当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

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本家サイトのコンテンツいじりなど

週末、本家サイト YAMDAS Project のコンテンツを少しいじっていた。

具体的には「yomoyomoの執筆、翻訳活動」に docomo Solutions PLUS への書評寄稿のリンクを追加したり、「マガジン航」終了を受けて、「技術関連文書の集積所」におけるマガジン航へのリンクを Wayback Machine の URL に置き換えたり(本文執筆時点でマガジン航のサイトはまだ生きているのだが、いつ閉鎖してもおかしくないので)。

つまりは、ワタシ以外にはどうでもよいことなのだが、ワタシも年寄りなので、こういうことはちゃんと記録しておかないとすぐに忘れてしまうので、備忘録として書いておく。

あと、本当なら本ブログにおけるマガジン航のページのリンクもすべて入れ替えることも検討したが、正直面倒なので、上でリンクしているサイト終了に関するエントリだけの対応とした。

週末に WirelessWire 連載原稿を書きたかったのだが、気分が乗らず、一行も書けなかった。

その代わりといってはなんだが、『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』に収録されたボーナストラック「グッドバイ・ルック」を久しぶりに読み直した。次回の原稿にそれが活かされるかというと、そんなわけはないはずだが……

コリイ・ドクトロウ『Enshittification』の邦訳が来年遂に出る

コリイ・ドクトロウの『Enshittification』のことは、「みんなかえってクソして寝るまでの希望」をはじめとして、ワタシは何度も引き合いに出してきた。概念としての「enshittification」についてなら、それこそ「AIもメタクソ化の道を辿るのか、あるいは「普通の技術」に落ち着くか」を代表に何度も言及している。

以前、コリイ・ドクトロウのサイトで、2027年1月に邦訳が出ることが告知されていたが、『Enshittification エンシット化 なぜ、サービスやプラットフォームがクソの山になるのか』の邦訳で、告知の通り年明けに出るのを知った。

表紙のウンコをうまく隠してますな(笑)。

思えばワタシがこのコリイ・ドクトロウが発明した言葉を最初に紹介したのは、「美しい友情の終わり」なので、3年以上前にさかのぼる。そのため、邦訳が出るまで随分時間がかかった印象があるが、原書が出たのは昨年10月なので、だいたい妥当なところではないだろうか。

ウィキペディア日本語版でも「メタクソ化」が項目名になっているが、この本では「エンシット化」という表現を選んだようだ。

この本が売れて、『逆ケンタウロスのためのAI批判ガイド』の邦訳も続けて出てほしいところ。

Anthropicが提案する呆れたAI安全性法案「政府がAIモデルの公開や使用を禁止できるのは、10億ドルの損害が出るか、人が50人死んでから」

www.politico.com

Anthropic が、最先端 AI の安全性の規制に関する法案の草案を連邦議会の議員に密かに提案していたことが POLITICO で報じられている。

法案の草案の提案は、AI 安全性についての法案を準備するエイミー・クロブシャーやテッド・クルーズ、そしてバーニー・サンダースといった議員に対して先手を打ったものだが、その内容の夜郎自大さが際立っている。

なにしろ、政府が AI モデルの公開や使用を禁止できるのは、「10億ドルを超える損害、もしくは50人を超える死亡か重傷をもたらす予見可能かつ差し迫ったリスクをもたらす場合」に限られるというのだ。

……ということは何かい? AI モデルが一度に数十人を殺害し、数億ドルの損害をもたらしても、Anthropic が罰せられることなく、法的に許容されるという基準を法律に盛り込もうってのかい? これは正直、パロディと間違えられかねないよ、というブライアン・マーチャントのツッコミはもっともだ。

Anthropic といえば、IPO 資料の3分の1の分量で「弊社AIが人類を滅ぼすリスク」の解説に費やす暴挙をやらかし、内容が完全にSFブラックコメディだと話題になったが、ちょっとどうかしてるんじゃないだろうか。

