当ブログは YAMDAS Project の更新履歴ページです。2019年よりはてなブログに移転しました。

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WirelessWire News連載更新(監視国家化・権威主義化する米国、テクノオリガルヒ、ポストアメリカ的インターネットの可能性)

WirelessWire News で「監視国家化・権威主義化する米国、テクノオリガルヒ、ポストアメリカ的インターネットの可能性」を公開。

今回の文章を書くのにかなり時間がかかった。

正確に書けば、書き出すまでに逡巡があった。

正直なところ、政治的なことには安易に首をつっこみたくない気持ちはある。どういう立場で書こうが、イヤな反応をもらうことが分かっているので。

「2026年のテックを占う」みたいな穏当な話題にしようかと何度も方向転換しかけ、いや、やはりこれを書こうと決めてからもなかなか腰があがらなかった。

今回の文章は、話を広げ過ぎないようにしている(だから、いつもよりは少し短くて済んでいる)。

アメリカの話題とはいえ、トランプ政権のベネゼエラでの軍事作戦には触れていないし(それにともなうサイバー攻撃については小林啓倫氏の文章を読んでください)、ICE の事件についてもその後の AI を使った工作の話には触れていないし(それについては新聞紙学的などを読んでください)、またテックオリガルヒ関係ではピーター・ティールの「世界の終わりへの航海」にも触れていない(それについては柳澤田実氏の解説を参照ください)。

それはそれとして、「トランプ米政権が検察に圧力、ICEに射殺された被害者に罪着せる要求 検事が相次ぎ辞任」とか、とにかくひどい話である。

読めば分かることだが、今回の文章は一田和樹氏の仕事に多くを負っている。氏とワタシの思想信条が同じということはもちろんないのだけど、今回は特にお世話になった。

ブルース・シュナイアーらが安野貴博とチームみらいについて論じている

therenovator.substack.com

ブルース・シュナイアー先生(とネイサン・E・サンダース)の新刊についてはおよそ一年前に取り上げているが、結局は『Rewiring Democracy』という書名に落ち着いた。AI を使って我々の民主主義を再構築しようという本である。

で、昨年出た『Rewiring Democracy』その後というべき新連載の第一弾で、民主主義再構築の実例として安野貴博とチームみらいについて論じている。

もちろん安野貴博の名前は『Rewiring Democracy』でも言及されている。東京都知事選での AI の政治利用が、『Rewiring Democracy』で論じる AI 利用の方向性にマッチしているのは容易に想像できる。

そして、ここで取り上げられるのは、東京都知事選の後、この一年の安野貴博、そして彼が立ち上げた政党チームみらいについてである。安野貴博は、「デジタル民主主義」の公約が単なるパフォーマンスではないことを示すため、その実現に向けた技術開発を加速させている。

具体的には、政治的中立のオープンソース型「民主主義のオペレーティングシステム」を創出することを目的とした「デジタル民主主義2030」プロジェクト、そしてそこでの政策決定のための多用な声から意味ある意見を引き出す方法、そしてそれらの深い視点から意味と実践可能な知見を抽出する方法が取り上げられている。

そして、ゲーミフィケーションを駆使したボランティア活性化プラットフォームであるアクションボード、国会で起きていることをリアルタイムで AI 生成するニュースフィードみたく見せ、国会での議論を説明し文脈化する AI チャットボットを提供するみらい議会などが紹介されている。

「チームみらいが構築したあらゆるものの中で、このチーム自体が日本政治においてもっともユニークな存在かもしれない」とシュナイアー先生らは評しているが、財務透明性プラットフォームみらいまる見え政治資金といった取り組み、日本政府や政治のために技術提供を行う「ユーティリティ政党」と自分たちを位置づけていることなどを指しているのだろう。

このまま紹介し続けて特定の個人や政党の宣伝みたく思われるのは不本意なので、詳しくは原文を読んでくださいなと書いておくが、最後だけ訳しておきましょう。

人工知能技術は、広範に力を増強するものである。民主主義を解体したい者の手にかかれば、AI はその一助となる。民主主義をより良く――より機敏に、より反応が早く、より民主的に――したい者の手にかかれば、やはり AI はその助けにもなる。安野とチームみらいは、後者のムーブメントの先導者である。彼らが民主主義をより参加型で、応答性が良く、成功させるデジタル技術を受け入れるよう、世界中の若い世代を鼓舞するかどうか、我々は注視している。

AIシステムのスタックを指す「PARK」という言葉があるそうな

thenewstack.io

先月開催された Open Source Summit Japan を取材した記事なのだが、ワタシは AI バブルに関する本筋よりも以下のくだりが気になった。

Zemlin also highlighted the emergence of what he calls the PARK stack: PyTorch, AI, Ray and Kubernetes.

