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WirelessWire News連載更新(今こそ「弁護士国家」米国は「エンジニア国家」中国に学ぶべきなのか?)

WirelessWire Newsで「今こそ「弁護士国家」米国は「エンジニア国家」中国に学ぶべきなのか?」を公開。

はっはっは、デジタル人材のためのブックレビューの公開と前後してしまい、二日連続のフルスペックブログ更新となってしまった(笑)。なんだ、今でもこれくらいできるじゃん!

さて、今回も例によって3回分の内容を一度にぶち込んだ文章だが、これだけの分量を費やしても抜けてしまった話がいくつもあるんだよな。

Pluralistic 経由でヘンリー・ファレルのニュースレターを読んで『Breakneck』を知り、ブログのエントリになるかなと思っていたら、これが各所で話題になっているのを知り、これは連載原稿で取り上げようと方針変更し、結果『Breakneck』に加えて『Abundance』と『Apple in China』という、今年出たベストセラー3冊に言及できた。

この3冊はすべて、来年には邦訳が出るんじゃないでしょうか!

中でも『Breakneck』は、是非とも高須正和さんに書評を書いてほしい、できれば翻訳もしてほしい本である。

Abundance

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Abundance (English Edition)

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Mozillaの誕生とNetscapeの最期に密着したドキュメンタリーがあったのか

kottke.org

2000年に作られた『Code Rush』というドキュメンタリーだが、NetscapeMozillaソースコードオープンソース化する裏側に密着取材したものである。それは AOL に買収されてしまう Netscape の末期をとらえたものとも言える。

いやー、恥ずかしながら存在自体知らなかったな。

このドキュメンタリーのオンライン公開にはトラブルもあったようだが、監督のデヴィッド・ウィントンの決断で Creative Commons の BY-NC-SA 3.0 US ライセンスの元で YouTube で全編公開されている。

字幕は英語の他にフランス語やドイツ語や中国語などはあるが、日本語はなし。だが、YouTube の自動翻訳機能でほぼ意味はとれるぞ!

Netscape の CEO だったジム・バークスデールをはじめとして、Mozilla初代リーダーだったジェイミー・ザウィンスキー、JavaScript の生みの親にして後に Brave ブラウザを手がけるブレンダン・アイクなどが登場する。

Netscapeマイクロソフトにブラウザ戦争で敗北したのが明らかになり、主要製品のオープンソース化という当時はかなりありえない選択肢に活路を見出すも、Mozilla 公開の無理なスケジュールに追われる中、悲観的な言葉を口走る登場人物が多いのは時期がら仕方ないとして、それでも希望を捨てずに開発を進める様が描かれている。

しかし、ドキュメンタリーの後半で、前述の通り Netscape は AOL に買収されてしまうんですな。

マーカス・デュ・ソートイが新著でシェイクスピア、レディオヘッド、ピクサーの作品に隠れた数学を明らかにする

boingboing.net

数学教授が新著でシェイクスピアレディオヘッドピクサーの作品に隠れた数学を明らかにする、ってこれは面白そうやなと思ったら、オックスフォード大学数学研究所教授にして数学に関する啓蒙書の著者として知られるマーカス・デュ・ソートイの新刊 Blueprints の話だった。

「いかに数学が創造性を形作るか」という副題だが、ジャクソン・ポロックのペインティング、モーツァルトの曲、ザハ・ハディッドの現代建築などを題材に、人間の創造性を支える数学的構造を解き明かし、アートと数学が補完的な関係にあることを解き明かす本とのこと。

マーカス・デュ・ソートイの本は、『レンブラントの身震い』を5年前くらいに取り上げているが、その後も『数学が見つける近道』(asin:4105901877)が出ているし、今年の11月には『世界のエリートが学んでいる数学的思考法』(asin:4815630445)といういかにもなタイトルな本が出るようで、今回の新刊も再来年までには邦訳出るんじゃないですかね。

