当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

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ギャビン・ウッドの「ĐApps:Web 3.0はどんなものか」を訳した

Technical KnockoutĐApps:Web 3.0はどんなものかを追加。Gavin Wood の文章の日本語訳です。

注記している通り、これは2014年4月、つまりおよそ8年前の文章である。なんでそんな古い文章を訳したのか?

www.neweconomy.jp

少し前に Web3 Conference Tokyo なるものが開催されたらしく、もちろんワタシは参加していないのだが、Ethereum の共同創設者であるヴィタリク・ブテリンへのインタビューが記事になっており、その中で「Web3.0というワード自体、ギャビン・ウッドが2014か15年に提唱し始めたものです」と語っている。

そうそう、やはり Ethereum の共同創設者であるギャビン・ウッドがこのワードを提唱した文章について、星暁雄さんも触れていたなと思い当たり、既訳があるに違いないが、ざっと探した感じ見つけることができなかったので、訳してみようと思った次第である。

何しろ文章の翻訳というもの自体かなり久しぶりにやるので至らないところもあるだろう。誤記誤訳を見つけたらメールやコメントなりで教えてください。

2022年現在、この文章にどれくらい現代的価値が残っているかは分からないが、これは個人的な取り組みとしてやったものである。拙著『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』において、最終的に Decentralized Web というコンセプトに行きついたところがある。

しかし、これに収録した文章を連載していた当時、ギャビン・ウッドの文章は不勉強で読んでなかった。今一度このあたりに立ち返って辿ってみようと思ったわけである。今読み直すと、真っ先に言及されるのがエドワード・スノーデンだったり、昨今のバズワードとしての盛り上がりとは別のところへの関心が分かって興味深い。が、再度書くようにこの文章にどれくらい現代的価値が残っているかは分からない。

yamdas.hatenablog.com

Web 3.0(Web3)界隈について既に取り上げているが、相変わらず騒々しいというか、Web3、NFT、メタバースバズワード三題噺といった趣である。Coral Capital がまとめた三部作が参考になろう。

ただワタシ自身はだんだんとこの言葉に懐疑的になりつつあり、むしろ Web3 が分散どころか中央集権に加担しているじゃないかというスコット・ギャロウェイの視座を現状否定できないと思うし、界隈の一部の VC(というか、はっきり言えば a16z)の悪目立ちぶりに嫌悪感を禁じ得ない。

www.fastcompany.com

そうした意味でティム・オライリーの穏当な懐疑的な視座がしっくりくるというところが正直なところ。

ただ最初にリンクしたヴィタリク・ブテリンのインタビューを読んでも分かるが、スケーラビリティの向上などの課題は認識されており、「Proof of Stake」への移行などがどの程度うまくいくかなど情報は追っていくつもりである。

ピーター・ティール、イーロン・マスクをはじめとする「ペイパルマフィア」を通して今一度シリコンバレー精神を語る本が出る

wired.jp

「シリコンヴァレー随一のヴィラン(悪役)でカリスマ」とは、ピーター・ティールにまさにぴったりなキャッチフレーズである、と彼をはっきり嫌いなワタシも認めざるをえない。

この記事でも紹介されているように昨年ピーター・ティールについて The Contrarian という本が書かれており、Facebook に最初期から投資し、取締役を務めながらマーク・ザッカーバーグと緊張状態にあったりリバタリアンなのに監視技術を政府に売り込む(そのくせ監視 AI の危険性を訴えたりする)ような矛盾に満ちた興味深い人物像について分析がなされている。

nymag.com

これは『The Contrarian』からの抜粋だが、個人的に笑ったのは、ピーター・ティールとイーロン・マスクの両方と話をしたことのある人の簡潔な評言。

イーロン・マスクはピーター・ティールをソシオパスだと思っていて、ピーター・ティールはイーロン・マスクを詐欺師の大口叩きだと思っている」

ピーター・ティールとイーロン・マスクのつながりというと、「ペイパル・マフィア」という言葉がまず浮かぶ。その面子については Wikipedia の項目を見ていただきたいが(この有名な写真にマスクがいないのは、当時ティールからペイパルを放逐されてたから?)、ティールやマスクの他にも後に YouTube、LinkedIn、Yelp といった錚々たるサービスを創業した人達を含んでいる。

wired.jp

今や世界でもっともリッチな人になり、ブイブイ言わせているイーロン・マスクは、実際ピーター・ティールとはどういう仲なんだという下世話なところもあるし、シリコンバレーを支配するリバタリアン精神を知る上でも、「ペイパル・マフィア」を総括する本が必要なんじゃないかなと思っていたら、「Paypal の物語とシリコンバレーを形作った起業家たち」という副題の The Founders というその需要を満たしそうな本が今月出るのを知った。

ウォルター・アイザックソンも推薦の言葉を寄せてますな。この本の著者は『クロード・シャノン 情報時代を発明した男』(asin:4480837205)の邦訳があるジミー・ソニか。

『The Contrarian』か『The Founders』のどっちか邦訳出るかねぇ。

ウィキペディアの項目を時系列で並べるゲームが面白い(が難しい)

wikitrivia.tomjwatson.com

kottke.org で知った Wikitrivia というサイトだが、要は Wikipedia の項目を古い順に並べるゲームですね(人や団体の場合、それが生まれた年)。

英語版の項目名とその概要しか表示されないので、日本人には何気にハードルが高いのが難点か。世界史の知識があったほうがよいに違いなく、それがはっきり足りないワタシの場合、何も参照しないと10くらいがせいぜいである。