Linux Foundation Leader: We're Not in an AI Bubble - The New Stack

AIシステムのスタックを指す「PARK」という表現があるんですな。知らなかった。

PARK とは、Python機械学習ライブラリの PyTorch、AI、オープンソースの分散コンピューティングフレームワークRay、そしてコンテナオーケストレーションシステムの Kubernetes の頭字語である。

かつて Web 2.0 時代に LAMPLinuxApache HTTP Server、MySQLPerl/PHP/Python)という頭字語があったが、PARK はその AI 版というわけですな。

AI そのものが入っているところが苦しい感もあるが、これが今年のバズワードになるんでしょうかね。

ネタ元は O’Reilly Radar

アルゴリズムに支配されない「インターネット最後のリアルな場所」Craigslistが開設30年を迎えた

arstechnica.com
クラシファイド広告サイト Craigslist が30年を迎えたとのことだが、正確にはサイト開設は1995年の3月1日だったみたい。Yahoo! JAPAN が(ワタシが就職したのと同じ)1996年4月1日にサービス開始なので今年4月に30年となるのを考えるとすごい話である。

で、特に米国で未だに恐ろしく利用されている Craigslist だが(米国で40番目に人気のウェブサイトとのこと)、すごいのはこの30年でサイトの見た目が変わっていないというか簡素さを保っていること。

この記事では、Craigslist が「ジェントリフィケーションされていない(Ungentrified)」とペンシルベニア大学准教授の Jessa Lingel の言葉が紹介されているが、取得したユーザーデータでその動きを操作するアルゴリズムはないし、公開プロフィールも評価システムも「いいね」もなし。「90年代初頭のインターネットの価値観をしっかりと受け継いでいる」と Lingel が言うのも分かる。

動きの激しいウェブの世界で頑固一徹に変化しないのは、創業者のクレイグ・ニューマークの存在があるからだが、過去6年で収益は急落しているらしいが、依然としてしっかり収益をあげているのが大きい。

そして、今やクレイグ・ニューマークは、ニューヨーク市立大学に22億円を超える寄付をしたり、近年も対米サイバー犯罪対策に2億ドルの寄付を行うなどの篤志家として知られている。

ネタ元は Slashdot

久方ぶりのソーシャルエンジニアリング本『人を動かすハッカーの技術』が楽しみだ

調べものをしていて、来月、技術評論社より『人を動かすハッカーの技術:ソーシャルエンジニアリングの実践と防御』という本が出るのを知った。

これは2022年に出た Practical Social Engineering の邦訳である。

ワタシがおっとなったのは、これがソーシャルエンジニアリングについての本であること。

ソーシャルエンジニアリングについては、それこそケヴィン・ミトニックの本などが古典だが、この言葉を書名に冠した本となると、クリストファー・ハドナジー『ソーシャル・エンジニアリング』くらいしか知らない。

要は10年以上これを主眼とする本が出てないことになり、『人を動かすハッカーの技術』は OSINT 方面の記述もあるので、そうした意味でも有意義だと思う。

「Creative Commonsの「ペイ・トゥ・クロール(Pay-to-Crawl)」に関する立場」を翻訳した

技術関連文書の集積所「Creative Commonsの「ペイ・トゥ・クロール(Pay-to-Crawl)」に関する立場」を公開。Creative Commons の文章の日本語訳です。

実に一年以上ぶりの本家サイト更新である。あまりに長らく翻訳をやってないのは少しまずいかなと思って、年末年始休暇にダラダラと訳した。

昨年「AIスクレイパーボットへの対策と開かれたウェブのジレンマ」を書いた関係で、Creative Commons は昨年「CC Signals」を提案したし、上記文章でも取り上げた Real Simple Licensing(RSL)にも関与していると知り、興味を持った次第である。

