当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その40

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、なんともいえないコンテンツの中で名前を見つけてしまったので紹介したい。

prisonerschronicle.net

Google 以外の検索サイトでエゴサーチしていて見つけたウェブページだが、見れば分かるようにここでは『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の名前が出てくるだけで、別に書評をいただいたわけではない。それならなんでとりあげるのか。それは、このウェブページの出自が独特だからだ。

このページ、エントリのタイトルに「2018年4月15日」とあるのに、実際にウェブに公開されたのは2020年11月20日で、2年半以上の差異がある。それは以下の事情による。

このサイトはとある詐欺事件がきっかけでPFIの刑務所である播磨社会復帰促進センターに2018年1月から2020年8月まで服役していた男が、獄中で毎日欠かさず書いていた日記をブログ形式で公開するサイトです。

プロフィール │ Prisoner's Chronicle

つまり、「2018年4月15日」の記述は、このブログ主が服役していたときのものなのである。これにはかなり驚いた。

このブログ「刑務所で過ごした1000日の記録│Prisoner's Chronicle」の更新はまだ継続されているのだろうか。『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』がこの方の更生に何かしらお役に立てるかは分からないが、その一助になればと著者として望みます。

さて、それはそうと、旧版を購入済だが最新版を入手されていない方は、今からでも更新されることをお勧めします。

Guardianが選ぶ最高のネットラジオ局10選

www.theguardian.com

コロナ禍にリモートワークが増えた昨年、部屋で何を聴くかいろいろ試行錯誤があった。個人的には、アメリカのジャムバンドが3~4時間のライブ音源を YouTube に公開してくれたのがありがたく大分お世話になったが、最近は(有料課金している)Apple Music で好きなジャンルのプレイリストを適当に流すことも多くなっている。あと、柳樂光隆さん作成のプレイリストにもお世話になった。

そういう意味でネットラジオにも興味があるのだけど、ワタシはこのあたり知識がなくて――と思っていたところに Guardian が選ぶ最高のネットラジオ局10選記事を知る。

選んでいるのが Guardian の人なのでイギリスのネットラジオが多めだけど、元々海賊ラジオだった Rinse FM など、コミュニティベースでやってるものまでチョイスに入っているのが面白い。

恥ずかしながらワタシの場合、このリストに入っているものでは Worldwide FMKEXP しか知らなかった。少しこの記事で紹介されているネットラジオ局を試してみましょうかね。

KEXP は YouTube チャンネルで公開しているライブパフォーマンスを以前からたまさか見ていて、最近公開されたものでは、昨年の新譜も見事だったルーファス・ウェインライトのライブパフォーマンスが良かったですね。

Unfollow The Rules

Unfollow The Rules

F・スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』がパブリックドメイン入りし、さっそく二次創作がいくつも発売されていた

yamdas.hatenablog.com

F・スコット・フィッツジェラルドグレート・ギャツビー』のパブリックドメイン入りについては2020年秋、というか正確には「なぜギャツビーはパブリックドメインでないのか?」を訳した2013年の時点から話題にしてきたことだが、無事2021年の幕開けとともにパブリックドメイン入りした。

bnet.substack.com

で、それからまだひと月も経たないうちに、その二次創作とでもいうべき作品が発売されているというのだ。このエントリでも触れられているが、こういう事例で真っ先に思い出すのは、ジェーン・オースティン高慢と偏見』を下敷きにして書かれたセス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』(asin:4576100076)とその映画版(asin:B0781VSQSW)だが、『グレート・ギャツビー』の場合、どういう二次創作が書かれたのか。

グレート・ギャツビー・アンデッド

ネタバレしてしまうと、ギャツビーが吸血鬼という設定の二次創作ですな。やはりホラーにされるんだな。

The Great Gatsby Undead

The Great Gatsby Undead

ペーパーバック版はアダルト指定を受けているのに注意。

AIが書いた派生作品『よりグレートなギャツビー』

グレート・ギャツビー』をソースにして AI に生成させた小説という触れ込みが『The Greater Gatsby』だが、ホントかね?