既に並べたカードをクリックすると正解の年と Wikipedia の項目へのリンクが表示される仕掛け。

Wordle に飽きた人はこちらを試してみてはいかがでしょう(笑)。

yamdas.hatenablog.com

Wikipedia を使ったゲームはウィキレーシングなど過去にもあったが、Wikipedia を素材に面白いゲームを作ろうという試みはもっとあってよい。

もっとも Wikipedia の編集に関わること自体をロールプレイングゲームとみる人もいる(笑)。

「修理する権利」の重要性を考える上で決定版な本が出る

Pluralistic 経由で、The Right to Repair という新刊を知る。ズバリ書名通り「修理する権利」をテーマとする本である。

これの著者の Aaron Perzanowski は、「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2018年版)」で取り上げた The End of Ownership という刺激的な本の共著者だった。あれを書いた人の新刊なら期待できる。

近年、欧米では「修理する権利」を求める声が徐々に高まっており、それは昨年「修理する権利」を認める法律が可決されたことに結実する。

wired.jp

やはりこれもリナ・カーンとティム・ウーのバイデン政権入りが大きかったようだ。

しかし、この記事にもあるようにメーカー側の反発は大きい。デジタル家電の複雑化、サイバーセキュリティ、特許保護など「修理する権利」に反対する理屈はいくつもある。

eleminist.com

アメリカだけではなく EU でもそのあたりの規制案が採択されているが、日本では認知度もそのための動きも低調なようだ。

コリイ・ドクトロウによると、この本は知的財産法から貿易法、消費者保護、消費者安全、サイバーセキュリティ、不正競争といったいろんな観点に関して、消費者主義の名の下に企業の主張を粉砕しているとのことで、消費者にとっての「修理する権利」入門書として最適なものと思われる……が、邦訳は難しいかなぁ。

ドクトロウ以外にもブルース・シュナイアーとケイト・ダーリングなどが推薦の言葉を寄せている。

wired.jp

……と思ったら、Wired にまた「修理する権利」の記事が出た。この権利のために車の最新機能が使えない? という話だが、「修理する権利」があったとしてもハイテク化する製品に我々が対応できるのかという問題は確かにあるわな。

ルー・リードのあまりに辛辣なミュージシャン評と彼の大規模展覧会の話

boingboing.net

ルー・リードの他のミュージシャン、バンドについての評を集めたツイートが取り上げられている。1973年に出版された雑誌からの転載らしい。

まず、ボブ・ディラン

ディランにはイライラする。パーティでヤツと会ったら、黙れって言いたくなると思うよ。

続いて、キンクス

知識人みたく、俺は腰を下ろし、キンクスを聴いて、大いに楽しむんだけど、しばらくするとうんざりしてしまって、あまり長くは聴いてられないよ。

そして、フランク・ザッパ。後述するが、これは有名である。

あいつは俺の人生で聴いた中で一番才能のないヤツだ。安物で、もったいぶってて、空疎で、何もうまくやれない。あいつは負け犬だから、ロックンロールをプレイできない。だからあいつはおかしな恰好をするんだ。それは自分に満足できてないからで、正しいと思うよ。

アリス・クーパーに対しても容赦ない。

なってこった、ホントに「あいつら」についての意見を聞きたいのか? あいつらはロックミュージックにおける最悪で、もっともむかつく存在だよ。

「あいつら」と言ってるのは、「アリス・クーパー」が当初はアリス・クーパーがフロントマンのバンドだったのを指している(マリリン・マンソンあたりをイメージしてください)。

ボロクソだが、というかそういうものばかり引用したのだが(元のバンドメンバーなどには概して好意的なことを言ってます)、これってあまり本気にすべきでないところもある。このツイートではビートルズに対して「驚くべき才能の、信じられないソングライターたち」「ビートルズが解散したのがどれだけ悲しいことかみんな分かってない」とか言ってる発言が引用されているが、一方で80年代のインタビューでビートルズはゴミだとしか思ったことがないと語っているわけで、こういうのは気分次第というか、昔のミュージシャンなんてそんなものです。

しかし、フランク・ザッパに対する憎悪は本当だったろう。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのファーストアルバムは売れなかったのは、レコード会社がフランク・ザッパ率いるマザーズ・オブ・インヴェンションのほうに宣伝費を使ったからとルー・リードが考え、フランク・ザッパを深く恨んでいた話を読んだことがある。

Boing Boing のエントリにも記述があるが、なのでフランク・ザッパのロックの殿堂入りのとき、そのプレゼンターをルーが務めたのに当時かなり驚いたものだ。そこでルーは、ザッパのことをよく知っているわけではないと最初に明言しながらも、穏当に敬意を示している。

というか、いったい誰がルーにこの役目をオファーしたんだろう。

www.timeout.jp

さて、今年3月からルー・リードの大規模展覧会 Lou Reed: Caught Between the Twisted Stars が開催される。なんで今年3月からかというと、おそらく今年の3月2日が彼の生誕80年だからだろう。

ニューヨーク公共図書館で「ルー・リード・アーカイブ」が開設されたのは2019年で、それに協力したドン・フレミングは、今回の大規模展覧会でもキュレーションを担当している。これはかなり見どころの多い展覧会に違いない。

世界がこんな状況でなければ、是非ワタシも行きたいところだが、残念なり。

そうそう、今月はロバート・クワインが素晴らしいギターを聴かせるルー・リードの復活作『The Blue Mask』がリリースされて40年になるんだな。ロバート・クワインが語ったところのオリジナルミックスなどを含む、40周年記念盤とか出ないものか。