一般的には「ペイ・パー・クロール(Pay-per-Crawl)」のほうが使われていると思うのだが、CC 的には「ペイ・トゥ・クロール(Pay-to-Crawl)」らしい。もっとも今回訳した文章にも一カ所 pay-per-crawl という表現が出てくるんだよね……。

クリエイティブ・コモンズ・ジャパンさん、ワタシの訳文を改訳でも転載でもなんでもしてくださって結構です(そのための CC ライセンスなので)。

そういえば一年前、「アーカイブの危機とメンテナンスの大事さ」非営利団体への寄付を公開したのだが、今年も年初にやらしてもらいましょう。

今年は例年通りの Wikimedia Foundation に加え、Mozilla FoundationCreative Commons に少額ながら寄付させてもらう。

イーロン・マスクが2025年に実現すると約束した(が実現しなかった)こと一覧

mashable.com

タイトルの通り、イーロン・マスクが2025年に実現すると約束し、けれども実現しなかったことを Mashable がまとめている。

つまりはイーロン・マスクを「楽観的」というのは甘くて、ヤツは「bullshit artist」だよということで、2011年のウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで、10年以内に人類を火星に送ると言ったのは悪名高いが、その2025年版は以下の通り。

  1. 2025年までに火星に人類を送る:前述のウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューとは別に、2016年にも左記のことを言っている
  2. Tesla の自動運転タクシーは米国人口の半分をカバーする:7月の Tesla の第2四半期決算報告にそう書いている
  3. 完全自動運転な Tesla ロボタクシー:現状、人間の監視員が同乗している
  4. xAIがAGI(汎用人工知能)を達成:マスクは2024年に「来年」達成すると書いている
  5. 空飛ぶ車(ロードスター)のデモ
  6. DOGE が2兆ドルの「無駄、不正、濫用」を削減するという公約:ニューヨーク・タイムズ紙や右派系シンクタンクのケイトー研究所の分析によると、実際には何の節約にもなってない

いやぁ、まさにブルシット! ネタ元は Boing Boing

ジョイ・ブオラムウィニ『AIの仮面を剥いでやる AIに潜む差別・偏見との闘い』が来月出る

yamdas.hatenablog.com

ジョイ・ブオラムウィニの『Unmasking AI』を取り上げたのは、「先鋭化する大富豪の白人男性たち、警告する女性たち」を書いた2023年9月だが、来月『AIの仮面を剥いでやる AIに潜む差別・偏見との闘い』として邦訳が出るのを知った。

書名からして著者の「怒り」を打ち出しているが、果たして表紙カバーはクールな原書を踏襲するのかな?

類書としてサフィヤ・U・ノーブル『抑圧のアルゴリズム』があるが、AI 分野における反差別闘争の書となると、やはり本書になるだろう。

で、ブオラムウィニの戦いは、非白人の黄色人種の日本人にとっても無縁な話ではないのですよ。

2025年下半期にNetflixで観た映画の感想まとめ

yamdas.hatenablog.com

2021年以来半年ごとにやっている、Netflix で観た映画の感想まとめを2025年下半期についてもやっておく。

ここしばらく Netflix で観た映画が少なくなっているのに気づいており、意識的に観る本数を増やしたつもり。昔の映画は入れず近作(公開から10年未満)だけ取り上げる。

化け猫あんずちゃん(公式サイトNetflix

公開時はまったくノーマークだった本作をなぜ観たのかというと、小野マトペさんが Bluesky で名前を挙げてたのが気になったから。

かりんだけでなく、あんずちゃん、それ以外にも何層にも楽しみ方がある作品である。あんずちゃんの登場からして良いんだよな。

後半は一種の地獄めぐりの話になるが、トイレから入っていくところで『トレインスポッティング』を連想したりした。

近年の映画では、『パレードへようこそ』『ロスト・キング 500年越しの運命』と同じくらい、観ていて泣いた。ボロ泣きだった。

喪う(Netflix

なんで本作のことを知ったのか? 確か、IndieWire の記事経由かな。

原題の通り、三人の娘が父親を看取る映画なのだが、この三姉妹がそれぞれ父親と母親が違うという設定になっている。

最初、キャリー・クーンが心配性で神経質な長姉、ナターシャ・リオンがざっくばらんとした次姉、そしてエリザベス・オルセンが優等生的な末妹と思ったのだが、リオンが長姉でクーンが次姉なのね。

