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17歳の肖像

以前から楽しみにしていた映画で、他の映画と間違えそうな邦題はちょっとイヤだが、期待通りの出来で満足だった。

昨年ヒッチコック『フレンジー』を観たときも思ったのだが、ブリティッシュな顔が並ぶだけでワタシ的には気持ち良くなるみたい。本作では四角四面な主人公の父親役の顔が文字通り四角四面で最高だった。

本作の舞台は1961年のロンドン郊外で、端的に言えばビートルズ以前のイギリスである。

主人公はオックスフォード大学への進学を目指す16歳(作中17歳になる)の利発な女学生で、その彼女が30代の大人の男性と出会うのだが、その出会いの場面からしてすごく素敵で、そのときのワタシ的にうっとりとした感じがずっと続いた。

大人の男性の手引きでジャズクラブ、高級ワインなどそれまで知らなかった世界を体験し、あこがれの地であるパリを訪れる主人公――そうするうちに学校での勉強、大学への進学に疑問を持ち始めるという展開は、物語の題材として他にでもいくらでもあるだろう。

本作を際立たせるところに、当時の風俗描写の丁寧さがある。脚本も巧みで、ニック・ホーンビィというとロックミュージックと分かちがたい人と思っていたが、そういうのにまったく頼らなくてもこれだけの脚本が書けるのかと感嘆した。

本作に描かれる時代背景として、女性が大学に進学しても大した選択肢がなかったというのもある。主人公の校長との会話が象徴的だが、大学に行って教師になったとしてもきつく退屈なだけじゃないかと詰め寄る主人公に対し、「公務員にもなれる」というしょぼい選択肢しか提示できない無様さを今の日本人は笑えるだろうか。また一方で、自分は本作における小論文教師のような毅然とした態度を示せる大人足りえているだろうかとも考えた。

やがて主人公は大人の男性に幻滅し、現実に立ち戻ることになる。その結末にしてもやはり凡庸といってよいのかもしれないが、本作の一貫して節度のある演出は観ていて心地よかったし、本作の場合、主人公を演じるキャリー・マリガンがとても魅力的で、彼女の存在自体が本作をドライブさせていたように思う。

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