同性愛版ギャツビー

二次創作となると、やはりこれが書かれるわけですな。『The Gay Gatsby』ってそのまんまやね。

なんというか予想の範疇というか、『高慢と偏見とゾンビ』のような映画化もされるパワーのある二次創作はまだなさげである。

ネタ元は Pluralistic

そうそう、二次創作ではないが、昨年秋にジョン・グリシャムの(そして村上春樹訳の)『「グレート・ギャツビー」を追え』という本が出てますね。

実は2020年は大久保ゆうさんの年だった

大久保ゆうさんというと、The Baker Street Bakery での翻訳公開、並びに青空文庫での活動がよく知られているが、実は昨年大久保さんの訳書が4冊(!)刊行されている。

ウェザリーの動物デッサン 立体と線でみるみる描ける!

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世界の美しいベーカリー デザイン&インテリア

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  • 発売日: 2020/07/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

騎士の掟 (フェニックスシリーズ108)

騎士の掟 (フェニックスシリーズ108)

2020年、大久保ゆうさんは身辺整理されるとともに一気に翻訳仕事を増やされたのか、グラフィック寄りの本からワタシも大好きな役者であるイーサン・ホークの小説、そして「SF界の女王」(というか世界的な大作家だった)アーシュラ・K. ル=グウィンの短編集とジャンルも幅広く手がけている。2020年は大久保ゆうさんの年だった、と書くと大げさだろうか。

そして、2021年に入ってまもなくグラフィック寄りの訳本が早速刊行されている。2021年も複数の訳書が出るのではないか。

イマジンFXの描くための解剖学

イマジンFXの描くための解剖学

  • 発売日: 2021/01/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

これは個人的な話だが、香月啓佑さんからお誘いいただき、昨年、一昨年と大久保さんにお会いする機会を持てたのはありがたいことである。大久保さんにはますますのご活躍を期待したい。

最高のカルト映画50選

www.theringer.com

カルト映画というのもきっちりした定義があるわけではないのだけど、こういう記事は思わず観てしまうね。

まずはこのチョイスにおけるトップ10は以下の通り。

  1. コーエン兄弟ビッグ・リボウスキ』(asin:B006QJT56O
  2. ジム・シャーマン『ロッキー・ホラー・ショー』(asin:B079VRXB27
  3. リチャード・リンクレイター『バッド・チューニング』(asin:B01M6WRRGU
  4. ロブ・ライナースパイナル・タップ』(asin:B088KMXV3N
  5. リチャード・ケリードニー・ダーコ』(asin:B01KNOBJSE
  6. デヴィッド・ウェイン『ウェット・ホット・アメリカン・サマー』
  7. デヴィッド・リンチイレイザーヘッド』(asin:B072LTGLT6
  8. テリー・ギリアムテリー・ジョーンズモンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(asin:B00UTGTR90
  9. マイケル・レーマンヘザース/ベロニカの熱い日』(asin:B07SDF7FB4
  10. マイク・ジャッジ『リストラ・マン』

そういえば10年以上前に「いまどきのカルト映画10選」という記事を書いているのだが、それとかぶっているのは『ドニー・ダーコ』と『リストラ・マン』だけか。

リンクをはってるもの以外でこの中でワタシが観たことがあるのは『ビッグ・リボウスキ』と『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』だけなんだよな。『イレイザーヘッド』は Netflix に入っているのに気づいてマイリストに入れているのだが、いつになったら観るのやら。リチャード・リンクレイターの映画がもっと Netflix に入ってくれんかな。

1位は『ビッグ・リボウスキ』か。そういえば、これに主演したジェフ・ブリッジズは、この映画で演じた Dude という主人公のキャラクターを踏まえた禅(!)の本を共著してたっけ。

The Dude and the Zen Master

The Dude and the Zen Master

さて、11位から50位までに入っている作品で観たことがあるのは以下の感じ。

こうして並べると結構観ているようだが、それでも全50本中21本と全然大したことない。元リストを見たら、なんでこれ観てないんだよ、と言われること間違いなしである。それに書きにくい話だが、上に挙げた映画でも、観るには観たが、正直あまり内容を覚えていないものもあったりする。

