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文庫もないのに――2010年代の終わりに文化系はてなユーザーの本で文庫化されたものをまとめてみる

一月ほど前に以下のツイートをした。

このツイート自体は、1973年組の星である堀越英美さんの『女の子は本当にピンクが好きなのか』の文庫化を祝うものである。

女の子は本当にピンクが好きなのか (河出文庫)

女の子は本当にピンクが好きなのか (河出文庫)

しかし、ふと「単著もないのに」という煽り文句を思い出したついでに、はてなユーザの本で文庫になったものはどれくらいあるだろうかと調べてみた。

ゼロ年代には「新書バブル」なんて言葉もあったと記憶するが、おかげでいろんな人が単著を出す可能性が広がったのは間違いない。

しかし、例えば子供の頃から新潮文庫の100冊といったものになじんできた人間からすれば、「文庫本」にはまた違った重みがあるのである。まぁ、「重み」は大げさだが、2008年2009年に単著を出したはてなユーザをまとめたワタシが、10年後に文化系はてなユーザーの本で文庫になったものをまとめてみようと思った次第である。

条件としては、今もはてなブログにアカウントがあり2018年以降にブログを更新をしている人(故人は除く)、はてなブログはてなダイアリー)を始めたときには単著がなかった人に限らせてもらう。あと「単著もないのに」に対応する以上(?)単著の文庫本だけを対象とする。あと、文庫となると小説が明らかに多いので、小説に関しては三冊までの紹介とする。

以下、50音順。

雨宮まみid:mamiamamiyaWikipedia

50音順で並べたら、雨宮さんの名前が最初にくる。

このエントリを書く準備にあたり、自分が書いた彼女の追悼文をリンクしようとしてはてなブログを検索して、それが出てこないのに混乱してしまったが、それが『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のボーナストラック「グッドバイ・ルック」に含まれているからだった。

文庫ではないが、12月刊行予定の『わたしの好きな街: 独断と偏愛の東京』(asin:4591164829)に雨宮さんの「都会と下町、まるで違う二つの顔を持つ街「西新宿」」が収録される。

女子をこじらせて (幻冬舎文庫)

女子をこじらせて (幻冬舎文庫)

石井てる美id:gotoshin_terumiWikipedia

東京大学を卒業して新卒入社したマッキンゼー・アンド・カンパニーからワタナベエンターテインメント所属のピン芸人に転身された異色のキャリアを持つお笑いタレントだが、この方のインタビューを読んでひどく感心した覚えがある。

伊藤計劃id:ProjectitohWikipedia

伊藤計劃さんが亡くなられて、今年で十年になる。新しい読者は、彼がはてなダイアリーをやっていたことを知らない人が多いのだろう。

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

大野左紀子id:ohnosakiko

大野さんもこうしたエントリの常連であるが、現在は Forbes Japan の連載「シネマの女は最後に微笑む」で健筆を奮っている。

荻上チキ(id:seijotcpWikipedia

今では何より「荻上チキSession-22」のメインパーソナリティーとして知られる荻上さんだが、思えば氏と知り合って随分になる。しかし……そもそもワタシは荻上さんにお目にかかったことってあったっけ? と考えて思い出せないのが恐ろしい。

彼女たちの売春 (新潮文庫)

彼女たちの売春 (新潮文庫)

  • 作者:荻上 チキ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/10/28
  • メディア: 文庫

高世えり子(id:eriko_takaseWikipedia

高世えり子さんがこのリストに入るのは少し不思議な気がするが、上記の条件で見ると合致するようなのだ。現在は cakes で連載「理系クンの日々アップデート育児」をされている。

理系クン (文春文庫)

理系クン (文春文庫)

ちきりん(id:ChikirinWikipedia

ずっと彼女のブログは読んでいるが、現在までブログ執筆の更新ペースがほとんど変わらないのはやはりなかなかできることではない。彼女の著書で文庫になっているのは三冊で、小説を除けばもっとも多い。

未来の働き方を考えよう 人生はニ回、生きられる (文春文庫)

未来の働き方を考えよう 人生はニ回、生きられる (文春文庫)

社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう! (だいわ文庫)

社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう! (だいわ文庫)

  • 作者:ちきりん
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2014/08/09
  • メディア: 文庫

