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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その31

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、その表題作である「もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて」で論じた非中央集権型のウェブについて考える上で、重要な提案が先週あった。

ITmediaWIRED.jp でも記事になっている、ジャック・ドーシー Twitter CEO による、ソーシャルメディア向けのオープンで分散型の標準開発の支援表明である。

その支援先である BlueSky はウェブサイトひとつ持ってないようで、まだこの話がどれくらい現実的なインパクトを持ちうるか分からないところがあるのだが、まさかこの表明が Twitter の CEO から出るとは思わなかった。

さて、『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応だが、先月に公開されていたこのブログエントリを見落としていて申し訳なし。

 とは言うものの、最近は本当にインターネットらしいインターネットを「調べ物」と「個人サイトのRSS巡り」と「タイムラインから数クリック」に限定して久しく、ハッカー文化から連綿たる「理念としてのインターネット」話やガチのアングラ探索には適性が無いので、そのあたりはkzwmn氏などの仕事をたまに拾う程度、ぼんやり読んだ本書から思い返せば、はてブを見なくなったのもHagex事件のキツさが契機だったかと懐かしく、嫌味多めな情報社会論ばかりでは詮無くも、Vtuber文化まで予見した西垣通『聖なるヴァーチャル・リアリティ』だけは、今自分が生きている現実に疑問を抱くたび、つい再読してしまいます。

10月雑記(寺山、ラカン、天使主義) - おしゃべり!おしゃべり!

いずれにしても読んでいただくだけでありがたいことです。

そういうわけで、いつだって、今からだって読んでくださっていいですのよ? 一言でも感想も書いていただければ、なおありがたい。

ジョエル・スポルスキーがFog Creek Software、Stack Overflowに続き、HASHで三度目の起業に取り組んでいる

ジョエル・スポルスキーのブログに retirement なんて単語があってギョッとした。彼がアニール・ダッシュに Fog Creek Software の CEO の座を譲り Stack Overflow に専念したのが3年前だが、その Stack Overflow の CEO も Prashanth Chandrasekar に譲ったとのこと。

Fog Creek Software はアニール・ダッシュのもとで Glitch と名前を変え、Stack Overflow についても衰退説はあれども、間違いなく成功したスタートアップの一つに違いない。

現状を彼は retirement でなく sabbatical ととらえているようだが、実は彼は三度目の起業に取り組んでおり、それが HASH とのこと。彼は Chairman(会長)とな。

「ロンドンとニューヨークを基盤とし、誰もが最高の決定を行えるのに必要な情報、ツール、教育を享受できるようにするのが我々の使命である。シミュレーション用のオープンソースプラットフォーム開発を通じて、情報に起因する失敗を撲滅するのが我々の目標である」とのこと。

ジョエルはブログでその例をいくつか書いているが、要は多様で複雑なシミュレーションを即座に実現するオープンソースのプラットフォームで意思決定を助けたいということだろう。で、HASH のドメイン名を見てもこれが「AI」への取り組みでもあるということだろう。

このエントリに書かれている、ジョエルが余暇に取り組んでいるという電気工作話(「LEDすごいぜ!」)も面白いのだが、ともあれ HASH の動向は気になるね。

Founders at Work 33のスタートアップストーリー

Founders at Work 33のスタートアップストーリー

ジョン・ブロックマンが知のトップランナー25人と「AIと人類の未来」を語る本が出る

調べものをしていて知ったのだが、ジョン・ブロックマン『ディープ・シンキング -知のトップランナー25人が語るAIと人類の未来-』という本が年末に出る(……と思ったら、Amazon のほうは刊行が年明けに変わっている)。

ジョン・ブロックマンというと、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2019年版)でも紹介しているが、今回出るのはそちらの邦訳ではなく、クリス・アンダーソンスティーブン・ピンカー、ジュディア・パール、ダニエル・C・デネットといった錚々たる面々、大げさに言えば「知の巨人」クラス(笑)と AI をテーマにして語り合う本である。

思えば、ジョン・ブロックマンは昔『「意識」の進化論―脳 こころ AI』(asin:4791752155)という本を出しており、AI の分野で本を出すのも流行への安易な迎合ではないのだろう。

そうそう、原書の書評がカタパルトスープレックスにあるので、気になる人は購入の参考にするとよいでしょう。

ジョン・ブロックマンというとジェフリー・エプスタイン問題において、ジェフリー・エプスタインを伊藤穣一に引き合わせたキーマンとして名指しされていたが、確かに彼の人脈がすごいのはこういう仕事でも分かる。

デヴィッド・グレーバーの『Bullshit Jobs』の邦訳がようやく出る……わけではない? あとグレーバーの最近の仕事について

先週、話題になった記事だが、これのタイトルを見ただけで、デヴィッド・グレーバーの新刊の邦訳が出たのかとワタシは早合点した。

ワタシがデヴィッド・グレーバーの新刊を取り上げたのが昨年5月で、「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2019年版)」を書いたときに、岩波書店から2019年末に邦訳が刊行予定という情報をいただいていたので、現代ビジネスの記事はそのプロモーションの一環だろうと思ったわけである。

しかし……記事をひととおり読んでも、『Bullshit Jobs』の邦訳については具体的な記述はない。結局今年中には出ないのか。

その代わりというわけではないだろうが、『Bullshit Jobs』の要約版と言えるインタビューや文章が掲載された書籍が出ている。

一方で、グレーバーの最近の書評仕事を読むと、経済学自体に矛先が向かっている。

こちらの日本語訳では「対経済」と訳しているが、これははっきり「反経済学」でしょう。経済学(者)よ、マジ役に立たねぇ! と言ってるわけ。

このあたりがグレーバーの次作の方向性になるのかもしれない。

「映画テン年代ベストテン」を選んでみた

ワッシュさん(id:washburn1975)のベストテン企画には、過去ホラー映画SF映画音楽映画で参戦しているが、今回もそのつもりでありながら、どうしても10本選ぶのに苦しんで、苦しんでなんとか期限最終日(だよね?)に間に合わせた。

