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80年代最高のビデオ作家ゴドレイ&クレームの作品を回顧する

先日調べものをしていて、The Works Of Godley & Creme(以下 TWGC と略記)というゴドレイ&クレームのファンサイトを知った。

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ゴドレイ&クレームことケヴィン・ゴドレイとロル・クレームの二人は元々イギリスのポップロックバンド 10cc のメンバーで……と書いてみたが、今では 10cc のことも知らない人が多いだろうな。そういう人でも "I'm Not in Love"YouTube)を聴いたことがあるだろう。この曲もゴドレイ&クレームが在籍した時代の 10cc の曲である。

1976年にバンドを脱退した二人はコンビとして音楽活動を行う傍ら、80年代に入るとプロモーションビデオも数多く手がけるようになり、高い評価を得る。

80年代に少年時代を過ごしたワタシにとってプロモーションビデオはとても大事な媒体だった。かつて「スパイク・ジョーンズからゴドレー&クレームに」という文章を書いたことがあるが、ゴドレイ&クレームのビデオは特別だった。

TWGC では二人が手がけたプロモーションビデオ全作品が解説されており、久しぶりにその名作を見直す機会となった。

そうしてはっきりしたのは記憶は美化されるということ(笑)。ゴドレイ&クレームと90年代以降のスパイク・ジョーンズミシェル・ゴンドリーやマーク・ロマネックの作品を比べた場合、後者のほうがはっきり優れている。これは疑う余地はない。技術面の差が歴然としている。

それでも忘れ難い作品も多いので、これを機にゴドレイ&クレームの代表作10本を紹介しようと思う次第である。

Godley & Creme, An Englishman in New York

彼らがはじめて手がけたビデオは、アルバム『Freeze Frame』(asin:B000008G29)からのシングル曲。不気味さとユーモアが共存しているところが彼ららしい。

リードボーカルの髭がゴドレイで、ピアノを弾いているのがクレーム。

Herbie Hancock, Rockit

ハービー・ハンコックビル・ラズウェルと組んであっと世間を驚かせた『Future Shock』(asin:B0012GN1LQ)からのヒット曲。

この曲が当時のシーンに持っていた異物感を的確に表現したビデオは MTV Video Music Awards で5部門を獲得した。

The Police, Every Breath You Take

ポリスのラストアルバムにして最高傑作である『Synchronicity』(asin:B00009P57O)からの全米全英1位シングル。

おそらくこれがゴドレイ&クレームのビデオで最も有名なものだろう。余計な手出しをせず、曲の良さを引き立てるコントラストの強いモノクロ映像。

The Police, Synchronicity Concert

ポリスとゴドレイ&クレームの組み合わせでは、彼らが監督した『Synchronicity』ツアーのビデオも欠かせない。

TWGC でも指摘されているが、客席をできるだけ映さずストイックなつくりのジョナサン・デミ『Stop Making Sense』とは対象的なアプローチだが、音と映像が見事に対応しており、これもライブビデオの傑作に違いない。

『Stop Making Sense』が誰も真似できなかったのに対し、以下の "Synchronicity I" を観れば、彼らの手法がライブビデオの演出の規範となったことが分かるだろう。

Frankie Goes To Hollywood, Two Tribes

フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの2枚目のシングルで、後に『Welcome to the Pleasuredome』(asin:B000AMU0XA)に収録された。

1枚目のシングル "Relax" 同様にビデオが当時センセーショナルな話題となった。で、今でもこの露骨に冷戦をネタにしたビデオを「名作」と言う人がいるが、ワタシはそうは思わない。もうこのビデオは価値を失っていると思うし、それは「トレヴァー・ホーンの操り人形」と言われたこのバンドに相応しいものだろう。

Godley & Creme, Cry

彼ら自身の曲の PV ではこれが最も有名。『The History Mix Volume 1』(asin:B0000070IV)からのシングル曲。

モーフィングで顔をつなげていく手法は後にいろんなところで使われた。もっとも有名なのはマイケル・ジャクソンの "Black or White" の後半部だが、ワタシはこっちのほうが好き。

Sting, If You Love Somebody Set Them Free

ポリス活動停止後にスティングが出したソロ一作目『Dream of the Blue Turtles』(asin:B000002GFA)からのファーストシングル。

ビデオ自体はシンプルなライブ演奏の設定だが、映像処理はなかなか凝っているので見ていて飽きない。スティングの身体の周りにオーラのようなものがあるのは、編集を重ねることによる映像の劣化を隠すためだったと思う。

Peter Gabriel & Kate Bush, Don't Give Up

ピーター・ガブリエルを一躍世界的なロックスターにした『So』(asin:B003YOXIVW)からのシングルで、ケイト・ブッシュとのデュエット。リチャード・ティーのピアノ、トニー・レヴィンのベースも素晴らしい。

ピーガブというと長らく史上最高の PV と言われた "Sledgehammer" が有名だが、ただただピーガブとケイト・ブッシュが抱き合って歌いながら回転するだけのこのビデオも感動的で(冗談や皮肉でなく)、ポリスの「見つめていたい」もそうだが、曲の良さを活かすべく小手先の演出ででしゃばらない「引き」のセンスがゴドレイ&クレームを巨匠たらしめているのではないか。

George Harrison, When We Was Fab

しばらく音楽業界から離れていたジョージ・ハリスンの復活作となった『Cloud Nine』(asin:B00014TJ7K)からのシングル。曲タイトルはビートルズの愛称である Fab Four からきている。つまりビートルズ時代を回顧した歌ということですね。

プロデューサーのジェフ・リンやこの曲に参加したリンゴ・スターをはじめとして、エリック・クラプトンエルトン・ジョンまで登場する豪華さなのだが、落書きをする手を捕まえ手錠をかけたと思ったら、その手錠がボトルネックになるところなど細かい遊び心満載である。

最後はシタールの音とともにインドの神様のような感じで消えていくという自身のインド趣味もユーモアの対象にするところが、モンティ・パイソンの理解者だったハリスンらしい。

なお TWGC によると、このビデオでウォーラス(!)の格好でベースを弾いている左利きの男はポール・マッカートニー本人とのことだがホント!?

U2, Sweetest Thing

1988年にゴドレイ&クレームはコンビを解消し、ゴドレイは引き続きビデオ制作、クレームはトレヴァー・ホーン関係のレコーディングに参加しながらビデオも少し手がけている。

最後に紹介するのは U2 のベスト盤『Best of 1980-1990』(asin:B00000DFSK)からのシングル曲。

以前ワタシは「代表的な一発撮りビデオをざっとまとめてみる」U2 の "Numb" とこの "Sweetest Thing" を挙げているが、いずれもケヴィン・ゴドレイが監督したものだったのに TWGC をみて初めて気付いた。

奥さんへの謝罪という曲の歌詞にフォーカスしたシンプルな作りと思いきや、途中からどんどん派手になってくるところや、サングラスを外し素顔を見せるボノとその背後で踊る当時の彼らを戯画化した被り物などいくつものギャップがとても楽しい。

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