戸部田誠(id:LittleBoy

てれびのスキマ(戸部田誠)さんの文章は、cakes などで読ませてもらっているが、この5年間くらい毎年途切れず新刊が出ているのはすごい話である。

葉真中顕(葉真中顕のブログWikipedia

いまや罪山罰太郎id:tsumiyama)といっても通じないだろうが、『凍てつく太陽』(asin:4344033442)が第21回大藪春彦賞第72回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)のダブル受賞を果たした2019年は、葉真中顕さんにとって飛躍の年となったに違いない。

彼の著作ではデビュー作の『ロスト・ケア』を読んでこれはヤラレタと思ったが、その後の作品も読まないといけない。

ロスト・ケア (光文社文庫)

ロスト・ケア (光文社文庫)

  • 作者:葉真中 顕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/02/10
  • メディア: 文庫

絶叫 (光文社文庫)

絶叫 (光文社文庫)

  • 作者:葉真中 顕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/03/09
  • メディア: 文庫

コクーン (光文社文庫)

コクーン (光文社文庫)

  • 作者:葉真中 顕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/04/11
  • メディア: 文庫

pha(id:phaWikipedia

少し前に「ザ・ノンフィクション」の「好きなことだけして生きていく 前編~元ニートの再々再々出発~」「好きなことだけして生きていく 後編~伝説のシェアハウス解散~」が放送されているが、残念ながらワタシは住んでいるところの関係で観れていない。

pha さんも40代になり(ようこそ)、シェアハウスを解散し、一人暮らしを始めるという転機を迎える。これから彼が書くものがどう変わるのか/変わらないのか、やはり興味がある。

しないことリスト (だいわ文庫)

しないことリスト (だいわ文庫)

  • 作者:pha
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2018/09/12
  • メディア: 文庫

なお、共著も対象とするならば、円堂都司昭さん(ENDING ENDLESS 雑記帖 @『ディズニーの隣の風景』 by 円堂都司昭)、栗原裕一郎さん(id:ykurihara)、そして速水健朗さん(id:gotanda6)の3人が著者に名前を連ねる『バンド臨終図巻』があるし、栗原裕一郎さん(第二子誕生おめでとうございます)には別の共著もある。

石原慎太郎を読んでみた - 入門版 (中公文庫)

石原慎太郎を読んでみた - 入門版 (中公文庫)

こういうリストには抜けがあるものなので、お気づきの方はご指摘ください。

テクノユートピアニズムの闇をえぐるアンドリュー・マランツの『Antisocial』が面白そうだ

こないだ Rebuild.fm で森田創さんが、また Facebook で八田真行さんがアンドリュー・マランツAntisocial という本を取り上げているのを見て、この本についての記事を以前読んだような……と記憶を辿り、New Yorker の記事を思い出した。

日本語訳もあるので、そちらを読んでいただければ、この本の内容はだいたいつかめると思う。そうか、アンドリュー・マランツは New Yorker の記者なんだね。

この本の推薦者にジャロン・ラニアーが名前を連ねているのが象徴的だが、Facebook に代表されるテクノユートピアニズムを信奉する巨大テック企業らによるソーシャルメディアが民主主義を破壊したと糾弾する本は、それこそ前回のアメリカ大統領選挙以降のトレンドなのだけど、この本はジャーナリストによる一つの決定版なのかもしれない。

著者が TED2019 で行った著書の内容を要約する講演があるのだが、現時点で残念ながら日本語字幕は付いていない。

いずれにしても、これは邦訳が出るべき本でしょう。

Antisocial: Online Extremists, Techno-Utopians, and the Hijacking of the American Conversation

Antisocial: Online Extremists, Techno-Utopians, and the Hijacking of the American Conversation

Antisocial: Online Extremists, Techno-Utopians, and the Hijacking of the American Conversation

Antisocial: Online Extremists, Techno-Utopians, and the Hijacking of the American Conversation

ジャネル・シェインの新刊が説くAIのキテレツさとブラックボックスなAIの危険性

ジャネル・シェイン(Janelle Shane)というと、やたらと AI にヘンなことをさせてそれが日本語メディアでも記事(参考:ねとらぼGIGAZINEギズモード・ジャパン)になる AI Weirdness の人という印象があるのだが、その彼女が AI についての本を書いたとな。

