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アムステルダム

久しぶりに映画館に出向いた。デヴィッド・O・ラッセルの映画を観るのは『アメリカン・ハッスル』以来か。公開初日に行ったのだが、両隣の席が空いた列を探したら最後列になった、くらいの客の入り。

本国での批評家受けがすさまじく悪いのでどうなんだと思ったら、これが良い映画かはともかくとして、ワタシ的にはかなり好きな映画だった。

この映画の批評家受けが悪いのは、陰謀論の扱いがあからさまというか、自分たちが批判しているものの裏返しに思えて気恥ずかしさを感じたからだろうか。そんなのよりも画の作りこみや撮影の妙を、その上でクリスチャン・ベールマーゴット・ロビーらの見事な演技を楽しむ映画でしょう。いやー、マーゴット・ロビー、ステキでした。

それにしても豪華キャストの映画だし、しかも、2022年の現在、アメリカ映画界でもっとも輝いているアニャ・テイラー=ジョイが悪役をやっているのだからたまらない。

しかしなぁ、ジョン・デヴィッド・ワシントンって文句なしにハンサムでかっこいいのだけど、『TENET テネット』以上に物語の狂言回しの役から絶対にはみ出ることのない過剰さの欠如というか無感情な佇まいは、これも一種の才能なのかと不思議になる。この映画で常に首を斜めに傾け続ける立ち姿だけで磁場を発するクリスチャン・ベールと比べてどうしてもそれを感じたりした。

メッセージングアプリSignalが暗号化で妥協しない理由を新プレジデントが語る

www.theverge.com

Vergeに、9月に Signal Foundation のプレジデントに就任したメレディス・ウィッタカー(Meredith Whittaker)のロングインタビューが掲載されている。

インタビューの前説でも触れられているが、彼女は(ケイト・クロフォードとともに)AI Now Institute の共同設立者であり、GoogleAI倫理委員会の解散を求めて抗議活動を行ったことで知られる。

そんな一見企業のトップ向きには思えない彼女だが、このインタビューで知ったのだが、メッセージングアプリの Signal って Signal Foundation という非営利団体によって運営されていて、Signal 自体も非営利的というか、利益や成長を優先して無理するインセンティブがないという。

このインタビューでもっとも興味深いのは、やはりタイトルにもなっている Signal が暗号化で妥協をしないところである。iMessage や WhatsApp との比較を聞かれているのだが、WhatsApp の共同創業者のブライアン・アクトン(Brian Acton)は、今は Signal Foundation にいるんだね。

そこのあたりを少し長くなるが訳してみる。

それでは、WhatsApp を具体例にしてみましょう。繰り返しになりますが、WhatsApp は Signal 暗号化プロトコルを採用しており、メッセージは暗号化されます。それはブライアンと彼のチーム主導の間違いなく先見の明のある選択でしたし、それは大いに賞賛します。しかし、メッセージ保護だけで終わってはいけません。WhatsApp は Signal のようにメタデータを保護しません。Signal は、あなたが誰かをまったく知りません。プロフィール情報を保有しませんし、グループ暗号化保護を導入済です。あなたが誰と話しているか、グループメンバーに誰がいるか、我々は知らないのです。メタデータの収集を最小限にすることで遥か上をいっているわけです。

他方、WhatsApp はプロフィール、プロフィール画像、誰が誰と会話をしているか、誰がグループのメンバーかの情報を収集しています。それは強力なメタデータです。一企業が Meta/Facebook によっても所有されるデータを収集するのはとりわけ強力――ですし、これこそ我々が構造的議論に立ち戻らなければならないところ――です。Facebook は大量の、まさに言語を絶する量の、全世界の何十億もの人たちの私的な情報を所有しています。

WhatsApp のメタデータが容易に Facebook のデータに接続可能で、人々の極めて私的な情報をたやすく暴露しかねないのは取るに足らない話ではありません。WhatsApp が暗号化プロトコルを除去するか、拡張するかの選択は、やはり Facebook の手にあります。メッセージの暗号化全般について語るなら、その組織がどんなもので、実際には誰がこうした決定権を持っているか、あまり議論されない細かい点について構造的に検討しなくてはならないのです。