長姉が父親と住む部屋とその周辺だけで展開する本作だが、この三姉妹のフリクションの描き方で飽きさせない。

この三姉妹がそれぞれ「らしい」役をやっているのだけど、オルセングレイトフル・デッド好きという設定だけ正直ピンとこなかった(ジョン・メイヤーの言及はあるけど)。

父親の最期が、実際に親の介護をやったことある人間から観たらありえない……と冷めかけたが、それにもちゃんと仕掛けがある。


ディック・ジョンソンの死(Netflix

これも娘が父親の死を看取る映画なのだが、こちらはドキュメンタリー映画なのね……と事前知識なしで観だしたら、オープニングの衝撃にひっくり返りそうになった。

ディック・ジョンソン氏がワタシの父親と同年代なので観ていて思うところはあり、日米の文化の違いは気になるものの、もはや驚かされるところはない……と思ってたら、救急車、告別式を経て、そして監督がナレーションを収録撮影するエンディングに再度ひっくり返りそうになった。


木曜殺人クラブ(Netflix

ヘレン・ミレンピアース・ブロスナンベン・キングズレーといったシニア世代の名優たちが老人ホームのオーナーの殺害事件に挑む。批評家の評価はあまりよくないみたいだが、とにかく重くならない軽快な作りにワタシは好感をもった。これでいいのだ。

役柄的にジョナサン・プライスは無駄遣いではないかと思ったら、もちろんそうではないところも良かった。


ハウス・オブ・ダイナマイト(公式サイトNetflix

yamdas.hatenablog.com

グッドニュース(Netflix

よど号ハイジャック事件をもとにしたコメディ映画なのだが、「卑しさ」の描き方が良かった。

思えば、よど号ハイジャック事件はワタシが生まれる前に起きたのもあって、通り一遍のことしか知らず、これは事件をデフォルメした設定や描写なんだろうな、と思いながら観ていたいくつものポイントが、実はだいたい史実に沿っているらしいのを知って後からのけぞった(参考:Netflix Freaks)。

月の表側、裏側に関する謎格言も皮肉がきいていてよかった。

役者では、久しぶりに見た気がする椎名桔平が頼りがいのある機長を演じていてよかった。


フランケンシュタイン公式サイトNetflix

ギレルモ・デル・トロNetflix で作る映画というと2023年の『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』に続いてになるが、本作も良かった。ただ、思えば、ワタシ自身はフランケンシュタイン映画をコッポラのくらいしか観ておらず、それらの古典、何より原作に通じていないので、そのあたりで取りこぼした文脈はあるだろう。

役者的にはオスカー・アイザックはもちろん良かったが、クリストフ・ヴァルツが久しぶりにちゃんとした役で映画に出てるのを見れて嬉しかった(ので、もっと後半まで活躍してほしかったが、それはないものねだりか)。

バリー・リンドン』、『プロメテウス』(そして、「母の不在」)などいろいろ連想する映画、鏡の使い方など気になるところがいろいろあったが、いずれにしても2時間半が長く感じない。もっと長くやってほしいと思える映画体験だった。

そうそう、ギレルモ・デル・トロと真実一郎さん(!)のスペシャル対談「なぜ私たちは怪獣に惹かれるのか?」がとても有意義だった。


ジェイ・ケリー(公式サイトNetflix

当たり前の話だが、本作の主人公とワタシはまったく境遇が異なる。なので、「ハリウッドスターの孤独」とか見せられて、だからなんなの? という心持ちになっても不思議がない。が、ワタシの場合、それはそれと割り切りができるようで、事前に予想していたよりも自分でも驚くほどしっくりくる映画だった。

現時点でのノア・バームバックの監督としての最高傑作は『マリッジ・ストーリー』なのだろうが、ワタシは彼の映画で本作が一番好きかもしれない。

やはり、主演のジョージ・クルーニの力もあるのだろう。彼の主演作を観るのはかなり久しぶりなのだが、15年前の『マイレージ、マイライフ』がそうだったように、実に合った役柄を演じている。

現実には、クルーニがスター街道に乗ったのはドラマ『ER』への出演からで、その時点で彼は30代半ばだったのだが、本作の主人公は23歳で映画スターになるチャンスを掴んでいる設定である。

