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ワン・バトル・アフター・アナザー

ポール・トーマス・アンダーソンの新作となれば映画館にかけつける一手であり、ワタシの場合、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以降、ずっとそうしている。

が、彼の映画は必ずしもワタシの体質に合うとは限らない。彼の作品はだいたい観ているが、彼の映画から三つ選ぶなら『ブギーナイツ』、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』、そして『インヒアレント・ヴァイス』になり、このチョイスをする人間は(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以外は)希少かもしれない。

本作は PTA の映画と思えないほどアクション満載であり、また予算が彼の映画では最大規模と聞き、大丈夫なのかという不安もあり、『インヒアレント・ヴァイス』に続いてトマス・ピンチョン原作というのに面白くなりそうだという期待もあった(と言いつつ、『ヴァインランド』未読なんだけど)。

映画が始まってすぐ、アクションの迫力の圧倒的さと裏腹に、「あー、これ、ワタシの苦手なタイプの映画だー!」と確信するところがあった。その理由を説明すると、間違いなく怒られが発生するので書かないが、一気に時間が飛んで空手をやる主人公の娘のバックで流れる、スティーリー・ダンの「ダーティ・ワーク」のエモさに前述の印象はかなり反転した。良かった。

「ダーティ・ワーク」は、ドナルド・フェイゲンがメインボーカルでないスティーリー・ダンの唯一の代表曲だが、この曲が映画で使われているのを聴いたのは『アメリカン・ハッスル』以来かな。

本作はレオナルド・ディカプリオが主演だが、ひたすらハッパやっててガウン姿のままヨタヨタやっていて、『ビッグ・リボウスキ』のデュードを思わせる。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』もそうだけど、ディカプリオってスマートでなく、ヘタすれば頭が弱かったりする主人公を演じるのを厭わないのがいいよね。

主人公の娘役のチェイス・インフィニティは初めて観る人だが、彼女がとても良くて、だらしない父親と好対照をなしている。

そして、本作ではベニチオ・デル・トロが、やはり主人公とコントラストを成す頼りになる男をやっているが、『コブラ会』以降、「Sensei」は英語として本格的に定着したんですかね(笑)。

主人公らは移民を手助けする極左暴力革命グループに属するが、そのあたりの設定をもって本作をトランプ政権批判の枠でとらえるのはどうかと思う。上で書いた「苦手なタイプ」と書いたのは、その「フレンチ75」の佇まいも一因だったりするのだが、一方で本作では白人至上主義の秘密結社「クリスマスの冒険者クラブ」も登場し、そのイビツさも描かれている。

本作の見どころはいろいろあって、電話で主人公がブチ切れる場面はやはり笑ったし、なんといってもクライマックスとなる、あんな高低差のある道(まさにセンセイが言うところの「大洋の波」のごときうねり!)でのカーチェイスの思いも寄らない迫力がとどめを刺す。そこにかぶさるジョニー・グリーンウッドの音楽もユニークで効果的で、なるほど、PTA は見事にアクションをものにしていた。

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