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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その43

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、考えてみればこれってはある種の「秘密」がある本だよね、と今更思い当たってツイートしたところ、既に感想をいただいている方々からコメントをいただいた。ありがたいことである。

フレンチのコース料理の後に北京ダックが丸ごと!(笑)

ここまでやればお得感を感じてくれる、と思ったところが著者の貧乏人根性なのかもしれない。

そうなんですよ、なにより「開かれたウェブ」という本題についての濃厚な本なのです。

さて、以下のようなコメントもいただいている。

ありがたいことである。ただ実際には特別版という名の物理本も売っていたりするのだが、言いたいことはよく分かります。本家電書版、Kindle 版、特別版の内容の違いについては、過去エントリの表を参照いただきたい。

そうそう、Kindle 版についても感想コメントをいただいている。

この本単体で閉じるのではなく、読者の興味に応じてそこからの広がりがある本を目指しており、いくつものトピックでそれに足るトスをあげていると思うので、こういう感想は嬉しい。

ビル・ゲイツもAI分野の必読書と推した『マスターアルゴリズム』邦訳が原著刊行から5年以上の時を経て出る

www.kamishima.net

ペドロ・ドミンゴスの『The Master Algorithm』は、ビル・ゲイツが AI 分野の必読書に挙げていたので注目し、ワタシも何度か文章の中で引き合いに出している。

そして、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2017年版)でも取り上げているが、この原著が刊行されたのは2015年である。それから5年以上経ち、もうこれは邦訳の話は流れてしまったかと半ば諦めていたところ、『マスターアルゴリズム 世界を再構築する「究極の機械学習」』の邦題で刊行される。ワオ!

刊行はおよそ一月後だが、上でリンクした訳者の方のサイトで、各章の概要や訳者あとがきが一足早く読める。未翻訳ブックレビューも参考まで。

デヴィッド・ボウイはドラマ『ハンニバル』に主人公の叔父役で出演予定だった

screenrant.com

マッツ・ミケルセンハンニバル・レクター博士を演じたドラマ『ハンニバル』はワタシも好きで全部見ているが、デヴィッド・ボウイが出演するかもしれなかった話は知らなかったな。

ボウイにオファーされたのは、ハンニバルの叔父であるロバート・レクター伯爵役で、このキャラクターはトマス・ハリスの原作では『ハンニバル・ライジング』に少し出てくるだけのようだが、このドラマのショーランナーであるブライアン・フラーはこのキャラクターを膨らませる構想を持っており、その役にデヴィッド・ボウイを考えていたというのだ。

ボウイも乗り気だったようだが、最終的には音楽制作で忙しいのでキャンセル、後のシーズンでの登場を検討、となった。ブライアン・フラーは後に、ボウイの出演がオファーされた 2nd シーズン制作時点で、既に彼は病を抱えていたため、出演が本決まりにならなかったのではないかと回想している。

ドラマ『ハンニバル』は評価は高かったものの、なにせあれだけ猟奇殺人が描かれる作品だったため、結局 3rd シーズンで打ち切りになってしまい、ボウイも2016年はじめに遺作とともに鬼籍に入ってしまった。あのドラマのファンだった人間としては、マッツ・ミケルセンとボウイの共演が実現していたら最高だったと思うが、残念なり。

ネタ元は Boing Boing

今になってピンク・フロイドのネブワースライブがリリースされる意義

nme-jp.com

このニュースに関する記事をいくつか見たが、なんでこのライブが重要な理由というか核心にどこも触れてないのか不思議になる。

具体的には、なんで誰もクレア・トリーに言及しないんだ?

