当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

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怪物

もともとは前週金曜に出張のため行き損ねた『クリード 過去の逆襲』を観に行くつもりだったが、行きつけのシネコンでは IMAX はおろかレイトショーすらやっていなかったため、本作を公開初日に行ってきた。

是枝裕和監督の作品を映画館で観るのは『万引き家族』以来5年ぶりになる。その間に海外資本の作品が2本あるが、いずれも単純に都合がつかずに映画館では観れなかった。

本作についてはできるだけ事前情報を入れずに観たのだが、それがよかったと思う。傑作だった。ただただ傑作だった。

以下、内容に触れますので、未見の方はお気をつけください。

どうしても『羅生門』を連想する三幕構成の映画だが、それぞれの視点からの描写がまったく異なる『羅生門』と違い、本作はある人物からすると理不尽で奇怪ですらある描写の意味が、別の視点により見えてくる構成であり、その上手さが際立っている(決定的な破綻の場面で流れる不協和音の意味!)。

ただ、すべてが明らかになるわけではなく、ワタシ自身、例えば田中裕子演じる校長についてよく分からないところがあった。微妙に分からないところが残り、その意味合いを人と語りたくなる映画である。

本作における「怪物」は誰なのか? 本作の登場人物を誰か名指ししても、しっくりこないか、あるいは安易に思えるだろう。本作のある視点から見た、これはおかしいだろ、これはこうに決まってるだろ、という思い込みは、別の視点によっていかに「見えてない」か明らかになる。その前提としてそれぞれ当たり前のようによりかかる常識が身近な人を傷つけることもあり、また人は当たり前のように嘘をつくし、子供はしょうもないことで囃し立てたり、大人も気軽に他人の噂話をする――そんな一皮めくれば実は何も見えてないのに、見えているかのように決めてかかる誰もが持つ心性こそが人を「怪物」にする、本作の登場人物は皆、それぞれの形で「怪物」を内に飼っているということではないか、とワタシは解釈した。

ご存じの通り、本作は先のカンヌ国際映画祭脚本賞クィア・パルム賞を受賞している。映画祭での受賞が一種のネタバレにつながるという珍しい例だったわけだが、それに関連して、声の大きい人が Twitter で騒ぎ立てているのを見かけて、端的にイヤな気持ちになったが、本作を観た後だとそれが示唆的に思える(穏当な表現)。

本作の光に満ちたラストはたまらなく美しかったが、その前の主人公の母親(安藤サクラがいつもの演技プランでいつもの演技)と担任の教師(永山瑛太が実にキモく演じていて良い)のあの描写とつながっていないように思える。ということは、あの美しすぎる光景は実は……とか思ったりした。

我々が知るコンピュータ・プログラミングの終焉、話がまたしても

www.nytimes.com

記事タイトルは例によって R.E.M.It's the End of the World as We Know It (And I Feel Fine) のもじりである。

この記事の著者の Farhad Manjoo は David Pogue の後を継いだ New York Times のテクノロジー分野のコラムニストなのだけど、彼がコンピュータでプログラミングの喜びを最初に知ったのは5歳か6歳だったという話から始まる。

当時のコンピュータときたら今から考えられないくらい非力だったが、それでゲームを遊ぶうちに BASIC で自分もプログラムを書くようになり――というよくある話である。

高校まではプログラミングも熱心にやっていたが、大学で自分がコードを書くより言葉を書くほうが適していることを自覚する。そして、確かにコンピュータは面白いが、それを最大限に活用するために人間が苦労してプログラミング言語を学び、コーディングすることにどうも後ろ向きな感じもしたという。そんなに機械が賢いなら、機械のほうが人間の言ってることを理解すべきじゃない?

それが遂に実現するかもしれない、と Farhad Manjoo は書く。これからの数年で、人工知能はコンピューター・プログラミングを希少で報酬の高い職業から、広範な人がアクセス可能なスキルに変えてしまうかもしれない、というわけだ。

高度なコーディング技術を持つ人が必要なのは変わらないが、それ以外の人たちには AI がアシスタントの役割を果たし、誰もがプログラミングをできるまでになる未来に急速に近づいていると彼は見ており、GoogleApple でエンジニアだった Matt WelshThe End of Programming における「プログラミングは時代遅れになるだろう」という今年初めの予言(たった半年で予言といいたくなるくらい昔に思える)が引用される。

そして Farhad Manjoo は、少し前まで「Learn to code!」というのがしきりに言われたのを少し皮肉っぽく引き合いに出しており、記事の締めは、コーディングは彼が(40年位前に)初めて買った PC と同じくらい時代遅れになるかもねと書いている。

昨年あたりから AI による「プログラミングの終焉」の話は話題になっており、上で引き合いに出されている Matt Welsh の文章についても今回の Farhad Manjoo とほぼ同じタイトルの文章で反論(というか嘲笑)されている。日本でもプログラマーの需要は激減し、すでにノーコードが当たり前、という記事が炎上したりもしている。

しかし、それから半年近く経って、New York Times で「プログラミングの終焉」話がまた煽られているわけだ。

ワタシとしては、このブログで何度か取り上げてきたマイク・ルキダスの文章(例:コーディングの自動化とプログラミングの未来について)を読み返したくなるし、やはり彼が書いているAIとのペアプログラミングをグッと前進させた形が実現するのではないかと思うわけです。