このリストの中で観てるのでは、サム・ライミテリー・ギリアムが3作でもっとも多い。続いてBABYMETALを気に入っているらしいジョン・カーペンターが2作か。

ネタ元は Boing Boing

『Wikipedia @ 20』の第10章「ロールプレイングゲームとしてのウィキペディア、もしくは一部の大学人がウィキペディアを好きではない理由」を訳してみた

Technical Knockoutロールプレイングゲームとしてのウィキペディア、もしくは一部の大学人がウィキペディアを好きではない理由を追加。Dariusz Jemielniak の文章の日本語訳です。

yamdas.hatenablog.com

昨年末に紹介した Wikipedia @ 20 だが、せっかく CC BY 4.0 で公開されているので、試しにその第10章を翻訳してみた次第である。

翻訳というもの自体けっこう久しぶりにやったためか、思ったよりも時間がかかってしまった(もう「翻訳者」とは名乗れないか)。誤記誤訳など気づいた方はメールやコメントなりでお知らせください。

wikimediafoundation.org

meta.wikimedia.org

今日この翻訳を公開したのは、まさに今日、2021年1月15日がウィキペディア誕生20周年だからというのもあるが、それだけではない。ワタシが知らないだけで既に話が進んでいるのならいいのだけど、そうでなければこれを機に Wikipedia @ 20 の翻訳プロジェクトをどなたか立ち上げてくれないかという期待もあってのことである。

あいにくワタシにはそうしたプロジェクトを主導する馬力がもう残っていないが、せっかく自由に翻訳を公開できるライセンスなのだから、できればウィキペディアに精通した方が立ち上がってくれないかと思った次第である。そこでこの訳文を好きに使ってくれてかまわない。

そうそう、前回のエントリを書いたときは気づかなかったが、「ネットにしか居場所がないということ(前編後編)」で取り上げたジェイク・オロウィッツ(Jake Orlowitz)も寄稿してるんだね。

さて、少し今回翻訳した文章の周辺情報を書いておく。原著者は Dariusz JemielniakWikipedia)で、彼はポーランドのコズミンスキー大学の教授である。彼は2014年に Common Knowledge?: An Ethnography of WikipediaWikipedia)というウィキペディアをテーマとする本を出している。今回訳した文章を読めば分かることだが、大学人とウィキペディアコミュニティをつなぐ存在と言ってよいだろう。

そして、昨年は The MIT Press Essential Knowledge シリーズの一冊として、Collaborative Society を共著している。この本については公式サイトができているので、詳しい情報はそちらをあたっていただきたい。

さて、なぜ訳文をこのブログではなく、完全 HTML1.0 な本家サイトで公開するのか? 小関悠さんの檄文「2021年だから人類はHTMLを手打ちしろ」に感化されたからである……というのは嘘で、ワタシの過去の仕事など知らない読者も多いだろうから書いておくと、こういう翻訳はすべて本家サイトで公開してきたから、それだけなんです。言っておくけど、完全手書き HTML だぞ。Twitter カードまで手書きだぞ(マジ)。

多くの人、特にMacユーザに読んでほしい「Your Computer Isn't Yours」日本語訳

sneak.berlin

コリィ・ドクトロウのブログ(ニュースレター)Pluralistic の Digital manorialism vs neofeudalism で宣伝されているローカス・マガジンの連載記事 Neofeudalism and the Digital Manor日本語訳)経由で知ったブログ記事である。

恥ずかしい話だが、ワタシはこの記事で書かれている最近のバージョンの macOS のおそるべきユーザ支配について、これが書かれた昨年11月に話題になっていたことを知らなかった。

しかし、このエントリのはてなブックマークを見ても、その内容を考えると数が控えめで、もしかするとワタシのように知らない人も多いのかもと思ったので、ここで紹介しておいたほうがよいと思った次第である。

最近のバージョンの macOS では、君はコンピューターの利用ログを記録されていて、ログデータを送信されることなしには、電源を入れてコンピューターを使うことも、テキストエディターや電子書籍リーダーを起動して書いたり読んだりすることもできない。

Jeffrey Paul: Your Computer Isn't Yours (ja)

Apple Silicon Mac は利用するに際して排他的な選択を迫られる最初のコンピューターだ。すなわち、速くて効率的なマシンを選ぶか、プライバシーを尊重するマシンを選ぶかを決めなければならないのだ( Apple のモバイルデバイスではずっとこの選択を強いられてきた)。

Jeffrey Paul: Your Computer Isn't Yours (ja)

これを読んで、「だから何?」と危機感を持たない人にこそ読んでほしい。誰だよ、Apple はユーザのプライバシーを重視するなんて言ったのは?