公開後に「なんでこれを入れなかったんだ!」「なんでこれがこの順位!」と後悔すること間違いなしなのだが、とにかくえいやで選んでおく(以下、公開年は基本的に日本基準)。

  1. マーティン・マクドナースリー・ビルボード』(2018年)
  2. クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)
  3. アスガル・ファルハーディー『別離』(2012年)
  4. マシュー・ウォーチャス『パレードへようこそ』(2015年)
  5. マーティン・スコセッシウルフ・オブ・ウォールストリート』(2014年)
  6. ジョージ・ミラーマッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)
  7. 高畑勲かぐや姫の物語』(2013年)
  8. ヨン・サンホ新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017年)
  9. ダーレン・アロノフスキーブラック・スワン』(2011年)
  10. マイク・ケイヒル『アナザー プラネット』(2011年製作、劇場未公開)

それでは選んだ各作品について簡単に触れておく。

マーティン・マクドナースリー・ビルボード』(2018年)

今回のリスト、入れたい映画はいろいろあるのだが、1位を何にするか軸が定まらず、困り切っていたところにこの映画を忘れていたのを思い出して、それだけで大分整理がついた。

ブレット・イーストン・エリスが指摘するように、その欠点を内包した政治性が忌避され、とってしかるべきアカデミー賞作品賞を逃した本作をこそ2010年代の1位にしたい。

クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)

クエンティン・タランティーノの作品を入れないわけにはいかない。『ジャンゴ 繋がれざる者』でも『ヘイトフル・エイト』でもいいのだけど、最高傑作ではないだろうが、彼の映画でもっとも好きということで本作になる。

アスガル・ファルハーディー『別離』(2012年)

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評判は聞いていたが、期待値を上回る出来であり、何より上質のエンターテイメントなのに驚いたものである。エンディングに映画館で「うぉぉぉっっ…」と小さく叫んでしまった映画はこれだけである。

マシュー・ウォーチャス『パレードへようこそ』(2015年)

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これをこの高順位にあげるのは間違いなくワタシだけでしょう。理由は、この10年で観ながらもっとも泣いた映画だからということで(何しろ上映中の大半の時間泣いていた)、これは「泣き映画」「イギリス映画」枠です(どういう枠だ)。

マーティン・スコセッシウルフ・オブ・ウォールストリート』(2014年)

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2010年代のスコセッシの映画でもっとも感情的に揺さぶられたのは実は『ヒューゴの不思議な発明』なのだが、「泣き映画」枠はもう埋まったので、スコセッシらしいお道徳を超えたエキサイトメントを感じさせてくれた映画ということで本作が入る。

ジョージ・ミラーマッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)

大半の人がこうしたリストに入れるであろう本作だが、実はワタシはあえてこれを入れたくなくて、しかし……と逡巡しているうちにものすごく時間が経ってしまった。やはり本作がいろんな潮目を変えた作品であり、ずーっとクライマックスという作劇も本作以降増えたよね。

高畑勲かぐや姫の物語』(2013年)

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「アニメーション映画」枠に何が入るかと考えた場合、『トイ・ストーリー3』『この世界の片隅に』のどちらにするかかなり悩み、半ば後者で決まりかけていたのだが、やはりここは高畑勲の遺作となった本作を選ぶべきと脳内決定が下った。

ヨン・サンホ新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017年)

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やはりこういうリストには「ゾンビ映画」枠が絶対必要だと思うのですよ。そうした意味で、『カメラを止めるな!』『桐島、部活やめるってよ』(!)もかなり有力候補だったのだが、ジョージ・A・ロメロ先生に敬意を表して、ゾンビ映画の政治性の観点から本作になった。

ダーレン・アロノフスキーブラック・スワン』(2011年)

何かエビデンスがあるわけではないのだが、本作は現在、公開時よりもはっきり評価が下がっているのではないか。それでもなお、ワタシは本作を入れたかった。多くの人この手のリストに入れるであろう『ソーシャル・ネットワーク』を外してでも本作を入れたところがワタシなりの主張である。

マイク・ケイヒル『アナザー プラネット』(2011年製作、劇場未公開)

これも自信をもっていえるが、本作をこうしたリストに入れるのはワタシだけでしょう(笑)。ワタシのリストの他作品はすべて劇場公開時に観ているが、本作は日本では劇場未公開だったわけで、そうした意味で本作は「レンタルDVD」枠である。同じ枠での候補作は『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』、『エクス・マキナ』など。

やはり、『The OA』で最高に驚き呆れさせてくれたブリット・マーリングという人の出世作という意味もある。本作はある意味ネタバレな原題より邦題のほうが良い珍しい例。

以上のように、なんとか「映画テン年代ベストテン」を選んでみたが、入れたい映画はいくらでもあり、それは上の文中にもいろいろ挙げたが、他にも「ボンクラ映画」枠で『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』、「音楽映画」枠で『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』がかなり有力候補だったのは書いておく。しかし、それを言うなら他にも――と書いているとキリがないので、ここまでとする。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その30

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、まったく情けないことに半月以上前に書評が公開されているのを見逃していた。

