2021年以来半年ごとにやっている、Netflix で観た映画の感想まとめを2024年下半期についてもやっておく。これまでと異なり、「Netflixなど」になっている理由は後述する。
昔の映画は入れず、近作のみとしているが、10年未満だったら近作、と基準を緩めさせてもらいましょう。
ケイコ 目を澄ませて(公式サイト、Netflix)
公開時に評判になったので観たいと思いながら逃したのを残念に思っていたので、Netflix に入るなり視聴した。
聴覚障害を持つ女性プロボクサーの話という事前知識しかなかったのだが、まさにパンチを繰り出すように前に進む主人公の映画と想像していたのと随分違っており、迷いの映画だった。でも、それが良いのだ。
今どき珍しく16ミリフィルムで撮られた作品で、最初その必然性あるのかと思ったが、その疑問はラストの主人公の大写しに霧消する。迷いの映画というのもあるが、ざらついた映像が本作にアメリカンニューシネマのような質感を与えていた。
バリー・シール/アメリカをはめた男(Netflix)
Netflix での配信はもうすぐ終わる。
トム・クルーズ主演の実話犯罪ものだが、これって『ブレイキング・バッド』みたいな映画ないのか? で題材を探した企画だったりするんだろうか。
映画化にあたり、もちろん脚色や現実との差異があるに決まっているが、それにしても80年代レーガン政権下でのデタラメな話がエンターテイメントになっている。クライムコメディとしてよくできているし、主人公家族の焼け太り感は笑える。
マッシブ・タレント(公式サイト、Netflix)
ニコラス・ケイジが架空の自己を演じ話題になった作品だったが、劇場公開時に見逃したのを残念に思っていたので、Netflix(以下略)。
やはり、本作の邦題は『巨大な才能の耐えられない重さ』にしてほしかったが、いやー、ニコラス・ケイジのファンとして楽しませてもらった。ケイジとペドロ・パスカルの組み合わせが良かった。
ケイジと Netflix というと、『あなたの知らない卑語の歴史』に結構出ずっぱりでホストをやっていたときは、楽しかったけど、なんだかなと思うところもあった。近年は、本作や『ドリーム・シナリオ』など充実した出演作が続いていて嬉しい限り。
PLAN 75(公式サイト、Netflix)
これも公開時に評判になったが都合がつかずに見逃した映画なので(以下略)。
河合優実と磯村勇斗は、『不適切にもほどがある!』の前に本作で同じ作品に出ていたのね。
本作の「PLAN 75」という安楽死制度という設定が何より強力で、それができるところの綿密な説明は本作になかったと思うが、実際にその制度の対象者やそのために働く人たちの描き方がよくて、本作に説得力を与えている。
しかし、本作は最後近くになって、倍賞千恵子の顛末にしろ、なんで磯村勇斗がそんな風に遺体を運ぶのもおかしいだろという感じで映画として失速するのが残念だった。
アイズ・オン・ユー(Netflix)
アナ・ケンドリックのことを知ったのは『マイレージ、マイライフ』だったが、その後たまたま彼女の出演作を見逃しており、今回主演だけでなく監督も務めているというのに興味をもって観てみた。
1970年代に犯行を重ねた連続強姦殺人犯であるロドニー・アルカラの実録サスペンスものなのだが、彼がすごいのは何より殺害した人数で、本作の最後で彼の被害者数を知ってひっくり返りそうになった。しかも、彼は人気テレビバラエティ番組に出演しており、そのおかげで「デートゲーム・キラー」とも呼ばれたらしいが、本作は彼の数々の犯行を描きながら、そのデートゲーム番組で彼と出会ってしまった主人公の恐怖体験を描いている。
そのデートゲーム番組で彼は外面が良く、しかも気が利いていて、主人公の感心をうまい具合に勝ち得るのだが、その後のひたすら主人公の女性が味わうイヤーな生理的嫌悪感が描かれており、そこの緊迫感がすごい。
この世に私の居場所なんてない(Netflix)
テラヤマアニさんがおすすめしていたのを思い出して観てみた。
本作で主人公を演じているメラニー・リンスキーのフィルモグラフィーを見ると、この人の出演作をいくつも観ているはずなのに、どこで出てたか言えなかったりする。そういう彼女が本作の主人公役によく合っていたし、イライジャ・ウッドの怪演も良かった。
予想していたよりもかなり破天荒な展開だなと思ったが、結構バイオレントなので、そういうのが嫌いな方はご注意を。
ドーターズ(Netflix)
ワシントン DC の刑務所にて、収監されている囚人の父親たちと彼らの娘たちのダンスパーティーの模様を、その準備段階から丹念に追うドキュメンタリー映画である。
この説明を聞くだけでエモい映画だと予想がつくし、父娘によるダンスパーティーが更生にポジティブな影響をもたらす可能性を確かに感じるが、本作に登場する囚人が一人をのぞいて全員黒人であることからも察せられる米国における刑務所の商業化の問題が頭をもたげるのである。
陪審員2番(U-NEXT)
ストリーミング配信サービスは、動画、音楽それぞれ一つしか有料契約してはいけないというのがうちの家訓なのだが(ウソ)、クリント・イーストウッドのおそらく最後の監督作となる本作が U-NEXT で独占配信となれば、これは観ないわけにはいかないと、悩んだ末に U-NEXT に加入した。
当初、本作が日本など多くの国で配信スルーとなったのには、言いたくないが作品の質の問題もあるのかと思ってたわけですよ。まぁ、悪くはないけど、スケールちっちゃいですね、みたいな。前作の『クライ・マッチョ』も割とどうでもいい作品だったし。
それが本作は、クリント・イーストウッドの監督としての彼のキャリアを通じても屈指の傑作なのだから、本作に感動するとともに「なんでこれが劇場で観れないんだよ」というワーナーに対する怒りも改めて湧いてしまったというのが正直なところだったりする。
本作はシンプルな設定を下手にいじることなく正面から描いているが、法廷劇というアメリカ的な映画であり、主人公が陪審員という意味で『十二人の怒れる男』などいくつかの映画を想起させながらも安易な展開に落ち着かず、最後まで観る者をも、あるべき正義について、道徳的なジレンマで締め付け続ける映画である。作中何度か映される目隠しをした女神像が本作の性質を象徴しているように思う。
『アバウト・ア・ボーイ』で親子を演じていたニコラス・ホルトとトニ・コレットの対峙により、ワタシの中で『ミスティック・リバー』の後味の悪さが更新される作品だった。本作の完璧なラストには息をのんだ。
2024年に観た映画の中で、本作は『オッペンハイマー』や『ホールドオーバーズ』に劣らないベストだった。