ニック・メイスンはキャンディ・ダルファーとマイケル・ケイメンの参加に言及しているが、いやいや、そうじゃないでしょう。

間違いなく彼女は一曲のみの参加で、その曲は "The Great Gig in the Sky"(邦題は「虚空のスキャット」)に決まっている。そう、ピンク・フロイドの最高傑作『狂気』収録のオリジナルでこの曲を歌っている人である。彼女がピンク・フロイドのライブでこの曲を歌ったのは、これが最初で最後ではないかな?(違ったらすいません。ロジャー・ウォーターズのライブでは何度か歌ったことがあるはず)

そんな貴重な機会が実現したライブなのに、それに触れないのはおかしい。

amass.jp

と思っていたら、ちゃんとピンク・フロイド公式の YouTube チャンネルでクレア・トリー参加の "The Great Gig in the Sky" が公開されている。やはりこれが目玉なんですよ。

この映像自体は以前から YouTube にあがっていたのだが、やはりこれは1990年のネブワースライブでの映像だったのだな。

この曲のレコーディングでは、ピンク・フロイドが作った音が見事すぎて、録音時歌手が歌えなくなったとかいう逸話を昔なにかで読んだことがある。クレア・トリーはアラン・パーソンズの紹介でこの曲に参加したが、普通の歌ではなく、声を楽器のように使うのが最適と分かるまで時間がかかったというのが実際のところのようだ。

歌入れは2テイク行われ、その後デヴィッド・ギルモアがもうワンテイク要求したが、3テイク目は途中でクレア・トリーの声が止まってしまい、結局はその3テイクをつなぎ合わせてこの曲は完成している。

後にクレア・トリーは裁判を起こして楽曲の作曲クレジットを獲得しているが、彼女は歌詞なしの歌唱、しかも1曲のみでロックの歴史に名前を刻んだわけで、そんなのこの人くらいではないだろうか。

Live At Knebworth 1990

Live At Knebworth 1990

  • アーティスト:Pink Floyd
  • 発売日: 2021/04/30
  • メディア: CD

Dark Side of the Moon-Experience Edition (2 CD)

Dark Side of the Moon-Experience Edition (2 CD)

  • アーティスト:Pink Floyd
  • 発売日: 2011/09/26
  • メディア: CD

『メーキング・オブ・モータウン』は幸福なテックスタートアップの話みたいだった

コロナ禍と個人的な事情のアレコレで、観たい映画はいくつもあれども、なかなか映画館に足を運ぶ都合がつかない。ある時期から、家で観た新作でない映画についてはブログで取り上げなくなったのだが、本作は昨年の公開時には映画館で観れずに悔しい思いをしたけど Netflix に入ったおかげで観れて嬉しかったので例外的に取り上げたい(公式ページ)。

モータウンというと、ファンク・ブラザーズに光を当てた『永遠のモータウン』という優れたドキュメンタリー&ライブ映画が存在するが、こちらはベリー・ゴーディ社長とスモーキー・ロビンソン副社長を主な語り手として、モータウンのタレントたちも続々登場する正史に近いものである。

面白いことに映画の内容は、ベリー・ゴーディのヴィジョン、スモーキー・ザ・ポエット、会議の多い会社、ファンク・ブラザーズ、ソングライター同士の競い合い、辣腕バーニー・エイルズ、アーティスト・ディベロップメント、ロスへの移転――とピーター・バラカン『魂(ソウル)のゆくえ』モータウンの章に書いている話に極めて近い(もちろんベリー・ゴーディの搾取話はない)。

そういえば、『魂(ソウル)のゆくえ』は一昨年に新版が出ているんですね。

新版 魂(ソウル)のゆくえ

新版 魂(ソウル)のゆくえ

新版 魂のゆくえ

新版 魂のゆくえ

面白そうといろんな人たちが引き寄せられてそれぞれが才能を開花させ、激しく競争し合いながらも家族意識があり、良いサイクルが回っていくところなど、テックスタートアップの話みたいとワタシは思った。

しかし、音楽は分かりやすい。テックスタートアップのすごさを見せるのにそのサービスの画面を出したところで迫力不足だが、音楽はそれを良いタイミングで鳴らすだけでよい。しかも、本作の場合、それが綺羅星のようなモータウンのヒットチューンなのだ!