他にも Apple が密かに iMessage のエンド・ツー・エンドの暗号化にバックドアを仕込んだ話など読みどころは多いし、ここでの議論が Apple を一部動かしているので、追記部分にも注意が必要だ。

コリィ・ドクトロウは、この記事並びに、ブルース・シュナイアーの「封建的セキュリティ(Feudal Security)」という言葉を援用しながら、プラットフォーマー和製英語)が支配するデジタル時代の封建制と「荘園」について書いているが、これについては Slashdot のストーリーも参考まで。

[追記]:本件について「周回遅れ」「反論はとっくに出ている」みたいなコメントをいただいたが、元々は昨年11月の話題なのだからそれは当たり前の話である。問題はジェフリー・ポールは寄せられた批判にほぼすべて反論していることで、ワタシが知りたいのはその追記部分の妥当性の評価になる。そうした意味で有益なコメントをくれたのは id:muchonov さんだけだった。

このコメントとジェフリー・ポールの追記部分を見比べた上で評価いただきたい。

2020年における最高のブックカバーデザイン選(記事がいっぱい……)

kottke.org

ここでも何度か、その年の最高のブックカバーデザイン(本の装丁ですね)記事を取り上げているが、この kottke.org のエントリで紹介されている記事を見ていったら、New York Times をはじめ、この手の記事って本当にいっぱいあるんですな。

  1. The Best Book Covers of 2020 - The New York Times
  2. Notable Book Covers of 2020 | The Casual Optimist
  3. The 89 Best Book Covers of 2020 ‹ Literary Hub
  4. The best book cover designs of 2020
  5. Help Us Pick the Best Book Cover of 2020 - Electric Literature
  6. The Best Book Covers of 2020 | Book Riot

その数に圧倒されたが、それだけ本の装丁への意識というかお金のかけ方が日本と違うのだろうか。

よって取り上げられている本の総数も相当なもので、それはいちいち追えないので、読者も関心のあるところで日本人の著者の本で取り上げられているものをチョイスしてみる。

まず、上記リストの1と3で選ばれているのが、2020年の全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞した柳美里の『Tokyo Ueno Station』(『JR上野駅公園口』)。デザイナーは Lauren Peters-Collaer

Tokyo Ueno Station: A Novel

Tokyo Ueno Station: A Novel

  • 作者:Miri, Yu
  • 発売日: 2020/06/23
  • メディア: ハードカバー

続いて、2と6で選ばれているのが、村田沙耶香の『Earthlings』(『地球星人』)。デザイナーは Luke Bird で、彼は村田沙耶香『Convinience Store Woman』(『コンビニ人間』)も手がけている。

Earthlings: A Novel

Earthlings: A Novel

  • 作者:Murata, Sayaka
  • 発売日: 2020/10/06
  • メディア: ハードカバー

最後に、2と3で選ばれているのが、小山田浩子芥川龍之介賞受賞作『The Hole』(『穴』)。デザイナーは Janet Hansen

The Hole

The Hole

  • 作者:Oyamada, Hiroko
  • 発売日: 2020/10/06
  • メディア: ペーパーバック

こうやって見てみると、TIME 誌が発表した2020年の必読書100選と同じく、すべて女性作家の本なのに気づく。

以前原書を紹介した本の邦訳を紹介(『コンヴァージェンス・カルチャー』、『デザインはどのように世界をつくるのか』、『ハーバード大学のボブ・ディラン講義』)

以前に原書を紹介した本の邦訳が今月末以降に出る話をいくつか知ったので、まとめて紹介しておく。

yamdas.hatenablog.com

これの最後で書いた通り、ちゃんと2020年度中、というか2月はじめに邦訳『コンヴァージェンス・カルチャー』が出る。

なんといっても目を引くのはオードリー・タンが帯で推薦文を書いていること。オードリー・タンは2020年、台湾のデジタル担当閣僚として文字通りひっぱりだこ状態だったわけだが、彼女に推薦してもらえるのは大きいことなのだろう。

副題は「ファンとメディアがつくる参加型文化」だが、何せ原著は15年くらい前に出たものなので、題材として取り上げられている映画が当然ながらそれ以前に作られたものになってしまうのだけど、本書の場合それでよいのかもとも思う。

さて、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2020年版)で紹介したスコット・バークンの『How Design Makes The World』の邦訳が『デザインはどのように世界をつくるのか』として出る。