You Look Like a Thing and I Love You

You Look Like a Thing and I Love You

今の AI の成果ってかなりキテレツなのに過大評価しがちだし、ブラックボックスアルゴリズムに人間の生活に支配されることに警戒しないといけないよねということだが、メレディス・ブルサード『AIには何ができないか』もそうだが、こういう本が出だしたということなんでしょうね。

やはり彼女も TED2019 で著書の内容を要約する講演を行っている(残念ながらこの動画にもまだ日本語字幕が付いていないが)。全体的に話の内容が古いのではないかという疑念が頭をもたげるが、写真からテンチを識別するよう AI に学習させたら人間の指を選択するようになった話など笑ってしまう。

ネタ元は Slashdot

クロサカタツヤさんの初の単著『5Gでビジネスはどう変わるのか』が今週出る

ワタシ的には『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第67回で大変お世話になった(参考:その1その2)クロサカタツヤさんの新刊『5Gでビジネスはどう変わるのか』が今週刊行される。

5Gでビジネスはどう変わるのか

5Gでビジネスはどう変わるのか

5Gでビジネスはどう変わるのか

5Gでビジネスはどう変わるのか

調べてみたら、意外なことにクロサカタツヤ名義の単著はこれが初めてなはずである。主題的に今とても求められているトピックなのは間違いないし、クロサカタツヤさんが書くのだから凡百のネット記事な解説本ではないだろう。これは期待の新刊である。

内容紹介を見ると、5G の【黎明期+ピーク期】が今年までで、来年からは【幻滅期】という認識なのが氏らしいと思う。しかし、【安定期】に入るのは2026年からなのかぁ……。

あなたが『シャイニング』について知らないかもしれない25のこと

今月末に日本でも映画『ドクター・スリープ』が公開になるが、Netflix で傑作「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」を作ったマイク・フラナガンの監督作なので、ワタシも楽しみにしている。

『ドクター・スリープ』は言うまでもなく『シャイニング』の続編なのだけど、スタンリー・キューブリックによる映画版は原作者スティーヴン・キングから厳しい批判を受けるなど毀誉褒貶の激しい作品である。映画版についてあなたが知らないかもしれない25のことが記事になっている。

正直、誰でも知っとるわい、というのも多いのだけど、あっと驚く話もあったりする。

  1. キューブリックは『シャイニング』を作る前からホラー映画に関心があった(『エクソシスト2』のオファーがあったため)
  2. 映画『シャイニング』は、1952年にキューブリックが携わったテレビシリーズ Omnibus のあるエピソードがインスピレーションになっている
  3. キューブリックはキングが書いた脚本を読みもしなかった
  4. それなのにキューブリックはキングに質問をしている(朝の7時にキングに電話をかけた有名な話)
  5. 『シャイニング』にはキューブリックの家族が何人も参加している
  6. キングはキューブリックの脚色に「失望」した(これは上記の通り有名ですね)
  7. キューブリックは『シャイニング』のロケーション撮影に参加していない(冒頭の空撮ですね)
  8. 原作では217号室だった部屋が、映画では(オーバールック・ホテルの外観に使用された)ティンバーライン・ロッジの要請で(ホテルに存在しない)237号室に変更されている
  9. 映画に登場する「All work and no play makes Jack a dull boy」は各国でいろんな風に翻訳されている(紹介されているドイツ語版、スペイン語版、イタリア語版、どれも誤訳に思えるのだけど……)
  10. 上記の「All work~」をキューブリック自らが全部タイプしたという噂がある
  11. 映画でPlaygirl誌がこっそり映っている
  12. ダニー役を演じたダニー・ロイドは『シャイニング』が唯一の出演作ではない
  13. ダニー・ロイドは『シャイニング』がホラー映画と知らずに演技していた(彼に恐怖を与えないように、キューブリックが彼を守っていた)
  14. ジャック・ニコルソン「やぁぁぁ、ジョニーだよ」の台詞はアドリブ
  15. ニコルソンはあるシーン全体の脚本を書いている
  16. キューブリックシェリー・デュヴァルの関係はよくなかった(というか、デュヴァルの役柄に合わせてキューブリックが故意に彼女に辛く当たった)
  17. ディック・ハローラン役は(『博士の異常な愛情』で一緒に仕事をしていた)スリム・ピケンズにオファーされていた
  18. オーバールックホテルは、空間的な視点で見ると映画と矛盾する
  19. セットの多くが、撮影の終わり頃に起きた火事で焼け落ちた
  20. 雪の中で迷路の追跡場面のために900トンの塩が要った(あれ塩だったのか!)
  21. 映画の制作に5年を要している
  22. 原作とも違う、独自のエンディングが存在する(参考:シャイニング幻のエンディング
  23. 前作『バリー・リンドン』はキューブリックにとって最も商業的に失敗した映画(だったため、『シャイニング』は当てる必要があった)
  24. 『シャイニング』は多くの陰謀説を生み出すことになった
  25. 『シャイニング』の最も有名なファンサイトの運営者は、後に『トイ・ストーリー3』の監督になった(し、『トイ・ストーリー3』は『シャイニング』へのオマージュがいくつかある)