Blue Mask

Blue Mask

  • アーティスト:Reed, Lou
  • Sbme Special Mkts.
Amazon

[追記]柳下毅一郎さんに指摘いただいて気づいたが、公式サイトを見ると大規模展覧会は2022年6月9日から2023年3月4日の開催に(おそらく)変更されていた。これで観に行ける可能性が少しだけ広がったと言える。

2021年下半期にNetflixで観た映画の感想まとめ

yamdas.hatenablog.com

これをやったのだから、2021年下半期についてもやっておかないとな、と2022年1月も後半になって思い出した次第。

例によって、Netflix で観た新作もしくは近作の映画を(Netflix 制作に限定せず)まとめて書いておく。

ジェラルドのゲーム(Netflix

実はこれは2021年前半に観たのだが、なぜか前回のリストに入れるのを忘れていた。

『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』以来、マイク・フラナガンには高い信頼を置いているが、これも『ドクター・スリープ』と同じく(時系列的には本作が先だが)スティーヴン・キング作品の良質な映画化である。

空気階段のコントみたいなシチュエーションからどう脱するかというワンアイデアで引っ張る映画かと思いきや、夫と父親の両方からの束縛からの解放の映画で、幻覚の使い方も効果的だが、出てくる不気味な男の意味がちょっと分からなかったな。

マイク・フラナガンというと、昨年やはり Netflix で観たドラマ『真夜中のミサ』が衝撃的でですね――


フィアー・ストリート Part 1: 1994(Netflix

最初のほうにある主人公の性的嗜好に関する簡単な映像トリックにひっかかるくらい何の予備知識もなく観たのだけど、Netflix で三週連続新作配信というイベントに乗った形である。

1994年が舞台だが、だいたいその頃に制作された映画『スクリーム』を連想した。となると、マヤ・ホークは『スクリーム』におけるドリュー・バリモアにあたるわけで、彼女も出世したものだ。

ケイト役の Julia Rehwald という人が Mitski に少し似ててすごく好みだったのだが、しかし、この人 Wikipedia に項目は立ってないし、IMDb を見ても、このシリーズくらいしか出演作がない。なんなんだ、この人?


フィアー・ストリート Part 2: 1978(Netflix

前作のマヤ・ホークに続き、本作の主人公をセイディー・シンクが務めており、なんというか『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のキャストに Netflix が役をあてがうためのシリーズに思えてくるよ。セイディー・シンクが好みではないので、本作もそれなりだった。

彼女の役名はジギーで、当然デヴィッド・ボウイの曲もかかるのだが、特にそれ以上の意味合いを感じさせず、なんなんだよという気になる。そのかわり、カンサスの曲がいくつか使われていて意外に合っていた。

フィアー・ストリート Part 3: 1666(Netflix

タイトルに掲げられた1666年の話は半分ほどで、以降はパート1の時制に戻り、パート2の登場人物とあわせて大団円となるが、さすがにここまでくると鈍いワタシも本シリーズの構造主義というか、シャディサイドとサニーヴェイルという二つの町の格差、特にサニーヴェイルの「呪い」こそが制度的な人種差別のメタファーなのは分かる。

最終的に本作で、同性愛差別と白人至上主義という二つの呪いに対して主人公たちが勝利するわけだが、甘っちょろいよね。まぁ、ワタシはやはりイベント的というか、ホラーアクション映画として楽しみました。

ブラッド・レッド・スカイ(Netflix

本作のことは米光一成さんの記事で存在を知ったが、「できれば何も知らずに観てほしい」と冒頭にあるので、そこで記事を読むのを止めて観てみた(これから観る人は、下にはった予告編動画も観ないのを勧めます)。

映画が飛行機(や空港)が映画の舞台となる場合、作品ジャンルはハイジャックが絡むサスペンス、パニックもの、アクションになるのが通例である。本作にはハイジャックもサスペンスもパニックもアクションもあるのだけど、作品ジャンルはまぎれもなく「ホラー」なのである。

それについて書き出すとやはりネタバレになっちゃうのでここまでとするが、確かにこんなハイジャック映画は観たことない。個人的にはハイジャック犯にいくらキレたヤツがいたにせよ、ためらいなくあれをやっちゃうのはありえんだろというのがひっかかったが、米光一成さんがおススメする、本作を手がけたペーター・トアヴァルト監督の他の作品も観てみるか。


THE ART OF SELF DEFENSE

今、調べたら Netflix で観れなくなっていた……。作品の存在を知ったのは KingInK だったはず。

大人の『コブラ会』というか、『ファイト・クラブ』的な不穏な物語の転がり方もある。独特の頑なさと神経質さを持つ主人公がジェシー・アイゼンバーグにピッタリだったね。


ハッピー・デス・デイ(Netflix

加野瀬未友さん(id:kanose)が推してたので作品名が記憶に残っており、Netflix に入っているのに気づいたので観てみた。日本公開が2019年の映画なので、この枠に入れさせてください。

ホラーコメディなループものだけど、実は青春恋愛映画だったりする。ループは今や一つのジャンルといえるほど映画、ドラマ問わず多いが、本作はかなり楽しめた。「主人公を殺すのは誰だ?」という謎解きとともに、最初かなーり好感度が低い主人公をだんだんと応援したくなる演出がうまい。

ハッピー・デス・デイ 2U(Netflix

前作が予想外に面白かったので続編も観てみた。本作もやはりループものだが、その原理の説明がいかにもB級SFでニヤリとなる。映画としての謎解きは本作のほうがしっかりしていてやはり楽しんだのだけど、恋愛映画としてとても良かった前作のほうがワタシは好みだった。

