さて、2024年も残りひと月を切ってしまった。2024年を振り返るというわけではないが、今年はワタシと同じ1973年生まれの翻訳家の仕事が充実していたのでまとめて取り上げておきたい。
一人目は野中モモさんだが、今年はナージャ・トロコンニコワ『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』を訳している。
東京藝術大学教授の清水知子氏による解説文がオンライン公開されており、これを読めばこの本の性質が分かるだろう。
そして、カイ・チェン・トム『危険なトランスガールのおしゃべりメモワール』を訳している。
野中モモさんの仕事は2021年にも讃えているが、訳する本に訳者の強い意志を感じるところに変わりがない。そのあたりについては、ウェブ平凡に寄稿した「聞こえているから自分も言える」を読めば分かるように思う。
二人目は堀越英美さんである。彼女の仕事は2021年と2022年にも取り上げているが、今年の仕事量もすごいものがある。
まずはフィリップ・バンティング『自分の言葉で社会を変えるための 民主主義入門』である。とても教育的な仕事だと思う。
堀越さんは今年も自閉スペクトラム症に関係する本を精力的に訳されている。まずは、デヴォン・プライス『自閉スペクトラム症の人たちが生きる新しい世界 Unmasking Autism』。
そして、ピート・ワームビー『世界は私たちのために作られていない』が出たばかりである。
訳書3冊だけでもすごいのだが、さらには『ささる引用フレーズ辞典』の刊行が今年末に控えているのだから、ものすごい仕事量ではないか。
そして、三人目は小林啓倫さんである。
先日速水健朗さんが、「あなたが手に取り損ねた本 Book Diggin by速水健朗」の配信で、「この人の訳した本を何冊も持ってるよ!」と語っていたが、本当にこの人はワタシにとって重要な仕事を押さえていてすごいなと思うのだ(速水さんはポッドキャストでもこの本を紹介している)。
今年は何といってもマイケル・ルイス『1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊』を訳している。
この本はワタシもご恵贈いただいたのでもちろん読んでいるのだが、マイケル・ルイスの本だから面白いに違いないのだが、独特の不愉快さがある本だった。当たり前だが、それは訳者の責任ではない。このあたりについてうまく説明できる自信がないのでここには詳しくは書かない。
そして、もうすぐモーリッツ・アルテンリート『AI・機械の手足となる労働者』が出る。
これを知ったときは、なんで原著を紹介してなかったんだと地団太を踏んでしまった。
またしても小林啓倫さんは重要な仕事をものにしたようだ。