その出世作の監督であり、しかし、主人公はその晩年に手を差し伸べなかった老齢の映画監督が、別の監督を指して「MTVすぎる」というところがあるが、「MTVすぎる」という言葉を今の映画監督に向けるには明らかにズレていて、つまりはその台詞自体、老齢監督の感覚のズレを表現している。そうした細かいところも意図的に違いない。

役者についてはクルーニ以外にも、アダム・サンドラーも良かった。あと主人公のかつての役者仲間を演じているのがビリー・クラダップとは気づかなかったな。


ナイブズ・アウト: ウェイク・アップ・デッドマン(Netflix

ダニエル・クレイグ演じる名探偵ブノワ・ブランが活躍する「ナイブズ・アウト」シリーズの3作目で、過去2作を好きなワタシはもちろん観るわけである。

しかし、本作はブノワ・ブランが登場するまで40分くらいあり、そういう意味でジョシュ・オコナー演じる司祭が主人公とも言える。

3年前の『ナイブズ・アウト: グラスオニオン』が、全力でイーロン・マスクを罵倒する映画だったが、本作は宗教をテーマに据えていて、本作で描かれる教会はカトリックで、米国で主流のプロテスタント、特に近年政治への関与を強める福音派とは異なるのだけど、やはりこれをテーマに持ってきたところにライアン・ジョンソンらしい嗅覚を感じる。

(なぜカトリック教会が舞台なのかという点について、やはり告解が本作の主要な要素だから、ぐらいは見当がついたが、そのあたりについて詳しく知りたい方は、うまみゃんタイムズを視聴後に読みましょう)。

その教会は、ジョシュ・ブローリン演じる横暴なカリスマの(自身を「モンシニョール」と呼ばせる)司祭を中心として、アルコールに依存する医者、陰謀論に傾倒して落ち目になった SF 作家、政治家に向いてないのに野心を捨てきれない YouTuber といった『グラスオニオン』にも共通するカルトを形成している。

上で本作について、「ジョシュ・オコナー演じる司祭が主人公とも言える」と書いたが、本作は名探偵ブノワ・ブランが真犯人と解き明かして一件落着にはならず、彼の姿勢に変化がある。それに不満を持つ人もいるだろうが、ワタシは2025年を締めくくる Netflix 映画として本作を心から楽しんだ。

あと撮影場所に関するライアン・ジョンソンも認めるトリビアはさすがに気づかなかったぞ(笑)。

2026年は昨年中に見逃がした『トレイン・ドリームズ』あたりからですかね。

はてなブックマークで振り返る、2025年にワタシが遺した文章

まぁ、毎年最後にやる私的恒例行事ですね。

はてなブログYAMDAS現更新履歴WirelessWire News 連載で、2025年に公開した雑文、翻訳文書の被ブックマーク数トップ20は以下の通り(2025年12月29日0時時点。なお、今年 YAMDAS Project 本サイトには何も新たなコンテンツを公開していないので、はなから除外)。

