当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その34

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、著者としては Kindle 版へのリアクションが多かったのを意外に感じた。

達人出版会高橋征義さんから Kindle 版を準備していることを最初聞いたときは、それが意味することに密かにおののいたものだが、それは別として正直意味あるの? と思ったところもある。

だって、達人出版会のゆるい DRM電子書籍さえあれば十分だと思っていたから。それに達人出版会で購入した電子書籍Kindle にもっていって読むも可能なんだから。

しかし、ワタシは間違っていた。Kindle 版公開をアナウンスすると、Kindle だから買ったという声をいくつか目にした。ワンクリックで決済と電子書籍のダウンロードが完了するのはそれだけ大きなことなのだろう。Amazon は強し、の思いを強くした。

これを機にもう少しこの本についての感想や書評を読めればいいのだけど。

やはり著者としては長く楽しんでいただけるように、分量を多く詰め込みたいとどうしても思ってしまうのだけど、それも良し悪しということだろうか。

収録章を少し絞り込んだ特別版もありますよ!(そういう話じゃない)

そうそう、そういえば特別版といえば、これについて Google ブックスにページができていた。Kindle 版とは違った意味で、紙版も重要ということだろう。

ホワイトボードでのコーディング面接を行わない企業リスト

www.theregister.com

「コーディングの自動化とプログラミングの未来について」でもちょこっと触れた話だけど、テック企業の入社面接で行われるホワイトボードを使ったコーディング面接は、候補者の技術スキルを測るのに失敗しており、特に女性の候補者に心理的ストレスを与えているという論文を取り上げた記事である。

こういう記事が出るということは、逆に言うとホワイトボード面接がそれだけ広く行われていることの裏返しだろう。そういう面接で解かされた問題を集めた LeetCode という有名サイトもあるくらいである。

github.com

そういう LeetCode をホワイトボードに書かせたり、CS 分野のトリビアやなぞなぞみたいな質問をしない企業のリストが Hacker News で話題になっていた(が、最初にリストが立ち上げられたのは2017年)。

これを作ったのは Lauren Tan という現在 Facebook でソフトウェアエンジニアをやっている方で、これを彼女が立ち上げようと思ったのも、ホワイトボード面接は女性の候補者に心理的ストレスを与えているという上で取り上げた話を実地で感じていたからだろうか。

一時期やはりテック企業の面接でもてはやされた「シカゴに何人のピアノ調律師がいるか?」みたいなクイズみたいな質問は(フェルミ推定ができるか問うてたらしい)、『ビル・ゲイツの面接試験』(asin:4791760468)によって日本にも輸入されたが、今では少なくとも海外では「意味ない」という評価でやられていないと何かで読んだ覚えがある。

一方でホワイトボードのコーディング面接は、そう簡単にはなくならないと思うが、候補者の技術スキルを測るより良い方法も研究されているはずである。

マーティン・フォードがAI分野の重要人物へのインタビューをまとめた『人工知能のアーキテクトたち ―AIを築き上げた人々が語るその真実』が出る

makezine.jp

2018年末に紹介した『テクノロジーが雇用の75%を奪う』や『ロボットの脅威』で知られるマーティン・フォードがAI分野の重要人物へのインタビューをまとめた本だが、『人工知能のアーキテクトたち AIを築き上げた人々が語るその真実』として邦訳が出るのを知る。

版元はオライリー・ジャパンだし、日本におけるこの分野の第一人者である松尾豊教授が監訳なのだから、これは安心して読めますね。

誰がインタビューイーとして登場するかは渡辺遼遠さんの書評に詳しい。少し前に「AIの差別をめぐり“AIのゴッドファーザー”が炎上し、ツイッターをやめる」と報じられた「AIのゴッドファーザー」ヤン・ルカンも当然入っている。

『ガイジン・クックブック』という異色の日本料理本

Talks at GoogleThe Gaijin Cookbook なる講演を知り、これは面白そうだと思った。

この講演を行っている Chris Ying は「料理界のアカデミー賞」ジェームズ・ビアード財団賞の最優秀刊行物賞も受賞したことがある料理本の書き手であり、上の講演では料理の実演もやっている。