ドロステのはてで僕ら(Netflix公式ページ

この映画は、確かツイッターのタイムラインで公式アカウントのツイートをひとつ見ただけでピンときて観てみた。その時は本作のことを韓国映画と思い込んでいて、つまりは映画についての事前知識がほとんどない状態で観た。

観始めてから一分で、ワタシが本作について(邦画ということを除いて)二つのことを確信した。それは本作が舞台劇の映画化であること、そして本作の舞台が京都であること。両方とも正解だった。別に映画の中に自分の知った店が映りこんでいたのでもないのになぜだろう? またそれは本作にとって良いことなのだろうか。

長回しを特徴とする低予算映画というので、『カメラを止めるな!』を連想する人もいるだろうが、本作にはゾンビのかわりに SF スパイスがある。ランニングタイムも70分と短いので、気軽に楽しめる。


浅草キッドNetflix

ビートたけしの自伝小説の何度目かの映像化だが、本作は松村邦洋の所作指導を受けた柳楽優弥の単なる物まねでない憑依ぶりがすごくてひきつけられる。しかし、ワタシもこの歳になると、たけしの師匠の深見千三郎目線でしかこの話を観れなくなる(そういえば、演じている大泉洋が同年で、そういう歳になったんだね……)。

映画としては、ビートたけしの漫才の革新性というか、どうしてブレイクできたかの描写が物足りなくて高くは評価できないが、前述の深見千三郎が本作の実質的な主人公というのもあり、泣いてしまった。


ドント・ルック・アップ(Netflix

実は本作は今年の正月に観たのでこれに入れるべきではないのだが、やはりここまでが2021年ということにしたい。

本作はオスカー受賞経験者がキャストに確か4人おり、そうしたメジャースターが揃った上にロン・パールマンまでらしい役をやるオールスターキャスト映画で、それだけ Netflix が力を入れた作品なのだろう。が、コーエン兄弟アカデミー賞を獲得した後にオールスターキャストで作った『バーン・アフター・リーディング』を思い出すバカ映画だった。

本作については評価する人とボロカスに言う人が両方で、ワタシの見た感じ、その勢いでボロカスに言う人のほうが強い印象があり、やはり掛け値なしのバカ映画ぶりに怒っているようお見受けする。しかし、そのバカさ加減というか愚鈍さこそが本作のキモなのよね。

COVID-19 でひどいことになったアメリカ社会をがっつり風刺した(もともと監督の頭にあったのは気候変動問題のようだが)本作を、ワタシはコメディの傑作と評価する。登場人物はだいたいにして軽薄だが、まったく事態に向き合おうとしないアメリカ合衆国大統領演じるメリル・ストリープをはじめ、ティモシー・シャラメが Twitch のアカウント名を言い出してジェニファー・ローレンスに制されたり、本当のラストでのジョナ・ヒルの台詞といい細かいところまで笑わせる。

AppleGoogle のトップをかけあわせた感じのビッグテックのトップを演じるマーク・ライランスの描き方が、今のアメリカにおいて憎悪の対象であるビッグテックの立ち位置を反映しているようで興味深かった。

ドタバタの末に主人公たちが家に集まるラストにリチャード・マシスンの「終わりの日」、またそこでの「できることは全部やったじゃないか」な台詞にスティーヴン・キングの『デッド・ゾーン』を思い出し、不覚にもワタシは涙してしまった。この映画で泣いたのは世界中でワタシくらいかもしれんが。

AIがもたらす6つの最悪のシナリオ

spectrum.ieee.org

人工知能(AI)が人間のような知能を獲得し、やがて悪の支配者となり、人類を滅亡させんとするのが SF 映画でおなじみの筋立てだが、実は我々を殺すのに AI が知覚を獲得する必要なんてなくて、そんなものなしで人間を絶滅させるシナリオは他にもありますよというわけで、この IEEE Spectrum の記事は、AI の専門家へのインタビューを通じて、映画よりももっと現実的な AI がもたらす最悪のシナリオを6つ挙げている。

まず一つ目は「フィクションが現実を規定する場合」で、これは何が本当で何がフェイクか見分けられなくなった状況を指す。つまりは、画像、映像、音声、テキストのディープフェイクの台頭により、国家安全保障の意思決定が偽情報に基づいて行われてしまい、最悪戦争に至るというもの。ディープフェイクによる偽情報の物量作戦が可能になれば、情報というものへの我々の信頼自体が損なわれてしまう。ブルース・シュナイアー先生も似たことを危惧してましたな。

二つ目は「底辺への危険な競争」で、いち早く AI を軍事利用した国が戦略的に優位に立てるが、開発スピード重視のためシステムに残された欠陥をハッカーに悪用され、事態が制御不能になるのを指す。安全性やテストや人間による監視よりも開発スピードを優先することを「底辺への危険な競争」と言ってるわけですな。人間が動作原理を理解していない機械学習モデルに命令と制御を委ねてしまうのもこれにあたるとな。

三つ目は「プライバシーと自由意志の終焉」で、我々が日常的に生み出している膨大なデジタルデータに企業や政府が無制限にアクセスできるようになることでコントロールを――って『監視資本主義』な話だけど、そこに顔認証、ゲノムデータ、AI による予測分析が加わり、データによる監視や追跡は危険な未知の領域に突入するという見立てだ。かつての独裁者のように大勢の兵士に依存しなくても反政府活動を抑制できるし、AI の予測的な制御は人間から自由意志を奪いかねないと見ている。

四つ目は「人間のスキナー箱」で、この話はバラス・スキナーの『ウォールデン・ツー』が執拗に引き合いに出されるショシャナ・ズボフ『監視資本主義』を読んでないとピンとこないかも。