繰り返しになりますが、Signal は非営利です。我々は Facebook のようにデータにアクセスしません。そうしたデータへのアクセスを避けているのです。あなたのデータを買ったり、売ったり、取引はしません。パラダイムが違うのです。いかにマーケティングが洗練されていようが、WhatsApp が真に安全でプライベートだとは言えません。ディテールを総合すると、そうでないと結論づける必要があります。つまり、Signal はそのためだけに存在するのです。

これはインタビューのはじめのほうで、この後にもこれを読んで知る情報がいくつもあった。従業員は40人くらいで、大半が開発者とのこと。Signal をブロックしている中国の市場に参入するために妥協するつもりは一切ないらしい。あと Signal もストーリーズ機能を提供するとな。

ネタ元は Schneier on Security。そうそう、ブルース・シュナイアーは昨年、Signalの暗号通貨による送金機能の追加に苦言を呈していたが、このインタビューでその話は一切なく、シュナイアー先生は Signal を今も毎日使っていると書いているので、この話は取り消されたのかな?

ドキュメンタリー映画『クリムゾン・キングの宮殿:キング・クリムゾン・アット50』日本盤が年末に出るのだが……

ameblo.jp

キング・クリムゾンについての情報は、DGM Live 本家が非常に活発に情報発信していてそちらで十分だったので、実は DGM ジャパンのオフィシャルブログがアメブロでやってたなんて知らなかった。

ドキュメンタリー映画『In the Court of the Crimson King』の話はここでも何度か触れているが、今年末に日本盤も発売されるということで、それ自体は喜ばしい話である。

しかし、ここで書かれている話はなかなかシビアだったりする。

ここ2年ほどの間にキング・クリムゾン関連商品の売り上げは大きく減少しております。今回のパッケージのような高額商品のセールス状況は全盛時の50%以下という厳しい状況に直面しています。

クリムゾン・キングの宮殿:キング・クリムゾン・アット50 デラックス・エディション日本盤情報です | king-crimson-dgm-japanのブログ

結果、国内プレス2ブルーレイ・ディスク+4SHM-CDのパッケージを製造しチェーン店施策費・宣伝費を差し引いて出荷価格(税抜き価格の75%)の10%の利益を得るためには税抜き2万円以上の価格設定をしないと達成できないことがことが判明いたしました。

クリムゾン・キングの宮殿:キング・クリムゾン・アット50 デラックス・エディション日本盤情報です | king-crimson-dgm-japanのブログ

そこまで明らかにしますか……。

というわけで、デラックス・エディションは文句なしにデラックスなのだが、ワタシは……うーん、通常盤を買いますかね。ごめん!

それはともかく、ということは映画館でこの作品を鑑賞する機会は日本ではもうないのかねぇ。それが実現したらぜひ観に行きたいのだけど。

マーロン・ブランドがクリストファー・ウォーケンに奇妙なダンス番組の企画を持ちかけていた

faroutmagazine.co.uk

この話は知らなかった。

20世紀を代表する名優のひとりであるマーロン・ブランドが、そのキャリア末期の1990年代にクリストファー・ウォーケンにある企画を持ちかけていたというのだ。

ウォーケンによると、それまで会ったことのないブランドが、ミュージカルバラエティショーを売り込む電話をかけてきたという。ブランドが司会で、ウォーケンはゲストにダンスをさせるという役回りとのこと。

なんで普通に映画での共演の企画じゃないんだよ……とどうしても思ってしまうが、それでもこの番組が実現していたら、そりゃ絶対見てみたかったよね! しかし、(おそらくひどく面食らったであろう)ウォーケンはこのオファーを断ったという。

ブランドがウォーケンに企画を持ちかけたのは、ウォーケンが既に映画で何度か踊りを見せていて、ブランドがそれを観ていたからに違いないが、しかし、マーロン・ブランドが司会のミュージカルバラエティショーってなぁ……。

ご存じの通り、21世紀に入ってウォーケンは、ファットボーイ・スリムのビデオでの見事なダンスで世界を驚かせたわけだが、もしかしたらブランドには彼のダンスの可能性が見えていたのか?

