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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その28

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、前回の宣伝をしつこく続けていたら売り上げが伸びたという話のブックマークに id:rgfx さんがありがたいコメントを書いてくださっている。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の宣伝をしつこく続けていたら売り上げが伸びたという話 - YAMDAS現更新履歴

「第50章 ネットにしか居場所がないということ」とか「付録A インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」とか良いよね。

2019/10/29 13:59

特に最新版で電子書籍に追加した「付録A インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」を挙げてくれているのが嬉しい。こう書いてもらえると、がんばって書き下ろした甲斐があるというものだ。

ありがたいことに作家の樋口恭介さんが、ワタシのツイートから辿って「個人ブログ回帰と「大きなインターネット」への忌避感、もしくは、まだTwitterで消耗してるの?」、そして『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のことを紹介してくださった。

個人的には「個人ブログ回帰と――」は思い出深いものがある。この中でいささか冷ややかに言及しているクロサカタツヤさんとサイゾーの『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』で対談したとき(参考:その1その2)、対談記事には含まれていないが、「個人ブログ回帰と――」のことをクロサカタツヤさんと話す機会があったからだ。

樋口恭介さんの note を読めば分かるようにこの文章で書いた問題は文脈を変えながら残っているし、それは対談記事でも言及がある「劉慈欣の話題の『三体』と「暗い森」になりつつあるインターネット」につながっていると思うのだ。

そうした意味で、樋口恭介さんのインスピレーションに何らかの刺激というか、うまいトスを上げられたなら、「捨て石になるのは嫌だが、踏み石なら喜んでなる」がポリシーのワタシとしては満足である。

また、樋口恭介さんが書名を挙げてくださったおかげで『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来 』に興味を持ってくれた方もいるようで、ありがたい話である。

もう少しは宣伝ブログを続ける余地があるのかもしれない。感想、書評、まだまだお待ちしております!

TikTokの時代に我々はスローダウンできるのか? 気鋭のヴィジュアルアーティストが説くアテンションエコノミーへの反逆

TikTok の時代に我々はスローダウンできるか?」というタイトルが面白くて調べてみたら、この文章の著者の Jenny Odell はヴィジュアルアーティストにしてライターみたいで、今年の春に本を出していた。

日本でもちゃんと紹介されていた。元掲載サイトである JBPress ではプレミアム会員にならないと読めないが、ちょっと邪道かもしれないが配信先のライブドアニュースで全文読めます。

ジェニー・オデルは、先端技術のメッカ、シリコンバレーのど真ん中で育ち、Google Earth などでデジタルデザイン作品を発表しているネットネイティブなミレニアム世代なのにあえて、ソーシャルメディアが主導するアテンションエコノミーへの反逆を説いているところが面白い。具体的には彼女自身アーティストなので、学生には「クリエイティビティには時間がかかる」ということを説いている。

これを機に調べてみたら、刊行当時コリィ・ドクトロウも書評を書いて推している。

「何もしない方法」という副題は挑発的で、これは邦訳出ると面白いと思うね。

How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy

How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy

How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy (English Edition)

How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy (English Edition)

調べてみたら、著者は Google でこの本の講演をやっている。YouTube のコメント欄を見ても、この講演をシリコンバレーの中心地のひとつである Google でやってることに皮肉を感じている人が散見され、「まるで屠殺場でヴィーガンのライフスタイルを勧めるプレゼンをやってるみたいだ」というコメントに笑ってしまった。

さて、実は以上のエントリは2か月近く前に書いていたのだが、なぜか公開し忘れていた。

WIRED.jp の菅付雅信の連載『動物と機械からはなれて』にジェニー・オデルのインタビューが掲載されているのを見て(これもなかなか面白いインタビューである)、自分のブログを検索しても彼女についてのエントリが出ないのに公開し忘れに気づいた次第である。

首席指揮者に就任した挾間美帆を空港で歓迎するダニッシュ・レディオ・ビッグ・バンドの映像がステキ

作曲家、編曲家にして、2016年にはダウンビート誌において「ジャズの未来を担う25人」に選出されてもいる挾間美帆が、2019年10月からデンマークの DR Big Band(The Danish Radio Big Band)の首席指揮者に就任しているのだが、それに先立ちバンドはコペンハーゲン空港に到着した挾間美帆を盛大に歓迎している。

こういうのステキだよね。

挾間美帆の一年前のインタビューを読むと、DR Big Band と初共演だった2017年の東京ジャズのときのことを「デンマークのDRビッグバンドは面識がなくて、リハの時点で私を信用していないことは分かった」と振り返っているが(このインタビューを読むと、オーガナイザーとして彼女が有能なのが分かる)、こういう映像を見るとその後の共演を経て DR Big Band との間に信頼関係も築けているようで素晴らしいことだと思う。

挾間美帆のツイッターを見ると、このときの模様は日テレのニュース番組でも取り上げられたようだが、こんなステキな話が日本のネットメディアで一月以上まったく話題になってないようなのは不思議である。

ダンサー・イン・ノーホエア

ダンサー・イン・ノーホエア

  • アーティスト: 挾間美帆,m_unit,スティーヴ・ウィルソン,ジェイソン・リグビー,アンドリュー・グタウスカス,ジョナサン・パウエル,アダム・アンズワース
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2018/11/21
  • メディア: CD
  • この商品を含むブログを見る

A Good Time Was Had By All

A Good Time Was Had By All

映画『ブレードランナー』は2019年の技術をどれくらい予言していたか?