その彼が、日本にも店舗があった「アイバンラーメン(Ivan Ramen)」の創業者であり、『アイバンのラーメン』(asin:4898152481)の邦訳もあるアイバン・オーキンと組んで執筆したのが講演名と同名の新刊というわけ。

和食については「日本食警察」みたいなテレビ番組を前にみてゲンナリしたことがあったが、海外に出るにあたって当地で受けるようにアレンジが加わるのは当然のことだ。「ガイジン・クックブック」を受け入れる度量は当然あってよいとワタシは思いますね。

スケートボードフリースタイル世界チャンピオンの山本勇がすごい

kottke.org

恥ずかしながら、プロスケーターの山本勇さんのことをこのエントリで初めて知った。

ワタシはスケボーとまったく縁のない人生を送ってきて、これからもそうだろうが、それでも山本勇さんの動画を見て、これはすごい、と素直に感動してしまう。

これの後半にも出てくるが、こういう動画を撮影するのも大変よね。

彼のキャリアについては、バンタンデザイン研究所高等部の在校生インタビューに詳しいが、こんなに若いのに世界で活躍なんて素晴らしい話じゃない。

しかし、Wikipedia を調べたら、英語版にページはあるが、日本語版にはない。ダメだなぁ。

山本勇さんはスケートボード界、特に特にフリースタイルスケートの神様的存在であるロドニー・ミューレンからも賛辞を得ているが、いつか彼のように本が出るといいね。

ザ・マット

ザ・マット

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』最新版公開&Kindle版公開!&特別版(紙版)セール

達人出版会において『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のバージョン1.1.2が公開。サポートページにも反映。

そして驚くことに、Kindle 版、つまり Amazon での販売を開始した!

達人出版会オリジナルの電子書籍で、Kindle 版も販売するのは、当然ながら本書が初である。価格は達人出版会で購入するのと同じ770円、ということは……(以下略)

そして、そして、2018年の「技術書典5」において販売した特別版(紙版)も、今回の公開にあわせて30%値引きの700円に値引きしたセールを行っている。

ただしこのセール期間は7月27日までだったと思うし、残り部数は少ないので、売切れたらセールも終了なのを了解いただきたい。

昨年のバージョン1.1.1公開時に(おそらく)最終版と書いたが、なぜかこの期に及んで『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて』祭状態である。ただし、今回の更新内容は文中のリンク切れへの対応だけである。のだが、結構その数が多くてバカにならない(悲しいことだ)。

かくして、『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』は、達人出版会本家版、技術書典5特別版に加えて Kindle 版まで発売されたわけである。これにはワタシ自身が驚いている。

ただ実はこの3つのバージョンは微妙に内容が異なる。具体的には、収録章数、そしてある人を泣かせ、ある人を呆然とさせたボーナスのエッセイ「グッドバイ・ルック」の収録などだが、せっかくなので現時点での表を作ってみた。

バージョン 収録章数 ボーナストラック 価格(税込)
達人出版会本家版 50 770円
Kindle 50 × 770円
技術書典5特別版 42 × 700円

(ただし、技術書典5特別版の価格はセール中のみ、送料などは各サイト参照)

ややこしいことになってしまったが、達人出版会で購入できるものが正典であり、すべてを含んでおり最新である。ワタシとしては、これまで通り達人出版会での購入をお勧めするが、読者の事情に応じてプラットフォームを選択いただければと思う。

そうですね、Kindle版や紙版を購入された方で、ボーナスのエッセイ「グッドバイ・ルック」を読みたい方は、購入されたものの写真かキャプチャ画像をメールでワタシに送ってくれたらファイルを送付しますよ。