驚異の量産体制だったAddy Osmaniの新刊の邦訳『AI時代のWebパフォーマンス・エンジニアリング』が出る

Addy Osmani といえば、昨年末に『バイブコーディングを超えて』邦訳が出ているが、昨年から驚異の量産体制に入っており、このブログでも何度か彼の新刊を取り上げている。

で、彼の『AI時代のWebパフォーマンス・エンジニアリング』が今月出るのを知り、てっきり↑で紹介したうちのいずれかと思っていたら、Web Performance Engineering in the Age of AI という別の本の邦訳だった。

三冊目があったとは(笑)。例によってオライリー本家のサイトで AI 翻訳がとっくに公開されていたのを見逃がしていた。

さて、彼の次の本が何か気になるが、Agentic Engineering という本の刊行が来年9月に予告されている。

Japan Wikimedia Conference 2026が来月開催される

meta.wikimedia.org

ワタシ自身はその週末は予定が入っており行けないのだが、来月6日に Japan Wikimedia Conference 2026 が、慶應義塾大学三田キャンパス第1校舎にて開催されるとのこと。

Wikipedia をはじめとする Wikimedia の取り組みに興味ある方は Peatix より参加を申し込んでみてはいかがか。

そういえば、今年はウィキペディア25周年だったんだよね。ジミー・ウェールズの本の邦訳が今年出ればよかったのだろうが、そう都合よくはいかなかったようだ。

「文化系トークラジオLife」20周年に寄せて #life954

www.tbsradio.jp

この文章を書いているのは、10月25日の昼間で、深夜に放送される「20周年記念!私とLife 私のLife」に以下の文面で番組にメールを送らせてもらった。既に大変な数のメールが番組宛てに来ているそうで、ワタシの凡庸な内容のメールはおそらくは読まれないと思うので、ここに公開しておく([追記]:パート5で読まれた。ありがとうございます。)。

Lifeクルーの皆さん、こんばんは。yomoyomoと申します。

まず何より20周年おめでとうございます。
第1回「「バブル」ってなんだ?」からずっと聞いてきましたが、思えば、
放送回をすべて聞いているラジオ番組となると、「Life」以外にありません。

ワタシは地方民ですので、主にポッドキャストなどネット配信での視聴になり
ますが、2009年から2011年にかけて、年に2~3度上京のタイミングを番組放送
日に合わせ、黒幕長谷川さんのご厚意でスタジオ観覧をできたのは、個人的に
は宝物のような思い出です。

それが15年以上前になるのに少しクラクラきますが、「Life」は多彩な人材を
輩出しながら、出演者はその時々で出入りがあり、変化しながらも「Life」と
しか言いようのない空気感が確かに保たれている、いわばラジオ番組における
「テセウスの船」のような存在と言えるのではないでしょうか。

もうここまで来たら、番組が続く限りリスナーであり続けたいと思いますし、
その期間が長く続くことを願ってやみません。
Lifeクルーの皆さん、特に黒幕長谷川さんの末永いご健康とご多幸をお祈りします。

ワタシも年寄りなので記憶がしっかりしてないところもあり、こういう時は自分が過去書いた文章が役に立つ(TBS ラジオで全放送回リストが公開されているが、おそらくは先週の PHP 事変の絡みで、アーカイブサイトが残念ながら一時公開休止になっている)。

番組の「黒幕」こと長谷川さんと知り合った契機は、2007年に書いた「Life Goes On」を読み直して思い出したし、2009年に書いたブログを読み直し、そうか2009年は三度もスタジオ観覧してたのか! と驚いたり。

そうやって過去の自分の文章を辿り、↑のメールには一箇所事実関係の誤りがあるのに気づいたのだが後の祭り。

あと忘れないうちに書いておくと、上記のアーカイブサイトにたまたまワタシが写り込んだ写真があり、それがなかなかよく撮れているので、ワタシが死んだらそれを yomoyomo の遺影にしてほしいところである。