映画『ブレードランナー』は2019年11月のロサンゼルスを舞台しており、つまりは『ブレードランナー』に現実のタイムラインが追いついたというか、『ブレードランナー』の世界は「未来」ではなく「過去」になるわけである。

『ブレードランナー 2049』は、なんで2049年かというと、『ブレードランナー』から30年後ということだったんですね。今さらだけど。

BBC の記事は、『ブレードランナー』は2019年の技術をどれくらい予言していたかを取り上げている。そういえば、『2001年宇宙の旅』にも『HAL伝説―2001年コンピュータの夢と現実』(asin:4152080957)という本があったのを思い出すが、『ブレードランナー』はどうか。

ロボット

まず現在のロボットは、映画における「レプリカント」には及ばない。しかし、AI(人口知能)がどんどん進化しているのはご存知の通りで、「セックスロボット」も現実化が見えてきている。

ビデオ通話

ビデオ通話は既に一般的になっている。しかも、『ブレードランナー』の描写と異なり、ネットサービスを使えばビデオ通話そのものにお金はかからない。

ホームアシスタント

音声操作によるバーチャルアシスタントも Amazon の Alexa などが実現してますな。

嘘発見器

ブレードランナー』ではレプリカントを識別するのにフォークト=カンプフ検査が使われているが、現実の嘘発見器はその信頼性が疑われており、イギリスでは嘘発見器の結果は証拠として採用されないらしい(そうなのか!)。

地球の環境破壊

ブレードランナー』で特徴的だったのは、クリーンな未来を描きがちだったそれまでの SF 映画と異なる、産業公害により荒廃したロサンゼルスの描写である。また地球からの移住を余儀なくされているという設定だが、現実は当然惑星間の移住はまだ実現していない。しかし、昨今の気候変動の行きつく先を、この映画のロサンゼルスの描写になぞらえたくなる人はいるだろう。

写真

記事の「Blade Runner ignores the Instagram generation」という見出しに笑ってしまったが、現実もポラロイド写真はしっかり残っているが、この映画のように捜査には使われない。

しかし、この映画で登場する、写真に写るものをズームしたり角度を変えてみたりするエスパー(Esper)マシンは未だに時代を先んじている。とはいえ、「瞳に映った景色」でアイドルの住所が特定された話を聞いて、エスパーを連想した人は多かったろう。

空飛ぶ車

ご存知の通り、空飛ぶ車はまだ実験段階である。この記事では NEC の「空飛ぶクルマ」試作機が引き合いに出されている。

そういえば、ポリススピナーの展示会亜細亜大学でもうすぐ行われるとな。

ヘアドライヤー

この映画で出てくるような、金魚鉢を逆さにしたような形状の、数秒で髪を乾かすヘアドライヤーは実現してませんな。

こうして映画の細部と現実をいくら比べても、あの映画の偉大さに近づけないというのはその通りなのだけど、あの映画が設定上「過去の世界」になるというのは不思議な気持ちになる。

ネタ元は Boing Boing

IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。

公開初日に観たが、ワタシが観に行けるシネコンのレイトショーは吹替版だった。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』が面白かったので、主人公たちが大人になった第2章も楽しみだったが、169分という上映時間にはさすがにたじろいだ。膀胱的プレッシャーに弱いワタシだが、近年の映画の長尺化に鍛えられたところもある。実際、本作は膀胱的プレッシャー、というか文字通り時間を忘れさせてくれる作品だった。

前作について、原作者のスティーヴン・キングはあんまり宣伝ツイートなどしてなかった印象があって、時代設定を80年代に変えたのが気に入らんのかなとか邪推していたが、前作の大ヒットに気をよくしたか、しっかりカメオ出演していて、なかなかの芸達者ぶりを見せている。

ワタシはホラー映画は好きだけど、映画館で観るとショック描写にビクッ! となって恥ずかしい思いをすることが多く苦手なのだが、とにかく本作はそのビクッ! の連続な映画なのである。前作にはわずかばかりあった「それ」が来そうで来ないという肩透かしは一切なくなり、なんか来そうと思ったら100%ドギャーン! となる演出なのである。

安くない金出して観に来た客をしっかり怖がらせ、エキサイトさせてくれる映画としては文句なしなのだけど、それこそ『スタンド・バイ・ミー』にもつながるような詩情は失われてしまっているように感じた。事前に予想していたよりも、主人公たちの子供時代も本作でもフィーチャーされていて、それは良かったけれど。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の宣伝をしつこく続けていたら売り上げが伸びたという話

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、このブログを続けていること自体、この本を宣伝が主目的なのである。が、現実は厳しい。それでも頃合いを見計らってツイッターでも宣伝を行っている。

土曜の夜にふと思い立って唐突に宣伝ツイートをさせてもらったのだが、運よく RT と like をこの手の宣伝ツイートにしてはもらってありがたいことである。

やはり、円城塔さんが再度言及くださったのが大きいようだ。ちょっと露悪的な元ツイートに嫌な顔をせず付き合ってくださった円城塔さんには感謝しかない。ありがとうございます。

ありがたいことにすぐさま購入いただき読みだした方もいるようで嬉しい。

達人出版会の高橋さんによると、実際売り上げが伸びたらしい。

マジか! まぁ、要因は自分のツイート(とその拡散)以外ありませんわな。ありがたいことである。

米オライリーも DRM フリー電子書籍の取扱いを中止するご時勢に、ソーシャル DRM という緩い管理で電子書籍ダウンロード販売を続けている達人出版会はとても貴重な存在なので、ワタシの本の売り上げがわずかでもその存続に貢献してくれればと願ってやまない。

やはり、電子書籍であれ紙の書籍であれ、地道に宣伝を続けることが重要なようだ。

JavaScriptは改名すべきなのだろうか?

