もちろん映画総体として優れているのだが、何より主演女優の類まれなる魅力とともに記憶される映画というのがある。個人的には、フェリーニの『道』におけるジュリエッタ・マシーナを頂点として、近年の映画では『マルホランド・ドライブ』のナオミ・ワッツ、『恋する惑星』のフェイ・ウォンなどが浮かぶわけだが(つまり、ワタシにとって『恋する惑星』は後半部がすべて)、『ベティ・サイズモア』もその系譜に入る作品である。
以前町山智浩さんが、「最近、カン違いで美人の役をあてがわれるようになったレニー・ゼルウィガー」などと書いておったが(笑)、確かに彼女は、例えばその最新作で共演している二コール・キッドマンのような意味での美人女優ではない。
しかし、どうだ、本作における彼女のチャーミングさは。田舎町のウェイトレスという平凡を絵にかいたような女性として登場し、ほんの数分でこちらは彼女に魅了され、映画全編を通して感情移入せずにおれないのだ。「カン違い」があったとすれば、本作などでの彼女の演技が魅力的過ぎたからである。
それにしてもユニークな、というかヘンな作品である。ヒロインは頭の回線がショートしてしまったウェイトレスで、しかも彼女を追う殺し屋にさえ、最終的には観客は感情移入してしまうのだからすごい話である。演じているのがモーガン・フリーマンというだけでは説明がつかない。要は脚本がよくできており、目の行き届いた演出がなされているということなのだろう。
本作を観るのは二度目だが、正直初回ほど興奮はしなかった。はじめ観たときは一体ヒロインの妄想がいつどのように破綻するのかというのを息を詰めて見守ったわけだが、今回はそれがない分、作品全体の良さが分かったように思う。一方で、以前はクリス・ロックの騒々しい演技に白けさせられたが、考えてみれば本作は主役二人が前述のように相当な「ボケ役」なので、彼が威勢良くツッコミまくるというのもアリなのかなと少し印象が変わった(もう少し踏ん張ってほしかったけど)。
さて、本 DVD には上に名前を挙げた主要キャストと監督による音声解説が入っている。最近の作品で、ここまで豪華メンバーで音声解説が入った作品はないのではないか。それだけ皆、この作品のことを気に入っているのだろう。
最後に一点苦言を呈しておくと、本作は元の脚本から随分カットしてできたようだが、クリス・ロックの台詞で「痩せた女」とヒロインを評する箇所があり、こういう実態と合わない台詞こそ削除しろよ(笑)。何かのギャグかと反応に困ったぞ。