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すずめの戸締まり

ようやく観た。新海誠作品を映画館で観るのは、『秒速5センチメートル』以来、実に15年ぶりである。

別に『秒速』後の彼の作品を嫌っているわけではなく、たまたま映画館で見逃しただけで、例えば前作『天気の子』は、少し前に Netflix で観ている(最高でした)。

本作はいきなり「閉じ師」が後ろ戸を閉めるアクション展開に叩き込まれ、事前情報をほぼ入れずに観たワタシなど、そういう映画だったんだーとなったが、そもそも主人公がどうして道ですれ違っただけの草太にあそこまでかかわってしまうのか、彼女が考えなしに引き抜いてしまった要石あらため白い猫が自然発生的に「ダイジン」と呼ばれるのか、とにかく展開が強引である……と書くとけなしているようだが、そういう強引な展開に引き込む力量を現在の新海誠は確かに持っているようだ。

新海誠は『君の名は。』以降、東日本大震災のトラウマを作品に取り込んでいるが、本作はそれを正面切ってやっている。いくらなんでも日本、地震起こりすぎだろとも思っちゃうが、宮崎から四国を経て神戸、東京、そして東北まで、ある意味、震災巡礼めぐりのロードムービーである。

本作は、縦方向の移動が多用されるなどかなり宮崎駿のオマージュを感じるが、この作品はある意味国民的アニメ作家として、宮崎駿の次を継ぐことを宣言する作品なのかもしれない。性的なフェティッシュ表現が抑えられているのも、国民的アニメ作家としての責任感ゆえだろうか。

上に書いたように展開や設定の強引さはぬぐいがたく、劇中主人公が出会う人たちが皆親切すぎるとかも思うし(何より草太の友人である芹澤の存在設定自体かなり謎だ)、やはり本作にも「セカイ系」という言葉が頭をよぎる。作品としては『天気の子』のほうが好きなのだけど、本作にそうした問題をねじふせるエンターテイメント性があるのは確か。

THE FIRST SLAM DUNK

SLAM DUNK』は原作も少しは読んでいたが、アニメのほうをよく見ていた。アニメは1993年に始まり、1996年春に終わったはずで、それはつまりはワタシの大学時代にすっぽり入っており、一人暮らしのアパートの部屋で週末見ていた記憶がよみがえる。

ただ、毎週必ずという熱心な視聴者ではなく、大学生生活も卒論制作の佳境に入ったあたりでテレビ自体から遠のいてしまい、原作にしろアニメにしろ最後どうなって終わったというのを知らなかったりする。

つまりワタシは『SLAM DUNK』に特別な思い入れはない人間で、本作の話を聞いたときも、声優変更などにネガティブな感情は特にない代わりに、この映画を観たいという強い感情は起こらなかった。のだが、自分の観測範囲で良い評判が聞こえてくるので、観に行った次第。

正直、なんで原作者である井上雄彦が監督、脚本まで手がけるんだというのがあったが、登場人物が手書きされ、それが動き出すオープニングを観ただけで、これは成功者の余芸ではなく、本気なんだと気持ちが盛り上がるものがあった。

本作は宮城リョータが主人公なんだね。原作よりもずっとシリアスな人物描写をしているが、それも原作者が年齢を重ねたからというのが大きいのではないか。

個人的には、そうした主人公の掘り下げの描写に特に惹かれるところは正直なかった。また掘り下げも宮城リョータに偏っておりバランスが良くなく、結局は原作を知る人前提になってしまっている。原作での最後の相手である山王工業高校との試合場面の画作りと動きに何より引き込まれたが、それだけでは映画にはならないのかねぇ。

評判は聞いていたが、試合場面がよくできていたな。間抜けな表現になるが、まるで実写を見ているような迫力とアニメーションならではの魅力を両方感じた。花道のダブルドリブルで思わず声出して笑ってしまったよ。

イーロン・マスクはヘンリー・フォードの轍を踏み、過激思想にいたる暗黒面に堕ちつつある?

theintercept.com

二度のピューリッツァー賞受賞経験があり、『戦争大統領―CIAとブッシュ政権の秘密』(asin:4620317802)、『ザ・メイン・エネミー』(asin:4270000082asin:4270000090)の邦訳があるジェームズ・ライゼンが、イーロン・マスクヘンリー・フォードを比較した文章を書いている。