ある意味定番ネタというか、長年くすぶってきた話ではあるが、JavaScript は改名すべきかという話である。

プログラミング言語JavaScript をブランドとして考えた場合、問題があるのは間違いない。このエントリで指摘されているのは以下の5点。

  1. JavaScript 言語の公式規格の正式名称は ECMAScript
  2. 正確には「JavaScript」とは Mozilla によって策定された ECMAScript のサブセットを指すが、文脈によって、複数の異なる ECMAScript の上位集合と同義になっている
  3. JavaScriptOracle の商標であり、ウェブプラットフォームの中心をなすコンポーネントという言語のポジションにふさわしくない
  4. JavaScript には、Go や PHP にあるような公式ロゴすら存在しない
  5. よく知られた話だが、JavaScriptJava とは無関係。これが技術系でない経営者や人材採用担当者を長年にわたってひどく混乱させてきた

でも、この文章の著者にとって、JavaScript という名前にまつわる大問題は、その曖昧なスコープだったりする。あるプログラムが JavaScript で書かれているといっても、どのホスト API に依存しているか分からない、などの。

そうした観点から、JavaScript の改名、再ブランド化は意味があるという意見で、この文章でも単なる JS、あるいは WebJS とか ServerJS とかいろいろな例は出されているが、どういう名前がいいかとなると意見がまとまるかねぇというのが正直な感想である。

ネタ元は Slashdot

40もの主要音楽フェスが顔認識技術を採用しないことを誓約

この話題が日本ではあまり話題になってないようなのが気になるのだが、SXSW やコーチェラやピッチフォークやボナルーといった世界的に知られる40もの音楽フェスが、顔認識技術を採用しないことを誓っている。

AI(人工知能)の進歩などあり、顔認識技術が実用化されているのはご存知の通りである。確かに顔認識技術には大きなメリットがあるが、一方でプライバシー侵害の懸念があり、また現行の顔認識技術に人種的なバイアスがある話も知られている。

犯罪防止などメリットがあるはずの音楽フェスが率先してその不採用を誓約するのには上記の理由もあるだろうし、何より日常から離れた楽しみであるはずの音楽フェスが率先してジョージ・オーウェルを連想させる監視社会化に手を貸しちゃいかんだろうというという意思があるのではないか。

フェス全般における顔認識技術の利用については BanFacialRecognition.com にまとまっており、その使用(可能性)/不使用が一望できるのがすごい。メジャーなイベントでは、バーニングマンが使ってるかもというのは意外だった。

このサイトには日本の音楽フェスの情報はないが、フジロックサマソニはどうなんでしょうね。

この問題について、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどのギタリストとして知られるトム・モレロが Buzzfeed に論説記事を書いているのだが(なんで邦訳が出ないのよ!)、彼も顔認識技術の音楽フェスにおける採用に断固反対の立場である。

さらに書けば、この問題は当然ながら音楽フェスに限定されるものではなく、職場で顔認識技術が使われるようになれば、雇用者は従業員の表情の変化からその監視を強めることができるという New York Times の論説記事を受け、コリィ・ドクトロウは我々はあらゆる場での顔認識技術の利用を禁止すべきと気勢を上げている。

伝説のハッカーが教える 超監視社会で身をまもる方法

伝説のハッカーが教える 超監視社会で身をまもる方法

マーティン・スコセッシ曰く「ルー・リードは何も持たざる者たちの代弁者だった」

『アイリッシュマン』Netflix での来月の公開が待たれ、また最近ではマーベル映画に対する批判的なコメントが論議を呼んだマーティン・スコセッシだが(ワタシ自身は、積極的に MCU が嫌いと公言してきた奇特な人間なので、特に文句なしです)、復刻され、改訂版が出るルー・リードの歌詞集に寄せた序文が Guardian に掲載されている。

マーティン・スコセッシルー・リードもニューヨーカーとして知られるが、二人が初めて会ったのはスコセッシが『レイジング・ブル』(asin:B07T3G49NT)のポストプロダクション作業をしていた頃のロサンゼルスだったとのこと。当時スコセッシが特に好きなルーのアルバムは『Street Hassle』(asin:B000026A1H)で、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは後追いだったようだ。

レイジング・ブル』の試写を行い、ルーも大変感銘を受けたようだったが、試写の後、スコセッシはルーに、その師だったデルモア・シュワルツの代表作『In Dreams Begin Responsibilities』原作で映画を撮りたいと告げたそうな。実際、スコセッシとロバート・デ・ニーロは当時脚本に取り組んでいたらしいが、残念ながら実現しなかった。スコセッシは今でもいつの日かその映画を作りたいと書いている。