ワタシがテックスタートアップの話を連想したのは、ソングライター/プロデューサーでもあったベリー・ゴーディが、コードが書けるテックスタートアップの創業者と重なって見えたから。

70年代に入ると、各自の自己主張がモータウンの枠を超えて人が離れだし(スモーキー・ロビンソンがロスへの移転に大反対だったというのは興味深い)、特にスティーヴィー・ワンダーマーヴィン・ゲイのようにベリー・ゴーディのヴィジョンを完全に超えてしまう人も出てくる。マーヴィン・ゲイが歌うベトナム戦争や環境問題、あとドラッグ使用を歌う「クラウド9」に難色を示すゴーディに対し、創造性を発揮しろといったのはあんただろう、という感じで教え子たちに押し切られてしまう構図をテックスタートアップに置き換えてみるとどうなるだろうか。

しかし、アメリカのドキュメンタリーを見ていて感心するのは、ちゃんと古い映像を残しているところ。

本作でもデビュー前のマイケルが歌い踊る映像があるが、なんといってもスープリームスの最初のヒット曲のレコーディングで、ダイアナ・ロスが面白くなさそうにしている映像が残っているところがすごい。

あと以前からモータウンについて疑問に思っていたことがあり、これもピーター・バラカンの本で読んだ話かは思い出せないが、モータウンにはスモーキー・ロビンソン作の社歌があるという話。

この映画のエンドロールがまさにその疑問の答えになっており、出演者が一様に「オレに歌わせるなよ」「もう覚えてない」と笑い、思い出そうとした人も歌詞が出てこない中で、ベリー・ゴーディスモーキー・ロビンソンの二人だけがノリノリで歌う姿にワタシは不覚にも涙してしまった。

ゴーディが「自分が作るなら、この映画はスモーキーとオレだけだ。あとは抜きで」とはじめのほうで宣言する理由がよく分かる。

あと個人的には、ニール・ヤングさんがモータウンに所属したことのあるミュージシャンとして普通に在籍時の話を話していたのが可笑しかった。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その42

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』だが、言及を Twitter で見かけて嬉しくなったので紹介させてもらう。

なるほどねぇ、もはや「レトロフューチャー」の域に達しているという見方もあるわけか。

「インターネットの自由という夢」に幻想持っている人はもはや少ないだろうが、『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の追加コンテンツ「付録A インターネット、プラットフォーマー、政府、ネット原住民」では、その現状を踏まえた上でそれに抗する論を取り上げており、その一つにティム・ウーの(当時の)新刊の内容を取り入れているのだが、ここで彼の名前を挙げた理由は次のエントリを読んでください(笑)。

www.amazon.com

さて、これは『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応ではないのだが、エゴサーチをしていて、Kindle 版が Amazon.com 本家をはじめ、日本以外の Amazon 各国版で普通に買えるのに気づいた。

考えてみれば不思議ではないのだけど、いや、やはりちょっと不思議な感じ。レビューの数が日本版よりも1個少ないのはどういう理屈だろう。

それはともかく、『This is Not the End of the Open Web』という英語題は著者の意図を反映したもの、というか正確に書けばこのタイトルの元ネタを踏まえたものだったりする。

「GAFAの天敵」ティム・ウー&リナ・カーンのバイデン政権入りとティム・ウー『巨大企業の呪い ビッグテックは世界をどう支配してきたか』刊行

news.yahoo.co.jp

「ネット中立性」という言葉の発明者として知られるコロンビア大学教授のティム・ウーのバイデン政権入りには、彼がテック大企業への独占禁止法適用論者であり、Facebook 解体を強く主張していることを考えると驚いたわけだが、その意義について日本語圏のネットでちゃんと書いている人というと平和博さんくらいしかいなかった。

New York Times の記事にもあるように、ティム・ウーはおよそ10年前にも政権入りしており、再度のチャレンジと言える。

www.nikkei.com

ティム・ウーに続いて Amazon の天敵リナ・カーンまで政権入りするというニュースには、これはバイデン政権は GAFA に代表されるテック大企業の独占に本気でメスを入れるつもりかと思わせる。

リナ・カーンはコロンビア・ロー・スクール准教授だが、まだ30代前半で、その若さで抜擢されるところなど日本を見ていると羨ましい。彼女の発言がフィーチャーされている日本語圏の記事って Wired の「テック企業への個人情報の集中による、新しい「独占資本主義」の始まり──規制の動きが欧米で活発に」くらいしか読んだことがないが、彼女の名前を一躍とどろかせた Amazon’s Antitrust Paradox はどこかに訳されてるのかな。

yamdas.hatenablog.com

さて、2018年にティム・ウーのテック大企業への独占禁止法の適用を論じた新刊が出たときはもちろん取り上げている。彼の本って『マスタースイッチ』は出たが、それに続く『The Attention Merchants』は結局邦訳が出なかったので、今回も厳しいかと思ったら邦訳が出るのを Twitter で教えていただいた。