ジェームズ・ライゼンは、(イーロン・マスクヘンリー・フォードの名前を並べるからといって)これは誉めてるんじゃないからな、と最初に釘を刺してから話を始める。

起業した当時のヘンリー・フォードは、現代的な組み立てラインを構築して製造コストを下げ、生産性を向上させて低価格な自動車販売を可能し、アメリカ人の生活の在り方を一変させた革命的な天才だった。1920年代前半、世界の自動車の半分以上がフォード社で製造されてたってすごいね。

時は移り21世紀、自動車業界をリードするイノベーターとなったのは、テスラで電気自動車を成功させたイーロン・マスクである。

しかし、そのマスクは、ヘンリー・フォードがかつて辿った暗路をなぞっているように見えるとライゼンは書く。

巨万の富を築き、世界的な名声を得ると、フォードは偏見とパラノイアに支配された人生を送るようになった。具体的には、労働組合を憎悪して会社にスパイのネットワークを作って従業員を監視し、その生活を支配しようとした。そして、フェイクニュース反ユダヤ的陰謀論を売りにした新聞(ディアボーン・インディペンデント紙)を買い、その新聞は二度の世界大戦期にナチスやヨーロッパのファシストの間で大きな影響力を持った。

フォードはアドルフ・ヒトラーに気に入られ、ヒトラーはフォードの写真をオフィスに飾っていた、という話は知らなかったが、調べてみると、短期間とはいえフォードとヒトラーナチス)が相思相愛だった時期があったと言えそう。

マスクは、フォードを奈落の底に突き落としたのと同じ軌跡を辿っているとライゼンは書く。マスクは調査員を雇って従業員の電話をハッキングしてメッセージを盗み見し、やはり労働組合が嫌いなマスクは、テスラの従業員が組合を結成しようとしたら、広告会社を雇って、従業員の Facebook グループを調査したと報じられている

今年のはじめには、マスクが経営するもう一つの会社であるスペースXで、マスクに対するセクシャルハラスメントの訴えを解決したという報道を揶揄したマスクのツイートを非難した従業員を解雇している

そして今、かつてフォードが新聞社を使ってやったように、マスクは大規模な右翼の憎悪を(フォードの時代の新聞よりも遥かにこえる影響力を持つ)Twitter で広めようとしているとライゼンは主張する。ドナルド・トランプ、右派過激派、QAnon のアカウントブロックの解除だが、返す刀でマスクを批判したジャーナリストのアカウントを停止しているのはご存じの通り。

またマスクはウクライナ戦争の解決に向けたウラジーミル・プーチンの主張を鵜呑みにし、事実上プーチンのメッセンジャーに成り下がった。

ヘンリー・フォードの生涯を参考にするなら、マスクが今解き放っている憎悪は、彼が死んだ後もずっと広がり続けるだろうとライゼンは警告する。フォードの著書『国際ユダヤ人』は、出版から1世紀経った今でも、白人民族主義者や親ナチや反ユダヤ主義者に参照され続けている。

「右翼の火遊び」をしたのが、自身の自動車会社が敵に囲まれようとしていたときなのもフォードとマスクで共通するとライゼンは分析する。世界中の大手自動車メーカー(もちろんフォード・モーターを含む)の大規模な電気自動車市場への参入により、テスラの電気自動車市場におけるシェアは2025年までに70%から11%に落ちると予測されている。

ここからはワタシの感想になるが、ヘンリー・フォードとの符合というのは読み物としては面白いが、どこまで本気にすべきかとも思う。労働組合の敵視はマスクだけでなくアイン・ランドかぶれのシリコンバレー人種に共通するし、Twitter 買収も内輪向けのジョークのつもりの軽率書き込みが大事になってしまい、それがタイミング的に金利引き上げと重なり、低金利下でのアクセル全開の経営しか経験がないマスクにとって裏目裏目に出てしまい、ようやく実業で稼げるところにきたテスラの株価までとばっちりというのが実際のところに近い気もする。