マーロン・ブランドと言えば、彼が映画『ゴッドファーザー』で2度目のアカデミー主演男優賞を受賞したときに壇上で、ハリウッドの先住民族に対する扱いに抗議して受賞を拒否するスピーチを行ったサチーン・リトルフェザー氏が75歳で逝去している。彼女はネイティブアメリカンの活動家とされてきたが、実はそれは嘘だったという話が彼女の死後に出ており、なんだかなという気持ちになってしまう。

『コブラ会』で復活したラルフ・マッチオがダニエル・ラルーソーを受け入れるまでを回顧録で語る

www.nytimes.com

コブラ会』はシーズン4までとても楽しく見せてもらったが、先ごろ Netflix で配信されたシーズン5はもういいかなとパスする予定。

コブラ会』は映画『ベスト・キッド』で敵役で敗者だったジョニー・ロレンスが主人公のドラマだが、『ベスト・キッド』で主人公ダニエル・ラルーソーを演じたラルフ・マッチオにとっても復活作となった。

そのラルフ・マッチオ回顧録 Waxing On を出している。

映画『ベスト・キッド』を観た人なら、この「ワックスがけ」というタイトル自体がそれに由来することが分かるのだが、「The Karate Kid and Me」という副題も、吹っ切れ具合が伝わる。

ラルフ・マッチオも『ベスト・キッド』で一躍スターになり、映画『クロスロード』で主演を張り、ブロードウェイの舞台ではロバート・デ・ニーロと共演するなど好調だったが、当たり役の『ベスト・キッド』の続編をこなすうちにキャリアも下降線というアイドル俳優のよくあるパターンを辿ってしまう。

逃した好機もあり、巨匠シドニー・ルメットの『旅立ちの時』で「重要な役」をやれるチャンスがあったのに、撮影時期が『ベスト・キッド』の三作目と重なってしまい、役を逃したのには大きなフラストレーションを感じたようだ(『旅立ちの時』で主役を演じたリヴァー・フェニックスが、アカデミー助演男優賞にノミネートされたのでなおさら。余談だが、この『旅立ちの時』、偶然にも今夜 BS プレミアムで放送されます)。

90年代には二人の子供に恵まれ、充実した家庭生活を送るも、特筆すべきは『いとこのビニー』くらいで、だんだんと俳優としては忘れられた存在になってしまう。マッチオはその低迷期も自分自身をクリエイティブに充実させ、成長し続けたと語っており、その前向きな姿勢は偉いよね。ワタシだったら、絶対ドラッグにはまってるよ。

そして、『コブラ会』で(ジョニー・ロレンス役のウィリアム・ザブカともども)復活を遂げるわけだが、疎ましくも思った時期もあったろう『ベスト・キッド』のダニエル・ラルーソーこそが自分にとっての当たり役なのだと明るく受け入れ、還暦を迎えている。いい話じゃん。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』への反応 その46

一年以上ぶりにやりますよ、『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』反応エントリ!

WirelessWire News 連載が復活し、もう『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』のことはいいかとも思ったのだが、恐ろしく久しぶりにエゴサーチをして Kobori Akira さんがこの本の名前を出してくださっているのに今さら気づいたので取り上げさせてください。

別別ジャンだけどもうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来もめちゃくちゃ気になる。数年ぶりに本を買い込む時期が訪れたのかも。

アジャイル収納 | koboriakira.com

これが7月末のエントリなので、その後購入されてくださっていたら嬉しいのだが。

さて、ひと月前くらいには Twitter でも @LineReading さんに反応いただいていた。

検索でワタシのブログにいきつき、ワタシの存在を思い出してくださり、Kindle 版を購入いただいたようだ。ありがたいことである。やはりブログは書いておくものだ。

そうそう、Kindle 版にはボーナストラックのエッセイ「グッドバイ・ルック」が含まれていないので、Kindle 版の読者の方はメールをいただければ送ります。

ウィキペディア的に信頼できる/信頼できない情報源一覧が壮観だ

Wikipedia 英語版にはよくこんな情報をまとめているなと思うものがあったりするのだが、そうしたものをまた一つ知ってしまった。

Wikipedia:Reliable sources/Perennial sources だが、北村紗衣さんも書かれている通り、ノートでのディスカッションに沿ってまとめたリストなんですね。いわゆる一般的なニュースソースだけでなく、テック系、エンタメ系など網羅されていて壮観である。