こうやって評を書いてもらえるのはありがたいことだ。

最初に読んだ解説によれば、本書は「2013年から2016年までのインターネットを巡る思想史の変遷」だという。なるほど、おもしろそうだな。一方で、解説に登場する人物の名前が半分以上わからない。なるほど、不安になるな。結果として、これはどちらも半分ずつ的中という感じで、話題の大半は興味深くておもしろいものの、登場人物や背景についての知識が十分でない場合は、話題をフォローするのが精いっぱいという章も多い。補足するまでもないが、私の知識量などに基づいた話だ。技術的な話題から政治や経済など、扱われている内容は多岐にわたる。

読書:『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』 | Aruhito

この後、「日本におけるインターネット思想とは何じゃろな?」という観点から書かれていて、確かにそういう視点で見ると面白いなと著者のワタシも思った。

濱野智史 は AKB 関連の新書を出して以来、一般書の舞台には降りてこないから何をやっているのか知らないが、川上量生は実業家と呼ぶのがふさわしいだろうけど、なんかよく分からんことになっている。本書には津田大介もところどころで扱われているが、こちらの方も何かと泥沼だ。なんだ日本のインターネット文化なんて、文化らしい文化が無くなっているんじゃないのという気もしてくる。日本のインターネット文化をけん引するような存在や真面目に思索する方面、そういったムーブメントはあるのか? 今、どこにあるのかしら。

読書:『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』 | Aruhito

川上量生の名前が出ているが、最新版に収録した付録「インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」(既に購入済の方は、最新版に無料で更新できますよ!)では彼のことを批判的に取り上げたが、ホントみんな遠くに来てしまったよね、ちょっと遠い目になってしまう。

FBIに逮捕されたイーサリアム開発者ってWikiScannerの開発者だったのか!

土曜日に Ethereum Foundation の人間が逮捕されたというニュースを知り、なんかやたらと北朝鮮接触していたという話で、物好きもいるもんだと思っただけだったが、この手の話はこの記事の執筆者でもある星暁雄さんのツイッターを追うのが良い。

それより今回逮捕された Virgil Griffith って、WikiScanner の作者だったんだな!

ワタシがこの WikiScanner のことを連載で紹介したのが2007年9月なのだから、12年以上前(!)になる。Virgil Griffith は、これで気鋭のハッカーとして一躍有名になったわけだが、まさか FBI に逮捕されるとは。

続報が出ているが、逮捕の経緯について現時点では分かってないことも多いから決めつけはいけない。星暁雄さんの記事にもあるように、アメリカ政府は暗号技術を広める活動に厳しい態度を取ってきた歴史があることを忘れてはいけなくて、その発表だけを一面的にうのみにするのは危険である。

本文執筆時点で Ethereum Foundation Blog に本件についての情報はない。『マスタリング・イーサリアム』邦訳の刊行について少し前に書いたばかりだが、イーサリアムの名前にヘンなイメージがつかないとよいのだが。

マスタリング・イーサリアム ―スマートコントラクトとDAppの構築

マスタリング・イーサリアム ―スマートコントラクトとDAppの構築

グッデイ三代目社長になられていた柳瀬隆志さんのインタビューが面白い

ホームセンターグッデイといっても九州在住の人でないとピンとこないのかもしれないが、そんなことは関係なくグッデイ三代目社長である柳瀬隆志さんの話がとても面白いので読んでください。

実はワタシは一度この柳瀬隆志さんにお会いしたことがある。

要はファブラボ太宰府の取材で、柳瀬隆志さんがそれを手がけられたのだが、なぜか氏がワタシのことを知っていて驚いたものである。

そういうわけで、柳瀬さん、浅原P、そしてワタシの3人でしばし談笑したのですが、柳瀬さんから「そういえばyomoyomoさんって、福岡に来られた津田大介さんを村さ来に連れていったんですよね!」と言われ、ワタシは逃れられない過去の呪いに打ちひしがれ、その場で泣き崩れてしまいました。

ファブラボ太宰府に行ってきた by yomoyomo - DMM.make

この記事を書いて5年以上になるのか……またしてもちょっと遠い目になってしまうが、ファブラボ太宰府はちゃんと存続しており、柳瀬さんはグッデイ三代目社長になられ、社長自らデータサイエンティストを目指してデータドリブンな経営にまい進ってなかなかできることじゃない。

ただのイケメンではないと思っていたが、インタビューの後編も楽しみである。グッデイならできる♪

[2019年12月8日追記]:後編も公開されていた。

Pitchforkのアルバムレビューで10点満点をとったアルバムをまとめてみる

[2019年12月6日追記]:公開後、読者から2枚ニルヴァーナのアルバムが該当するのを指摘され、気になって死力を尽くして調べたところさらに12枚、合計14枚増えて、全体で118枚のラインナップに拡大した。これでも抜けがあるだろうし、今後も増えるだろうが、キリがないので追加はここまでとさせていただく。

少し前に柏野雄太さんのツイートで、Steely Danの『Aja』について Pitchfork が10点満点をつけているのを知り、そういえば Pitchfork のアルバムレビューで10点満点をとったアルバムって他にどれがあったんだっけと思った次第である。

一時期は Pitchfork のアルバムレビューで何点以上ないと聴いてもらえないとかいう話があったと記憶するが、そうした神通力はもはやなくなっているだろう。それにもう音楽の聴かれ方がアルバム単位ではなくなったというのもあるが、ワタシ自身は結構反発を覚えることも多かった Pitchfork の評価と、例えば自分の以下の評価と重なりはあるのか興味があった。