もっともパワフルで拡張性のあるオープンソースWikiソフトウェアを謳うWiki.js

wiki.js.org

Hacker NewsFour short links で話題になっているので Wiki.js を知り、すわ Wiki の新星か! と思ったら、ワタシが知らないだけで2017年には公開されていたんだね(逆に言うと、なんで今頃海外で話題になったんだろう?)。

Node.js 製で、以前は MongoDB がある環境が求められていたようだが、今公式サイトを見ると Install anywhere をうたっており、ざっと日本語で書かれたウェブページを見ると、Docker 環境で Markdown 記法のファイルをまとめるのに使われているのが多いみたい。

インストールも最初にプラットフォームを選択すると、それごとの導入手順がかっちり書かれたページに飛ぶしかけで、このあたり今どきなんでしょうね。そのデモ兼ドキュメントサイトが充実している。

しかし、およそ半年前に Outline を紹介したときも思ったが、Wiki ソフトウェアが単独で話題になるのは今どき珍しい。

ライセンスはGNUアフェロ一般公衆ライセンス(v3)とな。

トランプ再選阻止を目指し、アメリカで注目を集める「リンカーン・プロジェクト」の動画

lincolnproject.us

Boing BoingScripting News といった書き手がリベラルのブログで Lincoln Project(の動画)が取り上げられるのを何度も目にし、これなんだろうと調べたが、日本のネットメディアでこれを取り上げているのは海野素央明治大学教授の文章くらいだった。

wedge.ismedia.jp

wedge.ismedia.jp

面白いのは、この「リンカーン・プロジェクト」をやっているのが反トランプな共和党員なことで、リンカーンの名前を持ち出すのも、リンカーン共和党の大統領やでという自負からである。

 リンカーン・プロジェクトは2019年12月に発足し、20年第1四半期(1~3月)に250万ドル(約2億6900万円)の献金を得ました。民主党系のスーパーPAC「プライオリティーズUSAアクション」と比較すると小規模ですが、注目度はかなり高いです。というのは、同プロジェクトはミッションに、「選挙でトランプ大統領とトランプ主義を破ること」と明記したからです。

 リンカーン・プロジェクトは南北戦争による分断の危機を乗り越えたエブラハム・リンカーン元大統領を理想の大統領として位置づけています。これに対して、トランプ大統領リンカーン元大統領とは対照的で、分断を促進する大統領であると捉えています。

ついに身内から、しかも得意技で〝攻撃〟を受け始めたトランプ WEDGE Infinity(ウェッジ)

リンカーン・プロジェクトがよいのは、YouTube チャンネルでほぼ毎日新作が公開される動画がなかなかに巧みなことで、ありがたいことにどれも1分前後、長くても2分程度なので、字幕をつければ日本人でもだいぶついていける。

もちろん動画の主張はどれも強烈な反トランプなので、それが我慢ならない人にはお勧めできない。

最近もっとも激烈だったのは、トランプが言う「法と秩序(Law and Order)」をタイトルに掲げながら、いかにトランプ陣営の人間が重罪人だらけかを訴える動画かな。

その虚言癖やら大統領選で敗けてもホワイトハウスに居座ることを示唆して多くの人を呆れさせた(でもその感覚をちゃんと伝える日本のメディアがやはりない)、こないだの FOX ニュースのクリス・ウォレスとのインタビューもすかさず「となりのサインフェルド」風の動画にされている。

しかしなぁ、ジョー・バイデンもなんとも頼りなくて、いつヘマをやらかさないか知ったものではなく、大統領選挙のゆくえが読めないんだよな(そもそも選挙自体が成立するのかというところから)。

さて、ドナルド・トランプというと姪メアリーによる暴露本も各所で話題だが(参考:洋書ファンクラブJapan In-depth)、邦訳はいつ出るんでしょうな。

本当に巨大テック企業は哲学者を雇っていたのか

ix-careercompass.jp

昨年ワタシは「テック企業が哲学者を雇うべき理由 あるいは(バイトテロの無知がもたらす予期せぬ教育的効果)」というエントリを書いているが、GoogleAppleFacebook といった巨大テック企業は本当に哲学者を雇っていたんだね。

