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追悼ブライアン・ウィルソン――渋谷陽一が語る「いちばん好きなビーチ・ボーイズのビデオ・クリップ」

nme-jp.com

スライ・ストーンブライアン・ウィルソンとポップミュージックの世界で偉大な仕事をなした人の訃報が続いたが、二人とも82歳、自分たちが知る音楽界の偉人が寿命で亡くなるようになったのだなという感慨があった。

ビーチ・ボーイズは必ずしも得意ではないが、ブライアン・ウィルソンのソロ作は、アルバム『Imagination』あたりからリアルタイムで楽しむことができて良かった。

Facebookブライアン・ウィルソンが出ているある動画を見て、ああ、これが昔、渋谷陽一の本で読んだやつか、と記憶がよみがえった。

そういうわけで今回は、渋谷陽一浜田省吾山下達郎忌野清志郎大貫妙子仲井戸麗市遠藤ミチロウと行った対談を収録した『ロックは語れない』(新潮文庫)における、浜田省吾との対談からかなり長くなるが引用したい(pp.33-34)。

渋谷 前に桑田(佳祐)が言ってたんだけどさ、なんで世の中の連中ってのはポップ・ソングっていうと明るく楽しく元気よくって思うのか、あんな哀しいものはない、ってね。ポップ・ミュージック作るやつはみんな、自分を含めて、性格が暗くてイジケてて可哀想な連中ばっかなんだって。で、考えてみるとビートルズジョン・レノンとかさ、ビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンとかさ、ほんとにみんなそうだよね。
浜田 カーペンターズの歌にいい詞があって、すぐれたラブ・ソングっていうのはいつもいつも雨の心で書かれているっていうの。
渋谷 なんか、悲しいよね。
浜田 うん。その後ろにいる、作った人たちっていうのは悲しい人が多いかもしれないよね。
渋谷 ビーチ・ボーイズブライアン・ウィルソンも、そういう中で作ったんだろうなァって気がしますね。僕がビーチ・ボーイズのビデオ・クリップでいちばん好きなのは、ブライアン・ウィルソンビーチ・ボーイズでいながらサーフィンが大っ嫌いってのを主題にしたやつでさ、ブライアン・ウィルソンがホテルの部屋かなんかに暗ーくひとりでいるわけ。そこにブルース・ブラザーズの二人――そのころはまだマイナーだったんだけど、二人が警官のかっこして来てドンドンドンッて部屋の戸を叩くわけ。「なんだ」って、ブライアン・ウィルソンが出てくと、「おまえはまだ、カリフォルニアの新しい法律を知らないのか、カリフォルニアの住人は、一日に一回ビーチ・ボーイズを聴いてサーフィンをしなくちゃいけないんだ」って(笑)。そうじゃないと追放されるって、そう言うわけ。ブライアンが「そんなのやだ、俺、サーフィンも嫌いだし、ビーチ・ボーイズも大嫌いだ」って言うとね、「なに言ってんだ、バッキャロー」って、ヘッドホーンでむりやりビーチ・ボーイズを聴かされてさ、サーフ・ボード持たされて、ズルズルッと浜辺へ連れていかれるわけ。「俺はイヤだ、俺はイヤだ!」って言いながら、海に放り込まれるっていうね……(笑)
浜田 そんなのあるんですか!? 見たいなァ。
渋谷 それ山下達郎に話したんだよ、コレハオマエダって(笑)。コレガオマエナンダ、って。
浜田 彼もそうなんでしょ。スポーツとかは一切ダメなんでしょ。
渋谷 そ。それで考えこんじゃって、「それは優れたビデオだ……」って(笑)。笑わないんだよあいつ、感心して。だけどさ、ビーチ・ボーイズの美しさというのをあのブライアン・ウィルソンの病いが作っていたというね……。

渋谷陽一が語る「ビーチ・ボーイズのビデオ・クリップでいちばん好きなの」、観たくないですか? それではみてみましょう。

こうして本物を見ると、上で引用した渋谷の発言にいくつも事実誤認があることが分かるが、なによりこれ、「ビーチ・ボーイズのビデオ・クリップ」ではなく、テレビ番組『Saturday Night Live』のコントである。そんなの1980年代当時だってレコード会社なりに確認すれば分かる話だと思うのだが、そういうのが許される時代だったのだろう。