著者の連邦政府入りと刊行のタイミングが重なったのは多分偶然だろうが、これは良い宣伝文句ができたんじゃないかな? しかし、この本に限ったことじゃないけど、Amazon にページができているのに版元の朝日新聞出版のサイトにページができていない。こんなんだから、あんたら Amazon においしいところを持っていかれるんだよ。

機械学習分野の求人面接でもっとも聞かれる20の質問(と答え)

www.datasciencecentral.com

確か Facebook で知ったページだが、機械学習分野の求人面接でもっとも聞かれる20の質問と答えといったところか。とりあえず質問(と答え)をざっと訳してみる。ワタシはその筋に特に通じているわけじゃないので、誤訳があったらゴメン!

  1. 機械学習技術の手法を3つ挙げてください(教師あり学習教師なし学習強化学習
  2. 教師あり学習が扱う問題には何があるでしょう(分類問題、回帰問題)
  3. 教師あり学習教師なし学習でもっともよく使用される技術をいくつか挙げてください(重回帰分析やロジスティック回帰など)
  4. 分類や回帰の技術を適用する必要があるかどうやって決めますか?
  5. 機械学習における次元削減とはなんでしょう?
  6. データセット上で次元削減を行う手法を挙げてください(因子分析や主成分分析など)
  7. NLP とは何でしょうか。NLP機械学習の関係を説明してください(NLP自然言語処理(natural language processing)のこと)
  8. 機械学習不均衡データをどう扱いますか?
  9. 最小二乗法(Ordinary Least Square:OLS)で回帰を行う際の前提はなんでしょう?
  10. 機械学習ディープラーニングの違いを説明してください
  11. データセットにおける欠測データをどう処理しますか?
  12. 機械学習ソリューションを終わらせるために終端を構築するもっとも一般的なステップをいくつか挙げてください
  13. 機械学習アルゴリズムの現実世界での応用をいくつか挙げてください
  14. データマイニング機械学習の違いはなんでしょうか?
  15. 機械学習の分野であなたが直近に読んだ本や研究論文を教えてください
  16. 機械学習アルゴリズムにおける F1 スコアの重要性を教えてください
  17. 決定木アルゴリズムにおける枝刈りはなんでしょう、またどうやって決定木を剪定するのでしょうか?
  18. なぜアンサンブル学習が利用されるのでしょうか?
  19. どんなときにアンサンブル学習を行うべきでしょうか?
  20. アンサンブル手法における二つのパラダイムを教えて下さい

これくらいの質問にスラスラ答えられるようにならないといかんのかねぇ。大変だ。

ちょこっとだけ回答まで手を出しているが、詳しい回答については原文をあたってくだされ。

プライバシーとセキュリティ面でもっともセキュアな6つのLinuxディストリビューション

linuxsecurity.com

普段利用する Linux ディストリビューションは、特に事情がなければ Ubuntu なり Fedra なり Debian なり、使い慣れたものを使えばよいのだろうが、ペネトレーションテストを行うような人であればプライバシーやセキュリティに特に配慮されたセキュアなディストリビューションを選択する必要がある。

この記事はそうしたセキュリティ特化型 Linux ディストリビューションを以下の6つ選んで紹介しているが、恥ずかしながらこのあたりについてワタシの知識は古いので、こういう記事は参考になる。

それぞれの選定理由と優れたところは原文をあたったくだされ。

ワタシ自身がまともに使ったことあるのは、ペネトレーションテスト(の疑似環境)の用途で Kali Linux だけだったりする。

そういえば Qubes OS については何かで読んだことあったなと記憶を辿ったら、山形浩生がインストールガイドを書いていたエドワード・スノーデン推奨とのことだが、彼はもう Tails は使ってないのかな?(スノーデンの自伝を読んでないのがバレるが)。

ネタ元は Slashdot

ホワイトハッカー入門

ホワイトハッカー入門

  • 作者:阿部ひろき
  • 発売日: 2020/10/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

