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榎本幹朗『音楽が未来を連れてくる』を読んで、ジム・グリフィンと『デジタル音楽の行方』の蹉跌に思いを馳せる

yamdas.hatenablog.com

遅ればせながら、榎本幹朗『音楽が未来を連れてくる 時代を創った音楽ビジネス百年の革新者たち』を読了した。ワタシが読んだのは紙版だが、全体で600ページ超のずっしりくる、読み応えのある本だった。それだけの分量なので索引が割愛されているのだろうが、これはよくない傾向だと思うし、できれば DU BOOKS のサイトで PDF ファイルでもよいので提供してほしいところ。

著者の文章の面白さについてはワタシは何度も書いているが、とにかくストーリーテリングが強力で、歴史話を生き生きと読ませるし、その面白さが著者が思い描く「ポスト・サブスク」モデルにおける音楽産業の復活の話に結実する構成に力強さを感じる。

本書は1920年代、それこそエジソンの時代から現在までのおよそ100年間における音楽産業の隆盛と凋落の歴史を辿る。これを「〈危機〉を〈好機〉に変えた賢者の歴史」と読むこともできるだろうが、注目なのはその歴史に何人もの日本人、日本企業が名前を連ねているところで、これには著者の明確な意思を感じる。

つまり本書は「いやぁ、海外に比べて日本は遅れてますねぇ」的なイヤミを垂れ流すような本ではなくて、日本企業は音楽産業においてイノベーションに貢献してきたし、それは今も可能だという意思というかアジテーションが本書の最終章にあるわけだ。

アジテーション」という言葉を使ってしまったが、著者の現状認識は冷静だし、例えば「「ウェブ1.0はブラウザ中心の閲覧の時代、2.0はSNS中心のコミュニケーションの時代、3.0はブロックチェーンで中央集権解体と個人情報保護の時代」という論は、願望的予測のきらいがある。(p.589)」といった分析にもそれが伝わる。

著者がアジテートする「ポスト・サブスク」のフレームワーク、具体的には「定額制配信+都度課金」がどんなものかは、本書を読んでその真価をご判断くださいとしか言いようがないのだけど、やはりワタシを含め多くの人は、自分が若いときになじんだビジネスモデルこそが「正統(正当)」とどうしても思いがちなのに、ワタシと同世代の著者はその陥穽に落ちていない。

さて以下は、本書の内容から少し離れたワタシ個人の繰り言みたいなものである。

 「インターネットが普及すれば、音源のコピーを販売するビジネスモデルは崩壊する。だからダウンロード販売も上手くいかない」
 かつて定額制配信を提唱したジム・グリフィンはそう予言した。デジタルデータが無数の端末に複写されていくのがインターネットの技術的な本質だからだ。iTunesもCDも、実は根本的なビジネスモデルに変わりはなかった。楽曲のデジタルコピーを売ることでは同じだったからだ。iTunesが救世主とならなかった本当の理由は、まさにそれだった。
 iTunesミュージックストアが起こした革命は、音楽会社の流通を物流から通信に変えたことであり、エジソンが創始したビジネスモデルの根本は変わってなかったのだ。ダウンロード配信の失敗を予言したグリフィン。定額制ストリーミングの失敗を予言したジョブズ。まずジョブズの予言が当たり、やがてグリフィンの予言が当たるというのが、この二十年間だった。(pp.333-334)

このあたりにグッときてしまった。ワタシは2005年に『デジタル音楽の行方』を訳しているのだけど、ゲフィンレコードの CTO、ワーナーミュージックグループの社長など音楽業界の要職を歴任した、米レコード産業で思想的リーダーだった(『デジタル音楽の行方』では、当時 CEO を務めていた社名とともに「チェリー・レーン・デジタルの音楽未来思想家」と紹介されている)ジム・グリフィンは、『デジタル音楽の行方』にも謝辞に名前を挙げられており、その内容にも当然影響を与えている。そもそも『デジタル音楽の行方』が実現を訴える「水のような音楽」モデルは、端的にいえば定額制音楽配信サブスクリプションモデルとも言えるわけだ(が、それは現在の Spotify と同じではない。詳しくは後述)。

www.musicbusinessworldwide.com

そのジム・グリフィンは今年デジタルライツのテクノロジープラットフォーム Pex のデジタルライツ部門の VP に就任している。まだまだ現役ですね。

『デジタル音楽の行方』の本文にジム・グリフィンは2回登場しており、第1章の最初でアメリカのテレビ放送システムが広告収入に完全に依存しながら「資金プール」を作り出していることを指摘する彼の発言が引用されており、そして第7章でもその「資金プール」に関して彼の名前が再び引き合いに出される。