これは1976年のもので、当時ブライアン・ウィルソンビーチ・ボーイズのツアーに復帰し、その年リリースされたアルバム『15 Big Ones』は、「ブライアン・イズ・バック」のキャッチフレーズで大々的に宣伝されていた。SNL への出演もそのプロモーションの一環だったと思われる。

しかし、それが本当の「ブライアン・イズ・バック」ではなかったのを我々は知っている。

というか、その後のブライアン・ウィルソンは、例えばファーストソロアルバム発表時などずっと「ブライアン・ウィルソン復活!」と言われながら低空飛行を繰り返した歴史でもあった。

そのあたりについては映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』にも一部描かれている通りである。

それでもブライアン・ウィルソンは素晴らしい作品をいくつも遺した。素敵じゃないか。

アディ・オスマニによる「MCP解説四部作」と次なるオライリー主催AIコーディングイベント

wirelesswire.jp

今月のはじめに MCP(Model Context Protocol)について書かせてもらったのだが、まだひと月も経たないのに大分前のことに思えてしまう。それくらい AI の分野は話が進むのが早い。

そんなところになんだが、WirelessWire News 原稿やこのブログでもちょこっと触れている Addy Osmani の MCP 解説文書が四部作になって完結しているのを紹介しておく。

Addy Osmani のオライリーでの仕事はまだまだ続きそうである。

www.oreilly.com

ティム・オライリーとアディ・オスマニが共同ホストを務めるイベントも既に取り上げているが、好評で手ごたえをえたのか、第2回となる Coding for the Future Agentic World の9月開催が告知されている。やはり、この二人が共同ホストである。

「未来のエージェント型の世界に向けたコーディング」ですか。やはり「agentic」がポイントなんでしょうな。

トレンドマイクロによる「AIエージェントと脆弱性」シリーズが完結している

AI エージェントの脆弱性を包括的に解説したシリーズが全5回で完結している。

あまり評判になっている気配もないが、かなり包括的に AI エージェントのセキュリティリスクについて情報を網羅していると思うので、取り上げさせてもらう。

そろそろ AI 自体の脆弱性がテーマの決定的な書籍が登場してもよい頃ではないかな。

『ブルース・ブラザーズ』は永遠なり? 映画公開から45年を経て本が出る

上のブライアン・ウィルソンの追悼エントリとは関係なく、ジョン・ベルーシダン・エイクロイドによるブルース・ブラザーズの話題である。公開から40年以上経ってなお、この映画に関する本が出ているのだ。

まずは Pluralistic で知った、映画『ブルース・ブラザーズ』の制作過程をたどる The Blues Brothers: An Epic Friendship, the Rise of Improv, and the Making of an American Film Classic が昨年出ており、Amazon のエディタが選ぶ Best Books of 2024 にも選ばれている。

この映画の制作過程やトリビアについてはワタシも何度か取り上げているが(その1その2)、本にまとまったのはありがたいというか、邦訳出てくれないかな。

もう一冊は amass で知った The Blues Brothers: The Escape of Joliet Jake だが、「『ブルース・ブラザース』へのラブレターであり続編」のグラフィックノベルとな。しかも、デラックス版には未発表ライヴ・アルバム『The Lost Recordings』が付属されるというのがすごい。

Z2 Comics のサイトを見ると、¥74,778(!)のプラチナム版は既に売り切れだが、件のデラックス版が¥22,432で買える。

ドールハウス

矢口史靖の監督作は『ハッピーフライト』あたりまでは観ていたが、その後ちょっと縁がなくなっていた。といっても彼の作品が嫌いになったとかではなく、縁としか言いようがない。

彼にはやはりコメディのイメージがあるが、本作はストレートなホラー映画と聞いて、久しぶりに興味を持った次第である。

観てみると、今野浩喜安田顕田中哲司の演技に矢口監督らしいコメディ味もあるものの、110分の上映時間の間弛緩のないホラーに仕上がっている。

しかしね、日本人形でホラーって、予告編にもある存在自体のショック描写は想定できるとして、それで本当に場を持たせられるのかと訝しく思っているところもあったのね。まさか『チャイルド・プレイ』(古い……)みたいに人形が暴れまわるものじゃないだろうし……と思っていたら、ここまでしっかり日本映画における人形ホラーを成功させたのは見事だよね。