まぁ、自業自得以外のなにものでもないけど。

ネタ元は Pluralistic

そうそう、ジェームズ・ライゼンというと、来年5月に久方ぶりの著書となる The Last Honest Man を出すようだ。

1970年代にたった一人でウォーターゲート事件後の情報機関の権力濫用に立ち向かい、副題にもあるように FBI や CIA を敵に回し、そしてケネディ家のマフィアとのつながりを暴いたフランク・チャーチ上院議員を取り上げる本とのこと。

ジェームズ・ライゼンは、この数十年アメリカの国家安全保障を口実にした情報機関の秘密主義と横暴に対するアンチテーゼとしてこの本を書いたようだ。その横暴に一度だけ勝利した人間がおり、それがフランク・チャーチ、ということですね。

日本人にとって彼は、ロッキード事件の引き金役となった上院における通称チャーチ委員会の委員長を務めたことで知られるので、そのあたりについての話が多ければ、邦訳も期待できるかも。

ウェブサイトに自分のTwitter投稿の検索ページを作れるのか

www.hyperorg.com

デヴィッド・ワインバーガーが過去15年分の Twitter の検索ページを作ったよとのことで、そのページで適当に人名などを入れたところ、リアルタイムに検索結果が表示され、おおっとなる。

これどうやって実現してるのかが気になるが、Darius Kazemi の手による twitter-archiver というオープンソースのツールを使用しているとのこと。

まずは Twitter からアーカイブをダウンロードし、作者のページにドロップすれば可能になるのだが、データが作者にわたるわけではなく、また検索結果にはダイレクトメッセージや非公開コンテンツは含まれないなどのプライバシーには配慮されているとのこと。

ただ、アーカイブファイルのサイズが 2GB を超えているとうまくいかないらしく、先月ダウンロードしたアーカイブファイルが 3.7GB を超えていたワタシは利用できないのが残念な話である。

gigazine.net

……と思ったら、GIGAZINE もこのツールを取り上げていた。実際に使いたい方は、これを参考にするのが良いでしょう。

イーロン・マスクによると、Twitter「エンジンに火がついた飛行機」とのことで、いつ Twitter 自体がなくなってもおかしくない。15年分の SNS の主戦場のアーカイブを何かしら残す努力が必要なのかもしれない。

ナッジ/スラッジをめぐるセイラー、サンスティーン、そして早川書房の連携プレイ?

bookplus.nikkei.com

2017年のノーベル経済学賞受賞者であるリチャード・セイラー教授がインタビューを受けているが、彼の代表作『実践 行動経済学』の「完全版」が出るんですな。『実践 行動経済学』は要は「ナッジ」なわけで、今の目で見ればよくない邦題に思えるが、その当時「ナッジ」というなじみのなかった単語を忌避した気持ちも分からんわけではなく、今回『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』として書名にちゃんと原題が入ったのはよいことかと思う(個人的には、イーライ・パリサーの『閉じこもるインターネット』が『フィルターバブル』として文庫化された件を思い出す)。

そういえば、昨年の「行動経済学の死」騒動の際、「ナッジ」も過大評価されてるという話もあったと記憶するが、「完全版」にはそのあたりに対する反論もあるのだろうか?

さて、このインタビューに吉良貴之氏がかみついている。

思わず笑ってしまったのだが、ちょうどよい具合に『スラッジ──悪い行動経済学』という本が出るんですな。しかも、著者は『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』の共著者でもあるキャス・サンスティーンとのこと。

正直、「マッチポンプ」という失礼な言葉が頭に浮かぶが、さすがは多作なサンスティーン教授、ちゃんと「スラッジ」を中心的に扱う本を書くところが商売上手である。

いや、商売上手というなら、日経BPが『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』を出す少し後に『スラッジ』を出してくる早川書房かもしれない。

(ニューカマーのみから)2022年の10曲を選んでみる

はじめに

一年前、「(ニューカマーのみから)2021年ベストアルバムを10枚選んでみた」というエントリを書いたが、今年は曲単位でやろうと思う。そちらのほうが YouTube をはるだけで読者の方にもすぐに楽しんでもらえるしね!

