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傑作ノンフィクション『誰が音楽をタダにした?』がドキュメンタリー番組になっていた

www.theguardian.com

ティーヴン・ウィットの『誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち』は、ワタシは文庫版を読んだが、まー、面白かったですな。

この傑作ノンフィクションがドキュメンタリー番組になっていたのを Slashdot 経由で知る。

いきなり登場する(こないだ新譜が出たばかりの)エミネムが製作総指揮なの? 他にも50セントやティンバランドやジミー・アイオヴィンといった人たちがインタビューに答えている。

音楽産業に破壊的な影響を与えたといえば、言うまでもなく Napster とそれを作ったショーン・ファニングが(アンチ)ヒーローとして賞賛されるわけだが、実は音楽の海賊行為を支えたのが、ノースカロライナ州シェルビーという小さな町でブルーカラーの工場で働いていたデル・グローバーという地味な青年だったというのを作者が突き止めたところがこの本の妙なわけである。

しかし、その前にドイツのフラウンホーファー研究機構が MP3 技術を開発してなければ、あれほどの爆発的な広がりはなかったかもしれないわけで……続きは原作を読んでいただきたい。

この記事では、海賊行為に手をそめたデル・グローバーなどの行為をグラフィティ・アーティストになぞらえる人がいるが、確かに逮捕されるかもしれないグラフィティと同じような即興的な高揚感があったのだろうね。また海賊たちの音楽流通は、現在の Spotify を世界的巨大企業に押し上げた聴き放題モデルを先取りしていた。

この記事が、そういう良い面の振り返りに終始するわけはないのは言うまでもない。

デイヴ・グロールレディオヘッドのメンバーなど、他のミュージシャンはもっと抜け目がなかった。彼らは公の場では海賊を応援していたが、その裏では彼らのマネージャーは RIAA の取り締まりを全面的に支持していた。音楽誌も同様に不誠実で、海賊行為をクールな無法者として称える一方で、ほんの数年後には彼らの業界が破壊的なテクノロジーに大方滅ぼされるのを目の当たりにするという事実から目を背けた。他方、音楽業界は考えられる限り広報的に最悪の反応をした。彼らは、もっとも強力なファンベースを形成していた子供たちを訴えたのだ。「我々がこの時代から学んだ重要な教訓のひとつは、こんな状況では訴訟は出口にはなりえないということです」とウィットは言う。「海賊たちを上回る新しいテクノロジーを作り上げないといけないのです」

その後の歴史はご存じの通りだが、今から20年近く前に『デジタル音楽の行方』という本を訳したワタシ的には、この本はなにより面白いというのはもちろんとして、いろいろ苦い気持ちになるところもあった本である。

そういう意味でこのドキュメンタリー番組も見たいのだが、配信は Paramount+ とのこと。これを日本で観る方法は今あるのかな?

そういえば原作者のスティーヴン・ウィットは今何しているのかと思ったら、来年の頭には The Thinking Machine という NVIDIA についてのノンフィクションの刊行が予定されている。今回も目のつけどころがいいね!

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