 デジタルネットワークの音楽に適用する自発的集合ライセンスが特に注意深く立案されれば、オンラインのファイル交換により生まれる大きな「資金プール」を作り出し、その後資金を分配する公平な手段を決めるだけで前述の問題を解決するかもしれない。レコード会社や出版社には自発的にそうした許諾システムを整備し、消費者がデジタル形式で欲しい音楽を容易に入手できるようにするチャンスが十分にあったことを考えると、彼らが自発的に行動するとはとても思えない。今となってはおなじみの理由からである。つまり、そうすると自分達がコントロールできないからというわけだ。しかし、ジム・グリフィンが非常に簡潔に延べる通りなのだ。「統制を行なう度に我々は敗北している。そのままにしておけば、必ずかつて戦った相手が我々に利益を与えてくれるようになる。我々には無秩序をお金に結びつける手段が必要だ」。(『デジタル音楽の行方』pp.200-201)

最初はサブスクリプションモデル、定額制ストリーミング配信を推すジム・グリフィンの予言は外れ、そのかわりにスティーブ・ジョブズiTunes ミュージックストアにおけるダウンロード販売が(海外では)成功した。そのまっただなかである2005年に(原書、邦訳とも)刊行された『デジタル音楽の行方』は、サブスクリプションどころかその前の iPod+iTunes モデルにすら乗り遅れまくっていた日本でまったく売れなかったのも仕方ない、と今更ながら自分をなぐさめたくなる。

しかし、である。iPodiTunes モデルに乗り遅れたことそのものを悪と短絡できないということは『音楽が未来を連れてくる』にも書かれており、問題の「資金プール」を作り出す手法において『デジタル音楽の行方』(とジム・グリフィン)は外していたことは正直に認めなくてはならない。『デジタル音楽の行方』が訴えた「水のような音楽」モデルは、イコール Spotify(や Apple Music)ではないのだ。

『デジタル音楽の行方』において、ジム・グリフィンの名前は自発的集合ライセンスによる「資金プール」の創出の文脈で名前が出てくる。もう一つ「資金プール」の創出法として『デジタル音楽の行方』には(機械的に徴収する)強制ライセンスも提案されており、ジム・グリフィンは「ISP 税」としてこの方式もアリなのではないかと提案し、電子フロンティア財団に批判されている。しかし、現実には「自発的集合ライセンス」とも「強制ライセンス」とも違った形で現在のサブスクリプションモデルは実現している。

だから、『デジタル音楽の行方』が「水のような音楽」で想定したほど安価ではないが、Spotify をはじめ(有料版は)各社月1000円前後という現実的な線で定額制音楽配信が実現している……が、それを「現実的」な値ごろ感と思うのはワタシが主に洋楽リスナーだからであって、日本の音楽産業ではまた話が違うというのは『音楽が未来を連れてくる』でも丁寧に説明されていることであり、そうした意味でワタシはこの本を読まれることをお勧めします。

wirelesswire.jp

ここからまた繰り言になるが、初代 iPhone が発売される2年以上前の段階で、2015年時点の「スマートフォン」の在り方を「ユニバーサル・モバイル・デバイスUMD)」としてかなりな精度で予測し、「水のような音楽」モデルを提唱した『デジタル音楽の行方』の売り上げがとても低調だったのは、訳者として残念でならない。もっと早くに安価な Kindle 版でも出ていれば少しは再評価が……とか未練がましいことを思ってしまう。

数年前、故郷の行きつけのバーで飲んでいて、何かの流れで佐野元春の話になり、うっかり「好きだし、恩義もある」と口走ったらすかさずマスターに聞きとがめられ、「恩義ってなんだよ。友達かよwww」と笑われてしまった。これは実生活で会う人でワタシが yomoyomo なことを知る人はほぼいないため起きる現象なのだが、ここでの「恩義」とは『デジタル音楽の行方』の表紙に佐野元春さんがコメントを寄せてくださったことに対するものである。佐野元春さんに限らず、この本に関してお世話になった方々に対する感謝の気持ちは、刊行から15年以上経った今も変わらない。