テレビ番組司会者のジャーナリストと量子物理学博士号をもつサイエンスライターのコンビが人気映画を科学的に考察する本の第二段が出ていた

www.newsweekjapan.jp

おーっ、ジャーナリストで人気テレビ番組司会者のリック・エドワーズと、量子物理学の博士号をもつサイエンスライターのマイケル・ブルックスのコンビによる人気映画を科学的に考察する本の第二段『ハリウッド映画に学ぶ「死」の科学』が1月に出てたんだな。知らなかった。

yamdas.hatenablog.com

ワタシはこのコンビの前作にあたる『すごく科学的 ―― SF映画で最新科学がわかる本』の原著をブログで紹介していたんですね。

さて、今回の新刊は「死」の科学がテーマで、(原著はコロナ禍前に刊行されたにも関わらず)第1章で論じられているのが映画『コンテイジョン』というのはナイスよね。

他にも『アルマゲドン』『トゥモロー・ワールド』『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』など有名ホラー映画以外もいろいろチョイスされていて今回も面白そう。

ヘンリー・ジェンキンズ『コンヴァージェンス・カルチャー』を恵贈いただいた

ヘンリー・ジェンキンズ『コンヴァージェンス・カルチャー』をこのブログで取り上げた関係で(その1その2)、共訳者のお一人である北村紗衣さん(id:saebou)から恵贈いただいた。

本書を前にしてまず思ったのは、「分厚い……こんな分量の本を訳したいと思ったのか?」という自問であった。

ワタシは原書刊行時にブログで言及しており、その前後にハードカバーを取り寄せて読み、翻訳したいと思った。なぜか?

ゼロ年代の前半、ワタシは『Wiki Way』『ウェブログ・ハンドブック』、そして『デジタル音楽の行方』を訳しているが、ヘンリー・ジェンキンズの Convergence Culture に、ウェブツールについての二冊とエンタメ寄りの一冊をつなぎ、それをさらに発展させる方向性があると思ったからだ。

本書は、「メディア・コンヴァージェンス、参加型文化、そして集合的知性という三つの概念の関係性について検討する(p.24)」本だが、参加型文化といえば言うまでもなくブログや Wiki が当てはまるし、集合的知性は Wiki にとって重要なトピックである。そして、「モードの融合」を指す「コンバージェンス」と「情動経済学(p.121)」は、デジタル音楽の行方を考える上でもなじみやすい概念だった。

本書には「ウェブ2.0時代のファンフィクション」という文句も出てくるが(p.313)、自分が足を突っ込んでいた Web 2.0 周りの文化を踏まえたエンターテイメントメディアの変化、そしてかつては受動的だったのが能動的になった消費者を扱う本がとても魅力的に見えたのはお分かりいただけるだろう。

コンバージェンス文化にようこそ。ここは古いメディアと新しいメディアと新しいが衝突するところ。ここは草の根メディアと企業メディアが交差するところ。ここはメディアの制作者とメディアの消費者の持つ力が前もって予見できない形で影響し合うところだ。(p.24)

「訳者あとがき」における、「ポップカルチャーの不真面目な快楽から、市民生活を民主的に運営するという真面目な取り組みを生み出そうというジェンキンズのスピリットこそもっと早くに紹介されるべきだった(p.505)」という意味で本書はもっと早くに翻訳されるべきだったという嘆きにはワタシも同意するし、本書が現在も読まれるべき内容を持っていることも強調したい。

第1章の「『サバイバー』のネタバレ」、第2章の「『アメリカン・アイドル』を買うこと」といった章題を見ると、「不真面目な快楽」の面目躍如と言えるし、スティーブン・ジョンソン『ダメなものは、タメになる』にも通じていると今にして思ったりするが、本書が価値を保っているのは、第6章「民主主義のためのフォトショップ」、そしてあとがき「YouTube時代の政治を振り返る」があるからだ(ただし後者は、言及される動画をだいたい把握していることが前提になっており、今になって本だけ読んでもかなり厳しいので、リンク集はありがたい)。

実は、ワタシが15年前に原書に目を通したとき、最後の民主主義の話が出てくるのがよく分からなくて、つまり当時ワタシは本書の価値を分かっていなかった(ので、これを訳そうと本気で手を出さなくて正解だった)。