スコセッシは、ルーの詩は歌われるのを聴くのと印刷されたものを読むのでそれぞれ命があると書く。そしてニューヨーカーとしての出自の重要性について書いており、「Street Hassle」の歌詞を例にしてその映像性を説いている。

実際、80年代にルーはスコセッシの『レイジング・ブル』やサム・シェパードの『フール・フォア・ラブ』を直接的に取り上げた「Doin' the Things That We Want To」という曲を書いているが、面白いのはルーはスコセッシの『最後の誘惑』(asin:B00BTSHPLO)のピラト総督役のオーディションを受けていたという話。その役は実際には、やはりルーと因縁のあるデヴィッド・ボウイが演じているが、他にも90年代には傑作アルバム『New York』(asin:B000002LGA)収録の「Dirty Boulevard」をベースとした映画を作ろうともした話など、この二人のプロジェクトは残念ながらどれも実現しなかったようである。

ルーの訃報に接し、スコセッシもひどくショックを受けたようだが、彼はこの世の最底辺にいる「クズ」と呼ばれるような、その人間らしさ以外何も持たざる者たちの声で語り、歌ったとルーを称えている。

で、スコセッシのこの文章は上記の通り、来月発売になるルー・リードの詩集の改訂版に収録される。

I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics

I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics

  • 作者:Lou Reed
  • 出版社/メーカー: Faber & Faber
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: ハードカバー

I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics (English Edition)

I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics (English Edition)

  • 作者:Lou Reed
  • 出版社/メーカー: Faber & Faber
  • 発売日: 2019/11/05
  • メディア: Kindle

邦訳を期待したいところだが、ルー・リードの詩集では彼の死後に復刊された『ニューヨーク・ストーリー: ルー・リード詩集』(asin:4309206395)があるので難しいかな。こちらは上記の本の邦訳ではなく、これはこれでルーが行ったインタビュー(彼のインタビューではなく、彼がインタビュアーを務めている)を収録しておりとても貴重なのだが、彼のキャリアを通した詩集の邦訳も必要だと思うのよね。

ルーがこの世を去ってちょうど6年になるところで、また彼についてのブログエントリを書けるのを嬉しく思う。

ジョン・ウィック:パラベラム

キアヌ・リーブスの復活作となったシリーズ第一作目『ジョン・ウィック』について、シリアスだけど結構バカという点において彼らしい復活作とワタシは評した。『ジョン・ウィック:チャプター2』でも、コモンと窮屈そうに撃ち合う場面など、シリアスだけど結構バカという点は引き継がれていた。

さて、その前作において掟破りをしてしまったために高額の懸賞金がかけられ、全方位的に命を狙われることになった主人公だが、本作においてもバンバン敵を殺しまくる。その点において、本作もまぁ、馬やら本やらこれだけ殺しのために趣向を凝らしたもんだと感心させられる。

はっきりいって、ストーリーはどうでもよくて、主人公が謎っぽい人物に頼れば、なんか曰くがあるんでしょうと観客は思うしかない。一応この三作を経て、作中の時間は半月くらいしか経過してないはずだが、妻に託された愛犬の死というきっかけはもはやどうでもよくなっており、殺しの連鎖による主人公の暴走機関車ぶりを堪能するしかない。

そういう意味で、ワタシは本作を観て満足した。前作にローレンス・フィッシュバーンが登場したことで否が応でも連想させられる『マトリックス』とのつながりも、例の台詞が出たところで頂点に達する。本当にキアヌ・リーブスは映画に愛されている。

しかし、もう充分である。例によって続編を示唆する終わり方だったが、このシリーズを映画館で観るのは本作を最後とする。

あと本作においても、「この役をやれる日本人俳優はいなかったんだなぁ」という悲しみをまたしても感じてしまったよ。

イエスタデイ

本当は他にもっと観たい映画があったのだが、金曜夜のレイトショーでやってる映画となると、本作くらいしか観たいのがなかった。

ダニー・ボイルの新作、しかも脚本を書いているのがリチャード・カーティスなのだけど、どうも気持ち的にひっかかりがあったのは、「ビートルズ(の音楽)を主人公以外誰も知らない世界」という本作の設定に危惧を感じたからだ。

言うまでもなくワタシにとってもビートルズは大きな存在であり、『僕はビートルズ』のようなひどく無神経という評判の作品だったらどうしようという恐れが何より大きかった(正確に書くと、『僕はビートルズ』は設定だけ聞いて、一切読んでない)。

本作はそういう作品ではなくホッとした。リチャード・カーティスの脚本では『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』がそうであるように、本作の基盤をなす設定の謎を解くような作品ではない。

世界でビートルズの楽曲を知る人間が売れないミュージシャンの自分しかいないとなれば(実は違うのだが)、彼がやることはひとつだろう。しかし、それをやってしまうと当然罪悪感から逃れることはできない。一方で、主人公は失われてしまった人類の文化遺産を遺す役割すら担ってしまう。本作はリチャード・カーティスらしいロマンティックコメディだけど、一種のホラー映画としての側面もある。