前回の更新時に『ウェブログ・ハンドブック』を久しぶりに取り上げて懐かしくなった流れで、『デジタル音楽の行方』も成仏(?)させたくて、取り上げさせてもらった。

WirelessWire Newsブログ第33回公開(『デジタル音楽の行方』から10年経って)

WirelessWire Newsブログに「『デジタル音楽の行方』から10年経って」を公開。

元々は先週はじめの公開を目指して書き始めた文章なのだが、えらく時間がかかり、結果としてこの連載中もっとも長い文章になってしまった。今回の文章には、安田理央さんの文章Music Business Worldwide の記事など盛り込みたい話がいくつか他にもあった。あと、洋楽リスナーなら amass あたりをチェックしていれば、ライブ本編のプロショットフル映像は見れるは、BBC のライブアーカイブ音源はあるは、アルバム先行全編無料試聴やらで無料でかなり自分の好きなバンドの音を享受できる環境になっているといった話などいろいろあったのだが、もうこれ以上は長さ的に無理だった。次回からはもっと文章を短くしたい……。

この文章を書き出したのは、例によって AWA や LINE MUSIC の発表があったからで、『デジタル音楽の行方』を久々に読み返したら、いきなり最初が2015年の未来予想図……これって今年のことじゃん、と驚いたものである。ひどいもので訳者も忘れていたのだ。

あと文章中少し触れているテイラー・スウィフトの件が一気に進展してしまったのも付け加えておく。

The Future Of Music: Manifesto For The Digital Music Revolution

The Future Of Music: Manifesto For The Digital Music Revolution

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

デヴィッド・ボウイが10年前に予言していた音楽の未来

先週は65歳の誕生日を迎えたデヴィッド・ボウイについていろいろ記事が出ていたが、その中で個人的に感慨深かったのは The Next Web の記事で、それはボウイが今から10年前に受けた New York Times のインタビュー記事 David Bowie, 21st-Century Entrepreneur を引用していたからだ。

このインタビューは拙訳『デジタル音楽の行方』でも重要なインスピレーションとして引用されているが、引用出典一覧を作ったときはオンライン公開されてなかったんだよな(というわけで反映させてもらった)。

10年前のインタビューでボウイは以下のように語っていたんだよね。

これまでの我々の音楽についての考えはすべて、十年以内に完全に変わってしまうだろうし、何もそれを止めることはできない。それが起こらないふりをするなんて僕にはまったく理解できない。例えば、著作権はこの十年のうちになくなってしまうと僕は確信しているし、今でも著作権知的所有権は相当攻撃されている。

音楽自体が、水や電気のようなものになりつつあるんだ。(中略)つまり、このどれも二度とは起きないことなんだから、この数年間をうまく利用しないといけないわけだ。たくさんツアーをする準備をしておいたほうがいいだろう。だってそれが残される唯一のユニークな場なんだから。すごくエキサイティングだよ。でも一方では、それをエキサイティングと思うか思わないかなんて関係ない。だって、いずれそうなるんだから。

Spotify や Rdio がボウイが言う「水のような音楽」を実現したじゃないかと The Next Web は続けているわけだ。それについては異論もあるが、そういえば Rdio については一年半前に取り上げているが、jay kogami's posterous のエントリがすごく良いまとめになってるね。

昨年末、翔泳社の担当編集者とこの本の話をしたら、書名をすっかり忘れられててショックでトイレで泣き崩れてしまったのだが、『デジタル音楽の行方』は早すぎる本だったのかしら。

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

望むと望まざるにかかわらず、『デジタル音楽の行方』の方向に進んでいるのだ

メジャーレーベルの一つである EMI が、単なる音楽レーベルから包括的な権利管理企業に生まれ変わる方向に舵を切ったことについての文章である。

『デジタル音楽の行方』を5年前に訳したワタシからすると、ようやくメジャーレーベルがこの本の主張に沿って動きだしたのだなと感慨深いものがある。

以下『デジタル音楽の行方』の191-192ページから引用する。シリコンバレー101の記事で EMI の新 CEO として紹介されている Roger Faxon は、当時 CFO だった。

 ビジネスに精通したレコード会社がいかにして荒海に向かって航行していくかはまだ分からない。うまくやり遂げるところもあれば、そうでないところもあるだろう。一例を挙げれば、EMIは明らかにフレッシュで創造的に未来を考えている。CFOのロジャー・ファクソンはCFO.comで以下のように語っている(二〇〇二年二月)。