基本的に歴史のあるニュースソースは信頼できることが多いが、いくら歴史はあってもデイリーメールや Sun はダメとか、まぁ、そうでしょうねという感じ。いわゆる CGM の点は総じて辛いが、これは百科事典の情報源としては構造上仕方ないよね。

よく見ると細かい分類がなされていて、Guardian 本体は信頼できるけど、Guardian のブログはそうじゃないよとか、ハフポストは政治以外では信頼できるけど、政治に関しては留保がいるし、寄稿ものはダメよとか区分があるものもある。

ワタシもデマサイトにひっかかったことがあるし、英語圏以外のニュースサイトは知らないことが多いので、例えばウクライナ方面の話題とか Twitter で取り上げる際にはこのページで参照したほうがいいのだろうな。

そういえば日本ファクトチェックセンターとやらが開設早々いろいろツッコミを受けているが、オカルト検証番組化するくらいなら、この「信頼できる/信頼できない情報源一覧情報」の日本語版のほうが意味があるのではないか。でも、それを作ろうとすると、それはそれでまた血を見ることになるかもしれないが。

ボブ・ディランがポピュラー音楽論の新刊を来月出す

www.nytimes.com

ボブ・ディランが新刊を出すというので、『ボブ・ディラン自伝』(asin:4797330708)の続編かと思ったら(あの自伝の原題は『Chronicles: Volume One』なのよ)、そうではなく The Philosophy of Modern Song とのこと。

書名から自分の楽曲について語る本かと思いきやそうではなく、ディランが重要だと思う65もの楽曲(とひとつの詩)についての60ものエッセイからなる本で、ボブ・ディランのポピュラー音楽論ということですね。2010年以来取り組んできた本とのこと。その中にはブルーグラスヘヴィーメタルとの関連性について論じたものもあるって、マジで?

このニューヨーク・タイムズの記事では、フランク・シナトラの「夜のストレンジャー」とザ・フーの「マイ・ジェネレーション」についての文章が抜粋されている。しかも、後者のオーディオブック版の朗読者はオスカー・アイザックだ!

これは間違いなく来年邦訳が出るだろうね。で、上で彼の自伝の続編について触れたが、Amazon を調べてみたら、2027年末に発売予定になっていた。5年後に刊行予定の本のページなんて初めて見たよ!

英国放送協会で放送された偉大な音楽パフォーマンス100選

www.theguardian.com

英国放送協会BBC)のテレビやラジオで放送されたもっとも素晴らしい音楽パフォーマンスを Guardian が100個選んでいるのだが、こういう記事を見ると、BBC は偉大だよなぁとどうしても思ってしまう。

一応、番組名の初出時にフルネームが書かれているが、そうでなくても TOTP と書けば Top of the Pops だし、OGWT と書けば The Old Grey Whistle Test だし、Later と書けば Later... with Jools Holland(ジュールズ倶楽部)だし、あとジョン・ピールPeel sessions など、もはや文化遺産である。

近年は本家も YouTubeBBC MusicBBC チャンネルなどで映像を公開しているが、多くの放送音声(映像)がおそらく無許可で YouTube に公開されており、それに遠慮なくリンクして記事が書かれている。

新旧のパフォーマンスから広く選ばれているが、いくつかワタシも取り上げておこう。

ビートルズエドサリヴァン・ショー出演に匹敵する」エドガー・ライトが語るスパークスの TOTP でのパフォーマンス。キメキメだ。

その年の末に腹立たしくも悲劇的な死を遂げてしまったカースティー・マッコールの生前最後のパフォーマンス映像。

これを15位に選んでいるのが英国人らしい。なぜか日本のお寺で口パクパフォーマンスをするスパイス・ガールズ

もはやワタシが何か付け加えるまでもない、力強く素晴らしいジョイ・ディヴィジョンのライブ映像。

1位はやはりこれなんですね。このパフォーマンスの中ほどでボウイはカメラに向かって指をさすのだが、それに「この人はわたしに指をさした!」と衝撃を受けた若い視聴者が多かったという話を何かで読んだ覚えがある。