ネタ元は Slashdot

ビル・ゲイツがガブリエル・ゼヴィン『Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow』を激賞している

www.gatesnotes.com

ビル・ゲイツといえば読書家として知られ、そのあたりは『天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100冊』(asin:429610957X)に詳しいが、やはりノンフィクションの読み手という印象がある。

そんな彼が『失くした記憶の物語』(asin:4652079230)や『書店主フィクリーのものがたり』(asin:4151200932)の邦訳があるガブリエル・ゼヴィンの小説 Tomorrow, and Tomorrow, and Tomorrow を激賞している。

書評の最初で、ゲイツは「自分はゲーマーか?」と問いかけ、「ノー」と答えているのだが、おいおい、君、マインスイーパに超ハマってたやんか! ……という話はいいとして、泣けるのは、この小説を読みながら、ゲイツポール・アレンと自分との関係を思い出し、彼のような存在に出会えてことは幸運だったと述懐しているところ。

おいおい、君、ポール・アレンの持株比率を下げる密談をスティーブ・バルマーとしてたやんか!、という話はいいとして、そのスティーブ・バルマーをこの小説の登場人物で言えば誰であり、彼もマイクロソフトの成功に大きく貢献した、とちゃんと書いているのも泣かせる。

ビル・ゲイツがこの本を誉めているのは、この小説のゲーム会社の立ち上げにまつわる内容が、彼がマイクロソフトを起業した頃を思い出させるからなのだろう。

youshofanclub.com

ここまであえて伏せていたのだが、この本を昨年末、渡辺由佳里さんが激賞している。この本のストーリーを知りたい方は↑のエントリを読まれるのがよろしいでしょう。なお、この本は「2022年これを読まずして年は越せないで賞」のフィクション(文芸小説)部門も受賞している。

今頃、翻訳まっただなかだと思うが、今年中に邦訳出るでしょうかね。

ネタ元は Slashdot

速水健朗さんの6年ぶりの単著『1973年に生まれて: 団塊ジュニア世代の半世紀』が楽しみだ

以前から情報が出るのを待ち構えていたのだが、速水健朗さんの『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(asin:4022931167)以来、実に6年ぶりになる単著『1973年に生まれて: 団塊ジュニア世代の半世紀』が来月刊行されるのを知る。

ワタシが本書を楽しみにしていたのは、速水健朗さんの新刊というのはもちろんだが、1973年生まれを強調する書名ゆえである。

10年以上前に「1973年組の10人」という文章を書き、その中に速水さんを当然含めているが、彼もワタシも1973年生まれなんですね。

そう、今年、我々は50歳を迎える。まさに半世紀や!

《この世代の世代論は、ノスタルジーか残酷物語のどちらかである。そうではない本を書くことが本書の目的だが、そうなっただろうか。》――速水健朗(本書「あとがき」より)

ロスジェネ、超氷河期、お荷物と言われ続けた団塊ジュニア世代のど真ん中ゾーンも、ついに天命を知る50代に突入。
そんな世代が生きてきた1970年代から2020年代にわたる、日本社会、メディア、生活の変遷を、あるいはこの時代に何が生まれ、何が失われたのか――を、73年生まれの著者が、圧巻の構想力と詳細なディテールで描くノンフィクション年代記
既存の世代観を上書きする、反「ロスジェネ」史観の誕生!

ワタシも自分に関して世代論を書くなら、ロスジェネや就職氷河期といった言葉を使ってしまうと思うのだが、この本は「反「ロスジェネ」史観の誕生」を謳っており、このあたりがポイントなのだろうし、速水健朗さんの意気を感じる。

今から読むのが楽しみである。

56か国の177人もの専門家が選りすぐった最高の児童書100選(の邦訳リスト)

