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山下達郎のライブに初めて行ってきた

山下達郎の音楽は、物心ついた1980年代前半から聴いてきたが、実は彼のライブに自分が行くということ自体考えられなかった。自分でも不思議になるが、ワタシなんかが行くところじゃないと当然のように思い込んでいたのだ。

アリーナなど大会場では絶対やらない彼のライブのチケットが大変な競争率となることも、そう思い込む理由の一つにはあったが、今回期待せずに申し込んだ彼のライブチケットが抽選に当たったのである。が、やはり自分が山下達郎のライブに行けるということ自体が信じられない気持ちがあった。

結論から言うと、3時間15分に及ぶライブは、ワタシの数少ないライブ経験で言っても他人の参考にはならないが、人生至高のライブ体験であり、控えめにいって最高すぎた。

「ドーナツ・ソング」のイントロが流れる中「さよなら夏の日」を歌い、「でも、まだクソ暑いじゃねぇか」と茶々を入れてからの歌いだし、そして曲の後半ドクター・ジョンの「アイコ・アイコ」、バディ・ホリーの「ノット・フェイド・アウェイ」などをおり混ぜるあたりの所作を見て、本当にこの人は落語が好きなんだなと感動した。

例えば「土曜日の恋人」など「ひょうきん族」世代のワタシなどからするとライブでやって当然なんだろうと思っていたが、今回が2回目とのことで、この日のセットでは同じく演るのが「2回目」という曲がいくつかあった。

かつてはライブ演奏不可能だった曲の演奏を可能にしたのは、テクノロジーの進化とともに、2008年以降メンバーチェンジなしに毎年ツアーをやっている総勢9人のバックバンドの存在があり、この日の MC でもこのバンドで可能になったことについて何度も触れていたが、それだけに来年はツアーをやらない宣言には客席から悲鳴があがった。

その理由として真っ先に挙げられたのは、2020年東京オリンピックで、ライブ会場や機材の輸送などいろいろと支障が出るのが目に見えているからとのこと。ただ何より2011年の『Ray Of Hope』(asin:B0052VI2Y8)以来出ていないアルバムの制作、滞っている過去作のリマスター作業、それに長らくアルバムを作ってないので最新のテクノロジー(ハードウェアとソフトウェアとも)の勉強、とやりたいことはいくらでもあるようで、活動の停滞ではない。それに伊藤広規難波弘之と3人でおよそ月イチでやってるライブはやるので、ライブ活動からも離れてしまうわけではない。

バンドの演奏についてワタシが何か書くことはないが、それにしても山下達郎の歌にしろ、ギターのカッティングにしろ、衰えを見せない演奏力はただただ感服するしかない。今では還暦過ぎてツアーをやる人は洋邦問わず多いが、その多くはオーディエンス側がかつての記憶で補完するのが前提になっており、山下達郎のような水準を維持している人は世界的にもまれだろう。ただ彼のライブ初体験のワタシからすると、こういうのもテープ(正確にはプログラミング済の音源か)使うんだ、と思ったところもあった。

MC でも自分が年金受給者の年齢になったこと、鬼籍に入る音楽仲間が増えたことを語っていたが、その流れで大瀧詠一の話になり、訃報が伝わるとともに自分にも取材が来たが、関係があまりに近すぎたこと、そして大瀧詠一の熱狂的なファン(ナイアガラー)があまり好きではなく、彼らを喜ばせるコメントをしたくなかったため、そうした依頼は断ってきたが、今年で七回忌になり、彼が亡くなった年齢を超えることもあってこだわりも薄れてきたことを語り、「君は天然色」が歌われた。この曲は大瀧詠一とカラオケに行ったときに歌ったら、「この曲は君にあげる」と言われたそうである。

演奏後、「昨今の傾向として、自分の曲よりもカバーのほうが受けが良い」とコメントを入れるところが山下達郎らしいが、その後、「自分には大瀧詠一の曲を歌う義務があるし、その資格もある」と言った後に続けたインパクトの強い言葉は、あえてここには書かないでおく。

上でも書いた、曲中にまったく別の曲をガンガン歌っていくのは山下達郎の得意技なんだろうが、カーティス・メイフィールドの「ピープル・ゲット・レディ」、ボブ・ディランの「風に吹かれて」(ちょっとこれは勘違いかも)、はたまた自分の「希望という名の光」もやっちゃうし、しまいには竹内まりやの代表曲をえんえん歌い続け、アンコールではパネルまで持ち出して竹内まりやの新譜『Turntable』(asin:B07RM5Y5VX)の宣伝をやりだすところなど、本当にサービス精神に長けた人である(ワタシは既に CD を買っていたので、会場で買って山下達郎のサイン入り色紙をもらえばよかったと少し悔しかった)。そして、その姿勢が媚びでなく一種の攻撃性につながっている。

サービス精神といえば、最近の海外でのシティ・ポップ人気の話をした後で竹内まりやの「プラスティック・ラブ」をやり、「一昨年や昨年に続いて受け狙い」と意地悪そうに言ってから「ハイティーン・ブギ」をぶちかまし、アンコールでは「硝子の少年」までやってしまう。もちろん自分の代表曲も欠かさない。当然のように「クリスマス・イブ」はやるし、最後はマイクなしでものすごい歌声まで聴かせる「RIDE ON TIME」で終わり、と思いきや「DOWN TOWN」である。終わってみれば3時間15分、圧倒的だった。

その圧倒的なライブを、改装後ちょうど100回目のライブを行う、山下達郎自身が最高のホールという会場で観れて本当に良かった。ワタシ自身は三階席のほぼ最後列だったとはいえ。

ライブ終演後、バックバンドのメンバーがステージから去った後で山下達郎は、最近のギスギスした世の中について語っている。その具体的な内容については、彼の意図を曲げて伝えることになっては申し訳ないし、そうでなくても曲げて解釈されてしまうご時勢なのでここには書かないが、音楽体験としてのライブを考えるなら、そのバランスを一部崩してまで彼が憂慮を語ること自体の深刻さについて考えてしまった。

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