しかし、その真価を今になって辿るのは、苦さも伴う。第6章「民主主義のためのフォトショップ」で最初に引き合いに出されるのは、ジョージ・W・ブッシュが大統領として無能なのでクビにしようと訴える動画だが、その動画は人気テレビ番組『アプレンティス』を編集して作られたものだ。ここまで書けばお分かりだろうが、そこに登場するのは、ドナルド・トランプである。これが皮肉でなくてなんだろう。あと本書には、ジョゼフ・バイデンルドルフ・ジュリアーニのことを皮肉った話が引き合いに出されるところがあるのだが、まさか2021年にそれぞれこんなことになってるとはねぇ。

この章ではハワード・ディーン(とその参謀だったジョー・トリッピ)の名前が出てきて懐かしくなる。ディーンのインターネットを活用する選挙運動の手法はバラク・オバマに引き継がれたが、それから時を経て『グレート・ハック: SNS史上最悪のスキャンダル』『監視資本主義』で描かれるようにソーシャルメディアがハックされたことを我々は知っている(余談ながら、本書に FacebookTwitter の名前がソーシャルメディアの代表として併記されている箇所があったと思うが、執筆時期を考えると驚きである)。

またこの章を読んでいて、『デイリー・ショー』に代表される良質な政治風刺(またしても余談ながら、The Colbert Report が『ザ・コルベア・レポー』と正しく表記されている本を初めて見た)が若者に受け入れられたアメリカと、2ちゃんねる文化というか、朝日新聞的偽善への嫌悪と糾弾が何より盛んだった日本とのその後の差異についても考えてしまう。

良くも悪くも、これがコンヴァージェンス文化の時代における民主主義の姿である。多様性を促進し、民主主義を可能にするメカニズムとしての参加型文化の将来に関心があっても、現在の文化がこれらの目標に遠く及ばないことを無視していては世界に何の恩恵ももたらさない。(p.499)

このように著者は、「コンヴァージェンス文化の時代における民主主義」は「多様性を促進」すると当然のように書いているが、一方で本書に描かれているのは早期採用者(アーリーアダプター)であり、「本書に出てくる人たちは、この国においては、不釣り合いなほど白人で、男性で、中産階級で、大学教育を受けた者たちである。これらの人々は新しいメディア・テクノロジーにもっともアクセスできる人たちであり、こうした新しい知識文化に完全に参加するために必要なスキルを習得している。(p.57)」と当然のように書いているのも注意する必要がある(が、それで著者を批判するのはお門違いであることを先回りして書いておく)。

今になって本書を読んで思い当たることは政治の話だけではない。『マトリックス・リローデッド』以降がどんどん詰まらなく感じられたのは、「トランスメディアストーリーテリングとしての『マトリックス』現象」にワタシがまったく理解がなかったからだと本書を読んで今更ながら気づかされるが、今や「トランスメディアストーリーテリング」の手法は MCU などにも応用されている。

本書ならびに本書全体を通して心に留めておかなければならないのは、生産者と消費者の利益は同じではないということである。重なり合うこともあれば衝突することもある。あるところでは生産者の最良の味方であるコミュニティは、別の場面では彼らにとって最大の敵かもしれない。(p.113)

スター・ウォーズ』サーガとファンコミュニティ、そして「ウェブ2.0時代のファンフィクション」のせめぎ合いについては本書以降も紆余曲折があったが、権利がジョージ・ルーカスからディズニーに移り制作された新三部作の方向性や受容を巡り、ファンコミュニティの有害性があらわになったところは、その新三部作の価値のなさを考える上で避けて通れない「本書のその後」に違いない。もっとも本書においても著者は、ファンの参加が常に良い結果をもたらすとは書いていないのもやはり強調する必要があるだろう。

ビットコインの安価でセキュアなペイメントプロトコルについての決定版となる本が今年夏に出る(が、既にネットで全文読める)

調べものをしていて、Andreas M. Antonopoulos の新刊 Mastering the Lightning Network が今年夏にオライリーから出るのを知る。

書名になっている Lightning Network については、Think ITBlockchain Biz の記事が詳しいが、ビットコインブロックチェーン外技術のセカンドレイヤーネットワークで、安価かつセキュアなマイクロペイメントを実現するプロトコルと考えればよい。