世界的には「哲学コンサルティング」の導入が急速に広がっています。哲学コンサルティングとは、哲学的な知見や思考法、態度や対話をなんらかの仕方でビジネスや組織運営に応用することを指します。

グーグル、アップル、フェイスブック・・・ 世界的企業がこぞって「哲学者」を雇う理由 | iXキャリアコンパス

欧米と日本の「哲学コンサルティング」の利用の違いはなんか分かる気がする。

欧米の哲学コンサルティングには企業・経営理念の構築や根拠づけ、倫理規定・コンプライアンス策定といった経営レベルのものが多いのに対して、日本の場合はコンセプトメイキングやマーケティングリサーチ、アイデアワーク、人材育成・社員研修など、もう少し実用レベル、プロジェクトレベルの依頼を受けることが多いです。

グーグル、アップル、フェイスブック・・・ 世界的企業がこぞって「哲学者」を雇う理由 | iXキャリアコンパス

今はとにかく実学重視が世の趨勢だが、「哲学」はそうした価値観で軽視されがちな人文系の最たるものだろう。それが実は企業において重視される時代になるというのは、今の「実学重視」なんてものの底の浅さがわかるようで、ワタシ自身は哲学に関して大した知見があるわけではないのに面白く思ったりする。

「ネタばれ禁止」を本編でお願いする映画はいくつあるのか?

少し前になるが、NHK BSプレミアムで録画しておいたビリー・ワイルダーの『情婦』を観た。

恥ずかしながら、ワタシはビリー・ワイルダーの名作でも観てないものが多いのだけど、BSプレミアムで放送されたものを地道に録画しておくことで、昨年から『アパートの鍵貸します』や『深夜の告白』を観ることができた。いずれも良かったですねぇ。

さて、『情婦』だが、これもまぎれもなく傑作だった。が、邦題サイアクだよな。どう考えても原作の通り『検察側の証人』でよかったろうに。

ただ書きたいのはその話ではない。『情婦』の本編が終わったところで、「お願いがあります。この映画をまだ見られていない方のために、映画の結末は話さないでください」といったナレーションが入る。

観た方ならご存知のように、確かに『情婦』はそういう驚きのある映画なのだけど、もしかするとこの映画は「ネタばれ禁止」を(宣伝でなく)本編でお願いした初の作品になるだろうか?

「ネタばれ禁止」を本編でお願いする映画、ワタシの世代なら真っ先に思い出すのは、1999年M・ナイト・シャマランシックス・センス』における、「この映画にはある秘密があります。まだ映画を見ていない人には、決して話さないで下さい」というブルース・ウィリスからの冒頭のお願いだろう。

でも……そういう映画他にあるんだよね? 『パラサイト 半地下の家族』にもそれに近いお願いがあったと記憶するが、あれは映画本編ではなかった。

まさか映画史上で『情婦』と『シックス・センス』の二作だけというわけはなく、映画初心者のワタシが知らないだけだろうが、「ネタばれ禁止」を本編でお願いする他に映画をご存知の方は教えていただけないだろうか?

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コーディングの自動化とプログラミングの未来について

yamdas.hatenablog.com

今月のはじめに書いたポエムだが、割と反響もあり、多くの人に読まれたエントリになったようでありがたいことである。

www.oreilly.com

ワタシがエントリを書いた数日後に、ずっとこの話題に関して注目してきたマイク・ルキダス(オライリーメディアのコンテンツ戦略担当副社長)が、未来のプログラマにクリエイティブな仕事は残されているだろうか、というワタシの問題意識に偶然にも答える文章を書いている。この話題のフォローアップの意味で、今回はこのエントリの内容を紹介したい。

まず取り上げられているのは、マイクロソフトの Build カンファレンスで CTO のケヴィン・スコットが語った、GitHub の何千ものプロジェクトのコードを学習した AI が実際にプログラムを作成する実験プロジェクトの話である。この AI は、コメント内容から関数本体のコードを生成する。そのデモの動画を見てみよう。

