速水健朗さんの投稿で知ったのだが、アメリカにおける現代暗号学の礎を築いた女性エリザベス・スミス・フリードマンの生涯を描く評伝『コードブレイカー エリザベス・フリードマンと暗号解読の秘められし歴史』が出ているのを知る。
ん? この本、ワタシも原書をブログで取り上げたことがあったような……と調べたら、(Wiredの)BackChannelチームが選出した2017年最高のテック系書籍11選の中に入っていた。
つまり、原書は2017年に出たもので、7年経っての邦訳刊行ということになる。ただ、この手の歴史本は簡単に古びることはないので、邦訳が出ただけで喜ばしいと書いてよいだろう。
変わり者の富豪フェイビアンが設立したリバーバンク研究所での奇妙なシェイクスピア研究、ウィリアムとの出会い、禁酒法下で酒密輸をもくろむギャングの摘発協力、第二次世界大戦中の南米ナチ・スパイ網の監視と追跡――書簡や日記、機密解除された史料や関係者インタビューをもとに、知られざる事績を丹念にたどる。FBI長官J・エドガー・フーバー、エニグマ暗号を解読したアラン・チューリング、『007』の生みの親イアン・フレミングらも登場し、陰影を添える。
コードブレイカー | エリザベス・フリードマンと暗号解読の秘められし歴史 | みすず書房
ここを読んだだけで無茶苦茶面白そうな歴史本に思えるのだが、そんな本でも邦訳が出るまでこれだけ時間がかかってしまうのな……。
この分野ではサイモン・シン『暗号解読』といった傑作があり、暗号解読についてはしかるべき名声を得るべき人が必ずしも賞賛されるとは限らない構造があるのだけど、『コードブレイカー』の場合、主人公が女性だったために二重の意味でそれがあったのだろう。
そうした意味で意義ある本なのだけど、惜しむらくは速水健朗さんも指摘している通り、邦題がウォルター・アイザックソン『コード・ブレーカー 生命科学革命と人類の未来』と被っちゃったのはちょっと残念に思える。