もちろん主演の長澤まさみも良かったです。

デジタル人材のためのブックレビュー(ブルース・シュナイアー『ハッキング思考』)

COMWARE PLUS の「デジタル人材のためのブックレビュー」でブルース・シュナイアー『ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか』を公開。

実を言うと、このブックレビューの話をいただいたとき、最初に浮かんだのはこの本だったりする。しかし、新野淳一氏が『情報セキュリティの敗北史』について書くのが分かっていたため、セキュリティ関係の本が続くのはどうかと2回目にシフトさせてもらった。

さて、次に取り上げる本は……実はまったく決まっていない。

Pythonの生みの親が問いかける「今でも『悪いほうが良い』と言えるのか?」

developers.slashdot.org

先月開催された今年の Python Language Summitライトニングトークに、Python の生みの親であるグイド・ヴァンロッサムが登場し、「悪いほうが良い(Worse is better)」原則は今でも通用するのか、と問いかけている。

プログラミング言語Python の開発初期、主要プラットフォームだった UNIX の「悪いほうが良い」哲学には大きな影響を受け、長年この考え方がとても有用だったとグイド・ヴァンロッサムは認める。

この考え方のおかげで3か月で何かを動作させることができたと彼は言うが、その後、年月を経て、自分が手抜きしたすべてが最終的には修正されたとも認める。「当時はテストすらなかった」と言って、彼は笑いを取る。

「あの当時、『悪い方が良い』は、言語を受け入れてもらう鍵でした。ユーザからのフィードバックや、私を称賛してくれる人たちからもらうエンドルフィンなしに、言語設計に3年取り組む余裕はありませんでした」

Python の初期リリースは、開発を始めて一年未満で実現したが、クラスを除いて問題は何ら修正されなかった。もっともそのクラスもインターンによって追加されたのだが。

Python が完璧でなかったことが、多くの人々が貢献を始めるきっかけになったのです。コードはどれもシンプルで、最適化は何ら考慮されていませんでした」「これら初期の貢献者は、言語で利益を享受したのです。Python は彼らの子供のような存在でした」

その上で、『悪い方が良い』という考え方に今でも役目はあるのだろうかと彼は問いかける。今では Python には巨大なコミュニティがあり、開発体制も初期とはまったく異なる。

グイド・ヴァンロッサムは、機能の完成度に目をつむってコミュニティに試してもらうものを提供できた昔を懐かしんでいるようだが、昔に戻すこともできないのは承知している。

彼は最後に、Python で Rust を利用するためのバインディングを提供する PyO3 についての講演を引き合いに出し、これの開発には『悪い方が良い』原則が見られると評価している。PyO3 の開発は CPython よりずっと楽しそうだと言い、「とは言え、私は個人的に Rust を学ぶつもりはない……けど、後で試してみるべきかもな」と言って会場を笑わせたそうな。

人工汎用知能(AGI)が直面する5つの重大な国家安全保障上の課題

hls.harvard.edu

アメリカのシンクタンクであるランド研究所(RAND Corporation)の Jeff AlstottJoel B. PreddCasey Dugan の3人の研究員が、ハーバード大学の Berkman Klein Center 主催で人工汎用知能(Artificial General Intelligence、AGI)が直面する5つの重大な国家安全保障上の課題をテーマに講演を行っている。

5つの重大な国家安全保障上の課題とは何か。

  1. ワンダーウェポン(決定的兵器)の登場:AGI が軍事バランスを一気に覆す兵器や能力を生み出す可能性
  2. 国家間のパワーバランスの体系的変化:AGI が産業革命のように、経済・軍事・科学力の基盤を徐々に変化させ、国家間の競争力格差が拡大する可能性
  3. 非専門家による大量破壊兵器の獲得:AGI が悪意ある非国家主体(テロリスト等)による生物兵器やサイバー兵器の開発を可能にし、リスクが拡大
  4. 制御不能・アライメント問題:AGI が自律的に行動し、人間の意図と異なる行動をとることで、人間の意思決定権が奪われ、予期せぬリスクや社会的混乱を招く可能性
  5. 不安定性の増大:AGI の開発競争が国際的な緊張や予防戦争、経済戦争を誘発する恐れがある