[追記]:内容に誤りがあったので、タイトル並びに本文を修正しました。

www.bbc.com

BBC が史上最高の児童書100選を発表しているのだが、これが56か国の177人もの本の専門家による投票結果というのだから力が入っている。

まぁ、ワタシなど映画やアニメでは観ていても、原作をちゃんと読んでいないのがほぼすべてでお恥ずかしい限りなのだけど。

  1. モーリス・センダックかいじゅうたちのいるところ』(asin:4572002150
  2. ルイス・キャロル不思議の国のアリス』(asin:4042118038asin:B01914HLHK
  3. アストリッド・リンドグレーン長くつ下のピッピ』(asin:4001140144
  4. アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ星の王子さま』(asin:4167912880asin:B06VWT2MYX
  5. J・R・R・トールキンホビットの冒険』(asin:4001140586asin:4001140594
  6. フィリップ・プルマン黄金の羅針盤』(asin:4102024174asin:4102024182
  7. C・S・ルイス『ライオンと魔女』(asin:4001140349asin:B00RF1QAVK
  8. A・A・ミルンクマのプーさん』(asin:400114008Xasin:B08Q38PSPG
  9. E・B・ホワイト『シャーロットのおくりもの』(asin:4751518895asin:B0BV2M8W42
  10. ロアルド・ダールマチルダは小さな大天才』(asin:4566014258asin:B0BFH1W77G
  11. L・M・モンゴメリ赤毛のアン』(asin:4167913240asin:B0811VGBLM
  12. ハンス・クリスチャン・アンデルセンアンデルセン童話』(asin:4002010953
  13. J・K・ローリングハリー・ポッターと賢者の石』(asin:4863896808asin:4863896816asin:B0192CTNQI
  14. エリック・カールはらぺこあおむし』(asin:4033280103asin:4033213708
  15. スーザン・クーパー光の六つのしるし』(asin:4566015025
  16. ショーン・タン『アライバル』(asin:4309272266
  17. ルイーザ・メイ・オルコット『若草物語』(asin:4046314702asin:B00U6VZWBA
  18. ロアルド・ダールチョコレート工場の秘密』(asin:4566014118asin:B0BFGZP4H7
  19. ヨハンナ・シュピリアルプスの少女ハイジ』(asin:4041092477asin:B08SBZ21XF
  20. マーガレット・ワイズ・ブラウンおやすみなさいおつきさま』(asin:4566002330
  21. カルロ・コッローディ『ピノッキオの冒険』(asin:4334753434asin:B01N35KJIK
  22. アーシュラ・K・ル=グウィンゲド戦記 影との戦い』(asin:400114588Xasin:B015XI058U
  23. トーベ・ヤンソンムーミン谷の冬』(asin:4065169003asin:B08541S4PH
  24. ジョン・クラッセン『どこいったん』(asin:486101199X
  25. フランシス・ホジソン・バーネット『秘密の花園』(asin:4102214046asin:B01MG8GMP8
  26. ヴォルフ・エァルブルッフ『死神さんとアヒルさん』(asin:4794509715
  27. アストリッド・リンドグレーン『はるかな国の兄弟』(asin:4001140853
  28. J・K・ローリングハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(asin:4863896840asin:4863896859asin:B0192CTNS6
  29. ジャクリーン・ウッドソン『わたしは夢を見つづける』(asin:4092906471asin:B099HVR9YV
  30. トミー・ウンゲラーすてきな三にんぐみ』(asin:B0C6LGBF9Y
  31. エズラ・ジャック・キーツ『ゆきのひ』(asin:B0BQW6TW62
  32. ジュディス・カー『おちゃのじかんにきたとら』(asin:4887502222
  33. ダイアナ・ウィン・ジョーンズ魔法使いハウルと火の悪魔』(asin:4198936730asin:B071RKNGXJ
  34. マデレイン・レングル『惑星カマゾツ』(asin:B000J7FDNI
  35. リチャード・アダムス『ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち』(asin:4566015009asin:4566015017
  36. フィリパ・ピアストムは真夜中の庭で』(asin:4001140411asin:B08Q3TJ1CJ
  37. グリム兄弟『グリム童話集』(asin:4002010023
  38. ビアトリクス・ポターピーターラビットのおはなし』(asin:4834084809
  39. イーディス・ネズビット若草の祈り』(asin:4042220029
  40. マロリー・ブラックマン『コーラムとセフィーの物語―引き裂かれた絆』(asin:4591083519
  41. ロアルド・ダール『オ・ヤサシ巨人 BFG』(asin:4566014207asin:B0BFH444CS
  42. ショーン・タン『夏のルール』(asin:4309274846
  43. ミヒャエル・エンデモモ』(asin:4001106876asin:B073PPWX7L
  44. マンロー・リーフ『はなのすきなうし』(asin:4001151111
  45. J・R・R・トールキン指輪物語』(asin:4566023613asin:B0BHXQNZSJ
  46. アラン・ガーナー『ふくろう模様の皿』(asin:456601083X
  47. アストリッド・リンドグレーン山賊のむすめローニャ』(asin:4001140926
  48. ミヒャエル・エンデはてしない物語』(asin:4001145014asin:B074FS6C61asin:4001145022asin:B074FQSNZG
  49. パンチャタントラ』(asin:4480831711
  50. ロバート・ルイス・スティーヴンソン『宝島』(asin:4102003045asin:B01N34TK79
  51. パメラ・トラバース『風にのってきたメアリー・ポピンズ』(asin:4001140527asin:B01HZ0CIPC
  52. ノエル・ストレトフィールド『バレエ・シューズ』(asin:4764267322
  53. トリッシュ・クック『So Much!』
  54. マイケル・ローゼン『きょうはみんなでクマがりだ』(asin:4566005941
  55. ジャンニ・ロダーリ『チポリーノの冒険』(asin:4001142007
  56. シェル・シルヴァスタインおおきな木』(asin:4751525409
  57. ジュリア・ドナルドソン『もりでいちばんつよいのは?』(asin:4566008193
  58. ジェシカ・ラブ『ジュリアンはマーメイド』(asin:4909125191
  59. トーベ・ヤンソンムーミン谷の彗星』(asin:4062769328asin:B00BSIRPJW
  60. トーベ・ヤンソンたのしいムーミン一家』(asin:4062769336asin:B00BSIRP3I
  61. ロアルド・ダール『魔女がいっぱい』(asin:4566014223asin:B0BFH217GP
  62. マイケル・ボンドくまのパディントン』(asin:4834018024asin:B09SP6V14V
  63. ケネス・グレアム『たのしい川べ』(asin:4001140993
  64. ミルドレッド・D・テーラー『とどろく雷よ、私の叫びをきけ』(asin:4566012166
  65. アストリッド・リンドグレーン『やねの上のカールソン』(asin:4001150670
  66. ノートン・ジャスター『マイロのふしぎな冒険』(asin:4569681166
  67. ドクター・スース『キャット イン ザ ハット』(asin:4309904157
  68. ケイト・ディカミロ『愛をみつけたうさぎ エドワード・テュレインの奇跡の旅』(asin:4591151301
  69. ジェームス・マシュー・バリー『ピーター・パンとウェンディ』(asin:410210402Xasin:B0169P0E5U
  70. 千夜一夜物語』(asin:448003840X
  71. E・L・カニグズバーグクローディアの秘密』(asin:4001140500asin:B0B3H6H4YL
  72. ジュディス・カー『ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ』(asin:4566012018
  73. Gʻafur Gʻulom『Shum bola
  74. ガブリエル・バンサン『ふたりで しゃしんを くまのアーネストおじさん』(asin:4892389692
  75. エル・マクニコル『魔女だったかもしれないわたし』(asin:4569880649
  76. ルネ・ゴシニ『プチ・ニコラ』(asin:4418208038
  77. アンナ・シュウエル『黒馬物語』(asin:4909908528
  78. ジーン・ウェブスターあしながおじさん』(asin:4334753132asin:B0186S7FZA
  79. トミー・ウンゲラー『キスなんて だいきらい』(asin:4769022751
  80. ジェラルド・ダレル『虫とけものと家族たち』(asin:4122059704
  81. キャサリン・パターソン『海は知っていた』(asin:4037262908
  82. ドクター・スース『The Lorax』
  83. シャルル・ペロー『ペロー童話集』(asin:4003251318
  84. トーベ・ヤンソン『小さなトロールと大きな洪水』(asin:4062769409asin:B00BSIRRCC
  85. ライマン・フランク・ボームオズの魔法使い』(asin:4041007089asin:B00CBPPC96
  86. Richmal Crompton『Just William』
  87. ロアルド・ダールアッホ夫婦』(asin:4566014185
  88. ラッセル・ホーバン『親子ネズミの冒険』(asin:4566011895
  89. シャロン・ドレーパー『Out of My Mind』
  90. トーベ・ヤンソンムーミン谷の十一月』(asin:4062769395asin:B00BSIRR36
  91. ローラ・インガルス・ワイルダー大きな森の小さな家』(asin:4834018083
  92. ロアルド・ダール『ダニーは世界チャンピオン』(asin:4566014150asin:B0BPLVWJ8C
  93. レイモンド・ブリッグズスノーマン』(asin:4566080757
  94. スージー・リー『なみ』(asin:4062830353
  95. リザ・テツナー黒い兄弟』(asin:4751530712asin:4751530720
  96. マージェリィ・W. ビアンコ『ビロードのうさぎ』(asin:4893094084
  97. レモニー・スニケット『最悪のはじまり』(asin:4794210701
  98. ニール・ゲイマン『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』(asin:4041078474asin:B07NW2SF8H
  99. ジーン・ルエン・ヤン『アメリカン・ボーン・チャイニーズ』(asin:4763409123
  100. サルマン・ラシュディ『ハルーンとお話の海』(asin:433603964X