最後のマジか!

個人的な話だが、少し前に人と『ドクター・スリープ』の話になり、相手は『シャイニング』を観てないというので、DVD を貸すよと安請け合いしたのだが、自分のコレクションを見て、『シャイニング』の DVD を持たないのに気づいた! なんてこったい。でも、『シャイニング』は Netflix で観れるというので事なきをえた。

そういえば、同じくキング原作マイク・フラナガン監督作の『ジェラルドのゲーム』もやはり Netflix で観れるね。

皆さんも『ドクター・スリープ』公開を前に『シャイニング』を観直してみるのはいかがでしょう。

シャイニング [Blu-ray]

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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その28

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、前回の宣伝をしつこく続けていたら売り上げが伸びたという話のブックマークに id:rgfx さんがありがたいコメントを書いてくださっている。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の宣伝をしつこく続けていたら売り上げが伸びたという話 - YAMDAS現更新履歴

「第50章 ネットにしか居場所がないということ」とか「付録A インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」とか良いよね。

2019/10/29 13:59

特に最新版で電子書籍に追加した「付録A インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」を挙げてくれているのが嬉しい。こう書いてもらえると、がんばって書き下ろした甲斐があるというものだ。

ありがたいことに作家の樋口恭介さんが、ワタシのツイートから辿って「個人ブログ回帰と「大きなインターネット」への忌避感、もしくは、まだTwitterで消耗してるの?」、そして『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のことを紹介してくださった。

個人的には「個人ブログ回帰と――」は思い出深いものがある。この中でいささか冷ややかに言及しているクロサカタツヤさんとサイゾーの『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』で対談したとき(参考:その1その2)、対談記事には含まれていないが、「個人ブログ回帰と――」のことをクロサカタツヤさんと話す機会があったからだ。

樋口恭介さんの note を読めば分かるようにこの文章で書いた問題は文脈を変えながら残っているし、それは対談記事でも言及がある「劉慈欣の話題の『三体』と「暗い森」になりつつあるインターネット」につながっていると思うのだ。

そうした意味で、樋口恭介さんのインスピレーションに何らかの刺激というか、うまいトスを上げられたなら、「捨て石になるのは嫌だが、踏み石なら喜んでなる」がポリシーのワタシとしては満足である。

また、樋口恭介さんが書名を挙げてくださったおかげで『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来 』に興味を持ってくれた方もいるようで、ありがたい話である。

もう少しは宣伝ブログを続ける余地があるのかもしれない。感想、書評、まだまだお待ちしております!

TikTokの時代に我々はスローダウンできるのか? 気鋭のヴィジュアルアーティストが説くアテンションエコノミーへの反逆

TikTok の時代に我々はスローダウンできるか?」というタイトルが面白くて調べてみたら、この文章の著者の Jenny Odell はヴィジュアルアーティストにしてライターみたいで、今年の春に本を出していた。

日本でもちゃんと紹介されていた。元掲載サイトである JBPress ではプレミアム会員にならないと読めないが、ちょっと邪道かもしれないが配信先のライブドアニュースで全文読めます。

ジェニー・オデルは、先端技術のメッカ、シリコンバレーのど真ん中で育ち、Google Earth などでデジタルデザイン作品を発表しているネットネイティブなミレニアム世代なのにあえて、ソーシャルメディアが主導するアテンションエコノミーへの反逆を説いているところが面白い。具体的には彼女自身アーティストなので、学生には「クリエイティビティには時間がかかる」ということを説いている。

