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ザ・ストーン・ローゼズ:メイド・オブ・ストーン

以前から日本での公開を切望していた映画だが、ワタシが住む田舎では12月14日の土曜日に1回だけ上映されたので観に行ってきた。上映20分前にできていた行列にちょっとめげそうになってしまったが、なにゆえ1回きりの上映だったのか。

本作についてはブレイディみかこさんの素晴らしい映画評を先に読んでいたので、これがどういう映画かというのは予め分かっていたつもりである。それでもイアン・ブラウンが客席の前を歩くスローモーションになぜかヒッチコックのインタビュー音声が重なり、イアンが客のスマホを手に取るシーンに "I Wanna Be Adored" が鳴る冒頭のシーンで既に胸がどうしようもなく熱くなった。白髪がすごく増えたけど、イアンにはカリスマ性があるよな。

本作では当然再結成したローゼズの演奏並びにメンバーたちの姿もフィーチャーされるが、ハイライトは当日になっていきなり発表されたフリーギグのニュースを聞いてウォリントン・パー・ホールに集まったファンたちのシーンだろう。ある者は義母が心臓発作だと嘘をつき、ある者は仕事をほっぽりだして着の身着のままかけつけるのだが、しまいには会場まで来ながらチケットをとれなかった人たちの顔までカメラは追い続ける。

ある中年のファンはカメラに向かってこう語る(字幕よりもパンフレットに載ってるブレイディみかこさんの訳がいいのでそちらを引用する)。

こんなに長い時が過ぎて、俺が今でもこんな髪型をしているのには理由がある。俺がネクタイを締めたことがないのにも理由がある。あのアルバムを、俺は今でも毎週聴いているのにも理由がある。そしてそのアルバムは、今でも俺をゾクゾクさせる。

1990年のロキノンのインタビューで、ジョン・スクワイアは「これからはオーディエンスが主役の時代なんだ」と言った。90年代はそういう時代だった、とは言えないだろう。しかし、そのときの「オーディエンス」は、誇らしげにウォリントン・パー・ホールに集まった。彼らが一様に幸福な人生を送っているということはあるまい。しかし、彼らはそれぞれの人生が歩み、そしてこの日、ウォリントン・パー・ホールに集ったのだ。

何度か書いているが、ローゼズのファーストは音楽というより一種の魔法に近い。本作の監督であるシェーン・メドウズをはじめとして、本作はその魔法によって人生を変えられたオーディエンスのローゼズに対する愛がある映画である。

順調に再結成ライブを行っているところでレニがアンコールを拒否してホテルに帰ってしまう事件がおき、そこでかつてレニが脱退したときの回想が重なり、果たしてマンチェスターのヒートンパークでの凱旋ライブは実現するのか、結論は分かっていても恐怖を感じてしまう。

そこで冒頭にヒッチコックのインタビュー音声が使われた意味が分かる。「カメラは真実を写す」という言葉の後、そこにいたる経緯や舞台裏の映像はいっさいなしにヒートンパークでの圧倒的な "Fool's Gold" の演奏が映し出される。ローゼズのプレイが答えになっているということだ。ジョンのギターは当時よりもブルージーで、マニのベースは野太く、そしてレニのドラムは神がかっており、イアンの歌は相変わらず下手だがその自信に満ちた立ち姿だけで唯一無二の存在である。

『スパイナル・タップ』『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』など、最終地点が日本であるロック映画は名作というジンクスがあるわけですが……すいません、今思いついたウソなのだけど、本作もその系譜に連なる作品といえるだろう(笑)。

シェーン・メドウズの『THIS IS ENGLAND』も観ないといかんなぁ。

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