以下のサイトを調査の情報源にさせてもらったが、現時点で Pitchfork のサイトにないレビューは外させてもらった。何かの手違いで抜けがあったら指摘してください。

一応発表年の順番に並べたが、同年の場合はリリースの日にちまでは考慮していないので、そこまで正確な順番になっていないのに注意ください。

あと「備考」はワタシのアルバム100選にあったら◎、それにはないが満点で異存がないものは〇をつけている。自分用メモである。何もついてなくても、別にそのアルバムが嫌いということは必ずしもなく、満点はどうよだったり、単純に聴いたことないアルバムもちょくちょくある。

アーティスト アルバム 発表年 Pitchfork Wikipedia Amazon 備考
Glenn Gould Bach: The Goldberg Variations 1956 Pitchfork Wikipedia asin:B00005HMOV  
James Brown Live at the Apollo 1963 Pitchfork Wikipedia asin:B0001JXQ7O  
The Beatles Rubber Soul 1965 Pitchfork Wikipedia asin:B0025KVLT2
John Coltrane A Love Supreme 1965 Pitchfork Wikipedia asin:B00006K06N
Otis Redding Otis Blue: Otis Redding Sings Soul 1965 Pitchfork Wikipedia asin:B00AY1NY7G
The Beatles Revolver 1966 Pitchfork Wikipedia asin:B0025KVLTC
The Beatles Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band 1967 Pitchfork Wikipedia asin:B06WVHB7B3  
The Beatles Magical Mystery Tour 1967 Pitchfork Wikipedia asin:B0025KVLTW  
The Velvet Underground The Velvet Underground & Nico 1967 Pitchfork Wikipedia asin:B008TYGCUQ
Van Morrison Astral Weeks 1968 Pitchfork Wikipedia asin:B014RPPKSA
The Velvet Underground White Light/White Heat 1968 Pitchfork Wikipedia asin:B00FY10GB8
The Beatles The Beatles 1968 Pitchfork Wikipedia asin:B07HFZ95Z9  
Captain Beefheart and His Magic Band Trout Mask Replica 1969 Pitchfork Wikipedia asin:B000005JA8  
The Band The Band 1969 Pitchfork Wikipedia asin:B07Y97F162
Led Zeppelin Led Zeppelin II 1969 Pitchfork Wikipedia asin:B00IXHBS6M
Neil Young Everybody Knows This Is Nowhere 1969 Pitchfork Wikipedia asin:B000002KD7  
The Beatles Abbey Road 1969 Pitchfork Wikipedia asin:B07VLMMG2F
King Crimson In the Court of the Crimson King 1969 Pitchfork Wikipedia asin:B07X5GK2JJ
Neil Young After the Gold Rush 1970 Pitchfork Wikipedia asin:B001VZY4M8  
Alice Coltrane Journey in Satchidananda 1971 Pitchfork Wikipedia asin:B000024HSS  
The Rolling Stones Sticky Fingers 1971 Pitchfork Wikipedia asin:B00VIQHTEK
David Bowie Hunky Dory 1971 Pitchfork Wikipedia asin:B00GZ3RPPE  
Joni Mitchell Blue 1971 Pitchfork Wikipedia asin:B000002KBU
Can Tago Mago 1971 Pitchfork Wikipedia asin:B008BSPPYE  
Serge Gainsbourg Histoire de Melody Nelson 1971 Pitchfork Wikipedia asin:B000051YEG  
David Bowie The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders From Mars 1972 Pitchfork Wikipedia asin:B00GZ3RPFE
Nick Drake Pink Moon 1972 Pitchfork Wikipedia asin:B00865P2UE
Roxy Music For Your Pleasure 1973 Pitchfork Wikipedia asin:B0000256KE  
Joni Mitchell Court and Spark 1974 Pitchfork Wikipedia asin:B000002GXL
Brian Eno Taking Tiger Mountain (By Strategy) 1974 Pitchfork Wikipedia asin:B000228X2I  
Bob Dylan Blood on the Tracks 1975 Pitchfork Wikipedia asin:B00IMKDXI6
Neil Young Tonight's the Night 1975 Pitchfork Wikipedia asin:B000002KCC
Led Zeppelin Physical Graffiti 1975 Pitchfork Wikipedia asin:B00RUT3D5S  
Joni Mitchell The Hissing of Summer Lawns 1975 Pitchfork Wikipedia asin:B0000262T9
Brian Eno Another Green World 1975 Pitchfork Wikipedia asin:B002DKF55K
Bruce Springsteen Born to Run 1975 Pitchfork Wikipedia asin:B00VJ288MU
Stevie Wonder Songs in the Key of Life 1976 Pitchfork Wikipedia asin:B008E008CI
Steely Dan Aja 1977 Pitchfork Wikipedia asin:B00599UGBU
David Bowie Low 1977 Pitchfork Wikipedia asin:B0794PPZ25
David Bowie "Heroes" 1977 Pitchfork Wikipedia asin:B0794RHKNN
Fleetwood Mac Rumours 1977 Pitchfork Wikipedia asin:B00B7E1XZE  
Brian Eno Before and After Science 1977 Pitchfork Wikipedia asin:B002DKF564  
Wire Pink Flag 1977 Pitchfork Wikipedia asin:B07C8Q5FKF  
Television Marquee Moon 1977 Pitchfork Wikipedia asin:B0000AI45P
Pink Floyd Animals 1977 Pitchfork Wikipedia asin:B019VQSAKA  
X-Ray Spex Germfree Adolescents 1978 Pitchfork Wikipedia asin:B000000HZL  
Steve Reich Music for 18 Musicians 1978 Pitchfork Wikipedia asin:B000026258  
Elvis Costello & The Attractions This Year's Model 1978 Pitchfork Wikipedia asin:B000OHZJKK  
Wire Chairs Missing 1978 Pitchfork Wikipedia asin:B07C8FCLQ1  
Michael Jackson Off the Wall 1979 Pitchfork Wikipedia asin:B079851WTN  
Throbbing Gristle 20 Jazz Funk Greats 1979 Pitchfork Wikipedia asin:B075184H8K  
Philip Glass Einstein on the Beach 1979 Pitchfork Wikipedia asin:B009173UBY  
Public Image Ltd Metal Box 1979 Pitchfork Wikipedia asin:B011CW5NQA
The Clash London Calling 1979 Pitchfork Wikipedia asin:B00002MVQO
Joy Division Unknown Pleasures 1979 Pitchfork Wikipedia asin:B000V7J6DO  
Talking Heads Remain in Light 1980 Pitchfork Wikipedia asin:B000002KO3