[2020年07月21日追記]:時間指定したつもりだったが、はてな記法では利かないのか。コード自動生成のデモは29分過ぎです。

それに似た取り組みとしてマイク・ルキダスは、教師なし学習によるプログラミング言語間の翻訳についての研究論文をとりあげている。

しかし、デモはデモでしかなく、研究論文やあくまで研究論文だ。正直マイクロソフトのデモを見ても、AI が作成する関数の本体は、ほとんどワンライナーで収まる単純な内容であって、やりたい内容をコメントで正確に記述しなければならないし、まだまだ限定的だと一目見て分かるレベルである。現状ではこのモデルにお金をかけてコードを書かせるより、人間の開発者を雇ったほうが安いに違いない。

プログラミング言語間の「翻訳」にしても、単純なコードなら COBOL を Rust に置き換え可能かもしれないが、1960年代や1970年代に極めて限られたコンピュータリソースを駆使すべく書かれたトリッキーなコードを正しく「翻訳」できるなんて期待するのは無茶だろう。

つまり、プログラミングの仕事が AI によって明日にでも消え去るなんてことはありえない。

とは言え、こうしたコーディングの自動化がプログラミングの未来にどんな意味を持つか考えてみることは重要だとルキダスは書く。プログラミングは今後ますます自動化されるだろうし、というか昔と比べれば、今だってプログラミングは既に高度に自動化されているのだ。優れた最適化コンパイラは既に進化した AI システムなわけで。

プログラミングは「消え失せ」たり「時代遅れになる」ことはない。そうじゃなくて、その意味合いが変わるのだ。そこでルキダスが持ち出すのは、「ブルーカラー(配管工)」のプログラマと「ホワイトカラー」のプログラマという分類である。

既存のコードをつなぎ合わせる前者と、そのつなぎ合わせるものそのものをデザインしたり、つなぎ合わせるツール自体を作る後者とでは、重なる部分も多いとはいえスキルセットが異なる。で、前述のマイクロソフトのデモは、プログラマはいずれ単純な関数をコーディングする作業から解放される可能性を示している。しかし、高レベルなタスクを実現するツール、一例をあげればマイクロソフトがデモしたコーディングエンジン自体は人間に残される。API のデザインとかも。

それなら「ブルーカラー」のプログラマはどうか? くだんのデモは関数のコードを吐き出していたが、とてもでもないがその関数から巨大なシステムが構築可能には見えない。既存の関数をコールする能力はありそうだが、記述された仕様から大規模なプログラムを組み立てることはできない。たとえるなら、シンプルな請求書は吐き出せても、完全な請求システム一式は無理ということ。それを目指す研究プロジェクトはあれども、実現には十年以上かかるだろう。「ブルーカラー(配管工)」のプログラマの仕事もまだ安全ということになる。

動画の中で(マイクロソフト CTO の)ケヴィン・スコットは、プログラマが退屈で繰り返しの作業に費やす時間を減らすことについて語っている。これは AI 全般にあてはまる話である。AI は退屈で繰り返しの作業に費やす時間を減らし、クリエイティブな仕事に取り組む時間が増える。プログラミングの大部分は、いかに特定の処理を実行するかを明確、詳細に記述することである。それは退屈かもしれないし、繰り返しが多いし、間違いなくエラーが紛れ込みやすい。

だから我々はプログラミングはどうあるべきかについてもっと考える必要がある、とルキダスは注意を向ける。ケヴィン・スコットの言葉を借りるなら、プログラミングにおける「クリエイティブ」なところって何かということだ。

ルキダスは、「クリエイティブ」という言葉は正しくないかもと書く。1960年代や1970年代、プログラマは「アナリスト(analysts)」と呼ばれることが多かった。今もプログラマの求人を検索すると、その名残りがあるのが分かる。