これを機に調べてみたら、刊行当時コリィ・ドクトロウも書評を書いて推している。

「何もしない方法」という副題は挑発的で、これは邦訳出ると面白いと思うね。

How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy

How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy

How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy (English Edition)

How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy (English Edition)

調べてみたら、著者は Google でこの本の講演をやっている。YouTube のコメント欄を見ても、この講演をシリコンバレーの中心地のひとつである Google でやってることに皮肉を感じている人が散見され、「まるで屠殺場でヴィーガンのライフスタイルを勧めるプレゼンをやってるみたいだ」というコメントに笑ってしまった。

さて、実は以上のエントリは2か月近く前に書いていたのだが、なぜか公開し忘れていた。

WIRED.jp の菅付雅信の連載『動物と機械からはなれて』にジェニー・オデルのインタビューが掲載されているのを見て(これもなかなか面白いインタビューである)、自分のブログを検索しても彼女についてのエントリが出ないのに公開し忘れに気づいた次第である。

首席指揮者に就任した挾間美帆を空港で歓迎するダニッシュ・レディオ・ビッグ・バンドの映像がステキ

作曲家、編曲家にして、2016年にはダウンビート誌において「ジャズの未来を担う25人」に選出されてもいる挾間美帆が、2019年10月からデンマークの DR Big Band(The Danish Radio Big Band)の首席指揮者に就任しているのだが、それに先立ちバンドはコペンハーゲン空港に到着した挾間美帆を盛大に歓迎している。

こういうのステキだよね。

挾間美帆の一年前のインタビューを読むと、DR Big Band と初共演だった2017年の東京ジャズのときのことを「デンマークのDRビッグバンドは面識がなくて、リハの時点で私を信用していないことは分かった」と振り返っているが(このインタビューを読むと、オーガナイザーとして彼女が有能なのが分かる)、こういう映像を見るとその後の共演を経て DR Big Band との間に信頼関係も築けているようで素晴らしいことだと思う。

挾間美帆のツイッターを見ると、このときの模様は日テレのニュース番組でも取り上げられたようだが、こんなステキな話が日本のネットメディアで一月以上まったく話題になってないようなのは不思議である。

ダンサー・イン・ノーホエア

ダンサー・イン・ノーホエア

  • アーティスト: 挾間美帆,m_unit,スティーヴ・ウィルソン,ジェイソン・リグビー,アンドリュー・グタウスカス,ジョナサン・パウエル,アダム・アンズワース
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2018/11/21
  • メディア: CD
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A Good Time Was Had By All

A Good Time Was Had By All

映画『ブレードランナー』は2019年の技術をどれくらい予言していたか?

映画『ブレードランナー』は2019年11月のロサンゼルスを舞台しており、つまりは『ブレードランナー』に現実のタイムラインが追いついたというか、『ブレードランナー』の世界は「未来」ではなく「過去」になるわけである。

『ブレードランナー 2049』は、なんで2049年かというと、『ブレードランナー』から30年後ということだったんですね。今さらだけど。

BBC の記事は、『ブレードランナー』は2019年の技術をどれくらい予言していたかを取り上げている。そういえば、『2001年宇宙の旅』にも『HAL伝説―2001年コンピュータの夢と現実』(asin:4152080957)という本があったのを思い出すが、『ブレードランナー』はどうか。

ロボット

まず現在のロボットは、映画における「レプリカント」には及ばない。しかし、AI(人口知能)がどんどん進化しているのはご存知の通りで、「セックスロボット」も現実化が見えてきている。

ビデオ通話

ビデオ通話は既に一般的になっている。しかも、『ブレードランナー』の描写と異なり、ネットサービスを使えばビデオ通話そのものにお金はかからない。

ホームアシスタント

音声操作によるバーチャルアシスタントも Amazon の Alexa などが実現してますな。

嘘発見器

ブレードランナー』ではレプリカントを識別するのにフォークト=カンプフ検査が使われているが、現実の嘘発見器はその信頼性が疑われており、イギリスでは嘘発見器の結果は証拠として採用されないらしい(そうなのか!)。