  1. オライリー・ジャパンにおける翻訳書の制作体制の変化と「もうすぐ消滅するという人間の翻訳について」 - YAMDAS現更新履歴(539 users)
  2. 人間と人間でないものを分かつ一線、そして「エンパシー」について – WirelessWire & Schrödinger's(467 users)
  3. ポイント・オブ・ノーリターン:プログラミング、AGI、アメリカ – WirelessWire & Schrödinger's(467 users)
  4. 遠藤周作が書く、息子龍之介の結婚披露宴の話がとにかくヒドい - YAMDAS現更新履歴(430 users)
  5. ドナルド・トランプを支援したビッグテックの効果的加速主義者は、50口径のスナイパーライフルで自分たちの足の指を一本一本しっかりと撃ち抜いた - YAMDAS現更新履歴(378 users)
  6. 30年前に渋谷陽一はビーイングについてどう評していたか - YAMDAS現更新履歴(356 users)
  7. 米エール大から加トロント大に移籍した教授3人が語る「ファシズムを研究してきた自分たちが今米国を離れる理由」 - YAMDAS現更新履歴(350 users)
  8. ドナルド・トランプの脳が壊れたのはいつか? - YAMDAS現更新履歴(320 users)
  9. なんで最近の新しいテクノロジーはディストピアSF映画からのインスパイアみたいな感じなのか? - YAMDAS現更新履歴(270 users)
  10. 科学超大国アメリカの終焉? - YAMDAS現更新履歴(246 users)
  11. 現在のアメリカを理解する助けとなる25本の映画 - YAMDAS現更新履歴(229 users)
  12. AIを生産性向上ではなく賃金抑制のためのツールと考えてみると - YAMDAS現更新履歴(220 users)
  13. Duolingoの「AIファースト」宣言とそれに殺到した批判への苦慮 - YAMDAS現更新履歴(200 users)
  14. AIもメタクソ化の道を辿るのか、あるいは「普通の技術」に落ち着くか – WirelessWire & Schrödinger's(184 users)
  15. なぜハリウッドはコメディ映画を作るのを止めたのか? - YAMDAS現更新履歴(165 users)
  16. 日本人にとっての「知の巨人」を再びまとめてみた(2025年版) - YAMDAS現更新履歴(165 users)
  17. ピーター・ティールが創業したパランティアのCEOによる自社宣伝本はテクノリバタリアンを理解する格好の本か - YAMDAS現更新履歴(110 users)
  18. ティモシー・スナイダー「イーロン・マスクによる米政府の情報掌握はもちろんクーデターだ」 - YAMDAS現更新履歴(110 users)
  19. MCPが後押しするAIじかけのウェブ、AIが後押しするオープンなウェブの空洞化 – WirelessWire & Schrödinger's(96 users)
  20. シリコンバレーの技術解決主義を斬る『フィンテック・ディストピア』 – WirelessWire & Schrödinger's(95 users)

もちろんこの中には、これは受けると踏んで書いたブログ投稿も含まれるが、なんでこんなにブックマークされたんかなと当人が不思議に思うものもあったりする。それはタイミングの問題でしかないのだろうが、それはともかく、WirelessWire News 連載の記事が5本含まれているのは嬉しい。

特に「人間と人間でないものを分かつ一線、そして「エンパシー」について」は昨年秋からいつから取り上げようと思いながら、我慢して題材を引きつけに引きつけてから書いた会心の文章と言える。

正直なところ、WirelessWire News 連載は今年のどこかでワタシ自身の限界がきて終了になると思っていた。毎回書くたびに、もう書くことなどないだろうという気になるのだが、なんとかやりおおせた。終了は来年のお楽しみということで。

本サイトに翻訳文章の一つも公開できなかったのは残念だが、今年はデジタル人材のためのブックレビュー連載も始まったのもあって手が回らなかった。連載といっても3カ月に一度の掲載だけど、毎回どの本を取り上げたものかかなり悩まされる。以前は一回に二冊紹介してたんだからすごいよね。

でも、今回のランキングを見ると、ブックマーク数が3桁のものがほとんどで、これは初めてだろう。そうした意味では、今年は充実していたのかもしれない。

今年のブログ更新は今回で最後だが、折角なので今年知っていいなと思った曲を漫然とまとめたプレイリストも紹介しておきましょう。年末作業の BGM にでもしてください。

サルマン・カーン「米国企業は利益の1%を職を失う人々の再訓練支援に充てるべき」

www.nytimes.com

カーンアカデミーのサルマン・カーンが「迫り来る AI による雇用崩壊への1%の解決策」という文章を New York Times に寄稿している。「1%の解決策」とは何か?

彼は、シリコンバレーで見かける Waymo の自動運転車、従業員の80%を代替可能なAIエージェントを導入したフィリピンの巨大コールセンターといった話を引き合いにし、それが不安を喚起している話をする。

要は、人工知能による人間の労働力の置き換えの話だが、その規模は多くの人がまだ認識していないほど大きいとカーンは確信している。今後数年で、人工知能とロボット技術が、倉庫作業からソフトウェアエンジニアリングまで、多様な職種における人的労働の必要性を大幅に削減すると見ているわけだ。自動化がもたらす波は、大きな不満と分断を生むことになる。

そうした状況を受け、自動化の恩恵を受ける企業――つまり、大半の米国企業――は、(売上高でなく)利益の1%を職を失う人々の再訓練支援に充てるべきだとカーンを訴える。