「シティ情報ふくおか WEB歴史館」で痛感するアーカイブの重要さ

Threads を見ていて、驚く投稿があった。

つい最近知ったんだけど、福岡のタウン誌『シティ情報ふくおか』が1976年創刊号から2003年分くらいまで結構な数をWEB上に無料アーカイブ化してて、特集やインタビューはもちろん 当時の広告もラテ欄もほぼ全ページ読めるようになってて、03年以降の発行分も随時更新してるって史料として結構優秀よな。つか狂ってるよな。

https://www.threads.com/@masudahiroshi/post/DOLISq7AU6b

そんなサイトあるのかよ! と思ったら本当だった。

backnumber.fukuoka-navi.jp

福岡の代表的なタウン誌である『シティ情報ふくおか』の20何年分をウェブ上で無料公開しているのがすごい。もちろん表紙のみとかでなく、まるごと読めてしまうのである。

 当館は、福岡の40年以上の歴史を、ともに生き抜いてきた《シティ情報ふくおか》本誌によって振り返ろうという歴史館です。
 しかも、ここに並べられる《シティ情報ふくおか》は、全て無料でご覧いただけます。創刊号から順次公開していきますのでみなさんの懐かしい!こんなのあった!をたくさん発見してください。

シティ情報ふくおか WEB歴史館 | シティ情報ふくおか WEB歴史館のWEBサイトです。当館は、福岡の40年以上の歴史を、ともに生き抜いてきた《シティ情報ふくおか》本誌によって振り返ろうという歴史館です。 しかも、ここに並べられる《シティ情報ふくおか》は、全て無料でご覧いただけます。創刊号から順次公開していきますのでみなさんの懐かしい!こんなのあった!をたくさん発見してください。

今年のはじめにワタシは「アーカイブの危機とメンテナンスの大事さ」という文章を書いているが、これを見るとアーカイブの大事さがよく分かる。こういうタウン誌の内容を辿ることで、福岡の街の変遷が分かるわけだ。

しかし、これは確かに「狂ってる」とも言いたくなるな。こういうサイトを見ると、ウェブもまだ捨てたものではないと思えてしまう。

Netflixが良質な映画を作れない理由? 今年これから配信される作品に目を向けろよ

www.statsignificant.com

今年のはじめに Netflix が公開した『エレクトリック・ステイト』が、3億2000万ドルものべらぼうな予算を費やしたにもかかわらず、批評的にも視聴者数でも大失敗に終わったことを受け、なんで Netflix は良質な映画を作れないのかを分析した記事である。

実際は Netflix は十分優れた映画を作ってることを認めながらも、そうした作品は例外なんだとこの記事は数字とともに示す。

そして、Netflix はキャリアの下降線にあるベテラン俳優を起用しがちとか、(マーティン・スコセッシアルフォンソ・キュアロンなど)一流の映画製作者と組んでもそれは単発で終わってるとか、それ以外の雇われ監督はより大きな予算で仕事しているにもかかわらず評価が低く、興行収入も低いとか、他のスタジオに落札で負けているとか腐している。

もちろん、当たっているところも多いだろう。しかしね、今年これから公開される映画は期待の作品揃いだぞ。

まず、10月はキャスリン・ビグローの『ハウス・オブ・ダイナマイト』ですよ。

www.netflix.com

続いて11月はギレルモ・デル・トロが『ピノキオ』に続いて古典に取り組む『フランケンシュタイン』だが、ヴェネチア国際映画祭で13分のスタンディングオベーションで迎えられたというニュースに期待が高まる。

www.netflix.com

そして、年末はダニエル・クレイグが名探偵ブノワ・ブランを演じるシリーズの3作目になる『ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン』が控えている。監督はもちろんライアン・ジョンソンである。

www.netflix.com

『エレクトリック・ステイト』が壮絶な失敗だったため(もちろんワタシは観ていません)、今は Netflix がけなす格好の対象なのだろうが、これだけ期待の新作の配信が予定されていて、質が低いもないもんだよ。