インターネット・アーカイブのブリュースター・ケイルが訴える、インターネットに「記憶」が必要な理由

Internet Archive の創始者ブリュースター・ケールが The Atlantic に寄稿している。

多くの人は、一度オンラインで公開されたものは、永遠に検索可能であり続けると思っているけど、それはまったく間違いであり、インターネットのコンテンツに永続性はないに等しい。

それが分かっていたからケールは1996年(今から30年前だ)に Internet Archive を立ち上げ、Wayback Machine を構築した。インターネットが人類の主要なパブリッシングプラットフォームになるなら、インターネットの「図書館」が必要だと考えたのである。

ケールは正しかった。今では Wayback Machine はジャーナリスト、研究者、歴史家、そして一般市民にとって欠かせないツールになっている。

しかし、このツールの未来に暗雲が垂れて込めている。New York Times や Guardian など、Wayback Machine による記事保存を阻止したり制限する新聞社、出版社が増えている。その理由として、AIスクレイパーが、大規模言語モデルの訓練に彼らのコンテンツを無断で使用していることが挙げられる。

ケールは彼らの怒りに理解を示す。ジャーナリズムを維持するには多額の費用がかかる。彼らには自社のコンテンツを不適切に搾取する営利企業に異議を唱える権利が確かにある。

しかし、非営利の「図書館」である Wayback Machine を制限するのは誤った対応であると、Internet Archive が保存した資料を AI 企業がスクレイピングできないよう対策を講じていることなどを挙げながらケールは訴える。

Wayback Machine へのアクセス制限は「巻き添え」であって、それは歴史家、研究者、裁判所だけでなく、将来的にジャーナリストの首も絞めることになるというのだ。

Wayback Machine をブロックする報道機関は、それがジャーナリストにとって最善の利益になると信じているのかもしれない。しかし現実には、ジャーナリズムにとって最も重要な調査手段のひとつを破壊しているのだ。

そこからケールは Wayback Machine の功績を次々と挙げていき、そして、再度パブリッシャーの AI 企業への懸念に理解を示した上で、アーカイブの重要性とその脆さを訴えている。それだけ Internet Archive も苦境にあるんだろうな。

ネタ元は kottke.org。

ブリュースター・ケールというと、Internet Archive の創設30周年を祝うポッドキャスト番組に出演し、国際図書館連盟(IFLA)の Steven Wyber と対談を行っている。

ここでも彼は Internet Archive の30年の歩みを語っているが、デジタル時代の「ライセンスモデル」と所有権の危機、具体的には電子書籍やコンテンツが「ライセンス(利用契約)」を通じて提供されることで、これまで図書館が担ってきた権利が脅かされ、主的な社会の基盤となる情報エコシステムに悪影響を及ぼしているという懸念を訴えている。

AIはハッキングのあり方を根本から変えつつあり、銀行や電力網がインターネットから切り離される日も近い?

www.404media.co

ワタシは↑のエントリで「PHP事変」と書いちゃったが、‘Black October’という表現が使われてるみたいね。言い換えれば、AI によるサイバーセキュリティの「ブラック・スワン」現象?

この 404 Media の記事も、「AI はハッキングのあり方を根本から変えつつある。今後どうなるかは誰にもわからない」と書く通りで、先のことは分からんとしか言いようがないのが現状だ。

この記事で紹介されているジョンズ・ホプキンス大学の教授であり、世界的な暗号学者のひとりであるマシュー・グリーンの、「我々は、ゾンビの進路に手あたり次第にものを投げつけて、少しでも足止めすることを願っている映画の場面にいる」という投稿、そして「インターネット全体が乾燥した火種であって、それが燃え広がらないでいるのは、ティーンエイジャーがまだマッチ棒を見つけていないからだけなのに多くの人たちが気づき始めている」という投稿にはなんとも暗い気持ちになる。

