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花とアリス

DVDジャケット

岩井俊二おそるべし。

考えてみれば彼の映画は『Love Letter』しか観たことがなく、あれはあれでできた映画だったと思うが、どうも小手先な技に頼る映像作家という先入観を勝手に持っていた。本作についても、違和感の演出が主目的のような一部キャスティング、本筋への集中を妨げるカメオ出演、柔らかい光の撮り方はいいけどビデオじゃなくちゃんとフィルムで撮ってくれよ、など文句をつけようと思えばつけるポイントはいくつもあるのだが、これだけの少女映画を作ったとなればこれは賞賛するより他ない。

冒頭、思いきりダラダラした退屈な映画をみせられるのではないかという懸念を持ったが、美しい春の場面になりそれは消し去り、あとは二時間この映画の世界にとらわれたまま。この間『ブラッド・シンプル/ザ・スリラー』について「久方ぶりに痺れる映画だった」と書いておいて何だが、端的に言って、痺れた。

『スウィングガールズ』といい、お前は女子高生が主役なら何でもいいのかと言われそうなので書いておくと、あれにしてもこれにしてもエロやロリの要素が皆無なのが私的に楽しめるポイントなのだと思う。正直、この年になって自分の半分(!)ぐらいの年齢のエロなんか見てもまず虚しくなるということだが、本作は単なる少女映画に留まっていない。それだったら、鉄腕アトムをあんな形で出すなんて思いもつかないだろうし。

ストーリー的には、鈴木杏演じる花が主人公の映画と思いきや、最も印象に残る言葉も動きも蒼井優演じるアリスが持っていってしまうのだが、特にアリスに関する伏線が回収される後半は話もよくできている。またちゃんと花にとっての見せ場となる場面があるのもよかった(ただ花屋敷の話は余計だったかなと思う)。

斎藤美奈子なら本作に『紅一点論』の裏返しを見るのかもしれないが(宮本には自分の過去について問い質す同性の友人がいない)、冬に始まり、春、夏、そして秋と巡っていく季節をとらえた美しい画とその中にいる主人公三人はずっとワタシの記憶に残るだろう。特に若い主人公達の相応しい夏の画は。いやはや、岩井俊二おそるべし。

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