ネタ元は Slashdot

デジタル人材のためのブックレビュー(オードリー・タン、E・グレン・ワイル、⿻コミュニティ『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』)

docomo Solutions PLUS の「デジタル人材のためのブックレビュー」でオードリー・タン、E・グレン・ワイル、⿻コミュニティ『PLURALITY 対立を創造に変える、協働テクノロジーと民主主義の未来』を公開。

昨日には公開されていたのだが、WirelessWire News 連載原稿の公開の絡みで告知が遅くなってしまい申し訳ない。

そういえば、この書評を書きだした頃は COMWARE PLUS というサイトだったのが、いつの間にか docomo Solutions PLUS という名前に変わっていた(笑)。面倒なのでタグ名は変えない。

今回取り上げる本のクオリティ自体には問題はないが、その周辺の話題に思うところがあり、取り上げる本の変更も考えないでもなかった。飽くまで本の内容だけにフォーカスして書かせてもらった。

そして、東浩紀『訂正可能性の哲学』を引き合いに出させてもらった。その理由は、書評本文に書いた通り、としか言いようがない。

訂正可能性の哲学

訂正可能性の哲学

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バイブコーディングはシニア開発者を「AIベビーシッター」に変えた?

techcrunch.com

失礼ながら、記事タイトルだけで笑ってしまった。

「贅沢な名だね。今からお前の名前はAIベビーシッターだ。いいかい、AIベビーシッターだよ。分かったら返事をするんだ、AIベビーシッター」という台詞が湯婆婆の声で聞こえてきそうである。

バイブコーディングの結果、AI時代の技術的負債『Vibe Fixing』に時間をとられてしまい、AI に振り回される自分の仕事はまるで子守りやないか、いや、実際はベビーシッターよりもずっと仕事は厄介で、全体として生産性は向上してないやないか、と気づくことになる。

「コーディングに Copilot を使うのは、賢い6歳児にコーヒーポットを渡して、『これをダイニングルームに持って行って、家族にコーヒーを注いでね』と言うようなものだ」という記事で引用されるシニア開発者の言葉も趣深い。

コード品質にしろセキュリティの話にしろ問題はいろいろあるわけだが、TechCrunch の記事タイトルに「でもシニア開発者はその価値はあると考えている」とあるのは、AI によるコーディングに適した分野があるのを模索しているのを指している。やり方次第では、確かに作業効率を向上させられると見ているわけだ。

うーむ、とりあえず和田卓人さんの「AI時代のソフトウェア開発を考える(2025/07版)」を読みますか。

ネタ元は Slashdot

カーン・アカデミーのサルマン・カーンはAIがどう教育を変えると見ているのか

www.theverge.com

カーンアカデミーの創業者にして CEO であるサルマン・カーンのインタビューである。「知の民主化」としてのオンライン教育の代表選手として、このブログでもカーンアカデミー並びにサルマン・カーンのことは何度も取り上げたが、それは10年以上前の話である。

失礼ながらお懐かしやという感じで読み始めたのだが、「世界中のどこにいる誰にでも無料で最高水準の教育を提供する」というミッションを掲げ、150以上の言語に対応し、登録ユーザーは1億8000万人以上というのだからすごいねぇ。

彼がこのインタビューでも語るのは、やはり AI である。教育分野への AI の影響についてはいろいろ言われるが、カーンは ChatGPT 登場以前から OpenAI と NDA を結んで実験を開始しており、その実験から AI チューター Khanmigo が生まれたという。

さすがの動きの早さというべきか、カーンは AI の問題も認めながら、AI を教育の「天井」と「床」を引き上げる存在と見ており、単に AI を導入して終わりではなく、教育を革新していく共創の相手としてみているようだ。

調べてみたら、カーンはまさに「AI×教育」をテーマとする本を出していた。当時話題になっていたはずだが、見事に逃してしまっていた……と更に調べたら、その邦訳『AIは私たちの学び方をどう変えるのか ―BRAVE NEW WORDS―』が先月出てたんだね!