スマートフォンの画面にくぎ付けでソーシャルメディアを使っている人を実験室のネズミ、行動研究の実験装置であるスキナー箱の人間版にいると見立てているわけだが、プラットフォームはできるだけ利用者がそこに留まるよう最適化、つまりは広告利益を最大化することで、人間が前向きで生産的かつ充実した生活を追求する時間を奪ってしまうという視座である。

五つ目は「AI 設計の専制性」で、関係ないがこの tyranny という単語、マイケル・サンデルの新刊(の原題)にも出てくるね。

これは AI システム設計につきもののバイアスの問題である。実は AI 以前より、日常生活でよく使うもののデザインは(右利き平均的な体格の男性など)特定の種類の人間に合わせて作られてきたが、AI がカフカ的な門番となり、偏った規範によって一部の人がサービス、仕事、医療などから疎外されてしまうシナリオである。

そして最後の六つ目は、「AI の恐怖が人類から利益を奪う」で、今日の AI は高度な統計モデルや予測セットで動作する数学中心なシステムだが、人々が AI を恐れるあまり、政府が AI を規制し、結果その恩恵を人類から奪ってしまったらダメよね、と最後にここまでの流れをひっくり返して、AI は多くの分野で恩恵をもらたすのに、驚異的なテクノロジーに恐れをなし、最悪のシナリオを恐れて考えなしに AI を規制してしまうのも、それはそれで最悪のシナリオよね、と言ってるわけだ。

さてさて、皆さんは以上6つのシナリオのどれに現実味を感じますか?

ネタ元は Slashdot

オライリー本家からメインフレーム開発本が出る!

www.oreilly.com

まさかオライリーからメインフレーム開発の本が出るとは。しかも、モダンなメインフレーム開発とな。

目次を見ると、第1章「なぜメインフレーム開発者になるのか?」に「Software Is Eating The World」や「COVID-19」という節があり、今メインフレーム開発の本を世に問う必然性を感じる。もっとも第2章「メインフレームの世界」には「パンチカードとは何か?」という項があって苦笑いしてしまうが、歴史を語るならその話は避けられないわな。

yamdas.hatenablog.com

1年以上前のエントリだが、メインフレームと聞くと真っ先に連想するのは、やはり勘定系システムやそこで動く COBOL のコードの話で、この本でも COBOL 言語の話は複数の章を占めている。

しかし、第2部「Modern Topics」には「DevOps」や「Artificial Intelligence」や「RPA (Robotic Process Automation), Low-Code and No-Code」といった今どきなトピックが章タイトルになっており、モダンなメインフレーム開発という書名はウソじゃないということが分かる。

本書の著者の Tom Taulli は、『Artificial Intelligence Basics』(asin:1484250273)、『The Robotic Process Automation Handbook』(asin:1484257286)、『Implementing AI Systems』(asin:1484263847)といった本も書いており、それなら本書に AI や RPA の話があるのは不思議ではない。Forbes JAPAN でも彼の寄稿が読める。

上でリンクした Wikipedia の「勘定系システム」のページを見ても、当然ながら日本の銀行の勘定系システムの主なハードウェアは未だ大部分がメインフレームであり、本書の内容も十分日本でも通用するのではないか。6月に出るらしい洋書の値段がべらぼうでビビるが(恐るべし円安)、邦訳は出ますかねぇ。

以前原書を紹介した本の邦訳を紹介(『サイバー術』、『ジョン・レノン 最後の3日間』、『EXTRA LIFE』)

いやー、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにするシリーズで取り上げた本が翻訳されることはいくらでもあるのだけど、その洋書紹介特集までいくことなく昨年紹介した3冊の洋書の邦訳が出(てい)るのを、たまたま立て続けに知ったので、まとめて紹介しておきたい。

yamdas.hatenablog.com

これは驚いた。半笑いで紹介していたサイバーセキュリティと言えばニンジャ、な本が『サイバー術 プロに学ぶサイバーセキュリティ』として邦訳が11月に出ていた。これは正直難しいと思い込んでいた。

yamdas.hatenablog.com

こちらはトランネットのオーディションにかかった本だから邦訳が出て当然なのだが、この本の邦訳が出るとすれば、ジョンの命日に近い12月になるのは当然ですよね。『ジョン・レノン 最後の3日間』のタイトルで出ている。

yamdas.hatenablog.com

これも驚いた。原書は昨年5月に出た本なので、邦訳は出るだろうが、2022年後半以降と踏んでいた。それが『EXTRA LIFE なぜ100年で寿命が54歳も延びたのか』として来月出る。早い!

「私たち人類は、100年で寿命を2倍に伸ばした」って、言われてみると確かにすごいよな。

クライ・マッチョ

こないだ「直近では『マッチョ』も『グッチ』も観に行けないかも」と書いたが、オンラインで近場のシネコンの予約状況を確認し、公開初日のレイトショーで観てきた。客はワタシを含め5人だった。

一言でいうとどうしようもない映画で、駄作と書いてもかまわない。

早撮りで有名なクリント・イーストウッドのペースを反映してか、物語はたいした葛藤もなくテキパキ進み、例によってライティングは排されているので、野外をのぞけばだいたいが薄暗い室内ばかり、イーストウッドが演じるのは例によって老いてもタフで女にモテるという……もはやこれはイーストウッドの接待映画ではないか。

