ITの発明おじさんこと増井俊之さんが10月から米アップルに移籍するというニュースを聞いたときは心底驚いた。そしてその衝撃がおさまると、氏のクパチーノでのご活躍を心から祈る気持ちとともに、なんともいえない寂しさというかうまく表現できない複雑な感情が湧いてきた。
当方は氏と親しいわけではなく、何度か宴席をご一緒させていただいたことがあるだけである。はじめてお目にかかったのはおよそ三年前になる。
ワタシにとって増井さんは何より POBox の人であり、今は亡き(?)Unix Magazine の『インタフェースの街角』(asin:4756146627)の人であり、他にも PalmWiki や QuickML など当方にも馴染み深い仕事がいくつもある、言ってみれば偉人クラスの人である。
宴席での増井さんは温厚で楽しいおじさんで(失礼)、楽しそうにいろんなガジェットやソフトウェアを披露する姿は、チャーミングと形容したくなるものだった。そして、これは宴席に限らないのだが、氏は偉ぶったところがまったくなく、周囲に気を遣わせない。とにかくマイペースなのが秘訣なのかなと思う。
氏のこれまでの仕事と温厚な印象が重なり、ワタシは増井さんのことを第一線の研究者である同時に、成功者として満ち足りているのだろうと勝手に思っていた。しかし、その初めてお会いした日の深夜、品川駅前のアンミラ(笑)で、自らのヴィジョンについて力強い調子で語る増井さんのパワフルさに慄き、自分の浅はかさを思い知った。
とはいってもその温厚さに甘え、「賞金の600万円は何に使われました?」といった無礼極まりない質問をしたこともあったのだが(本当に申し訳ない)、増井さんがその程度で満足していないであろうことは想像できた。
輝きを取り戻したアップルで、増井さんが存分に力を発揮されれば素晴らしいと思う。スティーブ・ジョブズが、増井さんが作った技術を Boom! という言葉とともに世界に紹介する日を楽しみに待ちたい。
なお、今日の画像は例によって Wikimedia Commons より。