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YAMDAS更新、もしくはダン・ギルモア著『我々こそメディア:人民による人民のための草の根ジャーナリズム』のさわりをどうぞ

Dan Gillmor 著『We The Media - Grassroots Journalism by the People for the People』の Introduction の日本語訳を公開。

『We The Media』については以前取り上げているので、書籍の情報については以下を参照いただきたい。

本文書は、一通り日本語にしただけの仮訳状態で、通常ならもう少し手を加えてから公開するのだが、これについてはそれをやる気力が湧かない。

こう書くと非常に投げやりなようだが、まあそうともいえる。もちろん誤記・誤訳の指摘は通常通り大歓迎です(原文もコメントアウトして残しています)。

簡単に事情を書けば、某社に依頼を受け、本書の査読や翻訳の準備を行うも、ある事情により翻訳を行うことにはならなかったということである。実は先日 Web & Internet Application Day に出向いた際に某社の編集者の方々にご挨拶する機会があった。きちんとお話することができて本当によかったと思う。

一応書いておくと、『We The Media』の邦訳は某社以外の某社から刊行される(はず)。おそらくは来年の早い時期に出ると思われる。その際には原著同様クリエイティブ・コモンズライセンスの元でオンライン公開されるだろう。そして CCPL だから当方も勝手に翻訳を公開できるわけだが、邦訳が出れば公開しておく意味はなくなるので、サイトから引き上げる予定である。つまりは、邦訳刊行までの期間限定公開だと思っていてください。
以下、11日に追記

なんという偶然、と驚いたのだが、著者のダン・ギルモアが、San Jose Mercury News を退社することを公表している。そしてどうするのかというと、「市民ジャーナリズムのプロジェクトに携わる」ということで、『We The Media』で唱道した市民ジャーナリズム、草の根ジャーナリズムに本腰を入れるということなのだろう。

『We The Media』は何よりジャーナリズムについての本である。しかし、著者自身がそうであるように前提となっているのはブログにより力を得た個人であり、RSS により可能になった情報の流通である。これは近頃の「どうでもいい」と言いつつ延々と続いたネットジャーナリズム周りの話に呼応するもので、ホットな話題であるのは間違いない(ホットを越えて火だるまになったブログもあるようだが)。アメリカでも最近 Slashdot"Are Blogs the Future of Journalism?" なんてストーリーがあったりしたし。

……と書いておいて何だが、ワタシ自身は以前より例えば「ウェブログ・ジャーナリズム」みたいなのには懐疑的で、もちろんそれは可能なのだけど、例えばレベッカ・ブラッドが「参加型メディア時代におけるウェブログとジャーナリズム」に書いたことぐらいは前提にしてくれよなと思う。そうした視点で見ると、『We The Media』はその楽観的なトーンに正直「ぬるい」と感じるところもあるし、飽くまで読み物であって読者が予想もしないような展開を導き出す本ではない。

しかし逆に言えば、読み物としての強みも持った本とも言える。ちゃんとシビアな話も出てくる内容的にバランスの取れた本だと思うし、ハワード・ディーンの大統領選挙運動や韓国のインターネット新聞 OhmyNews の話など有名どころを含め、この手の話をする上でのまとめとして引き合いに出される本になるだろう。伊藤穣一は、レッシグ『FREE CULTURE』ハワード・ラインゴールド『スマートモブズ』の二冊を引き合いに出しており、実際この二冊への言及があるのだが、個人的には cluetrain manifesto のジャーナリズム版なのかもと思ったりした。突飛に思われるかもしれないが、cluetrain における「対話」が真に可能なインフラとなるツール・情報流通の仕組みができあがったということで。

オープンソース・ジャーナリズム、創発WikipediaP2Pクリエイティブ・コモンズなど、いかにもな話題についての目配りもちゃんとなされており、いずれにしても本書により元気付けられる人は一定数いることは想像できる。それだけに当方が翻訳できないことを残念に思うが、そう思うのはワタシ一人だけで、他の人にとってはどうでもいい話であることも承知している。来年朝日新聞社より、もとい某社より優れた訳書が刊行されるだろう。

さて、上に書いたようなことを一部査読評価書に書かせてもらったわけだが、同じく『We The Media』のレビューを行った方と先週末お話する機会があったのだが、二人とも山形浩生の査読評価書を参考にしていたことが判明。たとえ中年厨房だとしても、氏の仕事には深く感謝するものである。

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