Andreas M. Antonopoulos が共著者なので信頼感があり、おそらくはこの本が Lightning Network についての決定版になるのだろう。上でリンクした公式サイトにおいて、Open Publishing、Open Reading、Open License の3つを掲げており、実は既に GitHub 上で読めるので、今年夏の刊行まで待てないという人には朗報だし、現時点ではまだ「IN PROGRESS」状態なので、pull request を送って貢献することも可能だ。

あと Open License とは具体的には、執筆中並びに刊行から一年間は CC-BY-NC-ND、刊行から一年経ったら CC-BY-SA になるとのこと。

しかし、ワタシが Andreas M. Antonopoulos の「初心者向けBitcoinガイド」を訳してもう6年以上になるんやねぇ。

彼の著書は、ビットコイン本もイーサリアム本も邦訳が出ているが、これも来年あたり出てほしいよな。ビットコインの値段が上がった下がったと投機価値についてのニュースばかりが目立つが、コロナ禍におけるマイクロペイメントの実現もそれ以上に大事な話に違いないので。

ペテン師エリザベス・ホームズが率いたセラノスの捏造スキャンダルを描く『Bad Blood』邦訳がようやく出た

yamdas.hatenablog.com

ジョン・キャリールー(John Carreyrou)の『Bad Blood』のことをこのブログで最初に取り上げたのは2018年6月になる。以来この本は、ワタシの中でショシャナ・ズボフ『監視資本主義の時代』と並ぶ「なんで邦訳が出らんのや本」カテゴリの二大巨頭だったのだが、ようやく『BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』として邦訳が出た。

さて、セラノスによる詐欺の裁判だが、コロナ禍の影響でエリザベス・ホームズは今年7月に再スケジュールされている。最高20年の懲役刑の可能性もあるらしいが、果たして彼女にどういう判決がくだるのか。

そういえば、この間 WeWork とアダム・ニューマークについて、ポッドキャストが原作でドラマ化される話に触れたが、セラノスとエリザベス・ホームズについても人気ポッドキャスト The Dropout が、ケイト・マッキノン主演でテレビドラマ化される話が進んでいる。……と思ったら、これを書くために調べてみたら先月マッキノンはプロジェクトから離脱していた。

同じくジェニファー・ローレンス主演、アダム・マッケイ監督でセラノスとエリザベス・ホームズの話が映画化される報道が以前にあり、ジェニファー・ローレンスなら絶対うまくやってくれるだろうし、監督が『バイス』のアダム・マッケイなら最適やんと思ったものだが、2年近く続報を聞かないので、こちらもうまくいってないのかねぇ。

ジョニ・ミッチェルの「Case of You」が史上最高のラブソングである理由

www.wbur.org

「史上最高のラブソング」とは大きく出たものだと言いたくなるが、ジョニ・ミッチェルの名曲ならワタシも文句は言わない。この曲は、ワタシが愛するジョニ・ミッチェルの名盤『Blue』に収録されている。

もうすぐリリースから半世紀が経つこの名盤は、もちろんワタシも愛する洋楽アルバム100選に入れているし、昨年改訂版が出たローリングストーンThe 500 Greatest Albums of All Time で3位にランクインしている。

Blue

Blue

  • アーティスト:Mitchell, Joni
  • 発売日: 1994/10/26
  • メディア: CD

ブルー

ブルー

ジョニ・ミッチェルという人は、作詞家、作曲家、シンガー、ギタリストとどの面でも傑出した存在なので、その人が書いた名曲を「史上最高のラブソング」と言われても驚きはしないが、でもラブソングって結局は聴き手との関係性、もっと書けばその人の恋愛との兼ね合いで価値が決まるもので、この記事でもそれを素直に書いている。

つまり、年齢を重ねるにつれ、人は自分を形作った場所や本や音楽を再訪することになる。それは単なるノスタルジーではなく、長らく触れてなかった記憶の棚を調べなおすプロセスなのだ。かつて愛した作品は、今となっては誰か思い出せない人の名前が書きこみされた卒業アルバムみたいに感じる場合もあるが、当時とは違った新しい形で作品を理解し、感謝していることに気づくこともある。