まぁ、ワタシは主人公ほど善人ではないので、自分だったらビートルズの200曲以上ある曲を小出しにしながら、ついでに存在しないことになっているオアシスのファースト、セカンドの曲で何年も食いつなげるぜ! と思ってしまうのだけど(笑)。

あの名曲のメロディーは記憶にやきついており問題ないが、歌詞をなかなか思い出せず苦労するとか、そうやって思い出したつもりでもあの曲の歌詞はやはりデタラメだったとか、それダサいよ/珍奇だよと歌詞やアルバムタイトルにダメ出しをくらうとかの小ネタにも納得性があるが、そういえば本作では、ビートルズだけではなく、コカ・コーラなどいくつかのアイコンも存在しない設定になっていて、はっきり言ってやりすぎなのだけど、例えばそういう世界で「コークお願い」と言うことで引き起こす反応には笑った。

本作は設定を聞いて分かる通りの展開を辿り、そして無神経でも不愉快でもない着地点を得る。そうした意味で観る前から分かり切った映画ともいえるし、辛辣に言えばヌルいところは否めない。それでもビートルズの音楽が「新曲」として生まれ、演奏される新鮮さを体感させてくれることに本作の価値はあるのだろう。唐突な比較だが、『シン・ゴジラ』ゴジラが存在しない世界でゴジラを創造したように。本作をダニー・ボイルが撮る必然性はそこにある。

ワタシは本作のヒロインがいかにも英国的な佇まいで好きだったが、『ベイビー・ドライバー』のヒロインだった人か。

エド・シーランがいっちゃなんだがかませ犬的キャラクターをよくやってるなと思うが、そういうところに彼の健全なユーモアセンスを感じた。あと、「パルプの「コモン・ピープル」は2位だったけど――」という台詞、アメリカ人はほとんど理解できないと思うが、個人的にグッときた。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その27

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、未だ新たに読んでくれる人がいるのはありがたいことである。

あとこれはちょっと驚いたので特別に取り上げるのだが、いけださん(@ikeda_seitaro)が前著である『情報共有の未来』を読了し、感想を書いてくださっている。

サイバー空間(というのも死語か)で一番ためになるというか、
時代の風を正確に写し取っていたコラムだと思う。
いま読むと古さを感じる部分もあるけれど、
もうこの時期から話題は出ていたんだ、と驚くものも多々あったり。
こうして書籍として残すべき価値のある作品だと思います。

『情報共有の未来 [電子書籍]』のレビュー yomoyomo (いけださん) - ブクログ

正式版公開からも7年以上経つ(そんななるのか!)本にここまで書いてくださって感謝しかない。いけださん、『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』も読んで感想を書いていただけると(以下略)。

本サイトの著者をはてなに通知する方法をAccount Auto-discoveryからHatena ID Discovery Liteに今さら変更した(が、うまくいかない)

これは読者には基本的には関わりのない話なので飽くまで自分用メモなのだが、本サイト YAMDAS Project において、HTML ファイルにサイト作成者がワタシ(yomoyomo)であることを通知する Account Auto-discovery のコードをコメントで埋め込んでいた。そのおかげで、本サイトの文章がはてなブックマークされると、その通知がワタシに飛び、それを把握できていた。

しかし、ある時期からどうもそれが機能していないのではないかと疑問を抱くようになり、しかし、例によってワタシがものぐさなためそのまま放置していた。

はてなダイアリーからはてなブログへの移行が原因なのかなと思っていたのだが、少し前にようやく重い腰をあげて調べたところ、Account Auto-discovery は必要以上に複雑であるとして非推奨となり、代わりに2012年に Hatena ID Discovery Lite が策定されていたんですね。

Hatena ID Discovery Lite にしても最新版が6年前の仕様なわけで、もっと早くに対応しておくべきだったが、これを機に本サイトの HTML に挿入するコードを一挙に変更させてもらった。

……のだが、試しにワタシの知った方にワタシの本サイトのページをはてなブックマークしてもらったのだが、通知が来ない。つまり、正しく機能していないように見える。うーむ、どうしたものか。同じく Hatena ID Discovery Lite を埋め込んだ(はてなブログ以外の)サイトからのはてなブックマークの通知がうまくいっている方います? もし、いたら教えてください。

Guardianが選ぶ21世紀最高の本トップ100(の邦訳リスト)

Guardian が21世紀最高の本100冊を選んでいるので、その邦訳リストを作ってみた。やはり小説が多いのだが、評論やノンフィクションも入っている。

リストを見ての感想は、Guardian は確か映画についても同じ企画をやってたと思うが、それと同様に「21世紀」というくくりなのに2000年発表の作品がいくつも入っていて、正直「バカ?」と思うが、まぁ、もちろん分かってやってるんでしょうけど。

あと翻訳者が原作者と同じ文字サイズでクレジットされているのが目を引いた。欧米って翻訳者にはあまりスポットが当たらないという話を以前聞いたものだが、そのあたりの意識にも変化があるのだろうか。翻訳者がクレジットされるということは、もともと英語で書かれていない作品もそれなりに入っているということだが、先にちょっとバラしてしまうと、日本国籍の作家の本は一冊も入っていません。

