こないだも書きかけたが、観終わってまず思ったのは、カンヌの観客は、何でこの映画で数十分もスタンディングオベーションしたんだ? ということ。ドキュメンタリー映画の完成度としては前作のほうが明らかに上である。
映画の出来はと聞かれたら、あまり良いことは言えない。映画として楽しめたかと聞かれれば、まず口ごもるだろう。そして、映画として価値がなかったかと聞かれれば、少なくともワタシにとっては価値のある映画だったと答える。確かに価値はあった。結局ワタシに書けるのはそれだけである。
ワタシは昼飯を食った後に観たのだが、前半部が退屈という話を聞いており、その日の寝不足とあわせ、映画館で寝てしまうことを心配していたのだが、それは杞憂だった。最後あたりの情緒的な演出には鼻白むものがあったし、例の日本人三人が画面に映った瞬間席を立とうかと思ったりもしたが、最初から最後まで自分の中で緊張感が途切れることはなかった。
でも前半部の情報量の多い語りと速い展開で場面がどんどん切り替わるところは、『荒野の七人』まで引き合いに出す映像と、マイケル・スタイプ自身「大嫌い。絶対にライブではやらない」と言い切った R.E.M. の大ヒット曲 "Shinny Happy People" を鳴らす音楽の使い方に代表されるブラックな笑いどころがつかめないとつらいかもしれない。
政治的な偏向とかそういうのは個人的にはあまり重要ではない。問題はその手法の巧拙であり、それは懸念していた通りなところもあった。しかし、この映画は最後にちゃんと弱者と強者についての構造分析に行き着いている。それについて皆ちゃんと書けよ。
この映画を観ている間、ワタシはずっと揺れていた。別に戦争を映画で観たというのがはじめてというわけはない。しかし、自分がこれまで観てきた『フルメタル・ジャケット』などの戦争映画についての評価を考えてしまった。もちろん戦争そのものについても考え込んでしまった。今でも考えている。
他人がどう評価するかなんてどうでもよいことである。問題はワタシとその映画の関係性である。決着が着いたような気になっていたことについて、ワタシを揺さぶってくれた。それはムーアの意図とは関係ないかもしれないし、たまたまそういう時期だったからだけかもしれない。しかし、それだけでもこの映画を観た価値はあった。
あと触れておかなければならないのだが、ジョージ・W・ブッシュというこの映画の主演男優はつくづく面白すぎる。この男は、マイケル・ムーアの映画のネタとしても、ネオコンらにとってのかませ犬としてもあまりにも面白すぎる。そう、ブッシュの一番の問題は、彼が上に書くような意味で有能すぎることかもしれない。