Prince Dirty Mind 1980 Pitchfork Wikipedia asin:B000002KLP  
Joy Division Closer 1980 Pitchfork Wikipedia asin:B000V7J6E8  
Glenn Branca The Ascension 1981 Pitchfork Wikipedia asin:B00009EIPG  
Bruce Springsteen Nebraska 1982 Pitchfork Wikipedia asin:B00VJ28GJK  
Prince 1999 1982 Pitchfork Wikipedia asin:B07XPL65PQ  
XTC English Settlement 1982 Pitchfork Wikipedia asin:B01HEQ3CM0  
Liquid Liquid Optimo 1983 Pitchfork Wikipedia asin:B00XPKH2LM  
R.E.M. Murmur 1983 Pitchfork Wikipedia asin:B0000073AT  
Prince & The Revolution Purple Rain 1984 Pitchfork Wikipedia asin:B000803CUC
Metallica Ride the Lightning 1984 Pitchfork Wikipedia asin:B01BUX7Z6M  
The Replacements Let It Be 1984 Pitchfork Wikipedia asin:B00006FR75  
The Smiths Hatful of Hollow 1984 Pitchfork Wikipedia asin:B007F5S1CM  
R.E.M. Reckoning 1984 Pitchfork Wikipedia asin:B0027WNRK4  
Kate Bush Hounds of Love 1985 Pitchfork Wikipedia asin:B07HPY9H3B  
Metallica Master of Puppets 1986 Pitchfork Wikipedia asin:B079P95K9J  
The Smiths The Queen Is Dead 1986 Pitchfork Wikipedia asin:B00U6DW950
Guns N' Roses Appetite for Destruction 1987 Pitchfork Wikipedia asin:B06XJ513DZ
Prince Sign o’ the Times 1987 Pitchfork Wikipedia asin:B000002LBM
Talk Talk Spirit of Eden 1988 Pitchfork Wikipedia asin:B0076WFVRC  
Pixies Surfer Rosa 1988 Pitchfork Wikipedia asin:B00005LAGO  
Public Enemy It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back 1988 Pitchfork Wikipedia asin:B00004SRJ5
My Bloody Valentine Isn't Anything 1988 Pitchfork Wikipedia asin:B00197X1UO  
De La Soul 3 Feet High and Rising 1989 Pitchfork Wikipedia asin:B000000HHE
Beastie Boys Paul’s Boutique 1989 Pitchfork Wikipedia asin:B001NJY66Q  
Pixies Doolittle 1989 Pitchfork Wikipedia asin:B000026YFS
Galaxie 500 On Fire 1989 Pitchfork Wikipedia asin:B00377V6I8  
The Stone Roses The Stone Roses 1989 Pitchfork Wikipedia asin:B00435JLW6
The Cure Disintegration 1989 Pitchfork Wikipedia asin:B003Z0FSDQ
A Tribe Called Quest People's Instinctive Travels and the Paths of Rhythm 1990 Pitchfork Wikipedia asin:B000I2K7OY  
Public Enemy Fear of a Black Planet 1990 Pitchfork Wikipedia asin:B0000024IE
Cocteau Twins Heaven or Las Vegas 1990 Pitchfork Wikipedia asin:B00006L5PM  
Slint Spiderland 1991 Pitchfork Wikipedia asin:B0000019HU  
Talk Talk Laughing Stock 1991 Pitchfork Wikipedia asin:B000001FZK  
My Bloody Valentine Loveless 1991 Pitchfork Wikipedia asin:B00197X1V8  
Nirvana Nevermind 1991 Pitchfork Wikipedia asin:B0057GYO9K
PJ Harvey Rid of Me 1993 Pitchfork Wikipedia asin:B000001DYD  
Nirvana In Utero 1993 Pitchfork Wikipedia asin:B00E7SXNFU  
The Smashing Pumpkins Siamese Dream 1993 Pitchfork Wikipedia asin:B005MW8CWY  
Aphex Twin Selected Ambient Works Volume II 1994 Pitchfork Wikipedia asin:B072M2B3M8
Nas Illmatic 1994 Pitchfork Wikipedia asin:B0000029GA  
Hole Live Through This 1994 Pitchfork Wikipedia asin:B000003TAY  
The Notorious B.I.G. Ready to Die 1994 Pitchfork Wikipedia asin:B014Q2980U  
Weezer Weezer (Blue Album) 1994 Pitchfork Wikipedia asin:B01KBIIKMK  
Radiohead The Bends 1994 Pitchfork Wikipedia asin:B000002TQV  
Mobb Deep The Infamous 1995 Pitchfork Wikipedia asin:B000002WR5  
DJ Shadow Endtroducing... 1996 Pitchfork Wikipedia asin:B01IQK2FR6  
Weezer Pinkerton 1996 Pitchfork Wikipedia asin:B000000OVP  
Modest Mouse The Lonesome Crowded West 1997 Pitchfork Wikipedia asin:B00JVQ7RQ4  
Björk Homogenic 1997 Pitchfork Wikipedia asin:B000024U5B
Radiohead OK Computer 1997 Pitchfork Wikipedia asin:B071DTQH43
Spiritualized Ladies and Gentlemen We are Floating in Space 1997 Pitchfork Wikipedia asin:B0006SLD3O  
Elliott Smith Either/Or 1997 Pitchfork Wikipedia asin:B015NOMRTO  
Boards of Canada Music Has the Right to Children 1998 Pitchfork Wikipedia asin:B07DDPZHQB  
Neutral Milk Hotel In the Aeroplane Over the Sea 1998 Pitchfork Wikipedia asin:B0000019PA  
The Dismemberment Plan Emergency & I 1999 Pitchfork Wikipedia asin:B00005HKLC  
Bonnie “Prince” Billy I See a Darkness 1999 Pitchfork Wikipedia asin:B00000JAD4  
Ghostface Killah Supreme Clientele 2000 Pitchfork Wikipedia asin:B016QE3Z0A  
D’Angelo Voodoo 2000 Pitchfork Wikipedia asin:B00002MFCP
Radiohead Kid A 2000 Pitchfork Wikipedia asin:B073BVHMF3  
Wilco Yankee Hotel Foxtrot 2001 Pitchfork Wikipedia asin:B00P1J69U0  
...And You Will Know Us by the Trail of Dead Source Tags and Codes 2002 Pitchfork Wikipedia asin:B000065EA2  
Kanye West My Beautiful Dark Twisted Fantasy 2010 Pitchfork Wikipedia asin:B003UDP90K  