これは慈善事業ではないとカーンは書く。企業の利益が急増する一方で、人々の仕事が失われるのを国民が目撃すれば、規制や課税、あるいは自動化そのものを禁止しろといった形で反発が起きるだろう。企業が労働者の再訓練を支援するのは常識だろうし、それで国民が得る利益は計り知れない。

現在、世界最大級の企業約12社の年間利益総額は1兆ドルを超えるので、その1%は年間100億ドルの基金が創設でき、スキル訓練プラットフォームを構築できるし、数千万人に及ぶ人々へのコーチングやメンターシップを提供できる、とカーンはみている。カーンアカデミーでオンライン学習プラットフォームを実現した彼らしい提言だが、職業技能訓練にも同様の原則が適用できると彼は考える。

人工知能の脅威は、雇用危機だけでなく教育上の課題も生み出す。問題は人々が働けないことではなく、世界が急速に変化する中で、人々が学び続け、新たな機会とつながるためのシステムを構築できてないことだ、とカーンは書く。そして、カーンは、この課題に対処するには、何百万もの人を大学に戻す必要はなく、柔軟で自由な雇用への道筋を創出する必要があるとして、「人々が自身の知識を証明できる低コストのオンライン仕組み」が求められると見ている。

そして、彼は最後に、教師、建設労働者、電気技師、配管工、ホスピタリティ産業や高齢者介護産業など拡大を続けている職を挙げ、「意味のある仕事に不足はないのです。不足しているのは、その仕事に就くための道筋だけなのです」と訴えている。

単に利益をユニバーサル・ベーシックインカムで皆に還元するのではなく、再教育に話を持っていくところがカーンアカデミーの創始者らしいと思うわけだが、彼の本の書名ではないが、そういう意味でも AI は私たちの学び方を変えるんだろうな。

ネタ元は Slashdot

野中モモ『デヴィッド・ボウイ 増補新版——変幻するカルト・スター』がボウイの誕生日に出る

1月発売のちくま文庫、書影と目次が公開されてます。よろしくね!
デヴィッド・ボウイ 増補新版——変幻するカルト・スター』デヴィッド・ボウイ、没後10年。ジギー・スターダストの衝撃、『レッツ・ダンス』での世界制覇、映画、衣装、舞台……音とヴィジョンの創造をたどる傑作、没後10年に増補文庫化!
file.chikumashobo.co.jp/product/9784...

[image or embed]

— Momo Nonaka (@momononaka.bsky.social) 2025年12月25日 22:00

野中モモさんの『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』のことは2016年の刊行時に取り上げているが、没後10年になる来年1月に増補新版が出る。

元の本はもちろんワタシも買って読み、「ボウイ入門書として最適」と評価したが、「大幅に加筆・アップデートし、新たに1章を増補」とは嬉しいねぇ。

刊行日が1月8日なのは、その日がボウイの誕生日だからですね。そして、それはほぼ彼の没後10年とも重なる。ゲイリー・オールドマンではないが、彼が亡くなってからこの10年、世界はクソみたいになってしまったと思うことがワタシにもある。

しかし、新書として出た本が文庫入りするのは珍しいんじゃないだろうか(今はそうでもない?)。

ナオミ・クライン『ドッペルゲンガー』が今月出ていたのを知る

mainichi.jp

この書評でナオミ・クライン『ドッペルゲンガー』が出ているのを知った。

ワタシもこの本の原書を「テクノ楽観主義者からラッダイトまで」において、ナオミ・ウルフの名前を出したときに触れていた。

(余談ですが、彼女と同じ名前のため混同されることの多かったナオミ・クラインが、そのナオミ・ウルフを分析対象とする『ドッペルゲンガー』という奇怪な本を出したばかりです)

テクノ楽観主義者からラッダイトまで – WirelessWire & Schrödinger's

いや、やはりこれは奇怪な本ですよ。ナオミ・クラインのネームバリューは未だあれども、邦訳が出るのは難しいかと思っていた。

そういえばワタシは「美しい友情の終わり」という文章を書いているが、自分から見ておかしくなってしまったように見える人というのは切実な問題なのである。

殺し屋のプロット

2025年最後の映画館での映画鑑賞は、マイケル・キートンが製作、監督、そして主演を務めた本作となった。深町秋生さんが推してて知った映画である。

凄腕の殺し屋である主人公が、アルツハイマー病よりも急速に記憶を失う病(えーっと、何という名前の病気だったっけ?)と診断され、またその仕事を知られたことで疎遠になっていた息子から殺人の隠蔽を依頼され、残された数週間で果たして仕事をやりおおせるかという映画である。

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で復活して以降、『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』や『ビートルジュース ビートルジュース』などの主演作、また『スパイダーマン:ホームカミング』などの脇役でも良い仕事をしているが、本作はやりたい企画だったんだろうな。アル・パチーノマーシャ・ゲイ・ハーデンといった名優との贅沢な共演が実現しているあたりにキートンの人徳が窺える?