地球の環境破壊

ブレードランナー』で特徴的だったのは、クリーンな未来を描きがちだったそれまでの SF 映画と異なる、産業公害により荒廃したロサンゼルスの描写である。また地球からの移住を余儀なくされているという設定だが、現実は当然惑星間の移住はまだ実現していない。しかし、昨今の気候変動の行きつく先を、この映画のロサンゼルスの描写になぞらえたくなる人はいるだろう。

写真

記事の「Blade Runner ignores the Instagram generation」という見出しに笑ってしまったが、現実もポラロイド写真はしっかり残っているが、この映画のように捜査には使われない。

しかし、この映画で登場する、写真に写るものをズームしたり角度を変えてみたりするエスパー(Esper)マシンは未だに時代を先んじている。とはいえ、「瞳に映った景色」でアイドルの住所が特定された話を聞いて、エスパーを連想した人は多かったろう。

空飛ぶ車

ご存知の通り、空飛ぶ車はまだ実験段階である。この記事では NEC の「空飛ぶクルマ」試作機が引き合いに出されている。

そういえば、ポリススピナーの展示会亜細亜大学でもうすぐ行われるとな。

ヘアドライヤー

この映画で出てくるような、金魚鉢を逆さにしたような形状の、数秒で髪を乾かすヘアドライヤーは実現してませんな。

こうして映画の細部と現実をいくら比べても、あの映画の偉大さに近づけないというのはその通りなのだけど、あの映画が設定上「過去の世界」になるというのは不思議な気持ちになる。

ネタ元は Boing Boing

IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。

公開初日に観たが、ワタシが観に行けるシネコンのレイトショーは吹替版だった。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』が面白かったので、主人公たちが大人になった第2章も楽しみだったが、169分という上映時間にはさすがにたじろいだ。膀胱的プレッシャーに弱いワタシだが、近年の映画の長尺化に鍛えられたところもある。実際、本作は膀胱的プレッシャー、というか文字通り時間を忘れさせてくれる作品だった。

前作について、原作者のスティーヴン・キングはあんまり宣伝ツイートなどしてなかった印象があって、時代設定を80年代に変えたのが気に入らんのかなとか邪推していたが、前作の大ヒットに気をよくしたか、しっかりカメオ出演していて、なかなかの芸達者ぶりを見せている。

ワタシはホラー映画は好きだけど、映画館で観るとショック描写にビクッ! となって恥ずかしい思いをすることが多く苦手なのだが、とにかく本作はそのビクッ! の連続な映画なのである。前作にはわずかばかりあった「それ」が来そうで来ないという肩透かしは一切なくなり、なんか来そうと思ったら100%ドギャーン! となる演出なのである。

安くない金出して観に来た客をしっかり怖がらせ、エキサイトさせてくれる映画としては文句なしなのだけど、それこそ『スタンド・バイ・ミー』にもつながるような詩情は失われてしまっているように感じた。事前に予想していたよりも、主人公たちの子供時代も本作でもフィーチャーされていて、それは良かったけれど。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の宣伝をしつこく続けていたら売り上げが伸びたという話

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、このブログを続けていること自体、この本を宣伝が主目的なのである。が、現実は厳しい。それでも頃合いを見計らってツイッターでも宣伝を行っている。

土曜の夜にふと思い立って唐突に宣伝ツイートをさせてもらったのだが、運よく RT と like をこの手の宣伝ツイートにしてはもらってありがたいことである。

やはり、円城塔さんが再度言及くださったのが大きいようだ。ちょっと露悪的な元ツイートに嫌な顔をせず付き合ってくださった円城塔さんには感謝しかない。ありがとうございます。

ありがたいことにすぐさま購入いただき読みだした方もいるようで嬉しい。

達人出版会の高橋さんによると、実際売り上げが伸びたらしい。

マジか! まぁ、要因は自分のツイート(とその拡散)以外ありませんわな。ありがたいことである。

米オライリーも DRM フリー電子書籍の取扱いを中止するご時勢に、ソーシャル DRM という緩い管理で電子書籍ダウンロード販売を続けている達人出版会はとても貴重な存在なので、ワタシの本の売り上げがわずかでもその存続に貢献してくれればと願ってやまない。

やはり、電子書籍であれ紙の書籍であれ、地道に宣伝を続けることが重要なようだ。

JavaScriptは改名すべきなのだろうか?