もっとも多いのはロアルド・ダールが6冊、続いてトーベ・ヤンソンが5冊、そしてアストリッド・リンドグレーンが4冊といったところか。

世界各国から集めたとはいえ、やはり欧米の作品が圧倒的に多くて、当然ながら日本生まれの本は一冊もなし。マーク・トウェインの本が入ってないのは少し意外かも。

ネタ元は Open Culture

1991年の山下達郎インタビューに見る根深い孤立感と不信感

少し前に、以下のツイートを目にした。

このあたりについて参考になる山下達郎のインタビューを参照してみたいと思う。

というわけで、1989年から2004年まで読者だった rockin' on のバックナンバーを引っ張り出す「ロック問はず語り」だが、今回引用するインタビューは、rockin' on ではなく CUT 1991年7月号に掲載されたもの。アルバム『ARTISAN』の発表を受けてのインタビューですね。

インタビュアーの渋谷陽一は、リード文で以下のように書いている。

タツロー、ユーミン、サザンと言えば、ここ10年来、日本のポップ・ミュージックをリードし続けた3大ブランドである。その時々の流行りの音はあっても、この3大ブランドは揺ぎない評価と人気を一貫して保ち続けてきた。中でも山下達郎は、妻である竹内まりやのレコードもプロデュースし、150万枚のメガ・セールスにするなど、まさに日本のポップ・ミュージック界の頂点に立っていると言っていい。(中略)人気、ミュージシャンとしての評価、どれをとっても今の山下達郎は幸福な状態にあると言える。

しかし、そうした状況認識の下に、本人にインタビューすると、何かうまく嚙み合わない。確かに目に前に居るのは天下の山下達郎なのだが、何か売れないパンク・ミュージシャンのインタビューのような内容になってしまう。

音楽ジャーナリズムへの強烈な批判、状況への怒り、自分のセールスに対する不信感、そしてそうしたものを論理的に語る文脈、それは僕らが考える山下達郎的なるものとことごとく食い違っている。言うまでもなく、僕らの考える山下達郎的なるものが、実際の山下達郎とは無縁なところで作られた虚像である為に生じる食い違いなのだが、本人はその落差と延々と闘い続けてきた。長い下積み時代を経て獲得した現在の成功も、そうしたものを清算できるものではない。