まぁ、AGI は核兵器と同等、あるいはそれ以上の地政学的影響をもたらし、国家の安全保障のパラダイムを変える可能性があるので、それに柔軟かつ戦略的に備える必要があるという趣旨ですね。

ここまで書いて念のために検索したら、ランド研究所のサイトで同名の論文が公開されていた。

動画じゃなくて、こっちをはじめから読んでおけばよかった……。

しかし、もうちょっとランド研究所のサイトを調べてみると、「人工汎用知能の普及がアメリカで内戦を引き起こす可能性はあるのか?」といった AGI に関する物騒な論文が公開されており、のけぞってしまう。

息子ニック・ハーカウェイが選ぶ「ジョン・ル・カレの5冊」

fivebooks.com

ここでも何度も取り上げている Five Books だが、2020年に亡くなったスパイ小説の大家ジョン・ル・カレの最高傑作5冊を選んでいる。選者はニック・ハーカウェイ……って『世界が終わってしまったあとの世界で』(asin:B00KVA42OYasin:B00KVA42QW)、『エンジェルメイカー』(asin:B00ZQHDF4U)、『タイタン・ノワール』(asin:4150124655)の邦訳がある作家にして、ジョン・ル・カレの息子さんやないか。

ワタシ自身読んだことがあるのは『寒い国から帰ってきたスパイ』だけで、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』は映画『裏切りのサーカス』を観て知ってるくらいで偉そうなことは書けないが、これは貴重な企画だろう。

で、ハーカウェイが選んでいるのは、以下の5冊である。

  1. 『寒い国から帰ってきたスパイ』(asin:4150401748asin:B00B7GJ75U
  2. 『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(asin:4150412537asin:B00BN5GYDI
  3. 『シングル&シングル』(asin:408773336X
  4. ナイト・マネジャー』(asin:4150408777asin:4150408785
  5. 『繊細な真実』(asin:4150413932asin:B00RKN47RW

『寒い国から帰ってきたスパイ』は昨年舞台化されてるのね。ジェームズ・ボンドの世界の対極にある「ふつうの人」としてのスパイ、そして大英帝国が崩壊し、自分たちが「善人」ではなく「悪者」ではないかという「道徳的危機」に向かい合う作品と評しており、この「道徳的危機」は21世紀的なテーマだとハーカウェイは語る。

そして、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』は、『寒い国から帰ってきたスパイ』よりもル・カレのスパイの世界の構造をバロック的で曲折に富んだ形で描いていると評価している。

他にもハーカウェイは子供の頃、朝食のテーブルでル・カレが声に出して自作を読んでくれて「スマイリー」シリーズの韻律やリズムを吸収した話、ジョン・ル・カレは彼の父親デヴィッド・コーンウェルが「執筆のために着るコート」であり、ル・カレは気性が激しく過激だったが、コーンウェルは内気で傷つきやすかった話など興味深い。

ハーカウェイによると『シングル&シングル』と『ナイト・マネジャー』は対のような本で、『繊細な真実』は刊行直後にアメリカ人の登場人物が「漫画のような悪党」と評されるなど不当に過小評価された。『繊細な真実』はドナルド・トランプが大統領になる前に書かれた小説だが、2025年の現在、前述の批判は通用しないだろう、とハーカウェイは反論している。

このインタビューで知ったのだが、ハーカウェイは昨年、『寒い国から帰ってきたスパイ』と『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の間の期間を埋める、「スマイリー三部作」で知られるジョージ・スマイリーが主人公の Karla's Choice を書いており、高い評価を得ている。父親の十八番のシリーズを息子が書き継ぐというのはあまりないと思うが、この企画自体、それがあってこそ実現したものだろうね。

これは早川書房から邦訳を期待したいですな。

国宝

『パディントン 消えた黄金郷の秘密』を観に行った日、この日公開初日だった本作も有力候補だった。

しかし、上映時間の長い映画に対する反感がかつてないほど高まっており(当社比)、「3時間とか勘弁してくれよ」と却下となった。なのに、ワタシの観測範囲でこれを絶賛する声を複数目にすると観たくなってくるのだから現金なものである。

ワタシは金曜夜にレイトショーで映画館に行くことにしているが、先週末は出張のため金曜は出向けず、土曜夜に近場の TOHO シネマズでの鑑賞となった。なんか異様に売店が混んでいるなと思ったら、そういうことでしたか。