それでは以下、トップ100リストをどうぞ。

  1. ヒラリー・マンテル『ウルフ・ホール』(asin:415209205Xasin:4152092068
  2. マリリン・ロビンソン『ギレアド』(asin:4400640019
  3. スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ『セカンドハンドの時代 「赤い国」を生きた人びと』(asin:4000611518
  4. カズオ・イシグロわたしを離さないで』(asin:4151200517asin:B009DEMBO2
  5. W・G・ゼーバルトアウステルリッツ』(asin:4560047677
  6. フィリップ・プルマン黄金の羅針盤』(asin:4105389017
  7. タナハシ・コーツ『世界と僕のあいだに』(asin:4766423917
  8. アリ・スミス『秋』(asin:4105901648
  9. デイヴィッド・ミッチェルクラウド・アトラス』(asin:4309206115asin:4309206123asin:B00C4TUDRKasin:B00C4TUDQQ
  10. チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『半分のぼった黄色い太陽』(asin:4309205518asin:B079DPLFR9
  11. エレナ・フェッランテ『リラとわたし』(asin:4152096985asin:B073S4BSRG
  12. フィリップ・ロス『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが…』(asin:4087734862
  13. バーバラ・エーレンライク『ニッケル・アンド・ダイムド -アメリ下流社会の現実』(asin:4492222731
  14. サラ・ウォーターズ荊の城』(asin:4488254039asin:4488254047asin:B00WZBKY2Gasin:B00WZBKXUY
  15. エリザベス・コルバート『6度目の大絶滅』(asin:4140816708asin:B00VESYKDU
  16. ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』(asin:4151200649asin:4151200657
  17. コーマック・マッカーシーザ・ロード』(asin:4151200606
  18. ナオミ・クラインショック・ドクトリン』(asin:4000234935asin:4000234943
  19. マーク・ハッドン夜中に犬に起こった奇妙な事件』(asin:4151200851
  20. ケイト・アトキンソン『ライフ・アフター・ライフ』(asin:4488016758asin:B087X8JXG4
  21. ユヴァル・ノア・ハラリサピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(asin:430922671Xasin:4309226728asin:B01LW7JZLCasin:B01LVTWOVT
  22. ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』(asin:4309207863
  23. アンドリュー・ソロモン『真昼の悪魔―うつの解剖学』(asin:4562036540asin:4562036559
  24. ジェニファー・イーガン『ならずものがやってくる』(asin:4151200827
  25. サリー・ルーニーNormal People
  26. トマ・ピケティ21世紀の資本』(asin:4622078767asin:B00VQ75FAQ
  27. アリス・マンローイラクサ』(asin:4105900536
  28. キャロル・アン・ダフィ『Rapture
  29. カール・オーヴェ・クナウスゴール『わが闘争』(asin:4152095628asin:4152097434asin:B015SSE0V8asin:B0798PDW83
  30. コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』(asin:4152097302asin:B077ZTLJ5T
  31. マギー・ネルソン『The Argonauts』
  32. シッダールタ・ムカジー『がん‐4000年の歴史‐』(asin:4150504679asin:4150504687
  33. アリソン・ベクダル『ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』(asin:4796877118
  34. レイチェル・カスク『愛し続けられない人々』(asin:4886114776
  35. エドマンド・ドゥ・ヴァール『琥珀の眼の兎』(asin:4152092521
  36. マーティン・エイミスExperience
  37. アン・エンライト『The Green Road
  38. アラン・ホリングハーストライン・オブ・ビューティ 愛と欲望の境界線
  39. ゼイディー・スミス『ホワイト・ティース』(asin:4105900234asin:4105900242
  40. ジョーン・ディディオン『悲しみにある者』(asin:4766418700
  41. イアン・マキューアン贖罪』(asin:4102157255
  42. マイケル・ルイスマネー・ボール』(asin:4150503877asin:B00CPW2Z9U
  43. クラウディア・ランキン『Citizen: An American Lyric
  44. レベッカ・ソルニット『暗闇のなかの希望 非暴力からはじまる新しい時代』(asin:4822805964
  45. ジュリアン・バーンズ『人生の段階』(asin:4105901362
  46. シェイマス・ヒーニー人間の鎖』(asin:4772005382
  47. マルジャン・サトラピペルセポリス』(asin:490178465Xasin:4901784668
  48. テリー・プラチェットNight Watch
  49. ジャネット・ウィンターソン『Why Be Happy When You Could Be Normal?』
  50. マーガレット・アトウッド『オリクスとクレイク』(asin:4152091819
  51. コルム・トビーン『ブルックリン』(asin:456009022X
  52. アンドレア・レヴィ『Small Island
  53. ピーター・ケアリー『ケリー・ギャングの真実の歴史』(asin:4152085231
  54. メアリー・ビアード『舌を抜かれる女たち』(asin:4794971648asin:B08BC8M7LM
  55. マイケル・ポーラン『雑食動物のジレンマ──ある4つの食事の自然史』(asin:4492043527asin:4492043535
  56. ロバート・マクファーレン『アンダーランド: 記憶、隠喩、禁忌の地下空間』(asin:4152099798asin:B08NDTMHKP
  57. マイケル・シェイボン『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』(asin:4152083794
  58. トニー・ジャット『ヨーロッパ戦後史』(asin:4622073412asin:4622073420
  59. アン・カーソン『The Beauty of the Husband
  60. アリス・オズワルド『Dart
  61. ヘレン・ガーナー『グリーフ』(asin:4773818131
  62. エドワード・セント・オービン『パトリック・メルローズ4: マザーズ・ミルク』(asin:4152098317asin:B07N2GH7DP
  63. レベッカ・スクルート『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』(asin:4062162032
  64. スティーヴン・キング『書くことについて』(asin:4094087648
  65. ギリアン・フリンゴーン・ガール』(asin:4094087923asin:409408830Xasin:B01CCWC9FMasin:B01CCWCA4W
  66. カルロ・ロヴェッリ『世の中ががらりと変わって見える物理の本』(asin:4309253350asin:B0791BLN6X
  67. パット・バーカーThe Silence of the Girls
  68. ジョン・ル・カレナイロビの蜂』(asin:4087604500asin:4087604519
  69. ハビエル・マリアス『執着』(asin:4488016626asin:B01HI57HFU
  70. ゾーイ・ヘラー『あるスキャンダルの覚え書き』(asin:4270100990
  71. クリス・ウェア世界一賢い子供、ジミー・コリガン』(asin:4903090086asin:4903090094asin:4903090108
  72. ショシャナ・ズボフ『監視資本主義: 人類の未来を賭けた闘い』(asin:4492503315asin:B093KFTV53
  73. バーバラ・デミック『密閉国家に生きる―私たちが愛して憎んだ北朝鮮』(asin:4120042456
  74. セバスチャン・バリー『Days Without End
  75. オルガ・トカルチュクDrive Your Plow Over the Bones of the Dead
  76. ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』(asin:4150504105asin:4150504113asin:B00ARDNMEQasin:B00ARDNMDC
  77. ユリ・エレーラ『Signs Preceding the End of the World』
  78. N・K・ジェミシン『第五の季節』(asin:4488784011asin:B089D3HZ53
  79. リチャード・ウィルキンソン、ケイト・ピケット『平等社会――経済成長に代わる、次の目標』(asin:4492223029
  80. テッド・チャンあなたの人生の物語』(asin:4150114587asin:B00O2O7JEA
  81. ジム・クレイスHarvest
  82. ニール・ゲイマンコララインとボタンの魔女』(asin:4047914452
  83. ヴァレリア・ルイセリー『Tell Me How It Ends』
  84. デボラ・レヴィー『The Cost of Living』
  85. リチャード・ドーキンス神は妄想である―宗教との決別』(asin:4152088265
  86. ヤニス・バルファキス『黒い匣 (はこ) 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命――元財相バルファキスが語る「ギリシャの春」鎮圧の深層』(asin:475034821X
  87. パトリシア・ロックウッド『Priestdaddy
  88. マロリー・ブラックマン『コーラムとセフィーの物語―引き裂かれた絆』(asin:4591083519
  89. ローナ・セイジ『バッド・ブラッド―出自という受難』(asin:486029162X
  90. ジェニー・エルペンベック『Visitation』
  91. M・ジョン・ハリスン『ライト』(asin:4336050260
  92. ヘレン・ダンモア『包囲』(asin:4336056358
  93. ニコラ・バーカー『Darkmans
  94. マルコム・グラッドウェル『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』(asin:4797338121
  95. ボブ・ディランボブ・ディラン自伝』(asin:4797330708asin:B01M4K8XUA
  96. ハニヤ・ヤナギハラ『A Little Life
  97. J・K・ローリングハリー・ポッターと炎のゴブレット』(asin:4863892365asin:4863892373asin:4863892381
  98. スティーグ・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』(asin:4151792511asin:415179252Xasin:B009DEMOZI
  99. アラン・マバンク『Broken Glass』
  100. ノーラ・エフロン『首のたるみが気になるの』(asin:4087607348