デザインはどのように世界をつくるのか

デザインはどのように世界をつくるのか

これまでスコット・バークンの本はコンピュータ関係の出版社から邦訳が出ていたが、今回はフィルムアート社なんですな。それだけ広がりのある本と評価されているのだろう。

yamdas.hatenablog.com

あと最後に取り上げる本はちょっと確証がないのだが、2月にヤマハミュージックエンタテインメントホールディングスから出る予定の『ハーバード大学ボブ・ディラン講義』は、↑で紹介した本の邦訳だと思うのだけど、本文執筆時点で萩原健太氏しか著者としてクレジットされてないんだよな。

これが Richard F. Thomas の本の邦訳でなかったらすいません。

[2021年1月29日追記]:やはり Richard F. Thomas の本の邦訳だった。よかった。

『スパマロット』映画化のニュースで思い出す、映画→ミュージカル→ミュージカル映画のコースを辿った名作の数々

deadline.com

ここでも何度も取り上げている『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』のミュージカル化『スパマロット』が映画化とのことである。

トニー賞で3部門受賞したのが2005年なのだから、エリック・アイドルは15年以上これで稼いでいることになるのか。

このように映画→ミュージカル→ミュージカル映画のコースを辿ったコンテンツは今回が初めてではない。ワタシがパッと思いつくだけでも以下の前例がある。

リトル・ショップ・オブ・ホラーズ

B級映画の帝王」ロジャー・コーマンが、初期の傑作『血のバケツ』(asin:B000S5IDVU)のセットを流用して2日間で撮影したという、いかにもこの人らしい逸話が知られるが、歯医者で麻酔なしでの治療を頼むマゾの患者を怪演するジャック・ニコルソンをはじめ、登場人物が変人だらけという奇抜な作品である。

公開当時はヒットしなかったが、次第にカルト的な人気を得るようになり、1982年にオフ・ブロードウェイでミュージカル化されて当たり、近年までリバイバル上演されている。

1986年にリック・モラニス主演で、オリジナルのおよそ1000倍もの予算をかけてミュージカルが映画化されたが、こちらは期待したほどの大ヒットとはならなかった。

プロデューサーズ

メル・ブルックス監督・脚本によるオリジナルが公開されたのが1968年で、メル・ブルックスはこれでアカデミー脚本賞を受賞している。

これが2001年にメル・ブルックス自身の作詞作曲でミュージカル化されて見事大当たりし、トニー賞12部門も受賞した。

そして、ミュージカル版から主役二人が続投し、2005年にミュージカル映画版が作られている。

プロデューサーズ [Blu-ray]

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  • 発売日: 2010/04/16
  • メディア: Blu-ray

ヘアスプレー

「悪趣味の帝王」ジョン・ウォーターズ監督・脚本によるオリジナルが公開されたのが1988年で、これは彼がメジャーで製作した初めての映画だった。

ヘアスプレー [DVD]

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  • 発売日: 2017/12/16
  • メディア: DVD

批評家受けはよかったものの大ヒットにはならなかったが、やはりカルトクラシックとなり、2002年にミュージカル化され、2003年のトニー賞を8部門受賞するなど大ヒットとなった。

その勢いを受けて2007年に製作されたのがミュージカル映画版『ヘアスプレー』で、オリジナルで怪優ディヴァインが演じたエドナ・ターンブラッド役をジョン・トラボルタが特殊メイクで演じたのが話題になったし、メジャーヒットもした。

ヘアスプレー [Blu-ray]

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  • 発売日: 2011/11/25
  • メディア: Blu-ray

8 1/2

オリジナルは言わずと知れたフェデリコ・フェリーニの代表作である。主人公を演じるマルチェロ・マストロヤンニ「人生は祭りだ。ともに生きよう」という台詞、そしてそこからの思いもよらないエンディングは有名ですね。

8 1/2 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2013/01/11
  • メディア: Blu-ray

これが1982年に『Nine』としてブロードウェイミュージカル化され(トニー賞5部門受賞)、それが『シカゴ』ロブ・マーシャルが監督、アンソニー・ミンゲラも脚本をてがけ(作業中に死去)、豪華キャストで映画化されたのが『NINE』である。

NINE [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/03/22
  • メディア: Blu-ray

8 1/2』のミュージカル映画化というと、ボブ・フォッシーオール・ザット・ジャズ』(asin:B07JD54JS3)を連想する人もいるだろうし、他にもウディ・アレンの『スターダスト・メモリー』(asin:B0012P6C9U)など様々な作品のインスピレーションとなった名作『8 1/2』の通俗的な翻案はあまり評判が良くなかったが(それでもアカデミー賞に4部門のノミネート)、ワタシは結構楽しんでみた。というか笑った。

他にもこのパターンにあたる作品をご存知の方がいたら教えてください。

コロナ禍での映画製作はタイヘンに違いないが、『スパマロット』映画版も成功してほしいところである。

SPAMALOT (OST)

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  • アーティスト:PREZ & IDLE
  • 発売日: 2005/05/24
  • メディア: CD

[2021年1月17日追記]:なかむらかずやさんから他にもこのパターンがあるのを教えていただいた!