このインタビューでは、日本のポップ・ミュージック・シーンにあって一人孤独な闘いを続けてきた彼の軌跡を追ってみた。

インタビューは彼の高校時代の話から始まるが、バンドでレターメンをやってたという山下達郎に対し、当時の学校組織への反抗心といった志向性は、それこそハードロックとかに向かうほうが分かりやすそうだが、そういう音楽とのオーバーラップはなかったのかという質問に、山下達郎はキッパリ答える。

「しない。だから、その渋谷くんが訊いてることは、僕の中でも強力に大きなジレンマなの。で普通ね、ロックとかいうようなものの動機っていうのは、たとえば反体制とかって古びた言葉だけど、そういうアイデンティティーとソーシャルの関係の中での摩擦を音楽的なもので解消しようとかいう、そういうエネルギーから発するものが多いんだよ。ただ僕が素直に心から感動する音楽っていうのは、そういう種類の音楽ではなかった。だけど、僕もそういう時代を生きてるから、そういう学生運動の端っこにもいて、見てるし、要するに若気の至りの反発心とかそういうのもあるんだけど、そういう反発から当然帰結するべき音楽のスタイルはダメなんだよ。だから私生活のそういう政治的・文化的な側面と、あと音楽的に純粋な、審美的とか優美的とか言われてるこの美的な感受性っていうのが、まったく切り離されてるのが僕の最高・最大のジレンマなんですよ」

この人は筋金入りですね。そのジレンマはプロになって増幅されたのではないかという質問に、山下達郎は音楽評論家に牙をむく。

「増幅された。で、とくにプロんなってからショックだったよね。自分の音楽が全然初めは、自分が思ってたようには世の中に受け入れられないっていう。とくに評論家に受け入れられないっていうのがすごくショックだった。だって評論家はもっと頭いいと思ってたから」

その当時の孤立感と不信感がとても根深いものであることを、当人は以下のように語る。

「いや、だから、今僕がフロント・ラインに立ちたくないと思うのは、その時の被害者意識がすごく大きいからだよ。それでソロんなっても下積み長かったでしょ。だからやっぱり僕はいまでも世の中に許容されないんじゃないかっていう恐怖感がすごくある。(後略)」

「で、ソロになったらソロになったで結局やっぱり今度は、やってることがマニアックだっていうか、難しいっていうか、今から考えるとそういう感じなんだろうけど。それでやっぱりマニアックな音楽に群がる人はマニアックだから、それもまたほめるより揶揄のほうが多いっていうかさ。しょっちゅう手紙が来たよ、『ライド・オン・タイム』を出した時にはずいぶん手紙が来たな "裏切った" とかさあ」

そして、対音楽評論家の話になると止まらなくなる。

「いや、口が達者だから嫌われたんだよ、逆に。だって評論家よりもさあ、僕のほうが音楽を知ってんだもん」

――で、そういうとこでケンカしたりとか何とかあるわけ?

「もうしょっちゅうあるよ! しょっちゅうあった。だって向こうが『サザン・ロックがどうたら~~』とか言うと、『あんたの言う、それはサザン・ロックと違う』と『規定概念が違う』っつって」

――(笑)やなやつだなあ(笑)。

「それはB・J・トーマスとか、クラッシックス・フォーとか、ローリー・レーベルとか、スタジオ・ワンとか、そういうとこまで行ってからサザン・ロックなんだよ。『リズム&ブルース? わかったよ。アーサー・アレキサンダーとベティ・エヴェレットまで行ったら話しましょう』とかさあ。そういうようなこと言うでしょ。それは嫌われるよね」

……それは嫌われるよな。

「こっちもゴロツキだけどさあ。いきなり入って来るでしょ、パッと見てさあ、『聴いたんだけどさあ、ハッキリ言ってかったるいよね、これ』とか。で『どうしてこういうことするわけ?』っつう」

――へぇー。

「そんなの、もう物ぶん投げて帰るよね」

――ははははは。

「だから俺は、すごくそういう意味でもケンカの多いミュージシャンだったよ」

――へぇー。じゃあ、そこでもいよいよ敵ばかり?

「そうそう、孤立するわけ。たとえば誰かミュージシャンと対談するとかいったってさあ、『あんなやつとやりたくねー』っつって」

――言われるわけ?

「いや、俺が言うの」

こういう話になると、山下達郎の一人称が「僕」から「俺」に変わる。

渋谷陽一山下達郎にインタビューするようになるのは、彼のブレイク後になる。

――で、インタビューするたんびに、『こんなに売れてんのはウソだと思ってる』って言って、何を訳のわかんねーこと言うミュージシャンなんだろうなあ(笑)と思ってたんだけども。

「(笑)」

――やっぱりそれはほんとだわなあ。

「そうだよ。だから『ライド・オン・タイム』でヒットした時ってさあ『何でこんなに簡単に行くんだろう!?』って思ったもん」

こうやって引用しているとどこまでも続くのでこのあたりにするが、これ以降も、こんなもんで浮かれちゃダメだぞ、浮かれるな! 浮かれるな! と必死に自分に言い聞かせた話をしていて、冒頭引用したツイートで Andy さんが書くところの「流行り物」「チャラチャラした音楽」と見られていたことを本人も意識していたのかもと思ったりする。

ローレンス・レッシグはAIが作成した作品に著作権を認めるべきという立場みたい

medium.lessig.org

ローレンス・レッシグ先生が、AI 技術が生み出した作品に著作権が認められるべきかについて論じている。

ご存じの通り、米著作権局によるガイドラインによれば、AI が自動生成したものには著作権はないが、アーティストが十分にクリエイティブなプロンプトを与えるなら著作権が認められる可能性があることを示唆している。が、現時点では申請された案件すべてについて著作権を却下している。

これについてレッシグは、「この結論は単に間違っているだけでなく、戦略的に間違っている」と断じる。創造的な作品を生み出す機械の使用者に著作権が認められるべきでない理由は現行法のもとでは存在しないというのだ。うーむ、そうなのか?