BBC 6Musicのブロードキャスター、マーク・ライリーはこうコメントする。「ボウイのTop Of The Pops出演が、英国音楽史における極めて重要な瞬間であったことは間違いないだろう。76年に行われたマンチェスターのLesser Free Trade Hallでのセックス・ピストルズと同じように、彼のパフォーマンスはそれまで人生の生きがいを見つけ出すのに苦しんでいた何千もの子供たちの導火線に火をつけたんだ」。

英音楽番組“TOP OF THE POPS”で「スターマン」をパフォーマンスした日から50周年を記念して、この伝説的TVパフォーマンス映像がHDとなって公開に! | David Bowie / デヴィッド・ボウイ | Warner Music Japan

あとこのビデオで、ボウイの後ろで夢見心地の表情でふらふら身体を揺らせているセーターを着た少年にフォーカスして書かれた期間限定公開文章を読んだことがあるが、あれもう一度読みたいな。

艾未未(アイ・ウェイウェイ)の自伝の邦訳『千年の歓喜と悲哀』が12月に出る

yamdas.hatenablog.com

およそ一年前に艾未未アイ・ウェイウェイ)の新刊を取り上げたのだが、12月に『千年の歓喜と悲哀 アイ・ウェイウェイ自伝』として邦訳が出るのを知る。

迅速な邦訳刊行は喜ばしいが、そういえばアイ・ウェイウェイは今年の高松宮殿下記念世界文化賞を受賞していたんだった。

courrier.jp

アイ・ウェイウェイに関する記事では、これも少し前に話題になった。この記事で語られる彼並びにその父親が受けた過酷な扱いは、『千年の歓喜と悲哀』に存分に記されている。

この記事でも語るように彼は「根っからの反体制派」だが、その姿勢は中国政府以外に対しても変わらない。

──とくに米国がそうだったと思うのですが、西洋諸国の中国に対する見方がおめでたかったのではないでしょうか。

おめでたかったというよりも、血の臭いに引き寄せられる怪物のように、資本主義の本性をむき出しにしていました。資本主義は決して品のいいものではありません。申し訳ありませんが、これは客観的な事実です。

欧米人は、寛大さとおめでたさをしばしば混同します。しかしここでは、それはまったく関係ありません。なぜなら欧米人がつねに狙っていたのは利益を得ること、お金を稼ぐことだったからです。

アイ・ウェイウェイ「西洋における人権の概念も、偽善的なところがある」 | 国を超えた普遍的価値が必要だ | クーリエ・ジャポン

WirelessWire Newsブログ更新(日本でも重視されるべき「公益テクノロジー」とそのための人材)、そしてブルース・シュナイアーの新刊の話

WirelessWire Newsブログに「日本でも重視されるべき「公益テクノロジー」とそのための人材」を公開。

今回は話題的には地味だけど、こういうのもちゃんと書いておくべきだと思った次第である。

「公益テクノロジー」を主題とする世界で唯一の本らしい『Power to the Public: The Promise of Public Interest Technology』だが、やはり邦訳は難しいんだろうなぁ。

さて、今回ブルース・シュナイアー先生の講演動画を取り上げたが、その彼の新刊 A Hacker's Mind が来年2月に刊行予定である。シュナイアー先生のサイトにはまだ情報がないが、出版社のサイトにページができている。

新刊は、ハッカーの「ハッキング」という抜け穴を突く行為を放置したまま人工知能技術が広まると、金融市場は崩壊し、民主主義も弱体化するぞと訴えている。要はワタシが「ブルース・シュナイアーが予言する「AIがハッカーになり人間社会を攻撃する日」」で取り上げた長文の論考が下敷きとなっているとお見受けする。

しかしなぁ、シュナイアー先生の本というと、邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2018年版)で取り上げた Click Here to Kill Everybody の邦訳が未だ出てないんだよなぁ。