なるほど、1957年公開のフェデリコ・フェリーニの『カビリアの夜』(アカデミー賞外国語賞を受賞し、主演のジュリエッタ・マシーナカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞)が1966年にニール・サイモン脚本、ボブ・フォッシー監督でミュージカル化されたのが『スウィート・チャリティ』で(トニー賞を1966年に1部門受賞、1986年のリバイバル上演時に4部門受賞)、それをボブ・フォッシーが1969年にミュージカル映画化したのが『スイート・チャリティー』というわけですな(ボブ・フォッシーにとって、これが初監督作)。

カビリアの夜 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2019/08/02
  • メディア: Blu-ray

スイート・チャリティ [DVD]

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  • 発売日: 2012/04/13
  • メディア: DVD

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その39

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、反応がある限りその宣伝目的であるこのブログは続くわけである。

www.nejimakiblog.com

ねじまきさんには Kindle 版を購入いただいている。

「Tech系の話題が好きな方は必読の一冊」とのことで、東浩紀さんやケン・リュウピーター・バラカンの本と並んでワタシの本を「2020年に心揺さぶられたKindle電子書籍10選」に入れてくださったのはとてもありがたいことである。

ねじまきブログは、
テック系の話が好きな読者の方、リスナーの方が多い気がするので、
またブログかポッドキャストで振り返ってみたいと思います。

とのことで、また気が向いたら紹介いただけるとありがたいです! そうしたら、もちろんこちらでも取り上げるだろうし(笑)。

昨年末に勢いで電子書籍を買ってしまった人の感想も気長に待ちます(笑)。

それでは2021年もよろしくお願いします。

オープンソースなスマートウォッチPineTimeが登場

年寄りの昔話になるが、20年くらい前はマイナーだったりスペックが貧弱なプラットフォームに Linux を移植した! とか、こんな製品のオープンソース版が公開された! ということ自体がニュースになったし、それを見てワタシもすごいなぁと思ってたものだが、最近ではそんな話も少なくなった感がある。

www.pine64.org

そうした意味で、高品質、低コストなオープンソースのスマートウォッチを謳う PineTime には驚いたわけだが、64ビット対応のシングルボードコンピュータで知られる PINE64 のプロジェクトなのね。

ただ、このスマートウォッチは、同じく PINE64 の PinePhone だけが接続先ではなく、各種スマートフォンタブレット、PC への対応を目指しているとのこと。

スペックのソフトウェアの欄には Any open-source operating systems built on top of numerous RTOSes とあるが、プロジェクトの Wiki を見ると、OS は FreeRTOS ベースの InfiniTime みたい。通信は(BLE 含む)Bluetooth 5.0 対応とな。

ストアを見ると、開発キット版が約25ドル、市販版3個セットが約75ドルで、Amazon で売ってるスマートウォッチの最も安い(そして売れてる)ものが3000円くらいなのを考えると、安価と言えるだろう(まぁ、日本に発送するとなると単なるドル/円換算額では済まないが)。

もちろん現状では気楽に手を出せるものではないが、オープンソース版の存在が市場への参入障壁を下げたり、ビッグプレイヤーにオープンソースの競争相手がいるという緊張感を与える可能性もある。ともあれこういうチャレンジは素直にすごいと思う。

ネタ元は Hacker News

「史上最高の本リスト」をいろんな切り口で知ることができるサイト

Boing Boing 経由で James Wallace Harris の「遂に『戦争と平和』を読み終えた――が、それをお勧めできるか?」を読んでいて、The Greatest Books というサイトを知った。

thegreatestbooks.org

このサイトは、本文執筆時点で129ものブックリストを集計したサイトで、要は「史上最高な本」リストのサイトということですね。そのリストは例えば、米アマゾン選定「一生のうちに読むべき100冊」リスト英アマゾン編集者選定「一生のうちに読むべき100冊」リストGuardian が選ぶ21世紀最高の本リストを含むわけだが、その129ものリストをすべて平等に扱っているわけではないようだ。ともかくこのサイトにおける集計によると、「史上最高の本(フィクション)」上位20作は以下のようになる。