レコード産業はこれまで製品だけに注力してきた。しかし、現実にはレコード産業は音楽だけのものではなくなっている。いかにして音楽を消費者に届けるか、いかにして消費者に製品にワクワクしてもらうかが重要だ。それは大きな飛躍には見えないかもしれないが、我々のビジネスのコンセプトの変化は大規模なものになる。我々は消費者に向かい合わないといけないというのが私の考えだ。それは我々がクリエイティブでなくていいということじゃなくて、我々は(自分達のビジネスが)消費者の情況にどのように合致するか理解しなくてはならないということだ。「出来のいい音楽を作れば、お客はやってくる」というのはもう通用しない。

 EMIはかねてより新しいビジネスモデルを開拓しつつあり、新しいデジタル配信に音楽を積極的にライセンスしたメジャーレーベルの一つである。EMIはシンガーのロビー・ウィリアムスと大変独創的な契約を結んだ――従来のレコーディング契約を遥かに越える内容を含む契約である。それにはウィリアムスのツアー、出版、そしてマーチャンダイジング活動への参加も含まれた。EMIはロビー・ウィリアムスのミュージシャンビジネスのパートナーとなり、アジアやその他の地域のアーティストと同様の契約を結ぶ数が増えている。そうすることで、将来の収益を得る道筋をつけておくのに役立っている。

大変恥ずかしい話なのだが、『デジタル音楽の行方』刊行当時、ワタシはこの本がガチで売れると思っていて、版元から送られてきた売り上げデータをみたときは文字通り震え上がり、担当編集者に土下座したくなったものだ。

最近も白田秀彰総統からありがたいお言葉をいただいたが、ワタシの力不足も多分にあるとはいえ残念なことである。

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

『デジタル音楽の行方』が坂本龍一の手に!

J-WaveRADIO SAKAMOTO津田大介氏がゲスト出演した収録が Twitter と Ustrem で生中継された。そのときの動画は Ustream 上で見れるので、インターネットと音楽を中心とした著作権やメディアの変化、そして Twitter などのインターネットメディアについて興味のある方は是非ごらんになってくださいな。

個人的に一番白熱したのは、番組収録後の雑談で(開始から1時間29分ぐらい)津田さんが坂本龍一@skmt09)御大に「これもう古いんですけど…」という言葉ともに『デジタル音楽の行方』を渡しているところ。ありがとう津田っち!

ワタシは音楽の原体験が YMO とクイーンで、高橋幸宏オールナイトニッポン最終回である YMO 散開ライブスペシャルのカセットテープを何百回と聴いた人間であり、そんなワタシが訳した本を坂本龍一さんに読んでいただけるなんて信じられない話である。

生きていればたまにはいいことがあるものだ。

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

『デジタル音楽の行方』が東京芸術大学の入試問題に使われ、赤本にも収録される!

先週教学社の編集者の方からメールがあり驚愕の事実が判明した。

『デジタル音楽の行方』の文章が東京芸術大学音楽学部の国語の入試問題(2009年)に使われ、教学社の「大学入試シリーズ」(通称“赤本”)にも収録したいので掲載許諾の申請書にサインいただきたいとのこと。

まったく予想してなかったので驚いた。もちろん嬉しいことである。若人が受験という大舞台でワタシの仕事を読んで苦しむなんてすごくクールじゃない(笑)

掲載許可に署名する必要がある。しかし、「yomoyomo先生」とは笑えるな(自分で言うな!)

今回「赤本」に試験問題が収録されるにあたり著作物使用料(印税)が発生するのだが、その額はこの写真にある計算式で算出される。

で、その著作物使用料はこの写真の通りである。大した額ではないが、正直それはどうでもいい。いちもにもなく申請書を返送させてもらった。

問題文のコピーだが、東京芸術大学は書名を間違えてやがった(笑)

えーっと、問題を解いてみたい人います?

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

WIRED VISIONブログ第28回公開

WIRED VISION ブログに「iPod+iTunesモデルの次に来るもの」を公開。

前回からの続きで、書いているときは良いタイミングでぴったりな分量書けたなと思ったが、読み直してみると少しぬるい感じもする。

そういえば『デジタル音楽の行方』の共著者が新刊を CC ライセンス+お布施方式で公開とのことで、全然知らなかった(笑)

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

WIRED VISIONブログ第27回公開

WIRED VISION ブログに「音楽税はそれほどバカげたアイデアだろうか?」を公開。

ワタシが性格がねじまがっているので、ネット的には受けの悪いアイデアにのってみた。いろいろと叩いていただきたい。

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

訳者の欲目抜きで良い本だと改めて思った。

『デジタル音楽の行方』への反応 その50(最終回!)