2022年にリリースされた曲から10曲を選ぶわけだが、ここでの「ニューカマー」が(昨年同様)ワタシにとっての新顔というのがポイントである。ワタシが今年その存在を知り、初めてちゃんと聴いたアクトから選んでおり、本当に今年デビューした人となると少なかったりする。

「若い頃にハマった音楽を聴き続ける」のは「頭の老い」のスタート地点である、という仮説を先日目にしたが、もはや現役の音楽リスナーと言えないワタシですら、ストリーミングサービスのプレイリストや信頼できる方のおすすめ経由で、手軽に新しい音を聴けるのはありがたい話である。

それでは、(ワタシにとっての)ニューカマーのみから選ぶ2022年の10曲は以下になる。

Wet Leg - Chaise Longue

今年のニューカマーといえば、やはりウェット・レッグでしょう。うまく説明できないが、ウェット・レッグの、女性二人がくすくす笑いあってる感じが良かった。

このライブバージョンはグラストンベリーフェスのものだが、原曲ではほとんど呟きの "Excuse me"、"What?" のやりとりが、オーディエンスによって堂々のコール&レスポンスになってるのが笑える。

たとえ、彼女たちが一発屋で終わっても、別にいいと思うの。ウェット・レッグだけはもう1曲動画をはっておきましょう。

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!


Jessie Buckley & Bernard Butler - Footnotes on the Map

ジェシー・バックリーというと、ドラマ『チェルノブイリ』や主役を演じた映画『もう終わりにしよう。』で認知していたが、こんな素晴らしく歌える人とは知らなかった。

この動画は今年30周年を迎えた「ジュールズ倶楽部」からだが、YouTube のトップコメントで、このパフォーマンスが "jools moments" と評されていて、ワタシも同感である。

さて、今年デビューだったアクトはここまで。以下は50音順に並べました。

Andrew Bird - Underlands

恥ずかしながら、アンドリュー・バードの存在を認知したのは今年だった。アルバム『Inside Problems』(asin:B09XRF4WHM)も好きでよく聴いた。

そうそう、アンドリュー・バードと言えば、フィービー・ブリジャーズとのコラボ曲も良かったですね。

Weyes Blood - It's Not Just Me, It's Everybody

恥ずかしながら、ワイズ・ブラッドの(以下略)。

アルバム『And in the Darkness, Hearts Aglow』(asin:B0BFQ12X4X)のリードシングルだが、夢のような曲であり、やはりドリーミーでありながら、ちょっと不気味なビデオも良かった。

Broken Bells - Love On The Run

ブロークン・ベルズが、デンジャー・マウスがやってるユニットというのも知らなかったねぇ。

Dawes - Someone Else’s Cafe / Doomscroller Tries To Relax

恥ずかしながら、ドーズ(以下略)。

たまたまこの長尺曲が気に入り、同時期にジョニ・ミッチェルの情報目当てで、Rolling Stone の「フジロックで名演、Dawesが語るジョニ・ミッチェル復活劇と音楽的チャレンジ」という記事を読んだら、答えてるのあの曲の人じゃんと気づいた次第。

kathryn joseph - what is keeping you alive makes me want to kill them for

このキャサリン・ジョセフという人のことは未だ何も知らないのだが、この楽曲並びに歌詞の独特の不穏さには中毒性があり、繰り返し聴いたものである。

Julian Lage - Saint Rose

ジュリアン・レイジ(ジュリアン・ラージ)のアルバムは確かいくつか聴いているはずなので、こういうリストに入れるのは反則なのだけど、にぶいワタシもようやくピンときたので入れさせてもらった。

ジャズギタリストとしての守備範囲はビル・フリゼールとかとも重なるし、ワタシもビル・フリゼールは大好きだけど、彼とはまた違ったギターの音色の良さとかあるんですよ。

そのフリゼールと共演している新作『View With A Room』(asin:B0B4FV36ZS)おススメです。

Monica Martin - Go Easy, Kid (with James Blake)

これはジェームズ・ブレイクとのコラボ曲で、美しくて切なくてとても良い出来だったので、モニカ・マーティンという人のアルバムをはやく聴きたい。

Julius Rodriguez - All I Do

柳樂光隆さん経由で知ったジュリアス・ロドリゲスだが、この曲はスティーヴィー・ワンダーのカバーで、原曲よりもゴスペルっぽく、なおかつコンテンポラリーに仕上げている。

Trombone Shorty - Come Back

トロンボーン・ショーティはジャンル的にはジャズになるが、この曲はポップソングとしてよくできてます。

ここまでがワタシにとってのニューカマーのみから選ぶ2022年のベスト10曲になる……おい、10曲を超えてるじゃないかと言われそうだが、こまけぇこたぁいいんだよ!