もう出ないのだろうか? 新刊が出るまでに前著の邦訳が出てほしいところだが。

IoTセキュリティの世界的な現状を掴める報告書が大西洋評議会から出ている

www.atlanticcouncil.org

シンクタンクのアトランティック・カウンシル(大西洋評議会)から、IoT セキュリティの世界的な現状を掴める報告書が出ている。「何十億もの機器におけるセキュリティ」というタイトルにはっとするが、もはや IoT 機器の普及はそこまで来ているわけで、そうなると当然出てくるのはセキュリティの問題である。

この話題については、ワタシも「他人事でないIoTのセキュリティ問題、そして追悼」という文章を書いているが、いよいよ他人事ではなくなっている。「モノのインターネット」からインターネットを守る必要があるところまで来ているし、「モノのインターネット」を「ゴミのインターネット」にしてはいけないのだ。

この報告書では、この分野にセキュリティの課題があり、認証や接続の囲い込みは個人の安全とプライバシー問題にとどまらないより広範な経済や国家安全保障リスクになることを指摘したうえで、米国、英国、オーストラリア、シンガポールの IoT セキュリティの現状と成熟度合いを分析しながら、公共共部門と民間部門の利益のバランスを取りつつ IoT エコシステムのセキュリティを強化する多国間戦略を提案している。

実現不可能な規制や規格の刷新ではなく、最低限許容できるセキュリティ基準を設定し、国際協調と漸進的な改善を呼びかけているところところが地に足がついている。

しかし、現状はいろいろごった煮状態であったり、国の政策が悪影響を及ぼしているところもあり、難しいところだ。

あと、アジアで選ばれているのが日本ではなくシンガポールなんだ、と寂しいところもあるが、シンガポールは2020年にインターネット接続機器の4段階のセキュリティレベルを示すラベリングプログラム Cybersecurity Labelling Schemet(CLS)を開始しており、そうしたところが特徴的で取り上げやすいのか。

何しろ PDF で全50ページ(!)という分量なので、ワタシも全体をしっかり読み通してはいないのだが、スマートホームもヘルスケアのウェアラブルもあれもこれも範疇に含まれる話なので、重要な話題に違いない。

ネタ元は Schneier on Security

キング・クリムゾンの2003年の来日全公演が奇妙な邦題とともにSHM-CD化される

amass.jp

ここでも以前取り上げたドキュメンタリー映画『In the Court of the Crimson King』が早くもディスク化とのこと。ワタシとしては映画館で観たいので日本での公開を期待しているのだが、豪華パッケージのようなので日本盤は出ないものかと Amazon を検索したら、なにか奇妙なタイトルが来月発売予定なのに気づいた。

なんじゃこりゃと思ったら、キング・クリムゾン2003年ジャパン・ツアーSHM-CD完全補完シリーズらしい。日本独自企画盤とのことだが、なんとも奇妙なタイトルが目を惹く。いくつか紹介しておきたい。

「松本ウォームアップとは無礼なり」ってなんだよ。来日公演初日が松本という普段海外バンドがライブをやらない土地なのと、昔よく言われた、ワールドツアーを日本からはじめるも、その来日ツアーは一種のリハーサル状態という海外バンドが結構いたという逸話をひっかけているのだろうな。

「通電テストの日」って電気工事じゃあないんですから……。

「真・電気の日」ってなんなんだよ、とツッコむのももはや空しい。

「私たちの失敗を認めます、謝罪とともに」とのことだが、東京公演最終日だったこの日はとにかくバンドとして演奏の調子が悪かったらしい。そういう日を外すことなくディスク化するところが図太い。

復活の日または怒涛のV字回復」となんだかよく分からないが、これはその前の不調から脱し、かなり出来がよかったライブなのを指している。ロバート・フリップも日記にこの日のライブについて、「今晩のショウは強力だった」と書いていたらしい。

で、実はこの2003年4月19日のメルパルクホールでの福岡公演、ワタシ観ているんですね。自分が観たライブが実はそんな怒涛のV字回復だったとは知らなかったが、二度目のアンコールで2曲やったのはこのときの来日公演でこの日だけだったらしく、またそのときステージ上で決まった感じだったので、メンバーの調子も気分も良かったライブなのがワタシにも察せられた。

