おれカネゴン先生経由で知った小田嶋隆さんのルー・リード翻訳だが、惜しいことに一箇所原文が間違っている。老犬チェルシーのくだりは、
And now that dog's more a part of this family than I am
が正しく、つまり「初めは誰もこの犬の面倒を見たがらなかったのに/今じゃ俺よりずっと家族の一員だ」ということ。
オフィシャルなルー・リード詩集『ニューヨーク・ストーリー』(asin:4309201911)では、この "Families" の後、父親のことを歌った "My Old Man"、母親のことを歌った "Standing On Ceremony" と自伝的、かつ家族についての詩が続く。これらがどれも残酷かつ悲痛な詩で、この詩集のひとつのハイライトになっている。
この詩集の中で、ルーは "Families" に、「実生活ではパパ、ママ、オヤジという言葉は使ったことがない」と注記しているので、これらの歌詞がそのまま彼の体験そのものということはないのだろうが、特に彼の名前と苗字がはっきり明示される "My Old Man" における、
息子は父親を見ている 母親に冷酷な父親を 自分がもっと金持ちになって あらゆる意味でもっと大きくなるまで戻らないと誓う そうすれば、親父はもう誰も殴らないだろう
というくだりは読んでてどうしても息が詰まる。
で、件の詩集では、その後に妹のことを歌った "Little Sister" が続くのだが、これがそれまでの歌詞と一変して、妹への愛をストレートに歌い上げるものだったりする。楽曲的にもメロディアスなギターソロが二分以上も続く、彼には珍しいタイプの佳曲である。この曲はオリジナルアルバムには収録されておらず、何かの映画のサントラに提供された曲で、だから少しガードを下げたのではないかというのが当方の推理である。
あの強面のルー・リードが妹萌えとは意外かもしれないが、彼は妹を溺愛していたようで、Velvet Underground 時代に「今日のライブは妹が見に来るから、人間らしく振舞ってくれないか」とバンド仲間に懇願したという微笑ましいエピソードが回想録『アップタイト』にあったと記憶する。