ニューカマーという縛りをなくして今年のベスト曲は、やっぱりビヨンセのあれか、ジョエル・ロスのこれですかね。

そうそう、2022年に知った曲で気に入ったものを適当に追加していった Spotify プレイリストが6時間超えになってしまったので、大掃除など年末の作業のおともにどうぞ。


おわりに

この文章は 2022 Advent Calendar 2022 の第19日目の記事である。昨日は marr さん、明日は youkoseki さんです。

この「ベスト・オブ・XXXX」Advent Calendar への参加は、2020年以来になる。昨年は確か鬱状態だったか気分が乗らずに参加できなかったのに、今年またお声をかけてくださった taizooo さんに感謝する。

2022年は転居して6年住んだ地を離れたり、CISSP の資格をとったり、何より WirelessWire News 連載を復活させたりでいろいろ大変な年だったが、来年は一層大変な年になりそうで、身体を壊さないようにしたい。

本ブログは年内、もう一度くらい更新するかな。

Drupalが死にかけているって!?

medium.com

Drupal と言えばオープンソース CMS の代表格だが、それが死にかけていると訴える穏当ではない文章である。

ワタシも昔 Drupal の原作者である Dries Buytaert の「エンタープライズとクラウドにおけるオープンソース」という文章を訳しているが、それが2010年、そういえばホワイトハウスがDrupal関連コードを公開したのも2010年で、そのあたりがもっとも勢いがあったんでしょうかね。

さて、上で挙げた文章は、Drupal の主要なカンファレンスにはすべて参加してきたと豪語する Maxime Topolov で、彼はもう Drupal の採用を人に勧めないという。Drupal が死にかけている理由を列挙しているので、それだけ紹介しておく。

  • どんな用途にも使えるがゆえに複雑になりすぎている
  • PHP 上で動く(才能ある開発者は Go、Rust、Python などに鞍替えしている)
  • MACH(マイクロサービス、API ファースト、クラウド、ヘッドレス)アーキテクチャのトレンドに乗りそこなった
  • SaaS CMS のエディタとの熾烈な競争
  • オープンソース(開発者向けのオープンソース製品は栄えるが、エンドユーザ向けの分野では、Wordpress などの例外を除くと難しい)

最後の項目など、なんでそれが理由になるんや、と思われるものもあるので、詳しくは原文をあたってくだされ。Maxime Topolov は、モダンな MACH アーキテクチャが必要なところに Drupal は勧めないが、サポート期間が長い公共セクターにはまだ使えるのではないかとまとめている。うーむ。

Linux Foundationが地図とメタバースのプロジェクトを立ち上げ……なんで?(特に前者)

www.linuxfoundation.org

Linux Foundation からのニュースレターに、Overture Maps FoundationOpen Metaverse Foundation の立ち上げが告知されている。

前者はオープンな地図のプロジェクト、後者はオープンなメタバースのプロジェクトである。

世間的にはメタバースのほうに注目がいくのだろう。これについては「Open Metaverse Foundationの設立に向け始動」という日本版の記事も参考になるだろうが、個人的にはオープンな地図のプロジェクトのほうが気になる。

OpenStreetMap があるのに、なんで新たにオープンな地図のプロジェクトを立ち上げるんだろう?

