町山智浩さんの紹介や山崎まどかさんの文章で興味を持った映画だが、近場のシネコンでの終映日になんとか観に行けた。
いやぁ、良かったですね。この映画はフランス映画のリメイクらしいが、そちらは未見なので比較はできないのだけど、聾唖者家族による多分に性的な内容を含むユーモアは元映画から引き継がれたものなんだろうな。
家族の中で唯一聾唖者でない主人公を演じるエミリア・ジョーンズを観るのは本作が初めてだったが、歌も演技もとても良かった。
障がいを持つ家族の中で必然的にケアを担当せざるを得ないが、歌唱力というその家族が理解できない才能を持ってしまった娘に対して、その父親、母親、兄がそれぞれに思いやり、認識を改めたり、家族の愛情を示すところが良かった。またこの映画自体、恥ずかしいと思う者が立場が変わるとそうでなかったりするなど、人間の多面的な描き方ができているのも良い。
ドラマ『glee』の成功の最大の功績は、何より歌うということ自体のドラマ上の意義というか、極端に言えばそこで歌う曲がイケてる必要なんかまったくないということだが、そうした意味で本作も歌うこと自体の効用をちゃんと描いていた。
主人公がクライマックスで歌うジョニ・ミッチェルの「青春の光と影」はとても良いチョイスなのだけど、個人的にはバークリー音楽大学ってあんな一芸入試なのかと疑問だったし、「オーディション」という字幕に、えっ、これってそうなの? と混乱したし、本作のおけるヴィラロボス先生はとても良かったのだけど、あそこに飛び入りするのはいくらなんでもやりすぎに思えたり、そこだけが少し作為的過ぎるように感じられてマイナスだった。
しかし、主人公のデュエット相手、ボーイフレンドとなる男の子がキング・クリムゾンの『Discipline』Tシャツを着ていたのはいったいどういう意味があるんだろう(笑)。