AI の創造性を形にする機械を操作するのは人間であり、その多くがアーティストなのを見逃してはいけないという。カメラで風景写真を撮影する際、カメラという機械が人間の創造を助けているが、その撮影者が著作権を有することになる。それに多大な努力とか創造性とか法律上要求されることはない。

Dall-E を使った場合でも、それは変わらないはずだとレッシグは書く。確かにこの場合、AI の力が大きいわけだが、風景を撮影した写真だって簡単にできるし、前述の通り、努力や苦労が著作権の条件にはならない。

著作権局は、十分に創造的な、あるいは複雑なプロンプトがあれば著作権の対象になるかもという立場だが、これは間違っているとレッシグは書く。多くの弁護士が必要となるそうした複雑さは著作権には必要ではなく、必要なのはクリエイターが自らの創造性を守るのに頼れるシンプルな体制だという。

AI 生成作品の著作権を否定することが、人間の創造性に利益をもたらすという考えも間違いだとレッシグは書く。それはアメリカの建国当時に、外国人作家に著作権保護を認めなかったようなものであり、それはアメリカ人に害を及ぼした。

著作権局は、AI 生成の創作物の氾濫とそれがクリエイターを脅かすのを恐れているわけだが、議会が著作権制度に、AI による著作権保護と引き換えに AI 技術に作品の出自と所有権を立証するデータを結びつけ、作品の登録を要求する(国内作品のみを対象とする)一連の手続き(formalities)を再導入すれば、こうした懸念は払拭されると論じる。そうすれば、著作物の所有者を簡単に特定でき、作品が再利用される際に権利を簡単にクリアできるようになるという。

レッシグが AI の創造性に著作権を認める考えなのに驚かれる人もいるだろうが、彼は作品を自由にライセンスできるようにする Creative Commons の共同設立者であり、その立場からすれば AI との人間の競争だって認めないわけにはいかないという立場のようだ。

レッシグの意見には賛否あるだろうし、ワタシ自身、「作品の登録」がそんなにうまく機能するか疑問だったりする。ただ、あっという間にデジタル創作物の大半は、人間が引き金をひいて AI に生成されたものになるだろうという見立ては間違っていないだろう。彼が例に出すデジカメで撮ったものに著作権が認められるのが当然なように、これからは人間の創作の過程に AI が介在するのが当たり前になるのだから、著作権のシステムはその所有権を特定できる技術を備える必要があり、AI の創造性はそうしたレジストリを構築する好機を与えてくれたと考えるべきというレッシグの考えは分かるように思う。

サイバーセキュリティは解決不可能な問題なのか?

arstechnica.com

法哲学者のスコット・シャピロ(Scott J. Shapiro)イェール・ロー・スクール教授のインタビューなのだが、テーマはサイバーセキュリティだったりする。

なぜかというと、確かにスコット・シャピロは法哲学者なのだけど、彼はイェールのサイバーセキュリティ・ラボの所長でもあり、彼の新刊 Fancy Bear Goes Phishing はサイバーセキュリティの本だからである。

新刊のタイトルにあるファンシーベアとは、2016年の米大統領選挙を揺るがしたヒラリー・クリントンのメールハッキング事件の犯人と言われるロシアを拠点とするハッカー集団のことである。

この本は、ファンシーベアを含む5つの傑出したハッキングを通して、サイバーセキュリティにおける人間の認知や行動の問題を論じる本である。

この記事のインタビューは、アラン・チューリングの話から始まるが、スコット・シャピロは、チューリングは完璧なサイバーセキュリティは不可能であることを証明したのだと語っている。サイバーセキュリティは本質的に負け戦ということか。

「ハッキング」の話では、シャピロはこれはとても楽しいが同時に危険でもあるので、学生には倫理的な責任についての注意を喚起し、安全かつ合法的にそれを行う指導をしているが、イスラエルではアメリカとはまったく違った文化があるという話、ハッキングに関しては「道具は道徳的に中立で、あとは使う人次第」という考え方が論議を呼ぶし、テクノユートピア派とテクノディストピア派の言い争いは、今は AI の分野で盛んだけど、だいたいはその中間で落ち着く(この本もそういうものだ)、という話をしている。

インタビューの最後で、本で取り上げたハッカーの中で特にお気に入りはいるかと問われ、シャピロはロバート・モリスを挙げている。それはつまりは彼のモリスワームの話であり、その裁判法哲学者のシャピロにとってとても興味深いということなのだろう。

ロバート・モリス並びにモリスワームの話は、前に読んだ『情報セキュリティの敗北史』にも当然出てくるのだけど、それを読んで少しモリスワームについての見方が変わったところがある。果たしてシャピロの本はどうだろう。こちらも邦訳が出てほしいところ。