公開二週目で客席はかなり埋まっており、久方ぶりに両側の席をカップルに挟まれての鑑賞になり、嗚呼、だからワタシは土曜を避け、金曜夜に行くことにしてたんだったと再認識したりした。

吉田修一原作の李相日による映画化の相性が良いのは『悪人』で知っているが(『怒り』は観ていない)、正直歌舞伎の世界を舞台とする本作は、映画化可能なのかな、具体的にはこれを演じられる役者がいるのかなと思っていた。

本作の吉沢亮横浜流星はそのハードルを見事に乗り越えている。任侠の家系に生れながら歌舞伎の世界に入っていく喜久雄(花井東一郎)と、歌舞伎の名門の生まれの俊介(花井半也)の、その時々での「血筋」と「才能」をめぐる明暗が描かれる本作だが、歌舞伎の舞台をしっかり見せながら、カットバックなどを駆使する編集がうまいのか、三時間の上映時間がまったく気にならなかった。

本作に備えて餅を服用しての鑑賞だったが、飲み物を飲むのを忘れていたくらい。

吉沢亮にしろ横浜流星にしろ、歌舞伎役者の「化け物」性をよく演じており、人間国宝役の田中泯『PERFECT DAYS』に続く怪演を見せている。本作における二度目の曾根崎心中の場面は、そのディティールまで忘れられないだろう。

WirelessWire News連載更新(MCPが後押しするAIじかけのウェブ、AIが後押しするウェブの空洞化)

WirelessWire News で「MCPが後押しするAIじかけのウェブ、AIが後押しするウェブの空洞化」を公開。

ここ数か月の執筆ペースでいけば、今週末に書き上げるくらいでちょうどよいはずだが、来月から本業が尋常でなく忙しくなるのが見えているため、書けるうちに書いておこうと思った次第である。

極端な話、三カ月連続で原稿を書けなかったら、さすがに連載自体終わりになるだろうし。

今月は元々 "AI jobs apocalypse" について書こうかとぼんやりと考えていたのだが、平和博さんがズバリ「「新人の仕事、半分が消滅」とAnthropicのCEO、高まるAIリストラのインパクトとは」という文章を書いているので、別の話題にさせてもらった。

今回はいつもよりも短い分量に抑えられてよかった。

そうそう、MCP といえば、来月はじめに秀和システムから本が出るみたい。

Kindle セルフパブリッシングを除けば、これが日本で初めて出る MCP 本じゃないかな。

あと、今回の文章で名前を引き合いに出したスティーブ・ウィルソンは、昨年に LLM セキュリティ開発本を出している。

これは邦訳を期待したいところ。

イーロン・マスクを中心とするシリコンバレーの過激化についての本がこれから出る

wired.jp

先週、ドナルド・トランプイーロン・マスクが決裂したというニュースが駆け巡った。この話は先が読めないというか、今週あっさりと和解する可能性すらあるが、それはそれとして、どうしてマスクがここまでホワイトハウスで権力を握ることになったのかが検証されることになろう。

イーロン・マスクといえば、彼による Twitter 買収を題材とする本が何冊も出ており、このブログでも紹介しているが、今後は彼を中心とするシリコンバレーの政治的先鋭化についての本がいくつか出るのではないか。

そういう本はないかと調べたら、ジェイコブ・シルバーマンの Gilded Rage: Elon Musk and the Radicalization of Silicon Valley が10月に出るようだ。

書名の「Gilded Rage」とは、金権政治の代名詞である Gilded Age(金ぴか時代)のもじりで、これを現在になぞらえる人は多い。「イーロン・マスクシリコンバレーの過激化」という副題も、これは期待させられる。

本書の中心はイーロン・マスクだが、これは単なる一人の男と彼の「ウォーク・マインド・ウイルス」への執着にとどまらない。シルバーマンは、ゼロ金利時代に勢いづいたハイテクと金融のオリガルヒのネットワークが、その富を利用してますます過激な政治的プログラムを展開していることを明らかにする。

この本の著者のジェイコブ・シルバーマンは、『The O.C.』や『GOTHAM/ゴッサム』といったドラマの主演で知られる俳優のベンジャミン・マッケンジーEasy Money という暗号通貨業界の狂騒について共著した本がベストセラーになっており(Wired の「トランプが独自のミームコインを発行、その“金儲け”のからくり」でコメントしている)、適任でしょうな。