彼が本を出すのは『世界はひとつの教室』以来10年以上ぶりなのだから、よほど AI に触発されるものがあったのだろう。

邦訳にも入っている "Brave New Words" が原題なのだが、これはもちろんオルダス・ハクスレーすばらしい新世界(Brave New World)』のもじりで、ディストピア小説のタイトルを使うのはどうだろうとも思ってしまうが、Verge のインタビューでも "brave" という単語をカーンは何度も使っており、飽くまで前向きな意味合いなのである。

原書のレビューはバーンズ・アンド・ノーブルで朝食をエミコヤマさんの読書記録を参照くだされ。

ニール・スティーヴンスンの気候変動フィクション『ターミネーション・ショック』が来月出る

wirelesswire.jp

およそ一年前の文章だが、ニール・スティーヴンスンの『Termination Shock』を取り上げており、最後は以下のように締めている。

とりあえず今は、早川書房から『Termination Shock』の邦訳が出るのを待つことにします。

有害な「創業者らしさ」 – WirelessWire News

調べものをしていて、来月『ターミネーション・ショック』としてこれの邦訳が出るのを知った。

しかし、版元は早川書房ではなくパーソナルメディアだった。

失礼ながら、パーソナルメディアが TRON 関係以外の出版もやっているのは知らなかった。解説が坂村健なのはパーソナルメディアならではか。

「知っておくべき、でもあまり知られていない超クールな29人」に入っている日本人

www.neatorama.com

元々は Reddit に寄せられたコメントの集積のようだが、「知っておくべき、でもあまり知られていないクールな人」のお題で集まった29人のリストである。

具体的な29人のリストについてはリンク先を見てもらうとして、最初1番にエイダ・ラブレスが入っているのに「(あまり知られていないのは)ありえんだろ!」と悪態をついたが、その後に続く面々は、確かに知らない人が多い……お恥ずかしい限りである。

しかし、さすがに日本人だったらワタシにも分かるわけで、この29人のリストには武蔵坊弁慶徳川家康宮本武蔵、そして杉原千畝の4人の日本人が入っている。

杉原千畝だけが現代(前世紀)の人物で唐突な感もあるが、日本人でも彼のことを知るようになったのは1980年代以降だからね。

mainichi.jp

杉原千畝といえば、彼が江戸川乱歩と旧制中学、大学が同じだった事実に着想を得た小説が直木賞候補になってたんだね。こういうフィクションは好きだなぁ。

ネタ元は kottke.org

遠い山なみの光

以下、作品内容に明確に触れるので、未見の方はご注意ください。

思えば、今年はワタシの故郷である長崎が舞台となった映画が多かった印象がある。ワタシが観ただけでも、本作に加えて『夏の砂の上』、あと『国宝』も長崎(の「花月」)から始まったっけ。

石川慶監督の作品は『ある男』に続いての劇場鑑賞になる。彼の映画なら、舞台が何であろうと映画館で観る候補になったはずだが、本作はなんといってもカズオ・イシグロ原作というのもある。

その原作は、今年早川書房のセール時に Kindle 版を購入したが、それからまもなく新装版(asin:4151201173)が出て、気勢が削がれて手をつけてないので未読である。いかんなぁ。

でも、そのおかげでというべきか、本作にはかなり驚かされた。こんな映画とは思ってなかった。

カズオ・イシグロといえば「信頼できない語り手」でおなじみだが、それがこんな形で映像化されるとは。

本作が描くのは1950年代はじめの長崎、そしてその30年後である1980年代はじめのイギリスである。長崎はもちろん、イギリスのほうも40年以上前で、かなり過去になる。

