と活用 (NEXT ONE)

アプリケーションエンジニアのためのApache Spark入門

アプリケーションエンジニアのためのApache Spark入門

OpenStreetMapが2018年のフリーソフトウェア財団のFSF Awardsを受賞

フリーソフトウェア財団が選出する FSF Free Software Awards(の Social benefit award 部門)を、オープンライセンスの下で自由に利用可能な世界地図を目指す OpenStreetMap が受賞したとのこと。

リチャード・ストールマン尊師も、プロジェクト名が「Free」でなく「Open」なのにちょっとケチつけながらも称えている。

地図データが重要なのは、何十年も自明なことだった。だからこそ、我々には自由な地図データの集合が必要だ。OpenStreetMap という名前はあまり明確には伝えていないが、その地図データは自由だ。それこそが自由な世界が必要とする自由な代替物なのだ。

このプレスリリースに添えられた写真を見て印象なのが、ストールマンの両脇の受賞者が、OpenStreetMap の代表者である Kate Chapman も、同じく(Advancement of Free Software award 部門の)受賞者である Deborah Nicholson も共に女性なんですね。

FLOSS 界隈における女性参加者の少なさというのは昔からずっと言われてきたことだが、こういうのを見ても前進しているのは確かなのだろう。

しかしなぁ、ワタシが「OpenStreetMapへの期待と課題」という文章を書いてちょうど十年になるが、少し前のゼンリンとの契約解除にともなう Google マップの劣化などに直面すると、自由な代替物の存在は重要だと思うのである。

ネタ元は LWN.net

現在、Netscapeを所有しているのはFacebookだって?

jwz と書いても、今のお若い人には分からないのかもしれないが、Netscape Navigator の開発者、Mozilla の初代開発リーダーなどの業績で知られる Jamie Zawinski が、「今日、Netscape を所有しているのが Facebook だと知った」とブログに書いている。

NetscapeAOL が買収したところまではよく知られているが、Wikipedia の記述によると、その後マイクロソフト(!)に売られ、そしてその後Facebook(!)に売られたらしい。ただし、それは企業としての Netscape であり、Netscae のブランドは未だ AOL が保有しているらしい(正直ワタシにもその区別はよく分からんが)。

なんで Facebook が買ったんかいなと不思議だが、jwz は cookie の特許の所有者が Facebook になることを書いているのだが、そのあたりの資産目当てなのだろうか。

今回の話の本筋とは関係ないが、jwz が AOL を退社し、Mozilla の開発リーダーを辞職してちょうど20年になるんだね。

ネタ元は Boing Boing

起業家 ジム・クラーク

起業家 ジム・クラーク

「刑事コロンボ」放送開始50周年記念のベスト20放映終了&ピーター・フォークがお気に入りの「刑事コロンボ」のエピソード

「刑事コロンボ」が放送開始50周年とのことで、日本の視聴者が人気投票で選んだベスト20の放送が、1位の「別れのワイン」の放送をもって終わりを迎えた。これも一つの平成の終わりだろうか?(違います)

このベスト20の再放送だが、うっかり忘れていてベスト15以上しか録画できなかったのだが、それでも実は観ていないエピソードがいくつもあって、改めて「刑事コロンボ」を楽しませてもらった。

でもなー、今回改めて70年代のエピソードを見て強く思うのは、「コロンボ、事件現場だろうが犯人の家や職場だろうが、遠慮なく葉巻吸いすぎだろが!」だったりする。もはや見てて冷や冷やするレベルである。

この点では昔の日本映画/テレビドラマも似たようなものだろうが、逆にいうと1970年代以前を作中に描く場合、タバコを無視するわけにはいけないと思うわけです。

今回放送されたのは、上記の通り日本の視聴者の人気投票の結果だが、そもそもコロンボを演じたピーター・フォーク自身が好きだった回ってどれだろう? と思って調べてみたら、以下の4つがもっともお気に入りのエピソードらしい。

  1. 別れのワイン(人気投票1位)
  2. 忘れられたスター(人気投票3位)
  3. 魔術師の幻想
  4. 仮面の男

「別れのワイン」に関しては、視聴者とピーター・フォークの好みが一致していたわけですな。あと意外にもと言ってはいけないが、2~4位はすべてシーズン5(1976年)放送のエピソードである。

今気づいたのだが、「魔術師の幻想」の原題は "Now You See Him" で、同じく奇術師が主人公である映画『グランド・イリュージョン』(asin:B00O8O8QD2)の原題 "Now You See Me" って、刑事コロンボのこのエピソードから採られたものだったりするのだろうか?

あと「忘れられたスター」は、刑事コロンボ版『サンセット大通り』(asin:B00C97XYR8)というべきエピソードで、やはりジャネット・リーとの共演が嬉しかったのかな。あとこのエピソードは、最後で真犯人以外の人物が連行されていくという珍しい回なのだが、その人物、そしてコロンボのやり取りに優しさがある。

コロンボは殺人課の刑事で、相手するのは当たり前だが皆殺人犯である。それでも「忘れられたスター」もそうだが、犯人に何らかの同情や敬意を払うエピソードもある。ワタシを含む日本の視聴者の多く、そしてフォーク自身も一番愛する「別れのワイン」は、コロンボは犯人の仕事と価値観を理解しようとし、それに深い敬意を払う。そして、犯人自身もコロンボを自分を追い込む刑事とのしての職能だけでなく(それを認める犯人は多い)、ワインを理解しようとするコロンボをちゃんと認める。互いが互いに敬意を払う「別れのワイン」が最高傑作なのは、当然のことなのかもしれない。

しかし、ピーター・フォークが亡くなってから今年で8年になるんやね。

[YAMDAS Projectトップページ]


クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
YAMDAS現更新履歴のテキストは、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。

Copyright (c) 2003-2023 yomoyomo (E-mail: ymgrtq at yamdas dot org)