基本的にロードムービー仕立てだが、主人公が誘拐する、いろいろと鬱屈があるはずの少年の人物造形が薄いので(えっ、お前、そこで後生大事にしてきたそれを他人にあげちゃうわけ?)、『グラン・トリノ』の感動は望むべくもない。同じ公開日の『ハウス・オブ・グッチ』を観ていたほうが、10倍くらいエキサイティングな映画体験ができていたはずだ。

しかし、今、ワタシはこうして極東の島国で公開初日にクリント・イーストウッドの新作を観ている、というのを上映中なんども噛みしめていた。彼の映画はまぎれもなくアメリカ映画だが、ワタシは彼の作品にハリウッドの不文律からはみ出る異物感を求める。確かにそれは、もはや良い映画といえない本作にすらあった。それを観に来たのだから、文句を言うつもりはない。

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム

以下、公開中の作品のストーリーや登場人物に必然的にかなり踏み込むので、ネタバレが気になる方は鑑賞後にお読みください。

ワタシは MCU について積極的に嫌いと公言している奇特な人間だが、このスパイダーマンのシリーズは『ホームカミング』『ファー・フロム・ホーム』と楽しんできたので、本作もはじめから観に行くつもりだった。

予告編をみると、サム・ライミによるシリーズの『スパイダーマン2』の悪役ドクター・オクトパスが出てくる。MCU の場合、本作のドクター・ストレンジのように他シリーズからスターが駆り出されるのは序の口で、最近は Disney+ のテレビシリーズの視聴まで要求するところがあり、いい加減にしろよと思うのだが、まさかかつての『スパイダーマン』シリーズまで手を広げるとは! マルチバース設定の導入は、やはり『スパイダーバース』の成功が大きかったのだろうか(あれは良い映画でした)。

サム・ライミの三部作はもちろん観ている。といっても、1と3はテレビ放映時のながら視聴だけど。2は映画館で観て、もちろん面白かったが、ほぼ満席のため大スクリーンの前から3列目という過酷な環境、しかも一緒に観に行った女友達が途中で居眠りをしだすという、なかなかにコクのある経験だった記憶がある。

それに加えて『アメイジングスパイダーマン2』の悪役も出ると小耳に挟み、アメイジングのほうはまったく観てなかったので、Twitter でこちらも事前に観ておくべきか聞いてみたところ、見たほうがいいとのことなので、慌てて Netflix で『アメイジングスパイダーマン2』を鑑賞して、公開日に近場のシネコンに足を運んだ。

『ファー・フロム・ホーム』のラストで、これまたシリーズをまたいで復帰のJ・K・シモンズに正体を暴露されてしまったスパイダーマン/ピーター・パーカーだが、ローカルヒーロー/親愛なる隣人としてのスパイダーマン、スーパーヒーローとして例外的な、高校を卒業するかしないかの未成年のヒーローとしてのスパイダーマンを描いた集大成になっている。

前述の通り、悪役については承知していたが、例によってできるだけ事前情報をできるだけ入れずに観に行ったため、アンドリュー・ガーフィールド登場時には、ワタシも周りの観客とともにどよめいてしまった。

過去シリーズの登場人物を引っ張り出してきて、これで表層的な顔見世で終わっていたらふざけんなだが、そうはなっていない。本作でドクター・ストレンジが、パーカー君がまだ子供(未成年)ではないかと強調するのは、トビー・マグワイアが命を賭して暴走する電車を止めた後、乗客たちがマスクがとれたスパイダーマンにかける言葉をどうしても思い出してしまうし、墜落するミシェル・ジョーンズを受け止めたアンドリュー・ガーフィールドが見せるなんとも悲しい表情にしても、これは過去シリーズを観ていてこそ伝わるものが確かにある。

「大いなる力には大いなる責任がともなう」というおなじみのフレーズとともに本作で強調される「親愛なる隣人」という言葉にしても、エレクトロが「てっきり黒人だと思っていた」と語るところに重みがあり、ここにジェイミー・フォックスが再登板した意味があったように思う。

ただ、本作の過去のヴィランを「治療」しようというコンセプトは、そのケア的アプローチが今どきなのかもしれないが、個人的には「それ違うんじゃない? さっさと元の時空に送り返すべきだろ」としか思えず、乗り切れなかった。が、本作の最後での主人公の決断、その後のなんともいえないラストが作品を引き締めていた。

* * * * * * *

……さて、ここまで、もっともらしい映画の感想を書いてきたが、実を言うと、本作の鑑賞中、ワタシの頭の中は目の前のスクリーン以外のことでかなりの割合を占められていたのを告白しなければならない。

それは端的に言ってしまえば尿意である。本作が始まって半時間前後で明確に尿意を自覚し、それからおよそ2時間、尿意に耐え、震えながらの鑑賞になってしまった。

トイレが近いのは以前からで、『それでもボクはやってない』を劇場で鑑賞中(15年前なのか……)、どうしても耐えられなくてトイレのために中座して以来、映画館での鑑賞時は事前に入念にトイレを済ますように心がけてきた。そのおかげで、飲み会の後にレイトショーに行く例外的な場合を除き(今では考えられない話だが、福岡時代は稀にあった)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』『アイリッシュマン』を筆頭とする膀胱的プレッシャーの高い映画を無事に乗り切ってきた。

今回もトイレタイムはちゃんととったつもりだったが、大きな気がかりがあったのが影響したか、と後になって思う。それはやはり新型コロナウイルスで、急速な第6波の立ち上がりを受け、本作を予定通り映画館で観ようか結構迷ったのが、ワタシの心身に影響を与えたのは間違いない。