ネタ元は Slashdot

刊行されない『イーロン・マスクの熱狂』の悲劇

yamdas.hatenablog.com

昨年、ワタシは戯れにこんなエントリを書いた。

昨年のうちはイーロン・マスクをダシにビジネス本がいろいろ書かれたのだが、昨年秋の時点で、『イーロン・マスクの熱狂』という本が今年の1月に刊行される情報をワタシはつかんでいた。

著者の池松由香氏日経ビジネス編集部のニューヨーク支局長であり、「池松由香のニューヨーク発直行便」を連載されている。

「製造現場のカイゼン取材は媒体をまたいで20年近く続ける“ライフワーク”」という彼女にとってテスラは恰好の取材対象だったろうし、イーロン・マスクに対しても「マスク氏に会いたい!」 ツイッター本社前に張り込むほどの入れ込みようである。時の人であるイーロン・マスクについての本には勝算があったろう。

しかし、『イーロン・マスクの熱狂』は2023年になっても一向に刊行されない。推測だが、彼による買収後の Twitter の混乱に次ぐ混乱、そして彼自身の評価が「革命家」から「保守反動」へと一変したのもあり、本にどこまで書くか、どのようにまとめるか収まりがつかなくなったのではないだろうか。

まさか書名を今から『イーロン・マスクの発狂』に変えるわけにもいくまい。

そうするうちに、以前から噂になっていたウォルター・アイザックソンによる評伝『イーロン・マスク』の刊行が告知される。

books.bunshun.jp

なにせウォルター・アイザックソンによる評伝である。そこらへんの「イーロン・マスク本」はふっとばされてしまう。

これはますます『イーロン・マスクの熱狂』は不利なのではないかと Amazon ページを見てみると、なんと刊行は9月に伸びていた。

アイザックソンの『イーロン・マスク』邦訳より発売日が5日ほど早いのが慰めだが、大きなお世話ながら不憫に思えてならない。

/Filmによる史上最高の映画100選(かなり敷居が低い)

www.slashfilm.com

この手のリストは何を選んでも文句が出るものだが、このリストでワタシがちゃんと全編観たことがあるのは以下になる(以下の並びは順位ではなく、原題のアルファベット順)。

ゴーストバスターズ』、『卒業』、『恋はデジャ・ブ』、『悪魔のいけにえ』あたりは、全編ちゃんと観たわけではないので入れなかった。

個人的には『ロジャー・ラビット』などちょっとありえない作品が入っているし、公開時かなり皮肉っぽくだけど好意的な感想を書いているワタシですら『最後のジェダイ』が入っているのには、かなりたじろいでしまったぞ。

日本映画が3本入っているのに対し、ヨーロッパ映画がかなり手薄なのもちょっとなぁ。

……などとぶつくさ書いたが、この手のリストは、たいていは観た映画が半分にも満たなかったりして、嗚呼、自分は未だ映画初心者なんだなぁと思ってしまうものだが、これの場合、ワタシですらなんと65本も観たことがあるという、かなりハードルが低いチョイスになっている。正直、観たことのない作品ばかり並ぶリストよりは見てて楽しいというのはありますね。

ネタ元は kottke.org

WirelessWire News連載更新(人工知能規制、資本主義批判、民主主義再考)

WirelessWire Newsで「人工知能規制、資本主義批判、民主主義再考」を公開。

またしてもワタシの貧乏性気質が炸裂してしまい、3回分の分量を一度にぶちこんでしまっている。正直、書いていてワタシもかなり疲弊してしまい、最後あたりは書いていて意識朦朧に近く、尻切れトンボになってしまった。次回はもう少しタイトにまとめたい。

基本的にはテッド・チャンの寄稿とブルース・シュナイアーの講演内容を取り上げています。

これだけの分量書きながら、これでもかなり端折っており、たとえばテッド・チャンの文章における左派加速主義批判など、話としては興味深いのに仕方なく触れなかった話題もかなり多いので、できればそれぞれ元文章を見てほしいところ。

他にも長さの関係から本文に入れ損ねた話を以下いくつか拾っておく。

まず、文章のはじめに名前を出した「ディープラーニングの父」ジェフリー・ヒントン、最近いろんな媒体に彼のインタビューが出ていて、それだけ大物ということだが、「インチキAIに騙されないために」でも批判されていたように、放射線科医の仕事は5年以内にディープラーニングに取って代わられるので、今すぐ放射線科医の養成をやめるべきと2016年に半笑いで放言をした責任をどう考えるんだ、と誰かインタビューで聞けばいいのにと思う次第。こういうところ、米ジャーナリストもぬるいよね。

そして、米連邦取引委員会のリナ・カーン委員長の文章を取り上げているが、前回の「AIは監視資本主義とデジタル封建主義を完成させるか」の主役メレディス・ウィテカーは、2021年秋からリナ・カーン委員長のシニアアドバイザーを務めている(いた?)んだよね。その体験を踏まえて、メレディス・ウィテカーは FTC には過大な期待はできないと感じているようだ。

あと、テッド・チャンの文章の最初のところ、適切な比喩を選ぶべきという話で、スチュアート・ラッセルがミダス王のたとえ話をしているのを批判しているのだが、実はこの比喩はブルース・シュナイアーもやっているのね。

ギリシャ神話のミダス王は、ディオニュソス神に願いを叶えてもらい、触れる物を全て黄金にする能力を得た。しかし、食べ物も飲み物も娘もミダス王が触れたものがすべて金になってしまい、飢えに苦しみ惨めな思いをする。これが「目標の調整」の問題であり、ミダス王は間違った目標をシステムにプログラムしてしまったのだ。