全部で104118枚? うーん、やはり何か抜けがありそうだ。なお、◎はぴったり2022枚だった。まぁ、そんなところでしょうか。

ドクター・スリープ

『シャイニング』の続編だから本作を観ようと思う人がどれだけいるか疑問だったのだが(案の定興行的には厳しいことになってるようだが)、ワタシは Netflix ドラマ「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」の仕事を激賞したマイク・フラナガン監督作という意味で楽しみだった。

『シャイニング』において父親に殺されかけたダニー・トランスが大人になった後の話だが、前半は原作に忠実なのだろう(未読だが)。映画版『シャイニング』では、題名の「シャイニング」がほとんど何の効力も発揮しなかったのも批判されたが、本作は超能力者合戦から最後には強引に(多分原作から離れている)お化け屋敷に場所を移して化け物も合戦に加わる。半ば『シャイニング』アトラクションである。

そのようにしてマイク・フラナガンは、前半でスティーヴン・キングの『シャイニング』の意義を取り戻し、後半舞台をオーバールックホテルに移してスタンリー・キューブリックの『シャイニング』の意匠を嬉々として再現し、最後にまたボイラー室でキングの意図に添わせることで両者を和解させるという力業を成し遂げている。

そうした意味で、『シャイニング』がキングの小説で一番好きだし、キューブリックのファンでもあるワタシとしては本作が好きだ……けど、それって普通の映画ファンにアピールするかは正直全然分からないところもある。

それにしてもあの音楽と絨毯の柄を出すだけですぐに『シャイニング』だと分かるところにキューブリックの映像作家としての強さを改めて感じたが、マイク・フラナガンも『シャイニング』冒頭の空撮から、エレベーターからあれやこれやを再現していて、ちょっと人が好すぎる。しかし、あの着ぐるみが再現されてなかったのはちょっと残念だった。何かの権利関係の問題だろうか?

エンドロールで「Spectator Danny Lloyd」とあり、『シャイニング』のダニー君もカメオ出演してたんだね。

ブレイディみかこさん、八重洲本大賞、毎日出版文化賞特別賞、Yahoo!ニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞、ブクログ大賞エッセイ・ノンフィクション部門受賞おめでとう

ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』特設サイト)が、第2回八重洲本大賞第73回毎日出版文化賞特別賞Yahoo!ニュース 本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞第7回ブクログ大賞エッセイ・ノンフィクション部門……と、いったいいくつとるんだよというくらい受賞していてめでたい。

代官山蔦屋書店の『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の POP が著者よりワタシに捧げられているのだが(笑)、それについては以下のエントリを参照いただきたい。勝手に「友情出演」を主張するワタシの相手をしてくれてありがとうございます。

それにしても福砂屋の紙袋が再現されているのが感動的で、それだけあの制服が渡される場面がよかったということでしょう。この POP を作られた代官山蔦屋書店の宮台由美子さんもツイートされている。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

ここまできたら、菊地凛子さんとケン君が親子役で共演した『ラスト・サマー』のソフト化とか実現したりして。

さて、以下は意地汚い、虎の威を借る宣伝パートである(宣伝のためにブログやってるんでね!)。

ブレイディみかこさんに「ボーナストラックの長編エッセイに泣きました」と言わしめたワタクシの『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』もよろしくお願いします!

テック企業が哲学者を雇うべき理由 あるいは(バイトテロの無知がもたらす予期せぬ教育的効果)

八田真行のツイート経由で知った記事だが、GoogleFacebookマイクロソフトDeepMind、OpenAI といった企業は哲学者を雇うべきと主張する記事である。なんでテック企業に哲学者が必要なのか?