このまま新規感染者数が指数関数的に増えるなら、不本意ながら劇場での映画鑑賞は当分自粛せざるを得ない。直近では『マッチョ』も『グッチ』も観に行けないかも。

あともう一つ書いておくと、前述の通りワタシは MCU について積極的に嫌いと公言しており、Disney+ には加入していない。本作でも例によってエンドロールの前後で今後の展開が予告されていたが、それに付き合うつもりはない。好きだった本スパイダーマンのシリーズに区切りがついたのを契機に、反時代的人間として MCU からは距離を置かせてもらう。

Web3をめぐる小競り合いとWeb3の解説書がオンライン公開されている話

昨年末から Web3(Web 3.0)というバズワードをめぐって小競り合いが起きている。実はワタシもこの方面の古い文章を訳そうと思っていたのだが、意外に時間がとれなかったため、とりあえずのまとめ代わりにこのエントリを書いているという次第。

yamdas.hatenablog.com

本ブログでもこの言葉を2年前に取り上げており、その時点で既に「Web 3.0 はウェブを再度脱中央集権化する」ことへの期待がはっきりあったわけだが、この Decentralized Web というコンセプトは、拙著『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』の重要なテーマである(としつこく宣伝)。

しかし、最近 Web3 には「デタラメ」「詐欺」といった穏やかならぬ言葉が投げかけられている。これはどうしたことか?

www.itmedia.co.jp

イーロン・マスクやジャック・ドーシーのツイートを起点とする小競り合いについては、星暁雄さんの文章が、背景にある文脈を理解するのによいだろう。

news.mynavi.jp

そして、「Web 2.0」という言葉の生みの親であるティム・オライリー御大の見解の解説が分かりやすい。Web3 が掲げる理想にはオライリーも好感を持っているが、現状の暗号資産の高騰や NFT(non-fungible token、非代替性トークン)への過大な期待に代表されるブロックチェーン周りの看板に偽りありな現状に対する危惧は押さえておく必要がある。

この記事にもあるように、オライリーは「バブル」自体は批判しない。バブルの熱狂が新しいインフラの開発につながることをオライリーは肯定しており、これについては本ブログの以下のエントリも参考になるだろう。

yamdas.hatenablog.com

問題は現状の Web3 バブル、このバズワードに群がる投機的熱狂が有用なインフラ構築につながっているかで、オライリーはまだ時期尚早と見ているということですね。

さて、この Web3 という言葉を冠した本で有力なものとなると、今のところ「Web3はいかにインターネットを再発明するか」という副題を持つ Shermin VoshmgirToken Economy - Second Edition あたりだろうか(第1版との違いは著者のブログに詳しい)。

これなど明らかに「バズワードとしてのWeb3」サイドの本と言えるが、それがシリコンバレーでなくベルリン発というところに、ベルリンはブロックチェーンの首都とかいう話を思い出したりした。

で、実はこの本は GitHub において、Creative CommonsCC BY-NC-SA 4.0 ライセンスで全公開されており(ワタシもそちらで流し読みした)、9つの言語への翻訳作業が進んでいる。

そして、その9つの言語に「日本語」は含まれていない。それになんとも言えない悲しい思いをしてしまうのだが、その界隈のお若い方でどなたかやってみませんか?

[2022年01月15日追記]Eiichi さんから日本語版を教えていただきました。

ビッグテックの次の独占を争うゲームは「未来の車」が舞台となる

www.politico.com

GAFA に代表されるビッグテックが(スマーフとフォン戦争の次に)次に独占を目指して争うのは「未来の車」、つまりはコネクテッドカーの分野になるという話である。

フォードとの提携話をはじめとして、Google は自動車向け Android 製品を拡大しており、いろんなメーカーと契約を結んでいるとのこと。CES でもその一端を伝えるニュースがありましたな。

jp.techcrunch.com

Android OS が車内エンターテイメントの基本ソフトウェアになれば、音声アシスタンスやマップ機能が搭載されることにある。

Mapbox をベースとする Maps+ という独自のナビゲーションシステムを提供する GM はむしろ例外的な存在なのかもしれない。

もちろんこの分野への参入を目指すのは Google だけではなく、Apple の名前も挙がる。Project Titan の名前で知られた Apple のこの分野への取り組みは長らく秘密だったが、今年あたりそろそろ Apple Car の具体的な話が出てくる頃と思われる。

そして、この記事では Amazon の Alexa を基盤とする取り組みが紹介されている。やはり CES でも Amazon Fire TV などのニュースがありましたな。

jp.techcrunch.com

jp.techcrunch.com

Amazon の場合、他のビッグテックと異なり、商品の配送車両にも自社システムを入れ込む方向性が見えるのもポイントかも。

このようにコネクテッドカーの分野では、これからビッグテックの熾烈な競争が予想されるわけだが、この記事の最後あたりの、アメリカには国内のプライバシー法がなく、独占禁止法も比較的緩いため、ビッグテックの市場支配を妨げるものはほとんどないという話に気になるところである。

www.watch.impress.co.jp

そうしてみると、SONY の EV 参入を表明したのは、車内エンターテイメントシステムの競争を考えると理解できるのだけど、自動車分野を「リカーリング」ビジネスに適していると見ているのがポイントか。

yamdas.hatenablog.com

少し前にこのブログでも「車の黄金時代の終焉」という話を取り上げたが、正直車自体はこれから台数的に伸びる分野ではないのかもしれない。それでも車内システムを独占を目指すのは、ショシャナ・ズボフ『監視資本主義』を読んだ後は理解できる方向性だ。