ブルース・シュナイアーが予言する「AIがハッカーになり人間社会を攻撃する日」 - YAMDAS現更新履歴

おそらくはこの手を話題で引き合いに出したくなる話なんだろう。

デイヴ・ワイナーが語る「なぜ新しいソーシャルネットはかくもナイスなのか」

scripting.com

ワタシもご多分に漏れず Bluesky に @yomoyomo.bsky.social としてアカウントをとっている。

正直、まだ Twitter からは足抜けできないので使い分けは難しく、Mastodon のときのようになる可能性もあるが、やはりこういう新しい場に足を踏み入れてしばらくの心地よい感触を確かに感じている。

このあたりについてベテランブロガーのデイヴ・ワイナーがズバリ書いていたので、全部じゃないけど訳しておく。

80年代のはじめに BBS を運営していた頃、時にハッキングされて、たいていはデータベースを全消しして一からのやり直しになったものだが、しばらくはすべてが素晴らしくシンプルなのだけど、また万事糞詰まりになったものだ。だから、ハッキングされるのは悪いことばかりではなかったわけだ。

そうした現象は他でもあるのかもしれない。Clubhouse を思い出すと、この音声のみの Twitter は素晴らしかったが、ユーザーが増えてスパムやらインフルエンサーやらでいっぱいになると、最初に人々をひきつけた仲間意識は消え失せてしまった。

そんなわけで今は Twitter が老いぼれて糞詰まっている。多かれ少なかれ、ルールが決まってしまっている。カースト制度があまりない、あるいはそれが避けられる新しいネットワークのほうがより可能性がある。利用者はある程度公平な土俵に立てる。荒らしもまだ組織化されてはいない。なんであれ、Bluesky はイイぞ。でも、それもいずれは糞詰まりになるので、もっといろんな使い方を取り入れて、それに備えるべきなんだろう。

結局は最初はどこもナイスなんだけど、いずれは――と書いてしまうと身も蓋もないのだけど、まぁ、そういうところがあるのは間違いないのだろう。

果たして Bluesky のナイスさはいつまで続くのだろうか?

古いMac上でピクセルアート化された葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」がスゴい

www.hypertalking.com

いやぁ、これはすごいよ。葛飾北斎の『富嶽三十六景』を1ビットの白黒ピクセルアート化するプロジェクトに取り組んでいる人が、手始めにもっとも知られた「神奈川沖浪裏」を描いている。

驚くのは、それを System 7 が OS の古い Macintosh 上で行っていること。この方のサイト自体、古い MacHyperCard に対する偏愛とそれに殉じる美意識を感じる。

この方、過去には『となりのトトロ』のバス停の場面をやはりピクセルアート化している。

ネタ元は kottke.org

ライアン・ノースのポピュラーサイエンス本『キミにもできる世界征服』が7月に出るぞ

yamdas.hatenablog.com

およそ一年前に取り上げた本だが、ここで予測した通り、早川書房から『キミにもできる世界征服: 科学的に正しい悪の野望の叶え方』の邦題で7月に邦訳が出る。

邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2023年版)で取り上げた本の中で最初に邦訳が出るものは、これになりそうですな。

ライアン・ノースといえば、Long Now 財団で行った講演の動画が公開されている。

これはまさに本について語る動画だが、かなり長い(ので誰も最後まで見ないでしょう)。

これは10分程度なので大丈夫ですよ。人間って、自分たちで思ってるほど賢くなくて、往々にして間違った仮定にとらわれて、本来発明できてしかるものが実現するまで1000年単位で長くかかることがあるという話を、コンパスや聴診器やボタンなどを例に語っている。

こちらは1分足らずで、自分自身の価値と仕事とを切り離して考えようというとても重要なことを言ってます。

今もっとも邦訳が待たれるウクライナ人歴史学者セルヒー・プロヒーの新刊

少し前にウクライナ史の必読書の話を Yuko Kato さんのツイートで知り、そこで挙げられているセルヒー・プロヒー(Serhii Plokhy)の名前に見覚えがあるなと記憶を辿ったら、クーリエ・ジャポンで彼のインタビュー記事を読んでいたようだ。

こういう話題に関して、クーリエ・ジャポンは押さえるべき人を押さえているな。

セルヒー・プロヒーはウクライナ人の歴史学者であり、ハーバード大学教授だが、一年以上前に洋書ファンクラブでも彼の The Gates of Europe が取り上げられていた。渡辺由佳里さん、さすがである。

なるほど、セルヒー・プロヒーはハーバード大学ウクライナ研究所の所長でもあるんだな。

以前、ブレイク中の歴史学者としてティモシー・スナイダーを取り上げたが、こちらは以前から何冊も邦訳が出ていたのに対し、セルヒー・プロヒーの邦訳が出てなかったのは残念な話である。が、当時はウクライナの本では難しかったのだろうな。

その彼の出たばかりの新刊が The Russo-Ukrainian War で、ロシアのウクライナ侵攻にフォーカスした本であり、今もっとも求められている本だろう。

セルヒー・プロヒーの本、少なくともこのエントリで取り上げた2冊は、おそらく大急ぎで翻訳中だと思うのだが、今年中にいずれか出るでしょうかね。

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