  1. マルセル・プルースト失われた時を求めて』(asin:4087529258asin:B074CHX7X5
  2. ジェイムズ・ジョイスユリシーズ』(asin:4087529215
  3. ミゲル・デ・セルバンテスドン・キホーテ』(asin:4002010589
  4. ガブリエル・ガルシア=マルケス百年の孤独』(asin:4105090119
  5. F・スコット・フィッツジェラルドグレート・ギャツビー』(asin:4124035047asin:B00CM2DABA
  6. ハーマン・メルヴィル白鯨』(asin:4041031958asin:4041031966asin:B075TFDLX6
  7. レフ・トルストイ戦争と平和』(asin:4334754171asin:4334754252asin:4334754325asin:4334754384
  8. ウィリアム・シェイクスピアハムレット』(asin:4480033017asin:B00E5XAZWQ
  9. ホメーロスオデュッセイア』(asin:4003210247asin:4003210255asin:B075SMZJBN
  10. ギュスターヴ・フローベールボヴァリー夫人』(asin:4102085025asin:B017R193GG
  11. ダンテ・アリギエーリ『神曲』(asin:4087529193asin:B074CKFNRF
  12. ウラジーミル・ナボコフロリータ』(asin:4102105026
  13. フョードル・ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』(asin:B075GKZQMYasin:B075TRL2GZ
  14. フョードル・ドストエフスキー罪と罰』(asin:4334751687asin:4334751733asin:4334751849asin:B07W5K2LD8
  15. エミリー・ブロンテ嵐が丘』(asin:410209704Xasin:B00DOT4WFI
  16. J・D・サリンジャーライ麦畑でつかまえて』(asin:4560070512asin:4560090009
  17. ジェイン・オースティン高慢と偏見』(asin:4122065062asin:B079BF6KGF
  18. マーク・トウェインハックルベリー・フィンの冒険』(asin:4327492019asin:4042142060asin:B00KVDARDG
  19. レフ・トルストイアンナ・カレーニナ』(asin:4102060014asin:4102060030asin:B075T5BGK4
  20. ルイス・キャロル不思議の国のアリス』(asin:4042118038asin:B01914HLHK

かつてサマセット・モームが選んだ世界の十大小説では6作が(も?/しか?)リスト入りしてますな。

ジュブナイルとか映画やコミック版でなく、ご本尊をちゃんと読み通したことがあるとなると、ワタシの場合、恥ずかしながら『グレート・ギャツビー』、『カラマーゾフの兄弟』、『罪と罰』だけになっちゃう(Amazon を検索していて、『百年の孤独』を2007年に買ったまま積読なのが判明してしまった。早く手をつけないと死ぬまでに間に合わない)。

このサイトの面白いところは、フィクションとノンフィクション、年代、言語の条件フィルタをかけることができること。

例えば、2000年以降を選択すれば、だいたい21世紀文学最高の本が分かるわけだ。そのトップ10は以下の通り。

  1. イアン・マキューアン贖罪』(asin:4102157255
  2. ゼイディー・スミス『ホワイト・ティース』(asin:4105900234asin:4105900242
  3. ジョナサン・フランゼン『コレクションズ』(asin:4151200649asin:4151200657
  4. ジュノ・ディアズ『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(asin:4105900897
  5. W・G・ゼーバルトアウステルリッツ』(asin:4560097488asin:B08J2SHRYR
  6. ロベルト・ボラーニョ『2666』(asin:4560092613
  7. コーマック・マッカーシーザ・ロード』(asin:4151200606
  8. マイケル・シェイボン『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』(asin:4152083794
  9. ジェフリー・ユージェニデスミドルセックス』(asin:4152085541
  10. カズオ・イシグロわたしを離さないで』(asin:4151200517asin:B009DEMBO2

このリストでは『贖罪』と『わたしを離さないで』だけ読んでいることになる。

こういう評価も変わっていくのに注意が必要で、例えば、上記のリストで4位に入っている『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』は、「なぜカニエ・ウェストは人種差別的な小説に惹かれた? 現代アメリカ文学が描く“時代”を気鋭研究者が徹底分析!」で青木耕平氏も語っている理由で、遺憾ながら今後作られるこの手のリストに入らなくなるだろう。