それなら「アナリスト」の意味について考えてみよう。アナリストは問題を解析する。問題が何であるか、その問題をどうすれば効率的に解決できるか。アナリストは問題をパーツに分解することを考えるし、そもそもその問題が解決されるべきなのかさえ考える。その問題を解決したらどんな倫理的な問題が生じるか、その新たな問題はどう対処されるべきか? ソフトウェアは悪用可能か、もしそうならどう悪用される? どういう手順で悪用を防げるか? アナリストは、人々がそのソフトウェアをどう使うかについても考慮する必要がある。ユーザインタフェースやユーザエクスペリエンスの話だが、障碍者にも使えるかも考慮する必要がある。

つまり、その仕事はソフトウェアが何を行い、どう構築されるべきかという全体像に関わる決定を行う、ソフトウェアアーキテクチャをどうするかということである。

だから、「コードを何行書いた」かで生産性を測るのは短絡的である。我々がコードの作成、テスト、アーカイブ、デプロイに絶対欠かせない素晴らしいツールを考えると、確かにそれらのツールは必要不可欠だし革命的なのだけど、それらは本当の問題を解決することはない。その本当の問題とは、「我々は正しい問題を解決しているか?」ということだ。Code for America のような組織の業績は、必ずしも技術的にディープなものではないし、GetCalFresh(カリフォルニアの低所得者が食糧支援を受ける手続きを簡易化するサービス)のラディカルなところは、本当に利用すべき人たちに使ってもらうべくシステムを再設計しているところにある。そして我々は、これらのプロジェクトが行っているような問題の解析をもっとやる必要がある。

つまり、プログラミングには単にコードを書く以上の意味があるということですね。その仕事で一番重要なのは、面接でホワイトボードにクイックソートのコードを書くこととは何の関係もない(余談だが、このホワイトボードを使ったコーディング面接は技術スキルを測るのに失敗しているという研究があるみたい)。もっと考えるべきことはたくさんあるとルキダスは訴える。現状、プログラマは大局的な問題に取り組むより、リリース日に間に合うようコードを書くために多大な時間を費やしている。そういう大局的な問題に取り組むのは、いつだって誰か他の人の仕事だったわけだ。マイクロソフトの研究は、プログラミングにどんな意味があるか、本当にやるべき仕事は何なのか考える機会を我々にくれたんじゃないか、とルキダスは締めくくっている。

うーん、イジワルに考えるならコードの自動化の現状がまだ実用的でないのが見えてきたので、うまく方向転換を図ったなと見ることもできるだろう、というのがワタシの私見

ノーコードや AI で簡単にプログラマが不要になることはない。が、今こそプログラミング、そしてプログラマという仕事の意味を考え直すときというルキダスはアピールしているわけだが、ちょっとズルい着地点な気もする。

ひるがえって日本のプログラマの現状を考えると、最近の話題でITに奪われた「エンジニア」って言葉、なかったことにされた「工学系エンジニア」が代わりに付与された属性が「現場猫」なのではないか話があったが、この日本的事情はプログラマのあり方を考える上で果たして好ましいかどうかも今一度考えられたほうがよいかもしれない。

2020年はLinuxカーネルにおけるRust元年になるか?

hackaday.com

昨年9月に「Rustこそがシステムプログラミングの未来(で、C言語はもはやアセンブリ相当)なら、Rustで書かれたドライバのコードをLinuxカーネルは受け入れるべきなのか?」という話を書いているが、その続きというか、今年こそ Linux カーネルに Rust が入る年になるかという話で、実際 LKML でも議論が行われている

thenewstack.io

面白いのは、少し前に行われた Open Source Summit North America における VMWare の最高オープンソース責任者 Dirk Hohndel とリーナス・トーバルズとの対談(昨年この組み合わせで、「私はもうプログラマーではない」とリーナスが語ったことがあったっけ)で Rust について触れているところ。

Hohndel が「今じゃ新しいプロジェクトはどれも Go やら Rust やら聞いたこともない新しいプログラミング言語で書かれている。我々は2030年代には COBOL プログラマみたいになるリスクはないだろうか?」と問いかけると、リーナスは「いや、もう誰も C で書かないというのが本当とは思わないな。どれでも統計を見れば、C は今でもトップ10言語のひとつだと思うよ」と答えた後で、以下のように Rust に言及している。