さて、皆さんはこの100冊のうち何冊をお読みだろうか?

ワタシの場合は、カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』、イアン・マキューアン『贖罪』などごく少数だったりする。たまたまこの二作の名前を出したから書くが、『わたしを離さないで』を語る際にネタバレしていいか問題がよく言われるが、カズオ・イシグロ自身、別に設定を語ってもかまわんよと言っていたはずで、というかまともな読解力があれば、読みだして直に見当がつくと思うのだ。

そうした意味でイアン・マキューアンの『贖罪』のほうがよほどネタバレ厳禁な作品だと思ったね。ワタシはうっかりそれを知ってから読んでしまったのだけど、それがなかったら第三部の最後で仰天しただろう。まぁ、それでも最終章はそうなるんだ、とかなり驚いたけど。

このリストの中でもっとも最新の作品は、ショシャナ・ズボフ『監視資本主義』なのかな。

ジョーカー

本作はアメコミ映画では異例なことにヴェネツィアのような国際映画祭で最高賞(金獅子賞)を受賞し、一般公開とともにかなりセンセーショナルな語られ方をしている。また異例に思える日米同時公開が実現し、しかもポスターなどを観ても宣伝全般作品を歪めるものになっておらず、なおかつそれで日本でヒットしているのは喜ばしいことである。