ネタ元は Slashdot だが、案の定「OpenStreetMap があるのになんで?」という声があがっている。

yamdas.hatenablog.com

ここで OpenStreetMap について最後に取り上げたのは、およそ2年前のこのエントリになるが、その後どんなものなんだろうか。

Overture Maps Foundation のサイトを見ると、Amazon、Meta、そしてマイクロソフトが立ち上げメンバーに入っており、要は Google マップ対抗ということだろう。ならば本腰入れて OpenStreetMap を支援するのでよいかと思うのだが。

www.linuxfoundation.org

Linux Foundation の個別の告知を見ると、一か所 OpenStreetMap について触れられており、そうした既存のプロジェクトのオープンデータの統合を目指しているようだ。

しかし、なんで Google マップ対抗の動きに Linux Foundation が乗るのか、果たしてここの地図データのライセンスは何になるのかなど疑問がいくつか湧く。

アンソニー・ボーディンが訪ねた世界中のレストランを一望できるマップ

boingboing.net

世界的なセレブ料理人、フードジャーナリストだったアンソニー・ボーディンについては、今年「アンソニー・ボーディンが説く初めて行く都市でレストランを探す方法「ネットでオタクを怒らせる」」というエントリがちょっとバズったが、その彼が訪れたすべてのレストランを世界地図で見れるサイト Bourdain's World Map ができているのを知る。

アンソニー・ボーディンの食の旅といえば、『クックズ・ツアー』asin:4907511086)という本が出ているが、このマップを見ると、アメリカ大陸や欧州はもちろん、アジア、中東、アフリカもいろいろ行っているのが分かる。

やはり日本の訪問先が気になるが、熱海のお店が入ってないのはいいのかな。やはり東京中心で、九州では湯布院あたりが一軒だけなのは少し残念。

アンソニー・ボーディンと言えば、Down and Out in Paradise: The Life of Anthony Bourdain という伝記が今年出ている。この本は、ニューズウィークが選ぶ「冬休みに全部まとめて読みたい、今年アメリカでベストセラーになった16冊」にも入っており、もちろん面白いに違いないのだが、「楽園で落ちぶれて」という題名が、あれだけ愛された彼の悲劇的な死をどうしても想起される。

ルー・リード「ワイルドサイドを歩け」の珍しいサンプリング? カバー?

americansongwriter.com

あなたが知らないルー・リード「ワイルドサイドを歩け」をサンプリングした3曲……って、最初の二つは有名だろが! と年寄りのワタシは思ってしまうのだが、トライブ・コールド・クエストはともかく、マーキー・マーク&ザ・ファンキー・パンチのほうは知らない人も多いのかな。

つーか、今では押しも押されぬ人気俳優であるマーク・ウォールバーグがマーキー・マークだったことを知らない人のほうが大半なのかも。そんなアナタにファンキー・パンチ!(ってなんや) 性格の悪いワタシなど、未だに脳内で「マーク・ウォールバーグ」を「マーキー・マーク」に変換してしまうのだが。

それはともかく「ワイルドサイドを歩け」は、特徴的なベースラインがよくサンプリングされる印象があるのだが、この記事で挙げられているハイムの「サマー・ガール」は、ちょっと例外的なケースと言える。

この曲、本当に気持ちいいよね。このビデオを監督しているのはポール・トーマス・アンダーソンで、ハイムとの交友が一家総出演な『リコリス・ピザ』につながるわけだ。

聴けばお分かりなように、「サマー・ガール」は「ワイルドサイドを歩け」をサンプリングしているわけではない。曲は彼女たちのオリジナルで、「ワイルドサイドを歩け」のカバーでもない。しかし、ヴォーカルのハミングとサックスが影響を受けたということで、ルー・リードもクレジットに入ったようです。

このライブバージョンを聴くと、歌とサックスだけでなくベースラインとギターリフも「ワイルドサイドを歩け」の影響受けてると分かるのだが(笑)。

americansongwriter.com

「ワイルドサイドを歩け」が取り上げられている記事をもうひとつ。キャンセルされるべき(?)ロックの楽曲を挙げるリストの中に「ワイルドサイドを歩け」が入っている。他には、最新ツアーでは演奏しなくなったローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」などが入っていて、あれはドラッグ、奴隷虐待、セックスなど歌詞にてんこ盛りなので分かりやすいが、「ワイルドサイドを歩け」はなぜリストに入っているのか?

