本作の主演のアンドリュー・スコットは、『SHERLOCK』でのモリアーティ役で認知した人だが、映画では『パレードへようこそ』が印象的だったな。実は彼が主演する Netflix の『リプリー』を観始めたところだったりする(こちらも実にピッタリな役をやっている)。一方でポール・メスカルは、昨年観た『aftersun/アフターサン』が鮮烈だった。
ワタシは本作を、今もっとも活躍する男優二人が共演する映画ということで観に行く気になったのだが、やはり日本では原作が山田太一の『異人たちとの夏』であることが一番の注目点だろう。
実はワタシは、『ふぞろいの林檎たち』や『男たちの旅路』といった山田太一の代表作をリアルタイムには観ておらず(関係ないが、彼はワタシの父親と同年の生まれである)、『異人たちの夏』も観てなかったりする。なので、本作についてそれや原作との比較はできない。
1987年(だよね?)に、主人公が12歳になるかならないかで死んだ両親とかつての生家で再会する本作は、ある意味『不適切にもほどがある!』と偶然にも同じくらいの時間差を行き来する作品ということになる。本作はあれみたいに価値観の落差にはしゃぐことはなく、同性愛者である主人公が子供時代から現在まで抱え続けた孤独感に自然とフォーカスする。しかし、正直、ここまでゲイセックスが本格的に撮られているとは思わなかった(だから良いとか悪いとかでないので、念のため)。
二人でケタミンを摂取してクラブに繰り出してからの、現実と幻覚を行き来するホラーっぽい演出が特に印象的だった。クラブでかかっていた "Promised Land" は、ワタシはスタイル・カウンシルのバージョンしか知らなかったが、あそこで流れていたのはオリジナルかな?
本作ではフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドが重要なアイコンとして登場し、それがラストシーンにつながるが、まさかあのバンドが本作のような静寂感のある映画で使われるなんて、リアルタイムに知るワタシには夢にも思わなかった。しかし、思えば、ワタシの洋楽体験初期にあたる1980年代当時、彼らだけでなく、ペット・ショップ・ボーイズ、カルチャー・クラブなど英国のクィアのアクトを当たり前のように受容していたんだな。どこまで彼らのメッセージを理解していたかとなると怪しいものだが。
本作で流れるペット・ショップ・ボーイズの "Always on My Mind" は、それを家族で歌いながらも、実は共有できていないところがあるのを暗に示す選曲なのだろう。
前述の通り、本作について両親との再会以外の事前知識がなかったので、本作の終わり方には驚いた。