なので、今の我々から見れば、長崎パート、イギリスパート、それぞれに時代を感じるところがあるわけだ。それは例えば、長崎パートにおける露骨な被爆者差別であったり、イギリスパートで吉田羊の口からさらっと語られる、当時まだ残っていた日本人に対する英国人の憎悪であったり、確かに意味があるのだけど、特に長崎パートについては、登場人物の台詞、感情の表出のあり様にどこか白々しさすら感じてしまっていた。しかし、それが最後に覆される。

ワタシの両親が十代だった時代の故郷が舞台のひとつである文芸映画を観に行ったつもりが『ファイト・クラブ』なのに衝撃を受けた、みたいな。何度か主人公が目撃する黒づくめの女性の正体(?)が分かるところなど、ほとんど『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』の「首折れ女」だった。

うーん、こうして他の作品の名前を出すと軽薄な感じがしてしまうが、小手先のトリックではなく、紛れもなく戦争体験、被爆体験のトラウマを乗り越えるための心の働きの表現なのですね。

今年観た映画では『ブルータリスト』級のショックがあった。

演者では、広瀬すず二階堂ふみが何より素晴らしい。そして、三浦友和演じる主人公の義父も、まさにカズオ・イシグロ的な登場人物だった。

この映画は New Order の "Ceremony" で始まり、終わる。これが意外なことに本作にしっくりきている。そうした映画が悪いわけはないのである。

ウィキペディア共同創始者ジミー・ウェールズの初めての本が出る

稲門ウィキペディアン会の投稿で、Wikipedia の共同創始者であるジミー・ウェールズThe Seven Rules of Trust が来月出るのを知る。

「信頼の七つの原則」という書名だが、インターネット上の見ず知らずの編集者たちがオンライン百科事典を協力して作り上げる、という Wikipedia 以前には想像もされなかった偉業の根源には「信頼」があったことを強調するものである。

信頼は宝物だが、それは宝石のように無機物ではなく、育むことができるし、育むべきものであり、その方法を示すのがこの本というわけですね。

でも、共著とはいえジミー・ウェールズが本を出すのはこれが初めてじゃないかな? 彼の本だからだろう、ユヴァル・ノア・ハラリリード・ホフマン、そして意外なところではスティーヴン・フライといった著名人が推薦の言葉を寄せている。

www.theverge.com

インターネットが広告とスパムだらけになり、代表的なネットプラットフォームの多くがメタクソ化する中で、どうして Wikipedia が機能し続けているのかについての記事だが、内容についてはカタパルトスープレックスニュースレターを参照くだされ。

もはやジミー・ウェールズウィキメディア財団の舵取りを行ってはおらず、ウィキペディアンを代表する存在ではない。しかし、その創始者である彼の存在は重いし、彼の理念が現在もウィキペディアに残っているのは間違いない。邦訳出てほしいよね。

オライリー・ジャパンにおける翻訳書の制作体制の変化と「もうすぐ消滅するという人間の翻訳について」

オライリー・ジャパンから、今月発売予定である以下の2冊の情報が明らかになっている。

いずれも時宜を得た題材についての本であり、興味を惹く。

さて、この2冊に過去のオライリー・ジャパンの本になかった共通する特徴があることにお気づきだろうか?

そう書けば気づかれるだろうが、いずれも翻訳者が「オライリー・ジャパン編集部」とクレジットされていることである。

オライリー本家にアクセスしている方ならご存じだろうが、AI による翻訳が導入されており、刊行前の本でも日本語訳が読めたりする(例:少し前に紹介した『Beyond Vibe Coding』の日本語版ページ)。

これまでオライリー・ジャパンから出る本には人間の翻訳者がクレジットされていたが、翻訳者が「オライリー・ジャパン編集部」な上記の二冊は、上記の AI 翻訳を元にしていると思われる(違っていたらすいません)。

もちろん AI 翻訳をそのまま本にしているわけはなく、「編集部」による訳文の精査が行われているに違いないし、いずれの本にも人間の監訳者がクレジットされており、それで品質を担保している。

AI は人間の雇用を奪うか? という問題については、ワタシも少し前に「「AIファースト」と「人間ファースト」は両立しうるか?」で論じているが、簡単に答えは出ない。