この曲は、キンクスの「ローラ」を並んでトランスジェンダーを扱ったロックの名曲として知られるが、そのあたりがマズいのか? 実はそうではない。

この曲のサビの黒人コーラスが入る直前の「colored girls」というフレーズ、特に「colored」という単語が問題なのである。

ロキノンを読んでいて、ピート・タウンゼンドがインタビューで、ルー・リードのライブで「ワイルドサイドを歩け」を聴いたら、問題の「colored」のくだりを変えて歌っていたのに気づき、終演後本人に理由を聞いたら、「もうあの言葉は歌えないんだよ」と答えられた話をしていたのを思い出す。

当時は「なにがいかんのや!」と思ったものだが、この単語はすごく悪い意味で時代遅れな響きがあるらしい。

最後にちょっと笑える「ワイルドサイドを歩け」を観てもらおう。ジミー・ファロン、コナン・オブライエン、ダナ・カーヴィアダム・サンドラージャック・ブラックといった人気コメディ俳優、人気ホストとルーが共演するのだが、これが今から20年近く前の映像なんだな。そして、この動画でコメディ陣とのハイタッチを完全に無視する強面のルーもこの10年後には亡くなるのである。

20年経って、ルー以外の全員が存命で、まだ一線にいるのはすごいのだが(ダナ・カーヴィは……)、ジミー・ファロンが若いねぇ。

当然ながら、「colored girls」のフレーズは歌われない。

ウーマン・イン・ミュージック Part III

ウーマン・イン・ミュージック Part III

  • アーティスト:ハイム
  • ユニバーサル ミュージック
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VERY BEST OF

VERY BEST OF

Amazon

WirelessWire News連載更新(風上の人――スチュアート・ブランドの数奇な人生)

WirelessWire News で「風上の人――スチュアート・ブランドの数奇な人生」を公開。

実は前回の「クリストファー・アレグザンダーと知の水脈の継承」を書く時点で、つまりは先月のはじめには次はスチュアート・ブランド並びに『Whole Earth』について書くと決めていたのだが、なかなか書きだせずにかなり苦労した。たまたま恵贈いただいた『天才読書』のおかげでなんとか書き出し始められた。

ワタシはやはり『ホール・アース・カタログ』以降の仕事に興味があるのだけど、スチュアート・ブランドの日記や手紙まで取材して、彼の人生を辿っているので、それ以前の、例えばトム・ウルフの『クール・クール LSD交感テスト』に書かれる60年代ドラッグカルチャーに関心がある人も面白いだろう。

『Whole Earth』は、既に(おそらくは服部桂さんによる)邦訳作業が進んでいると思うが、ドキュメンタリー映画のほうも配信でいいから日本で観れるようになってほしいところ。

さて、今回はとにかく準備(資料集め)に時間がかかり、それも影響してかなりの長さになってしまった。次回はタイトにまとめたいところ。

今回の文章はかなりの怒られが発生することが予想される。その理由を自分で書くのもなんなので、今回は材料に集めたが使えなかったものがいくつもあるので、その一つを紹介してお茶を濁しておく。

『Whole Earth』刊行を受け、ブランド自身も今年いくつかインタビューを受けているが、個人的に苦笑いしたのは NPR のポッドキャスト。ジャーナリストのマヌーシュ・ゾモロディからロング・ナウ財団について、一万年の時を刻む時計を実現する最大の支援者はジェフ・ベゾスだが、オンデマンド消費社会の王者である Amazon の創業者である彼は、長期的視点を持てないという現代人の問題に加担する側ではとツッコまれ、さらには倉庫労働者の職場環境や給料、また取引先の中小企業を簡単に切り捨てるお決まりの Amazon の問題まで叩き込まれ、ブランドは(ワタシから見れば)グダグダっぽい反論しかできてなかったりするのだが、こういう人間関係ひとつ見てもブランドが純粋主義者でないのが分かる。

「世界を変えた26行のコード」とは何か

thenewstack.io

"You Are Not Expected to Understand This" という新刊の編者である Torie Bosch へのインタビュー記事なのだが、この本の「あなたがこれを理解してくれると期待はしていない」という題名からして不穏だし、「いかにして26行のコードが世界を変えたのか」という副題も興味をそそる。これだけでつかみはオッケーである。