学術論文の検索、要約、構造化データ抽出を自動化する AI リサーチ支援ツール Elicit の CEO である Andreas Stuhlmüller など、一年以内に電力網、金融システム、インターネットインフラ、水道に対する AI ベースのサイバー攻撃が発生する可能性があるので、数週間分の現金や水や保存食などを準備しておくべきという「サバイバル準備」の必要性を呼びかけている。

ワタシ的にはどうしても「AI破滅論と『終末ファシズム』、そしてアポカロプティミストとして生きること」の最後に紹介したキャシー・オニールの予測をどうしても思い出してしまう。

とはいえ、AIについて心配すべき点がないというのではない。中国、北朝鮮、ロシア、インドの組織化され、技術に精通した犯罪組織が、AIエージェントの大軍を掌握し、例えば地方銀行などに侵入したら、どのような被害や窃盗が発生しうるか、そして実際に発生するかを考えてほしい。AIには音声認識を欺く能力があり、しかも私たちに関する人物プロファイルも把握している上、システムをハッキングする能力も実証されていることを考えれば、犯罪者の支配下にあるAIエージェントが、大規模に銀行口座を乗っ取り、口座を空っぽにしてしまうと聞いても、私は驚かないだろう。


決して荒唐無稽ではない予測をひとつ挙げよう。2年以内に――もしかするともっと早く!――銀行はインターネットから切り離されるだろう。なぜなら、インターネットが犯罪AIに占拠されてしまうからだ。私たちは現金を引き出すために自ら銀行まで歩いて行くことを強いられ、あらゆるデジタルウォレットが信用できなくなるので、現金で取引することになるだろう。まるで1980年代に戻ったかのように。


ついでに言うと、インフラを人質に取って身代金を要求しようとする悪辣なエージェントによるハッキングのリスクがあるため、電力網もインターネットから切り離されることになるだろうと私は推測する。それから、世界中の他の地域でも同じことが起こるだろう。リスクが火を見るより明らかになり、被害が具体的に実感されるようになるからだ。

AI破滅論と『終末ファシズム』、そしてアポカロプティミストとして生きること – WirelessWire & Schrödinger's

こんなに早くこの予測が現実に近づくとは思わなかったな。

404 Media の Jason Koebler は、これは AI が知覚能力を獲得したからでも、人間が AI の制御を失ったからでもなく、単にインターネットを支えるソフトウェアの多くに脆弱性があり、それに対する人間の対策が追い付いておらず、そして AI によりそうした脆弱性を見つけるのが驚くほど容易になっただけときちんと指摘しており、過剰に不安を煽ることはしていない。

それでも事態は深刻だ。PHP2Shell がウェブにもたらす最大の影響のひとつとして、多くの歴史的なウェブサイトが更新されないままでハッキングされる可能性があり、一部は予防的にオフラインにされ、二度と復活しない可能性があるということを The Atlantic の記事は指摘している。

ウェブにおけるリンクの劣化は甚大であり、多くの歴史が失われる恐れがあるというのは、↑のエントリで紹介したブリュースター・ケールの訴えにもつながる話である。

この記事は、以下の文章で終わる。

現時点では、このすべてが最終的にどんな影響をもたらすか、一時間後、一年後、あるいは十年後にどうなるのかは不確かだ。しかし、AI はサイバーセキュリティやハッキングの仕組みを変えつつある。AI はバグの発見と悪用をより迅速かつ容易にしている。インターネットが実際にはどれほど安全でないかを我々はまさに知ろうとしているのだ。

検索した住所から徒歩30分以内の情報だけを表示するLocal Wikipedia

edjefferson.com

Local Wikipedia というサイトを Boing Boing 経由で知ったのだが、これは検索欄に入力した住所から徒歩30分以内の場所に関するウィキペディアの記事を表示する。