さて、言語のフィルタは日本語も選択可能で、以下がこのサイト集計での日本文学トップ10ということになる。

  1. 紫式部源氏物語』(asin:4309875009asin:B07H7FH3R7asin:B07ZNT2Q1Fasin:B0897H1GJL
  2. 村上春樹ねじまき鳥クロニクル』(asin:4101001413asin:4101001421asin:410100143Xasin:B08N5YFJB1
  3. 三島由紀夫金閣寺』(asin:4101050457asin:B08RYB1MMD
  4. 谷崎潤一郎『蓼喰ふ虫』(asin:4101005079asin:B00DOT55Y0
  5. 谷崎潤一郎細雪』(asin:412200991Xasin:B0767979LM
  6. 夏目漱石『こころ』(asin:4101010137asin:B009IXKPVY
  7. 芥川龍之介『Rashomon and Seventeen Other Stories』(「羅生門」、「藪の中」、「鼻」、「蜘蛛の糸」、「地獄変」、「歯車」などを収録し、村上春樹がイントロダクションを書いている)
  8. 川端康成千羽鶴』(asin:4101001235asin:B00D3WJ4AY
  9. 村上春樹1Q84』(asin:B00871PYUKasin:B08N5W8BK1
  10. 村上春樹ノルウェイの森』(asin:B0047T7QXOasin:B07KVTV42B

うーん……村上春樹強し、というか現役の作家では長らく彼しかまともに日本文学で読まれなかったということだろうか。しかし、谷崎潤一郎では『蓼喰う虫』が一番上なんだ。

ここでは紹介しなかったノンフィクションなど、他の切り口でも楽しめるだろう。

ポリコレの揺り籠がアメリカの大学生を弱くした? 注目のベストセラーの邦訳が(たぶん今年後半に)出る

トランネットのオーディション課題概要を見て、翻訳課題になっている本、どこかで見たことあるような……と記憶を辿ったら、少し前にベンジャミン・クリッツァーの「アメリカの大学でなぜ「ポリコレ」が重視されるようになったか、その「世代」的な理由」で取り上げられ、これを書くために調べなおしたら、2年近く前には翻訳書ときどき洋書で倉田幸信さんも取り上げていた本である。

内容については上でリンクした記事を読んでいただくのがよいし、この本には公式サイトがあるので、パブリックな情報はそちらを見ていただくとして、2018年のベストセラーである。オーディション課題概要によると2021年6月下旬翻訳終了予定になっているが、まぁ、今年の後半以降に刊行されるといいですね。

共著者のジョナサン・ハイトは、『しあわせ仮説』(asin:4788512327)、『社会はなぜ左と右にわかれるのか』(asin:4314011173)の邦訳も出ている社会心理学者ですな。

アメリカにおけるポリティカル・コレクトネスの検証、ベンジャミン・クリッツァーの表現を借りれば、「ただ単に批判して否定するのではなく、社会が進歩した副作用と論じている」本なのは重要なポイントだろう。

新感染半島 ファイナル・ステージ

2021年、最初の劇場での映画鑑賞はこの作品から。果たして今年は何本映画館で観れるのやら……。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』が2017年に観た映画の中でも際立って良かったので、続編の本作も楽しみだった。が、あまり評判が良くないようで、事前に期待値を下げて観たのだけど、それくらいでちょうど良い映画だった。

本作は『新感染 ファイナル・エクスプレス』の朝鮮半島に(走る)ゾンビ大量発生という設定を当然ながら継承しているが、前作を傑作たらしめた美点がほぼすべて失われてしまっている。前作のゾンビは明らかに北朝鮮の侵略のメタファーだったが、前作にあったセウォル号沈没事故など韓国社会のトラウマを盛り込んだ批評性も皆無である。

とはいえ、明らかに『マッドマックス』なポストアポカリプス世界となった朝鮮半島を舞台にして、「ゾンビよりも怖いのは人間」というゾンビものの基本を騒々しく描いており、カーチェイスやガンファイトを強調したアクション映画として観れば、その作りには明らかにお金がかかっており、まぁ、楽しめた。

でも、ラストはいくらなんでもご都合主義というか、あの状況から助かるわけないだろうがとしか思えなくて、家族の絆とやらの感動を押し売りされて鼻白むとはこのことである。

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