映画は大抵金曜夜にレイトショーで観るのだが、本作は個人的な都合で(同日公開だった『ジョン・ウィック:パラベラム』同様)それがかなわず、土曜昼の映画館、しかも両脇カップルに固められるという個人的にはもっとも避けたいセッティングでの鑑賞になってしまった。上映後、両隣のいずれのカップルも無言だったのだが、期待したものと違ったんでしょうか(笑)。

ワタシとしては、観たいものが観れたという意味で満足だったが、かなり危険な映画という批判も分からんでもない。でも、ワタシは危ういものこそ映画館で観たいのだよ。それこそ本作を語る際に引き合いに出される『タクシードライバー』がそうであるように。余談ながら、同じく引き合いに出される『キング・オブ・コメディ』は、兄に連れられて映画館で初めて観たマーティン・スコセッシの映画だったりする(もっとも当時10歳くらいだったワタシが作品を十全に理解できたとは言わんけどね)。

フィリップ・シーモア・ホフマン亡き後、その存在だけで映画に格調を加えられる稀有な存在であるホアキン・フェニックスだが、『ダークナイト』ヒース・レジャーが半ば命を賭して演じてしまったジョーカーを、その後に正面切ってやれる人間というと彼しか浮かばない。そして、それを彼はやり遂げた。

そのホアキン・フェニックスと組むのが『ハングオーバー』シリーズの監督と知ってのけぞったが、「君たちが落ち着くまで僕はほかの映画を作らせてもらうよ」という感覚はワタシも正直理解できる。

もっとも『ハングオーバー』はワタシも好きだが、あのシリーズは近年の映画なのに独特の雑さと無神経さがあって、それを本作の主人公アーサーの描写にも微妙に感じた。本作を観て、「この主人公は自分だ!」とアイデンティファイしてる人を見かける。気持ちは分からんでもないけど、気になるところはある。例えば、アーサーは小人症の道化師を「君は優してしてくれたから」と殺さない……けど、他の道化師が彼を嘲笑してたとき、一緒になってしっかり笑っていて、明らかにアーサーも彼を見下しているのが分かる。アーサーがコメディの観劇場面で見事に笑うポイントが他の客とズレていて、「この人コメディアンとしてダメっぽい……」とこの映画の観客に丸わかりになる場面があるが、アーサーの小人症の道化師への嘲笑の同調と、彼の自身の上記のズレとの齟齬は気になった。アーサーはただ同情されるべき被害者なだけではないということなのだが、そのあたり主人公の人格造形にリアルさを加えているのか、本作制作者の無神経さを反映しているのかは意見が分かれるかもしれない。

本作の準拠枠として前述のマーティン・スコセッシの映画があるのは間違いないし、1981年という時代設定は DC コミック原作の近作、そして今どきな情報環境と見事なまでに断絶したうえで、ジョーカーというヴィランの誕生に集中している。これはアメコミ映画に対する一種のハッキング(スクウォッティング?)である。

しかし、そうした映画が2019年の今の政治状況と見事なまでに接点を持ってしまうのだから面白い。主人公の境遇から格差社会といった言葉が連想されるのは当然だし、ニュースに触発されて仮面をかぶって街中で暴れだす人たちが、香港での顔を隠したデモ隊と重なるという映画制作時には予想もしえないシンクロもある。

しかし、である。一方で、本作には上に書いた雑さが確実にある。具体的には、殺人のニュースから人々が仮面をかぶって街中で暴れだすまでがちょっと早いように感じた。もちろん、ゴッサムシティの住人の間でストレスがたまりまくっているという前提はあるものの、1981年を舞台にしながら、(制作者当人たちも意識しないまま)実は今どきな情報拡散速度を前提としてないかという疑いがある。で、さらに、しかし、なのだが、その雑さは本作に明らかに推進力を与えている。

そして、最後はやはりホアキン・フェニックスの見事な演技に収斂する。アーサーが信じていたものが一つ一つ潰されていき、そして彼が本格的におかしくなってしまうところは圧巻としかいいようがない。本作では、主人公が「信頼できない語り手」なのだけど、その手法がこの映画で使われると思ってなかったので、単純なワタシは見事に騙されてしまった。『ダークナイト』でシカゴがモデルとなったゴッサムシティを本作ではニューヨークに引き戻し、上書きしているが、やはりあの階段の場面、ゲイリー・グリッターという非常に悪趣味な、でも意図的(なんでしょ?)な選曲をバックにやはりヘンだけど独特の優雅さすら感じるダンスを踊り、本作でもっとも陽の光を浴びて輝くジョーカーとしての主人公にはめまいがした。

小野マトペさんが書くように、本作は分断していく社会で見捨てられた「キモくて金のないおっさん」が「無敵の人」として目覚めていく経過を美しく描いた危ない映画である。そして、ワタシは雑さと無神経さが気になるものの、本作を支持する。

ざまあみろ、ですよ。それの何が悪いのか。

さて、上記の通り、本作は観るまで時間が空いてしまったため、その間とにかく本作を論じた文章をできるだけ読まないようにするのに苦心した。とりあえず URL だけ保存している文章が20以上あり、これを書き終えたところでようやく読めると思うと、正直今ホッとしている。主人公が冷蔵庫に入ってしまうところとその後の場面がちょっと不連続なところなどよく分からないところも残っているので、これから読む文章にそのあたりの面白い解釈を知れるといいな。

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