翻訳分野については、ブライアン・マーチャントも翻訳家の AI 失業の話を書いていたが、最近読んだ WIRED の「AIは若年労働者の雇用を奪っている」に意外な記述があったのを思い出す。

また、翻訳業のようにAIの影響を受けそうに見える分野では、むしろ雇用が増加している。

AIは若年労働者の雇用を奪っている:米研究結果 | WIRED.jp

ワタシ自身、肩書として「翻訳者」を名乗っているが(「翻訳家」でないのにご注意ください)、書籍の翻訳をやっていたのは大昔の話であり、「翻訳者」の看板はおろして「雑文書き」に肩書を絞るべきかと何年も前から思っているくらいなので、この状況にあまり脅威は感じていない。

しかし、オライリー・ジャパンの最新刊のクレジットを見て、やはりというべきか「もうすぐ消滅するという人間の翻訳について」というフレーズを思い出してしまった。

そりゃ、いずれそうなるに決まってるよね、とは思っていた。このエントリにもオライリー・ジャパンに対する批判の意図はない。ただ、遂にこの日が来たのかという感慨はある。

なお、平野暁人氏の文章は、今月豊岡演劇祭で舞台化されるので(!)、興味のある方は足を運んではいかがでしょう。

アディ・オスマニのバイブコーディング(を越えていく)本に続く新刊が早くも来月出る

yamdas.hatenablog.com

ひとつ上のエントリでアディ・オスマニの『Beyond Vibe Coding』について触れたが、遂に今月発売である。

が、調べものをしていて、それに続く彼の新刊が早くも来月出るのを知ってさすがに驚いた。

彼の『Beyond Vibe Coding』に続く本は MCP 本か、いや、2025年AI開発の新常識らしい Context Engineering 本じゃないか、とかワタシもいろいろ想像を膨らませていた。

しかし、それらの予想はいずれも外れで、Building Web Apps with Bolt が来月出る。

やはり AI 支援コーディングの本ではあるのだけど、AI アプリ作成サービスの Bolt 並びにその開発元である StackBlitz にフォーカスした本である。

正直、Context Engineering などもっと大きなコンセプトを中心に据えた本を書くのかと思っていたけど、いずれにしても二月続けて新刊を出す生産性に恐れ入る。

そうそう、既に著者による公式サイトができているので、詳しい情報を知りたい方はそちらをどうぞ。

「AIダーウィン賞」が開催されるようだ

aidarwinawards.org

ダーウィン賞といえば、「愚かな行為により死亡する、もしくは生殖能力を無くすことによって自らの劣った遺伝子を抹消し、人類の進化に貢献した人に贈られる賞」として知られるが、どうも2022年を最後に選ばれてないみたいね。

だからというわけでもないだろうが、これの AI 版を選ぼうというサイトが立ち上がっている。我々人類は、愚かな意思決定を AI に外注するほどになったのだから、文明を再構築する可能性を秘めた人工知能による愚かな行為を称える賞が必要ということのようだ。

この賞は、もちろん AI が関与しており(あるいは投資家向け資料で自信満々に AI を名乗っている)、破滅的で傲慢で倫理に欠けており、影響範囲の大きい失敗が受賞条件となる。

具体的にはノミネーション一覧を見ていただくとして、登録された候補について、すべて受賞条件に適合する/しないをきちんと明示しているのは好感が持てる。

タコベルが導入した音声 AI 注文システムAI 生成の偽判例引用で規制当局送致された豪州弁護士パスワードが「123456」で応募者データを漏洩の危機に晒したマクドナルドの AI 採用ボットなどが候補になっている。

ダーウィン賞自体、今となっては問題視されかねないブラックユーモアに基づくものだが(富士山ライブ配信滑落死事故で死去した男性も選出されている)、果たして「AIダーウィン賞」は定着しますかね。

ネタ元は Pluralistic

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