この記事の著者である Tobias Rees は The Transformations of the Human プロジェクトのディレクターを務める人類学者なのだが、その彼から見るとテック企業の人間理解が現実に即していないとのこと。

それはつまり、何をもって人間は人間足るのか、人間のみが持ちうる知性とは何なのかという命題につながる。そこで人工知能(AI)や機械学習について考える場合、人間には知性があるが機械にはないとか、生物のみが意識を持ち思考や理解ができるとか、自然と人工物には明確な区別があるとか決めてかかるのは危ういわけである。むしろ、自然と人工物、人間と機械の連続性が見えてきたのではないか。

昨今の AI の進歩は遠大な哲学的問題であり、AI のラボやテック企業は、人間や我々をとりまく世界について新しい概念を生み出す哲学の研究所を持つべきなんじゃないの、というのが著者の見立てである。

まぁ、上記の著者が手がけるプロジェクトに水を引っ張りたいという思惑が間違いなくあるわけだが、philosophy + art + engineering という見出しなど狙いは分かるし、GoogleFacebook に代表されるテック企業のアルゴリズムが我々をどれだけ支配しているかというのも大分知れ渡ったし。

さて、以上の主張は、今週の日本語圏のインターネッツ界隈では、著者の意図とは少しずれた形で受容されるのかもしれない。

そう、東大バイトテロ事件の「大澤昇平」なる超新星のおかげで。

今回の自称「東大最年少准教授」の発言の何がマズかったかについては、明戸隆浩氏の「東大情報学環大澤昇平氏の差別発言について」を読んでいただくとして、その独善性の可能性を疑う批判性を持つことなくアルゴリズムに思考を委ねてしまう危険性について、当人の意図せず教育的なサンプルになったのではないだろうか。

それにしても、炎上商法の片棒を担ぐ気はないので、最初に文章を紹介した Tobias Rees の新刊を紹介してこのエントリを終わりとする。

After Ethnos

After Ethnos

After Ethnos (English Edition)

After Ethnos (English Edition)

ひっかかるところはあれどもプリンスの回顧録が無事出てよかった

この記事を読み、遅ればせながらプリンスの回顧録が刊行されているのを知った。

確かにこの記事に書かれる話は分かる。いくら生前プロジェクトが始動していたとしても、著者クレジットがプリンス一人なのはおかしいし、その共著者が白人というのも引っかかる人は多いだろう。

その死後もプリンスについての逸話についてはいろいろ聞くが、彼が黒人としての権利意識を強く持ち、同胞を empower しようとしていたことは間違いない。それならなぜという気もするのだが、彼の周りに執筆者として適切な人がいなかったというのも彼の不幸の一つなのかもしれない。

とはいえ、彼の名前がクレジットされた回顧録が刊行され、おそらくは来年には邦訳が出るだろう。その道筋がついたことはよいことだと思うわけである。

The Beautiful Ones

The Beautiful Ones

  • 作者:Prince
  • 出版社/メーカー: Spiegel & Grau
  • 発売日: 2019/10/29
  • メディア: ハードカバー

The Beautiful Ones (English Edition)

The Beautiful Ones (English Edition)

  • 作者:Prince
  • 出版社/メーカー: Spiegel & Grau
  • 発売日: 2019/10/29
  • メディア: Kindle

[2019年12月8日追記]:2020年4月に邦訳が刊行される。

プリンス回想録 The Beautiful Ones(仮)

プリンス回想録 The Beautiful Ones(仮)

  • 作者:プリンス
  • 出版社/メーカー: DU BOOKS
  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア:

ランドール・マンローの『ホワット・イフ?』文庫化&新作『ハウ・トゥー』邦訳刊行に驚く

いやぁ、これはすごい。

xkcd でおなじみランドール・マンローの書籍第一作『ホワット・イフ?』が二分冊で文庫化されるというのもちょっとした驚きだが、彼の新作の邦訳『ハウ・トゥー』が出るというのに何より驚いた。

後者の原書については「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2019年版)」だが、原書の刊行は今年の9月である。「これも面白そうなので来年あたり邦訳出るでしょう」とワタシは書いたが、どんなに早くとも来年の夏以降だと思っていた。

それが来年1月という、原書刊行からそんなに間を置かずに邦訳が出るということは、それだけランドール・マンローの本にセールスポテンシャルがあるとみなされているということなのだろう。

『ハウ・トゥー』の「バカバカしくて役に立たない暮らしの科学」という副題がそのあたりのカギなんでしょうかね。

ホワット・イフ? Q1: 野球のボールを光速で投げたらどうなるか (ハヤカワ文庫NF)

ホワット・イフ? Q1: 野球のボールを光速で投げたらどうなるか (ハヤカワ文庫NF)

ホワット・イフ? Q2: だんだん地球が大きくなったらどうなるか (ハヤカワ文庫NF)

ホワット・イフ? Q2: だんだん地球が大きくなったらどうなるか (ハヤカワ文庫NF)

ハウ・トゥー:バカバカしくて役に立たない暮らしの科学

ハウ・トゥー:バカバカしくて役に立たない暮らしの科学

アイリッシュマン

土曜夜に少し離れたところにあるシネコンまで車を飛ばして観た。

あと数日したら Netflix で観れるのにバカじゃないかと言われそうだが、『ROMA/ローマ』が映画館で観てすごく良かったというのもあり、監督や主演陣全員が全員70代後半、日本でいうところの後期高齢者であり、特に20年以上ぶりに実現したマーティン・スコセッシロバート・デ・ニーロの黄金コンビの新作を観れるのもこれが最後かもと思うと、やはり映画館で観ておくべきと考えた次第である。