ウィキペディアが巨大なオンライン百科事典として成長したことは素晴らしいが、あまりに巨大なため、途方に暮れるというか、利用のとっかかりが掴めない人もいるかもしれない。

そうした意味で、例えば自分が住んでるところから徒歩30分以内の情報だけ表示する、と範囲を狭めることで情報のフォーカスが絞れるところもあるわけだ。

なるほど、これは面白い。Hacker News でも話題になってるね。

現時点で英語版をはじめ9つの言語に対応をしているが、残念ながら日本語版は対象になっていない。

ツェッペリンのあのジャケットに写る建物は、ストーンズのあの曲のビデオにも登場していた

知ってる人ならなんだそんなこと、というレベルの話だが、ワタシはこのショート動画を見るまで知らなかった。

まず、レッド・ツェッペリンが1975年に発表したアルバムで、欧米では最高傑作とされることも多い『Physical Graffiti(フィジカル・グラフティ)』だが、このアルバムのジャケットに写るのは、ニューヨーク市マンハッタンのイースト・ヴィレッジ、セント・マークス・プレイス96番地と98番地にある2棟の集合住宅なんですね。

で、この建物は、ローリング・ストーンズが1981年に発表した『Tatoo You(刺青の男)』に収録され、アルバムの最後を飾るバラード "Waiting on a Friend(友を待つ)"(今年亡くなったソニー・ロリンズがサックスソロを吹いていることでも知られますね)のミュージックビデオにおいて、ミック・ジャガーがキース・リチャーズを待っている建物でもあるんですな。

具体的には、ジャガーが待っているのは96番地のほうで、『Physical Graffiti』のジャケットに写る右側の建物とのこと。

スミスとローリング・ストーンズの両方のアルバムカバーを飾った唯一の男とか、デヴィッド・ボウイの曲で日本語ナレーションをしていた人人はスパークスのアルバムジャケットにも登場してたとか、そういう話が好きなんだろうね。

バイオハザード

個人の都合と上映時間の関係で、吹き替え版を観た。

ホラー映画はスプラッターものを除けば好きなのだけど、ジャンプスケアは映画館で観てると思わず反応してしまうので苦手である。

本作にしても、案の定ジャンプスケアに何度も本気でビクッ! となった挙句、主人公が電気柵を超える場面でなぜか一緒に足を持ち上げるというよく分からん反応をしてしまい、隣のカップルに吹き出されて、ホラー観ながら泣いちゃった……

バイオハザードというと、ポール「ダメなほうの」アンダーソン監督、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演のシリーズが多く作られているが、ワタシその一作目は結構好きだったりする。

今回は、昨年『WEAPONS/ウェポンズ』を大ヒットさせたザック・クレッガーが手がけるということで期待が高まった。

本作は『WEAPONS/ウェポンズ』でホームレスの与太者を演じていたオースティン・エイブラムスが主人公で、いわゆる映画スターの出演者は皆無だが、そんなものをものともしないのがホラー映画の良さというべきか。

ワタシ自身は原作のゲームを大してやったことがないのだが、ゲーム体験のもどかしさをうまく映画に落とし込んでいるように思った。作中、主人公が「ゲーム万歳!」と叫ぶが、これを映画でやることの意義ってあるんだろうな。あとゲーム原作でいえば、主人公の背景が『8番出口』に近いのは偶然かな。

前述の通り、本作は十分怖がらせてもらった。ただ、ホラーと思って観始めたら、途中、それこそポール・トーマス・アンダーソン『マグノリア』みたいな、フォーカスする人物が次々と移っていきながら同じ出来事を多層的に描く脚本がよくできた人間ドラマ? と思ったら文句なしのホラーに戻り、しまいにはクライマックスで客席から笑い声があがった『WEAPONS/ウェポンズ』にあったユニークさは本作にはなかったかな。