あのときのライブを思い出す上でもこれだけは買っておこうと予約させてもらった次第である。

堀越英美さんの教育的な翻訳仕事は今年も健在にして快調であった

yamdas.hatenablog.com

およそ一年前に堀越英美さんの仕事を讃えているが、彼女が訳したアヌシェイ・フセイン『「女の痛み」はなぜ無視されるのか?』が出たばかりなのね。

晶文社の note で日本版まえがきが公開されているが、いきなり石川優実氏の名前が出てきて驚いた。キャロライン・クリアド=ペレス『存在しない女たち』とも共通するところがありそうだが、本書は医療分野という命にかかわるところでの「女の痛み」の軽視(プラス人種差別)が主眼なのが切実である。

そして、堀越英美さんは今年既にもう一冊アンナ・ラッセル『だから私はここにいる』も訳しているのに今さら気づいた。

こちらはマリー・キュリーヴァージニア・ウルフ、ルース・ベイダー・ギンズバーグアーシュラ・K・ル=グウィン、ミシェル・オバマなど新旧の世界的有名人を含む54人の女性たちのスピーチのアンソロジーである。

つまり、堀越さんは昨年に続いて今年も2冊訳書を出したことになる。しかも、昨年同様、訳した本はいずれも高度な教育性を持つ。

さらにいえば、翻訳だけでなく『エモい古語辞典』も今年出しており、そして毎月楽しく読ませてもらっている「ぼんやり者のケア・カルチャー入門」も連載中なのだから、何気に大変な仕事量である。

野中モモさんもそうだが、しっかりしたポリシーを感じる仕事をされている人には尊さを感じる。1973年組の鑑だね。

ゲノム編集技術でノーベル化学賞を受賞したジェニファー・ダウドナのウォルター・アイザックソンによる伝記『コード・ブレーカー 生命科学革命と人類の未来』が来月出るぞ

邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2021年版)で紹介した、2020年のノーベル化学賞受賞者ジェニファー・ダウドナの伝記本だが、『コード・ブレーカー 生命科学革命と人類の未来』()が来月出るのを知った。

ジェニファー・ダウドナはゲノム編集技術 CRISPR の開発で知られるわけだが、新型コロナウイルスの診断への応用も言われた時期に彼女の伝記を世に出したウォルター・アイザックソンの引きの強さに感嘆したものである。即座に邦訳が出ればよかったのだろうが、そんな都合よくはいかず、なんとか今年中に邦訳が出た形になる。

「「IT革命」を超える「生命科学革命」の全貌」という本書の宣伝文句も凄いが、これを読んで科学者を目指す女性もいるのではないか。

そうした意味で、ジェニファー・ダウドナがノーベル化学賞受賞後にナショナル ジオグラフィックのインタビューでの発言は示唆に富むものがある。

――早速質問を始めさせてください。ご自身をフェミニストだとお考えですか?

「良い質問ですね。いうなれば、私は駆け出しのフェミニストです。理由を説明しましょう。キャリアの最初のうち、私は『女性科学者』として振る舞うことをできる限り避けていました。性別に関係なく1人の科学者として、仕事熱心な研究者として認められたいと願っていましたし、性別に基づくいかなる利益も不利益も受けたくはなかったからです」

ノーベル化学賞のダウドナ氏 自身の強みは執着心|NIKKEI STYLE

「少なくとも40代を通して、私はそう考えていました。しかしここ10年ほど自分をよく観察し、これが一種の偏見であることに気がつきました。意図的ではなかったにせよ、私は女性に偏見を持っていたのです」

「以来、私は柔軟な心で女性を理解することの大切さを学んでいます。女性が直面する課題や、国内外のメディアにおける女性の取り上げられ方、文化による女性像の違い、その一例である職業的役割の違いなど、多くのことを知りました。こうした課題については、今後も議論を続けていく必要があります。母親になりたい女性も、働きたい女性も、それを両立させたい女性も、すべての女性が安心して社会貢献できる仕組みを作ることが重要でしょう」

ノーベル化学賞のダウドナ氏 自身の強みは執着心|NIKKEI STYLE

そういえば、この本が実写ドラマ化される話はその後どうなったのだろう。

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