ヴィム・ヴェンダースの短編作品「自由への鍵」が日本語字幕付きで公開されている

www.openculture.com

ヴィム・ヴェンダースが、第二次世界大戦終結80周年を記念して、ドイツが連合国に全面降伏する文書に署名した、フランスのランスにあるごくありふれた学校で撮影した短編映画が公開されている。

調べてみたら、日本語字幕付きの動画も公開されている。

非公式翻訳だったらイヤだなと思ったが、ドイツ大使館公式 YouTube チャンネルで公開されているものなので、これは堂々と紹介できる。

これは観てもらえば分かるが、「自由への鍵」は比喩ではない。Open Culture のエントリで、最後に以下のように書かれている。

連合国遠征軍最高司令官ドワイト・D・アイゼンハワーは、臨時司令部を閉鎖するときに、「これが自由な世界への鍵です」と言って、その鍵をランス市長に返却した。この言葉がヴェンダースの心を揺さぶるのと同時に、ロシアとウクライナの戦争が激化する中でさえ、ヨーロッパの若い世代がもはやその意味を理解していないことを彼は危惧している。米国に守られた社会に生まれた彼らは、当然のように平和を受け入れている。「アンクル・サムはもう長くは我々のために役割を果たしてくれない、という事実を認識しなければならないし、我々は自分たちでこの自由を守らなければならないだろう」とヴェンダースNew York Times のインタビューで語っている。第二次世界大戦終結は、いわゆる「アメリカの世紀」の幕開けとなった。もしその世紀が完全に終わろうとしているとしたら、ヴェンダース以上にその世紀を観察するのに適した人物がいるだろうか?

まさに第二次世界大戦終結した年に生れたヴェンダースは、今年80歳になる。

アジズ・アンサリ初監督作でキアヌ・リーブスが羽の付いた天使をやってるぞ

variety.com

『マスター・オブ・ゼロ』で知られるアジズ・アンサリが初めて映画の監督をつとめる『Good Fortune』のトレイラーが公開されているが、なんとキアヌ・リーブスが羽の付いた天使をやっている(笑)。天使ガブリエル役とな。

しかしなぁ、アジズ・アンサリはもっと早くに映画監督デビューを果たしているはずだった。

アトゥール・ガワンデ『死すべき定め』(asin:4622079828)を原作とする『Being Mortal』が、2022年に半分ほど撮影したところで、ビル・マーレイ「不適切行為」により制作が頓挫してしまった。

アンサリだけでなく、『Good Fortune』に出演しているセス・ローゲンやキキ・パーマーは『Being Mortal』にも出演していたはずで、彼らとしても悔しいものがあったのだろう。

『マスター・オブ・ゼロ』はワタシも大好きなドラマだが、第3シーズンで闊達さがぐっと後退していた。トレイラーを見る限り、『Good Fortune』はコメディに徹した作りのようで、今はこれが作品的に成功してくれることを願うばかりである。

10月の公開予定とのことで、来年になるだろうが日本でもちゃんと公開してほしい。

パディントン 消えた黄金郷の秘密

パディントン』シリーズは過去2作とも好きで観ているので本作にも行きたかったが、タイミングを逃してしまい、映画館での鑑賞は諦めていた。が、公開からひと月経ってレイトショーでやってくれたおかげで観れた。客はワタシの他は1人か2人だったが。

本作は、これまでのロンドンを離れ、パディントンの故郷であるペルーが舞台となっており、これまで以上に冒険ものになっている。

パディントンの家族のブラウン一家(本作にサリー・ホーキンスが出てないのが残念)はそれぞれにクセはあれど皆善人なので、このシリーズでは悪役がポイントとなる。一作目はニコール・キッドマン、二作目はヒュー・グラントとスターが演じていたが、本作の悪役も少しひねった感じが良かったですね。

この映画、ペルーの人が見たら愉快じゃないだろうなと思ってしまったのは別として、前作までにあった毒が足らないのか、心から楽しめたとは言い難い。でも、ロンドン(つまり、これまでのパターン)を離れながら、ファミリー向け娯楽作としてやはりよくできており、インディ・ジョーンズ的な冒険ものにしてきっちり二時間以内に収まっているのも好感が持てる。

あの人のカメオ出演は嬉しかったな。

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