でも、本作もホラーとして鮮烈だったし、ジャンプスケアだけでなく緩急つけた笑いもあり、上映時間が短く収まっていたのでよしとしましょう。

本作は完全なバッドエンドだけど、これはやはり旧シリーズのようにえんえんと続編が出るのをザック・クレッガーの手で止めたかったのかな。

シェリー・タークルの新刊が撃つAIの「見せかけの共感」、そしてAI時代に人間らしさを取り戻すには

www.404media.co

404 Media のポッドキャストに、MIT 教授の臨床心理学者で、『一緒にいてもスマホ』(asin:B06XJ3HSRH)や『つながっているのに孤独』(asin:4478026106)などテクノロジーと人間社会の関わりについての著作で知られるシェリー・タークルが登場している。

「AI は我々の人間らしさを奪っているか?」という動画タイトルに目がいくが、これはタークルの新刊 Artificial Intimacy を受けてのもので、やはり AI がテーマなんですな。

ソーシャルメディアが我々の「アテンション」を奪ったとするなら、AI は今まさに我々の「愛着能力」を奪おうとしているというわけで、「見せかけの親密さ」という書名はそのあたりを指しているのだろう。

そういう人工知能の「見せかけの共感」が人間に深刻な影響を与えるとタークルは考えており、このポッドキャストでは読書の重要性を強調している。

読書は共感力を育むための重要なプロセスであり、AI の「要約」に安易に頼ることで、表面上頭が良いように振る舞うことはできても、エンパシーを育むプロセスは失われてしまい、人間的な成長ができないというわけだ。

あるべき読書体験の例としてタークルは、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』における「マドレーヌ体験」を例に挙げる。もちろん AI に聞けば、「プルーストの記憶理論」としてそれについて論理的に要約して返してくるけど、それじゃ読んだ本と自分の内面にある記憶や感情を結びつける文学本来の意義が抜け落ちてしまう。

まぁ、学生に課題レポートを出しても AI に丸投げするばかりなのに業を煮やし、課題の回答を授業時間内に手書きで書かせる方式にしなければならなくなったというのは切ない話だわね。彼女も無批判にデジタル機器や AI を持ち込むことが教育を衰退させたと考えているようだ。その過程で、テクノロジーはかつてないほど疎外され、鬱屈し、孤独な世代を生み出している、という主張はどこかで聞いたような――と思ったら、案の定ジョナサン・ハイトも推薦の言葉を寄せていた。

もっとも悲観ばかりの本ではなく、この本は AI 時代に人間性を取り戻すための教訓と道筋の両方を提示しているとのことで、邦訳は出ますかね。

パランティアのCTO曰く「多くのAI研究者が、AIへの信仰の証として喫煙を始めている」

www.businessinsider.com

パランティア CTO のシャイアム・サンカーが、AI により癌が治療可能になると考える AI 研究者の多くがタバコを吸い始めた、という話をしている。彼の言葉を借りれば、「自分がどれだけ AI を信じているかを他の研究者に示すために多くの AI 研究者が喫煙を始めた」とな。ホントかね。

サンカーは具体的な名前を挙げているわけではないので、どれくらいの人数かは分からないが、確かに AI ウェアラブルスタートアップの Friend の創業者であるアヴィ・シフマンも、「肺がんを発病する頃には、我々の AI ロボットがそれを治療してくれるよ」と語ってたそうな。

タバコ休憩が、人と出会い人脈を広げる機会になるととらえる人もいるとか、喫煙が気取らない印象を与えるための手段となっている、と記事はマジメに書いているが、これはちょっと苦笑いしてしまった。

サンカーはそうした AI 研究者に批判的で、連中は AGI を「機械の神」のように扱っていると非難している。

この話を聞いて連想したのは、「ポイント・オブ・ノーリターン:プログラミング、AGI、アメリカ」で書いた、気候変動の目標はどっちみち達成できないのだから、投資は AI インフラに全振りすべきと言っ(て、ゲイリー・マーカスに激しく批判され)たエリック・シュミットである。