ある意味定番ネタというか、長年くすぶってきた話ではあるが、JavaScript は改名すべきかという話である。

プログラミング言語JavaScript をブランドとして考えた場合、問題があるのは間違いない。このエントリで指摘されているのは以下の5点。

  1. JavaScript 言語の公式規格の正式名称は ECMAScript
  2. 正確には「JavaScript」とは Mozilla によって策定された ECMAScript のサブセットを指すが、文脈によって、複数の異なる ECMAScript の上位集合と同義になっている
  3. JavaScriptOracle の商標であり、ウェブプラットフォームの中心をなすコンポーネントという言語のポジションにふさわしくない
  4. JavaScript には、Go や PHP にあるような公式ロゴすら存在しない
  5. よく知られた話だが、JavaScriptJava とは無関係。これが技術系でない経営者や人材採用担当者を長年にわたってひどく混乱させてきた

でも、この文章の著者にとって、JavaScript という名前にまつわる大問題は、その曖昧なスコープだったりする。あるプログラムが JavaScript で書かれているといっても、どのホスト API に依存しているか分からない、などの。

そうした観点から、JavaScript の改名、再ブランド化は意味があるという意見で、この文章でも単なる JS、あるいは WebJS とか ServerJS とかいろいろな例は出されているが、どういう名前がいいかとなると意見がまとまるかねぇというのが正直な感想である。

ネタ元は Slashdot

40もの主要音楽フェスが顔認識技術を採用しないことを誓約

この話題が日本ではあまり話題になってないようなのが気になるのだが、SXSW やコーチェラやピッチフォークやボナルーといった世界的に知られる40もの音楽フェスが、顔認識技術を採用しないことを誓っている。

AI(人工知能)の進歩などあり、顔認識技術が実用化されているのはご存知の通りである。確かに顔認識技術には大きなメリットがあるが、一方でプライバシー侵害の懸念があり、また現行の顔認識技術に人種的なバイアスがある話も知られている。

犯罪防止などメリットがあるはずの音楽フェスが率先してその不採用を誓約するのには上記の理由もあるだろうし、何より日常から離れた楽しみであるはずの音楽フェスが率先してジョージ・オーウェルを連想させる監視社会化に手を貸しちゃいかんだろうというという意思があるのではないか。

フェス全般における顔認識技術の利用については BanFacialRecognition.com にまとまっており、その使用(可能性)/不使用が一望できるのがすごい。メジャーなイベントでは、バーニングマンが使ってるかもというのは意外だった。

このサイトには日本の音楽フェスの情報はないが、フジロックサマソニはどうなんでしょうね。

この問題について、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどのギタリストとして知られるトム・モレロが Buzzfeed に論説記事を書いているのだが(なんで邦訳が出ないのよ!)、彼も顔認識技術の音楽フェスにおける採用に断固反対の立場である。

さらに書けば、この問題は当然ながら音楽フェスに限定されるものではなく、職場で顔認識技術が使われるようになれば、雇用者は従業員の表情の変化からその監視を強めることができるという New York Times の論説記事を受け、コリィ・ドクトロウは我々はあらゆる場での顔認識技術の利用を禁止すべきと気勢を上げている。

伝説のハッカーが教える 超監視社会で身をまもる方法

伝説のハッカーが教える 超監視社会で身をまもる方法

マーティン・スコセッシ曰く「ルー・リードは何も持たざる者たちの代弁者だった」

『アイリッシュマン』Netflix での来月の公開が待たれ、また最近ではマーベル映画に対する批判的なコメントが論議を呼んだマーティン・スコセッシだが(ワタシ自身は、積極的に MCU が嫌いと公言してきた奇特な人間なので、特に文句なしです)、復刻され、改訂版が出るルー・リードの歌詞集に寄せた序文が Guardian に掲載されている。

マーティン・スコセッシルー・リードもニューヨーカーとして知られるが、二人が初めて会ったのはスコセッシが『レイジング・ブル』(asin:B07T3G49NT)のポストプロダクション作業をしていた頃のロサンゼルスだったとのこと。当時スコセッシが特に好きなルーのアルバムは『Street Hassle』(asin:B000026A1H)で、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは後追いだったようだ。