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

遂に『デジタル音楽の行方』への反応も2年以上かかって50回に達した。予告通り、今回で終わりにする。

その最終回は Welcome to BOL [Business On Line] の「imeemで音楽を共有する。」からの引用。

もともと、音楽というのは完成型がないもので、劇場や教会や誕生会や路上や、とにかく至る所で演奏される、いわばライブパフォーマンスそのものだった。

だから、毎回演奏内容は違うし、それが当たり前だったし、聴衆はそこでしか聴くことができなかった。つまり、演奏者が直に客に売ってた、永遠に未完成型の芸術だったんですね。(『デジタル音楽の行方』からの思いっきり意訳)

imeemで音楽を共有する。 – Welcome to BOL [Business On Line]

もちろんパッケージビジネスがなくなっちゃいけないんだけど、いずれにしても imeem のようなサービスがちゃんとレコード会社と提携するようになったんだね。

『デジタル音楽の行方』への反応 その49(レコード産業の凋落と音楽産業の隆盛、清々しい佐野元春)

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

長々と続けてきた『デジタル音楽の行方』への反応だが、あと1回で50回。取り上げるのが遅れたが、今回は MAL Antenna の「捨てられ始めるレコード会社」より。

「デジタル音楽の行方」という本をご存じでしょうか? 約2年前に翻訳が出た本ですが、現実世界は徐々にこの本の予言に近づいていっているように思います。ここで提示されている「水のように安く、手ごろで、いつでもどこでも享受できるような「水のような音楽」」は実現するのか? その時には、少なくとも現在のレコード産業地図はかなり書き換えられていることでしょう。

2年間しつこく書き続けてきたことだが、ほらね、『デジタル音楽の行方』に書いてある方向に進んでるでしょ?

MAL Antenna で話題にされているアーティストから見放されるレコード会社の話が最たるものだが、レコード産業の死は音楽産業の死ではなく、音楽産業自体はかつてないほどの隆盛を迎えているし、破壊的イノベーションに対しては包括ライセンスを結ぶ方向に進む。

あと佐野元春のブロガーミーティングが話題になっているが、彼もメジャーインディペンデントを志向しているが、その発言が隅々まで清々しい。

以前にも書いたが、氷室さんや佐野元春のようにワタシが小学生だった頃から知っていて、しかも今も現役で活動している人に自分の仕事が言及してもらえるなんて本当に不思議な気持ちになる。

特に『デジタル音楽の行方』の表紙に力強いコメントをいただいた佐野さんには、子供の頃も、いまこの瞬間も。どんだけ感謝しても足りない、とか言いようがない。

『デジタル音楽の行方』への反応 その48(新iPodとiTunes Wi-Fi Music Storeとスターバックス)

『デジタル音楽の行方』への反応だが、今回はのらDJさんの「デジタル音楽の行方を読んだが退屈だった、なぜなら……」より。

主張は一貫している「水のような音楽は今までのビジネス形態を変えざるをえないだろう」というシンプルかつ割とネットのとんがった人たち(笑)には「当然の事実」なので退屈だった

俺なんかが議論してたり、考察してたのはもー何年も前で今は「どう実装するか?」とか「どうやってコミュニティを作るか?それをマネジメントまでもってくには?」等トライアンドエラーの段階に入っている。

「退屈だった」とは残念だけど、一方でのらさんの書いていることも分かる。実際先週、この本の予言がまた一つ現実になることが明らかになった。

AppleThe beat goes on イベントで発表された iTunes Wi-Fi Music Store、並びにスターバックスとの提携である。

日本では音楽とスターバックスというと結びつきにくいかもしれないが、スターバックスが主催する Hear Music レーベルは、ポール・マッカートニージョニ・ミッチェルの新譜を手がけるなどかなり目立つ存在になっている。