果たして日本の自動車メーカーはどこまで自前でいけるのか、あるいは上に名前があがるプレイヤーと提携するのか注目ですな。

ネタ元は Slashdot

英国の著名人が語る「一番嫌いな本」

boingboing.net

もともとは2003年、つまりは20年近く前に Independent 紙が行ったアンケートに基づく記事だけど、英国の著名人に「一番嫌いな本」を語ってもらうという企画で、Boing Boing もよくこんな古い記事を Wayback Machine から引っ張り出してきたものだ。

各界の著名人が回答しているが、日本ではなじみのない人も多いというのもあり、個人的に気になったのは以下のあたり。

まずは小説家のJ・G・バラードだが、彼が挙げるのはジェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』である。

このジョイスのちんぷんかんぷんな小説は、何世代にわたり英文学の教授たちに食い扶持を与えてきたが、20世紀の小説における、難解さを突き詰める嘆かわしい傾向を象徴している。『フィネガンズ・ウェイク』は、モダニズムが自らの基礎を消失した最良の例である。

「ちんぷんかんぷんな小説」という点はワタシも同意見です。

脚本家、映画監督のリチャード・カーティスは、カート・ヴォネガットの『タイムクエイク』を挙げている。

彼は作中、これが最後の本だと宣言しているが、彼こそずっと最愛の、たった一人の作家なんだ。

最愛の作家ゆえにこれが最後とは言ってほしくなかったというわけで、これはひねった回答ですね。このアンケート時は、まだヴォネガットは存命だった。

映画監督のケン・ラッセルは、アイン・ランドの『肩をすくめるアトラス』を挙げている。

傑作という評判が名高いが、私にはアメリカの大企業がいかに素晴らしいビジネスをしているかを喧伝するファシストの暴論にしか思えなかった。とはいえ、とても巧みに書かれている。

このチョイスに一瞬ケン・ローチと勘違いしたが、ロックファン的には映画『トミー』の監督としておなじみか(というか、彼の映画は『トミー』しか観てない)。けなしながらも「とても巧みに書かれている」と添えるのは律儀だ。

アイン・ランドは、「アイン・ランドはアホ」と罵る人もいる一方で、スティーブ・ジョブズをはじめ、特にシリコンバレー人種の支持者に事欠かない。

俳優のイアン・マッケランは、旧約聖書の『レビ記』を挙げている。

古くさい法的ナンセンスに満ちてるのに、未だマジメに受け取ってる連中もいる。

聖書の中でも『レビ記』を指定するのは、やはり「あなたは女と寝るように男と寝てはならない」があるからだろうか。

そして最後は、世界的に有名なラジオ DJ だったジョン・ピールだが、マンチェスター・ユナイテッドを13度のリーグ優勝に導いた名将アレックス・ファーガソンの『マネージング・マイ・ライフ―知将:アレックス・ファーガソン自伝』を挙げている。なぜか?

オレはリヴァプールのサポーターなんだよ。

英国人のサッカー愛ならびに贔屓のクラブへの忠誠心に思いを馳せてしまう。

95歳になったメル・ブルックスが自伝を書いていた

www.newyorker.com

数々のコメディ映画の傑作で知られる映画監督のメル・ブルックスだが、95歳にして自伝 All About Me! を出していたのね。

もっともワタシ自身は、彼の作品を映画館で観たのって『スペースボール』(asin:B01LTHL0EC)だけなんだけど(笑)。

このインタビューもなかなか楽しくて、90過ぎて自伝を書いた理由について、そんなつもりはなかったが、パンデミックでやることないだろうから自分の話でも書きなよ、と『ゾンビサバイバルガイド』(asin:4047289558)の著者、というか映画『ワールド・ウォーZ』(asin:B07NRFD3XN)の原作者として知られる息子のマックス・ブルックスに勧められたから、とざっくばらんに語っている。

自分の人生で再訪したい時代はいつか聞かれ、「子供時代がベストだ。『最初に映画を撮ったとき? アン・バンクロフトと出会って結婚したとき?』とか聞かれるけど、4、5歳から9歳あたりが最高だった」と語っているのも面白い。

キャリアにおいて自由に感じた時期を聞かれ、ジーン・ワイルダーと『ヤング・フランケンシュタイン』(asin:B07LGH8JRX)の脚本を書いたときを挙げているが、『ブレージングサドル』(asin:B003GQSZ3O)や『プロデューサーズ』(asin:B09JY193VL)など代表作の話をいろいろしている。

自伝において、「私のウィットはよくユダヤ的コメディと言われる。そういう場合もあるが、私のユーモア感覚の大部分を純粋なユダヤ的ユーモアと言ってしまうと正確ではない。実際は、ニューヨーク的なユーモアだ」と書いているところの説明など、ユダヤ人のステロタイプの話とあわせて興味深い。

彼の映画の常連だったジーン・ワイルダー、マデリーン・カーン、リチャード・プライヤー、ドム・デルイーズ、(2020年に亡くなった親友の)カール・ライナーといった人たちへのコメントを求めた後、「これらの人達より自分が長生きすると思いました?」といういささかイジワルな質問への回答はグッとくる。

思わないよ。なぜ長生きできたか分からない。だって私は、よくも悪くも彼らより食べ物に気を付けたり、運動に気を付けたりなんてことはなかったからね。『2000 Year Old Man』で、カール・ライナーが「君の長生きの秘訣はなんだ?」と言い、私は「死なないことだ」と答えている。それがすべてだ。死なないことだよ。そして笑わせること。

彼の未見の彼の代表作も観ないとなぁ(Netflix に入ってくれんかな)。そうそう、生誕95年を祝うものではないだろうが、彼の映画のサントラベスト盤も出ている。

MEL BROOKS' GREATEST HITS

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ネタ元は kottke.org

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