この題名を見てピンときた人もいるだろう。これはデニス・リッチー先生が UNIX v6 のソースコードに書いたコメントで、これについては Jargon FileWikipedia に項目が立っているくらい年寄りには有名で、デニス・リッチー自身も説明する文章を書いている。

つまり、この本はコードについての本で、コンピュータ上で動作するコードが人間的な意思決定の結果であり、いかに我々の生活がそれに依存しているか、それこそアポロ計画や前述の昔の Unix の話から、最初のコンピュータワーム(モリス・ワームの話とみた)から近年のビットコインにいたるまで語る本みたいで、これは面白い(現在に直結する)歴史物語をいくつも読めそうだ。

いろんな人が寄稿しているが、不勉強なワタシが知っているのはイーサン・ザッカーマンくらいで、おそらく彼はポップアップ広告の話を書いてるのだろう。……と思ったら、「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2021年版)」で紹介した『The Innovation Delusion』の共著者 Lee Vinsel も書いてるね。

おっと、ここまで読んでも「世界を変えた26行のコード」が何か分からないのだが、この本の邦訳が出るのを期待することにしよう。

ネタ元は Slashdot

テクノロジーによる民間と公的機関との協働を考える上で必読そうな『シビックテックをはじめよう』

安藤幸央さんのツイートで、シド・ハレル『シビックテックをはじめよう 米国の現場から学ぶ、 エンジニア/デザイナーが行政組織と協働するための実践ガイド』が出るのを知る。

wirelesswire.jp

ワタシも少し前に「公益テクノロジー」についての文章を書いているが、「シビックテック」と「公益テクノロジー」は多分に重なるところがあると思うので、この邦訳の刊行は喜ばしい。

ワタシの文章でも名前を出した Code for Japan の関治之氏、そしてワタシにとっての恩人である日本 Ruby の会の高橋征義氏が日本語版に寄稿しているのも的確な人選だと思うし。

フリッツ・ラングの名作『メトロポリス』はとっくにパブリックドメインじゃなかったの?

boingboing.net

フリッツ・ラングの代表作『メトロポリス』が来年2023年1月1日にパブリックドメイン入りするよという話題だが……え? 『メトロポリス』ってとっくにパブリックドメインじゃなかったの?

ワタシは大久保ゆうさんが字幕をつけたバージョンを既に観ているぞ。

これにはもちろん理屈があるのだと思うが、あとひと月も経たずにどちらにしろパブリックドメインになるのだから、あまり深く考えないことにする。

しかしなぁ、ワタシは2年前にもF・スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』のパブリックドメイン入りについて書いているが、こういうのはなんとも悩ましいものがある。

ビル・ブルーフォードの日本の音楽シーン評:日本には批判的思考がほどんどない

yamdas.hatenablog.com

ビル・ブルーフォードが2009年、60歳になったのを機に音楽業界をすっぱり引退してしまったのはご存じの通りだが、昨年はBlack Midi のモーガン・シンプソンと対談を行ったり、今年に入って自身の YouTube チャンネルを開設し、彼が所属したキング・クリムゾン、イエス、UK といったバンドの映像、そして自身のバンドの動画をアップロードして楽しんでいる。

時間的余裕があるのか、これらの動画にはブルーフォード自身が演奏の背景などを解説するコメントを書いていて、読んで唸ることがある。

最近は、ジェフ・バーリンと参加した渡辺香津美のアルバム『Spice Of Life』後のライブ映像をアップロードしているが、これにつけているコメントにまたしても唸った。少し訳してみる。

80年代と90年代、私は日本に何度も――時に年2回――行ったものだ。90年代半ばに日本経済が崖から落ちるまでの話だけど。日本は働くのに素晴らしい国で、人々は極端なまでに礼儀正しい。しかし、日本の音楽シーンには西洋で見られるような批判的思考がほどんどなく、アルバムやコンサートの評やインタビューを読んでも、その音楽についてどう考えているか知ることができなかった。

果たしてその状況は、数十年経って変わったと言えるだろうか。

そういえば、ビル・ブルーフォードといえば、今年は彼のキャリアを網羅するCD6枚組アンソロジーが出ていたね。

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