主人公が認知症の映画というと『手紙は憶えている』が浮かぶが、いくら終活映画(なんて言葉あるか?)とはいえ、本作の主人公は凄腕の殺し屋で身体は動く。それでも病は容赦なく主人公の認知をむしばむなか、困難な仕事に挑むキートンの佇まいが良いわけですよ。途中、観客のほうも主人公の行動が分からなくなる一種のミスリードにより展開が読めなくて、それが見事に回収されるクライマックスに唸らされる。

本作はノワールであり、贖罪の映画でもある。

主人公を追う警察側、特にスージー・ナカムラ演じる刑事も良かったな。

ベスト・オブ・2025――2025年の10枚 #2025AC2025

はじめに

昨年書いたように、ワタシの人生自体 WirelessWire News 連載に浸食されてしまった状態が続いているので、本来ならその振り返りを書くつもりでいたのだが、こないだ公開した「みんなかえってクソして寝るまでの希望」がまったく箸にも棒にも掛からぬ反応の無風さにめげてしまった。やはり下品なのはダメよね。

というわけで、一昨年のパターンを踏襲して、2025年に撮った写真から10枚選んでみた。

その10枚を貫くテーマは……特にないです。

2025年1月1日撮影

10年あまり通ったバーがこの月閉店した。

2025年3月8日撮影

ワタシはこのお店で飲んでてよかったのだろうか?

2025年3月14日撮影

ヨコタン参上。

2025年4月7日撮影

人生初 CT 検査。

2025年7月9日撮影

トムとジェリー

2025年8月20日撮影

人間的な好き嫌いは別としてその仕事には常に敬意を払っている八田真行が福岡に来るということで、彼と香月さんが食事をしている店に出向いたところ、八田真行は「誰こいつ?」という顔でワタシを迎える。どうもこの人は、ワタシみたいな雑魚の顔はまったく記憶しないようで、思えば、およそ20年前、その時点で何度もお会いしていた八田真行をイベントで見かけて、駆け寄って「八田さん!」と声をかけたら、思い切り目を泳がせて「えーと、どちら様でしたっけ?」と口走り、ワタシはトイレで泣いたことがあったのだが、そんなのは序の口だったわけだ。というか、八田真行とは昨年の秋にも、yomoyomo 飲み会(通称)で会っているのだが、その宴席のことをまったく覚えていないのに呆れてしまった。その彼が「お土産を持ってきた」と言い出して、太々しさが服を着て歩いているような八田真行がお土産だと!? と仰天したのだが、「東京でしか手に入らないので――」と言いながら、バッグから取り出したのはよりにもよって「東京銘菓ひよ子」で、これは宣戦布告としか言いようがない所業であり、この瞬間、文化戦争が勃発した。

ひよ子は後日、スタッフが美味しくいただきました。

2025年8月24日撮影

トイプードルのアクビちゃん、今年もチョーかわいかった。

2025年8月24日撮影

ワタシの父親が高校生の時の写真であり、つまりは元写真が実際に撮影されたのは、およそ75年前になる。

後年の地井武男橋爪功な感じは、さすがにこの頃にはまだない。

父親が亡くなって来年で10年になる。

2025年11月22日撮影

意味が分からないと思うが、ワタシにも分からない。渋谷の麗郷にて。

2025年12月20日

ワタシの人生でもっとも多く通ったバーのスタッフだった方がお店を持ったと聞いてかけつけた。末長く続いてほしい。

おわりに

この文章は、2025 Advent Calendar 2025 の第19日目として書かれています。昨日は H.Kanamori さん、明日は juneboku さんです。

毎度ながら taizooo さん、今年もお声がけくださりありがとうございました。

このブログだが、年内に最低あと一度は更新したいですね。

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