レイジング・ブル』の試写を行い、ルーも大変感銘を受けたようだったが、試写の後、スコセッシはルーに、その師だったデルモア・シュワルツの代表作『In Dreams Begin Responsibilities』原作で映画を撮りたいと告げたそうな。実際、スコセッシとロバート・デ・ニーロは当時脚本に取り組んでいたらしいが、残念ながら実現しなかった。スコセッシは今でもいつの日かその映画を作りたいと書いている。

スコセッシは、ルーの詩は歌われるのを聴くのと印刷されたものを読むのでそれぞれ命があると書く。そしてニューヨーカーとしての出自の重要性について書いており、「Street Hassle」の歌詞を例にしてその映像性を説いている。

実際、80年代にルーはスコセッシの『レイジング・ブル』やサム・シェパードの『フール・フォア・ラブ』を直接的に取り上げた「Doin' the Things That We Want To」という曲を書いているが、面白いのはルーはスコセッシの『最後の誘惑』(asin:B00BTSHPLO)のピラト総督役のオーディションを受けていたという話。その役は実際には、やはりルーと因縁のあるデヴィッド・ボウイが演じているが、他にも90年代には傑作アルバム『New York』(asin:B000002LGA)収録の「Dirty Boulevard」をベースとした映画を作ろうともした話など、この二人のプロジェクトは残念ながらどれも実現しなかったようである。

ルーの訃報に接し、スコセッシもひどくショックを受けたようだが、彼はこの世の最底辺にいる「クズ」と呼ばれるような、その人間らしさ以外何も持たざる者たちの声で語り、歌ったとルーを称えている。

で、スコセッシのこの文章は上記の通り、来月発売になるルー・リードの詩集の改訂版に収録される。

I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics

I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics

  • 作者:Lou Reed
  • 出版社/メーカー: Faber & Faber
  • 発売日: 2019/11/07
  • メディア: ハードカバー

I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics (English Edition)

I'll Be Your Mirror: The Collected Lyrics (English Edition)

  • 作者:Lou Reed
  • 出版社/メーカー: Faber & Faber
  • 発売日: 2019/11/05
  • メディア: Kindle

邦訳を期待したいところだが、ルー・リードの詩集では彼の死後に復刊された『ニューヨーク・ストーリー: ルー・リード詩集』(asin:4309206395)があるので難しいかな。こちらは上記の本の邦訳ではなく、これはこれでルーが行ったインタビュー(彼のインタビューではなく、彼がインタビュアーを務めている)を収録しておりとても貴重なのだが、彼のキャリアを通した詩集の邦訳も必要だと思うのよね。

ルーがこの世を去ってちょうど6年になるところで、また彼についてのブログエントリを書けるのを嬉しく思う。

ジョン・ウィック:パラベラム

キアヌ・リーブスの復活作となったシリーズ第一作目『ジョン・ウィック』について、シリアスだけど結構バカという点において彼らしい復活作とワタシは評した。『ジョン・ウィック:チャプター2』でも、コモンと窮屈そうに撃ち合う場面など、シリアスだけど結構バカという点は引き継がれていた。

さて、その前作において掟破りをしてしまったために高額の懸賞金がかけられ、全方位的に命を狙われることになった主人公だが、本作においてもバンバン敵を殺しまくる。その点において、本作もまぁ、馬やら本やらこれだけ殺しのために趣向を凝らしたもんだと感心させられる。

はっきりいって、ストーリーはどうでもよくて、主人公が謎っぽい人物に頼れば、なんか曰くがあるんでしょうと観客は思うしかない。一応この三作を経て、作中の時間は半月くらいしか経過してないはずだが、妻に託された愛犬の死というきっかけはもはやどうでもよくなっており、殺しの連鎖による主人公の暴走機関車ぶりを堪能するしかない。

そういう意味で、ワタシは本作を観て満足した。前作にローレンス・フィッシュバーンが登場したことで否が応でも連想させられる『マトリックス』とのつながりも、例の台詞が出たところで頂点に達する。本当にキアヌ・リーブスは映画に愛されている。

しかし、もう充分である。例によって続編を示唆する終わり方だったが、このシリーズを映画館で観るのは本作を最後とする。

あと本作においても、「この役をやれる日本人俳優はいなかったんだなぁ」という悲しみをまたしても感じてしまったよ。

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