それが Rust じゃないかもしれないけど、カーネルを書くのに今とは違うモデルを採用する可能性はあるよ。C 言語が唯一の選択肢にはならない。つまり、現時点では C やアセンブリーで書かれているけど、大部分の人はアセンブリーの部分には誰も触りたがらないわけで。私はおそらくこの任には不適切な人間で、ドライバ全般のメンテナのグレッグ(・クロー=ハートマン)がそれにかかわっている。でも、進行中ではあるが、長い時間がかかるよ。カーネルに他の言語を統合し、開発者にそうした他の言語を信頼してもらう必要がある。それは大きな前進だよ。

少なくとも彼に C++ のような拒否反応はないようだ。

ネタ元は Slashdot

プログラミング言語Rust入門

プログラミング言語Rust入門

あの『ホール・アース・カタログ』のHyperCard版(!)をブラウザ上で実行できるってマジか

boingboing.net

かのケヴィン・ケリーが、『ホール・アース・カタログ』の電子版について1980年代のニュース番組で語る映像が発掘されたようで、そうかケヴィン・ケリーはあれの制作にも関わってたんだね。しかし、『ホール・アース・カタログ』って紙の本だけじゃなくて電子版もあったんだねぇと驚いたのだけど、その電子版って HyperCard じゃないか! HyperCard版があったなんて知らなかった。

blog.archive.org

で、それを受けたものじゃないと思うのだが、Internet Archive のブログでその HyperCard 版『ホール・アース・カタログ』を紹介している。しかも、その HyperCard そのものをブラウザ上で実行できるというのだ。マジか!

archive.org

いやはや、すごいね。430メガバイトもの CD-ROM がブラウザ上で展開されるんだからね。かつて「早すぎたHyperCardの上昇と下降、そしてモバイルから来たカードの群」という文章を書いたことがあるが、それを2020年にパソコン上で実行する日が来ようとはね。

Internet Archive おそるべし。

そうそう、『ホール・アース・カタログ』といえば、その創刊者であるスチュアート・ブランドについての記事が少し波紋を呼んでいる。著者はスティーブン・レヴィである。しかしなぁ、この記事原文は全文オンラインで読めるのに、日本語訳はそうじゃないんだよな。

MMT(現代貨幣理論)の主唱者ステファニー・ケルトンの『財政赤字の神話』が9月に出るぞ

5月はじめに「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2020年版)」を公開したが、そのときおそらくは最初に邦訳が出るのはこれだろうと踏んでいた、現代貨幣理論(MMT)の主唱者ステファニー・ケルトンの『The Deficit Myth』の邦訳が9月に出る。

原書刊行が6月なので、それ以前から翻訳権を押さえて翻訳を進めていたのだろう。しかし、版元が早川書房とは思わなかったな。日経方面は現代貨幣理論が気に食わないのかな?

この本について日本語で読める紹介となると、以下のあたりになる。

財政赤字とかかまってられないコロナ時代、果たして MMT に追い風が吹いているのだろうか?

映画における日本刀の使い方がどれくらいリアルか抜刀術の師範が評価する

HiSUi TOKYO で抜刀術の師範をつとめる海渡翠壽さんが映画における日本刀を使った戦闘シーンがどれくらいリアルか評価している。

映画のチョイスは新旧幅広く、師範はどの映画についても極めて穏やかにコメントしているが、点数はそれなりにつけている。以下の映画やテレビドラマ10作品が俎上にあがっているので、興味ある人はどう評価されているか気になる人は動画をごらんくだされ。

しかし、この Insider の「どれくらいリアルか」シリーズは、かつてのカルト信者が語る映画におけるカルトがどれくらいリアルか元マフィアのボスが語る映画におけるマフィアがどれくらいリアルかとかあって面白い。

ネタ元は Boing Boing

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