喫煙はその人の判断で好きにやればよいが、AI が癌を治してくれるから吸い出すというのはどうなんざんしょ。

ネタ元は Pluralistic。

そうそう、シャイアム・サンカーの共著について今年取り上げているが、『テクノロジカル・リパブリック』に始まり、その後も『パランティア 判断を外注する社会』、『パランティア:「哲学者」が率いる軍事AI企業の野望』とパランティア本が続いている。で、『アメリカの企業が日本の国防を握る パランティア・テクノロジーズの正体』という本が来月出るのを知る。

これだけパランティア本の需要があるなら、サンカーの本も来年には邦訳出るんじゃないかね。

デヴィッド・バーンが「優れたアイデア」についての新刊『Sleeping Beauties』を出していた

Facebook 経由で、デヴィッド・バーンが Sleeping Beauties という新刊を出しているのを知った。

「なぜ良いアイデアが眠ったままになってしまうのか、そしてどうすればそれが目覚めるのか」という副題からも分かるが、「良いアイデア」を主題とする本である。

アイデア自体の実力主義、つまり良いアイデアは常に認められると考えがちだけど、今では世界的な偉大なクリエイターとして認められている人たちの多くは、当初はほとんど注目されないことが多く、後になって(多くの場合、かなーり後になって!)何らかの形で脚光を浴びるようになる。

いろんな発見、技術、そしてバッハやフェルメールやメルヴィルといった「眠れる森の美女(書名はこれを指している)」だった芸術家たちは、なぜ「眠りにつき(評価されず)」、そしていかにして「目覚める」こととなったかを論じ、次の偉大な発見を見逃がさないようにするための希望に満ちた本とのこと。

デヴィッド・バーンの本というと、原書刊行から10年以上経って2023年に『音楽のはたらき』という邦訳が出たのに続き、今年の夏には『自転車日記』が出ている。

今回の新刊も、来年以降に邦訳が出るといいですな。

バーンは SciFri Daily Podcast に登場して新刊について語っており、字幕の自動翻訳で大体意味はつかめるよ。真っ先に、この本は人々が自分に期待するものの枠外にあると語っている。要は音楽本ではないということね。

それにしてもデヴィッド・バーンというと、今年夏の SUMMER SONIC 出演、そして細野晴臣のラジオ番組『Daisy Holiday』への出演が話題になったし、『アメリカン・ユートピア』に続いて、『ブルータリスト』のブラディ・コーベット監督による最新ツアーの映像作品製作が発表されており、未だ精力的な活動が続いている。

オリヴィア・ロドリゴとチャペル・ローンのコラボ曲のビデオに彼が出てきても特に驚かないが、これは結構すごいことである。

日本の食文化にも取材したヨハン・ハリ『肥満の終わり “痩せ薬”は私たちを救うのか?』が12月に出るぞ

yamdas.hatenablog.com

『奪われた集中力』などでも知られるヨハン・ハリの、2年以上前に紹介した『Magic Pill』の邦訳が12月に出ることを知った。

もともと糖尿病の治療用に開発された薬が、「痩せ薬」としてダイエット用途に使われていることに取材した本で、「袋小路を逃れるべく辿り着いたのは、世界でいちばん太っていない国――日本だった」という筋書きなのは、ワタシのエントリでも分かるが、今では当の日本で肥満学会が「マンジャロ」ダイエットに注意促す声明を出しているのはちょっと皮肉かも。

「スシジャロ」なんて言葉もあるくらいで、日本でも「痩せ薬」の需要はあったということで。

肥満の問題が欧米と日本では異なるのはもちろんで、ヨハン・ハリは英国のジャーナリストだが、少し前にもイギリスの学校給食で揚げ物禁止というニュースを目にし、昼食は揚げ物の定食を選びがちなワタシも驚いたものである。イギリスの肥満率は29%に達しており、肥満率が30年で倍増という話を聞くと、そりゃ深刻な問題になるわなと分かる。

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