伝統的な音楽流通もまた、もはや従来の小売店や大型小売店の領域だけにとどまってはいない。たとえば、スターバックスがそうだ。このコーヒーチェーンは店舗のあるほぼすべての地域で、配下の「ヒア・ミュージック」ブランドが大物アーティストが参加した特注コンピレーションアルバムの作成に着手した。その試みは非常に成功しており、デジタルなコーヒーハウスの進化の火付け役となった。シアトルにある一〇箇所のスターバックス、そしてサンタモニカのヒア・ミュージック・コーヒーハウスで、顧客は二五万曲以上にアクセスできるデジタルキオスクを閲覧できる。顧客はお気に入りの飲み物を楽しみながら、アルバムか個人でミックスした曲をCDに焼くことができる。スターバックスは今後数年で、さらにおそらく二五〇〇もの店舗でデジタル音楽サービスの展開を計画している。近い将来、WiFi音楽プレイヤーを持ってスターバックスに乗り込み、言うのだ。「特大のラテに軽いロックをつけて」(134-135ページ)

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

今一度デジタル音楽の行方(ソニーのConnectミュージックストア閉鎖、YouTubeの音楽著作権団体とライセンス契約)

ソニーの Connect ミュージックストア閉鎖のニュースを読んで思い出したのは、こないだも紹介した Gerd Leonhard’s Open Letter to the Independent Music Industry の中にあった、『ウィキノミクス』の著者ドン・タプスコットの2006年の言葉。

敗者はデジタル音楽ストアを作ったが、勝者は活気に満ちた音楽コミュニティを作った。敗者が塀で囲まれた庭を作ったのに対し、勝者は開かれた広場を作った。敗者が知的所有権を守るのに余念がなかった一方で、勝者は皆のアテンションを得るのに余念がなかった。

Connect ミュージックストアがやったのがどちらかは言うまでもない。

自分たちの権利をユーザに押し付けるデジタル音楽ストアでオーディエンスを囲い込もうとしてもダメで、それなら音楽コミュニティを栄えさせて AmazoniTunes Store で音楽を売ってもらったほうがよい。

それなら YouTube など勝者側のコミュニティの著作権侵害は許されるわけ? そうではない。英国の音楽著作権団体とライセンス契約を締結したように、包括ライセンスを結べばよいのだ。ラジオでもテレビでも同じように進んできた。

……という話が『デジタル音楽の行方』という本に出てくるよ! というのを、ワタシはまだまだしつこく言い続けるよ!

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

インターネットは消費者の音楽購入をどう変えているのか?

誰も気付いていないのが悲しいのだが、この文章で取り上げられている Gerd Leonhard『デジタル音楽の行方』の原著者なんだよね。

こうやってみるとこの本の主張は古くなってないと思うねー。まぁ、訳者の欲目かもしれないけど、Gerd Leonhard というと最近の講演が長文エントリとして公開されている。これも何かの機会に取り上げたいな。

デジタル音楽の行方

デジタル音楽の行方

『デジタル音楽の行方』への反応 その47

『デジタル音楽の行方』への反応だが、せっかくなんでもうここまで来たら「その50」までいきたいところ。

今回はハギプラン(愛称:ハプラン)より引用。

ちょっと古い本だけど、本質的なところはそんなに古びてなくて、きっとそれこそが問題なんだろうなと思う。音楽だけを売るのはもう無理、というのがこの本の主張です。コンテンツ販売としてのポルノの話をちゃんと書いてあったのが良かったような。

そうそう、ポルノ業界との比較のところはもう少し反応があってもよかったような。

デジタル音楽の行方

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『デジタル音楽の行方』への反応 その46

これは正確には『デジタル音楽の行方』への反応ではなく『The Cult of the Amateur』への反応なのだが、久しぶりに FoM タグを使ってみたかったので。

結局『デジタル音楽の行方』は、音楽産業はネットを基軸に据えて(レコード会社からミュージシャンからレコード店までみんな)変わらなきゃいけないと説く本で、その最適化が全然な状態に居直って、現状金を出す人が少なく、売り上げが落ちてるからダメというんじゃ初めから噛み合わないよな。

ワタシはまだ最初のほうしか読んでないが、いずれこの本についてはちゃんと取り上げるつもりである。

あと個人的にはこの本の最初、Web 2.0 エヴァンジェリストが自分のやっていることを「MySpaceYouTubeWikipediaGoogle の出会い」と評したのに対して、Andrew Keen は「無知と利己主義と悪趣味と衆愚の出会い」とやり返し、「君は21世紀のハックスリーをやろうとしてるんだな」「『すばらしい新世界2.0』に乾杯!」というすかしたやり取りに笑ってしまった。

デジタル音楽の行方

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