「A Case of You」もこれを書いた Julie Wittes Schlack さんにとってそういう作品ということですね。でも、この曲に何ら個人的な思い出がないワタシもこの曲が優れたラブソングだと思う。

いきなり愛が失われたことから歌詞が始まるところが彼女らしいが、ジョニ・ミッチェルのラブソングは、孤独に裏打ちされた独特のクールさがある。タイトルは「あなたの場合」という意味ではなく、恋人の血をワインになぞらえて「あなたを1ケースくらい飲んじゃうよ」ということなのだけど、その表現のちょっとギョッとさせるところ、そして、歌い手とその恋人(グラハム・ナッシュがモデルと言われる)に続いて登場する第三のキャラクターの女性(おそらくは恋人の母親か姉)の酷薄な言葉などにもそれを感じる。

この曲はおよそ300ものカバーバージョンが存在する。数が多ければよいというわけではないけれど、やはりそれだけこの曲に惹かれる人が多いという目安でもある。この記事でもいろんなバージョンが紹介されているが、個人的に特に好きなのは、以下の二つ。

ジェイムス・ブレイクの歌声は、愛の終わりを強く感じさせる。

プリンスはジョニ・ミッチェルのトリビュート盤でもカバーしているが、ワタシが好きなのはそのいささかあっさりしたバージョンよりも、公式音源ではないがブルージーなギターが印象的なライブバージョンが好き。

ネタ元は Boing Boing

そうそう、ジョニ・ミッチェルといえば、アルバム・ガイド本が今年になって出ているが、「ロッキング・オン」の最新号も彼女が表紙で総力特集とのことで驚いた。少なくともワタシが読者だった時代、彼女が表紙なんて考えられなかったから。

ジョニ・ミッチェル アルバム・ガイド&アーカイヴス

ジョニ・ミッチェル アルバム・ガイド&アーカイヴス

  • 発売日: 2021/01/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

ロッキングオン 2021年 04 月号 [雑誌]

ロッキングオン 2021年 04 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2021/03/05
  • メディア: 雑誌

公開25周年を迎える映画『トレインスポッティング』の知られざる事実

www.dailyrecord.co.uk

トレインスポッティング』も公開25周年になるのか。公開20年を経て製作された『T2 トレインスポッティング』は、前作を汚すような続編だけは絶対に作るまいという決意を形にした良い映画だったが、それだけになおさら思ったのは、『トレインスポッティング』がいかに鮮烈な青春映画だったかということ。

クエンティン・タランティーノの映画を観た時、自分たちの世代のための監督がようやく出てきたと思ったのだ。「私たちの」劇場であるシネマライズで、「私たちの」映画監督であるタランティーノの映画を観た。ひとつの時代に立ち会っているだけではなく、その時代を生きている。シネマライズで『レザボア・ドッグス』を、そして『トレインスポッティング』(1996)を観て、そんな臨場感を覚えた観客は少なくないだろう。この瞬間に、この場所で観ているからこそ、意味がある。そう感じさせてくれた映画体験だった。

あの時代や地域が生んだ映画文化、ミニシアター全盛期に思いを馳せる | cinemacafe.net

感性が鈍いワタシの『トレインスポッティング』体験は山崎まどかさんとはずいぶん違うのだが、彼女と同じ感慨を抱く人は確実にいるだろう。

さて、その伝説的な作品についての知られざる事実とのことだが、ワタシが読んで興味深かったのは以下のあたり。

デヴィッド・ボウイは本当に良い人だったんだなぁ……しかし、"Lust for Life" にしろ "Perfect Day" にしろ、この映画で使われた場面があまりにもはまっていて、それで楽曲自体の寿命も明らかに伸びたわけで、ウィンウィンとはまさにこのことだろう。

特に "Perfect Day" なんて、ルー・リードデヴィッド・ボウイをはじめとする豪華メンツが揃ったチャリティソングに使用され、全英1位になるなんて『トレインスポッティング』なしには絶対なかったわけで。

そうそう、この映画にはトイレの場面以外にも強烈にうんこが出てくる場面があるが、そこでのうんこもチョコレートムースだったのだろうか?

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