映画館で観れることがほとんど宣伝されていない、変則的な上映作品をレイトショーで誰が観るのかと思っていたら、前列に年輩と思しき方が何人もいて、こちらは Netflix など知らん、という層だろうか。

というわけで、Netflix 配信前の映画なので、未見の方はご注意いただきたい。

マーティン・スコセッシはワタシにとってもとても大きな存在である。が、彼が得意とするマフィア映画は、ワタシにとって生理的に苦手だったりもする。何よりもいきなり銃で撃ち殺されるのが怖い、とこうやって文章にするとバカみたいだが、本当のことだから仕方がない。

この手の映画はワタシに緊張を強いるということだが、しかも本作は3時間半というベラボウな上映時間である。さらには(Netflix での配信前提なので)『ディア・ハンター』や『2001年宇宙の旅』みたいにインターミッションもない。これは神経的な疲労だけでなく、ワタシの膀胱的にも無茶としか言いようがない。膀胱がエンドゲームどころの騒ぎではない。

しかし、終わってみれば尿意など問題ではなかった。3時間半という上映時間、冗談抜きでそういうのをまったく忘れさせてくれる映画だった。見事な作品なのは間違いない。まぁ、予想通りバンバン人が撃ち殺されて、ワタシはそのたびに強張ったわけだけど、一番緊張したのは銃でなく、車のあの場面だったかな。

てらさわホークさんが、スコセッシの映画の登場人物を狂人、悪人と、彼らとの付き合いのなかで神経をすり減らす苦労人の三種に分類していたが、それに倣うなら、本作では狂人が全米トラック運転組合の委員長だったジミー・ホッファを演じるアル・パチーノ、悪人がマフィアのボスのラッセル・ブファリーノを演じるジョー・ペシ、そして苦労人が本作の主人公たるフランク・シーランを演じるロバート・デ・ニーロになる。

本作では(主に主人公に殺されなかった)登場人物についてもいちいちその最期についてキャプションが出て、それがまた見事に頭に銃弾を3発ぶちこまれたり、爆死させられたり、懲役100年くらったりと悪い奴らばかりなのだが、その中でも主人公はまぁバンバン人を殺すし、ジミー・ホッファは酒を飲まなくても狂っている。

本作でも丁寧に説明してくれるのだけど、ホッファについての事前知識があったほうが良いのは間違いない。往年の作品におけるデ・ニーロ、『グッドフェローズ』におけるジョー・ペシがそうであるように、スコセッシの映画では「狂人」がもっとも輝いており、それは本作も同様だった。アル・パチーノがホッファを演じることで、久方ぶりにスクリーンで本領を発揮してくれた。

しかも、ジミー・ホッファはホテルの同じ部屋で寝るくらい主人公のフランク・シーランを信頼していて、つまりはパチーノとデ・ニーロが全然豪華でない普通のホテルの部屋で、ベッドに腰かけて会話するところまで観れるのだ。最高じゃん。

本作の制作はかなり難航したことで知られる。スコセッシとデ・ニーロの黄金コンビがマフィアの映画を撮るのになんで制作費で苦労するの? 別に SF 映画撮るわけでもないのにと不思議だったのだが、上記の通り後期高齢者たちのキャストたちの若い頃を演じさせるための特殊効果のためと知って驚いたものだ。

それが効果を発揮しているかというと……割とどうでもよかった。結局はデ・ニーロが気張って中年期を演じているようにしか見えなかった。ワタシはデ・ニーロが、パチーノが、ペシが存分に演じる姿を観たいのだ。やはりスコセッシの映画に久方ぶりに登場のハーヴェイ・カイテルの見せ場が一つくらいしかなかったのは残念だったが、その点においてワタシが観たいものを見せてくれる映画だったのだから文句はない。

というか、いくら役者の外見を映像の特殊効果で若く見せられたとしても(ワタシはそこまで成功してないと思うが)、演出のテンポが老人仕様なのは隠しようがない。本作を観ると、MTV 世代の技法を取り入れながら真っ向勝負し、さらにはチャカチャカしたカット割りだけで主人公の麻薬中毒に観客を巻き込む演出をした『グッドフェローズ』って本当にすごい映画だったんだなと再確認したりもした。

本作と『グッドフェローズ』は違う。一緒にすんなと言われるだろう。確かにその通りだ。本作では、主人公がさんざん悪いことをやらかして逃げおおせた『グッドフェローズ』の先にある、悪いことをした奴らの老境まで描かれている。特に主人公の娘に対する悔恨は胸を迫る……と書きたいが、それほどでもない。

本作において、主人公、ラッセル・ブファリーノ、そしてジミー・ホッファの妻たちも画面に登場する時間自体はそれなりにあるのだが、彼女たちの人格が彼らに尊重される場面は皆無である(主人公の離婚と再婚など台詞一行で片付けられる)。スコセッシが意図したかは分からないが、本作もまた「有害な男らしさ」が必然的にもたらすものについての映画でもある。

なんか辛いことばかり書いてしまった。ペシとデ・ニーロが会話する場面で『ゴッドファーザー』のテーマ曲っぽい旋律が流れるはやりすぎだと思ったが(もしかしてテーマ曲そのもの?)、スコセッシが監督し、デ・ニーロが主役を張るマフィア映画の傑作をまた観ることができた。『グッドフェローズ』や『カジノ』を映画館では観なかったワタシがずっと望んできた映画を、しかもこれだけ力の入った作品をしっかり観れてワタシは満足である。ワタシの家のしょぼいテレビでも再見するつもりだ。

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