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はてなダイアリーが選ぶ名盤百選

id:enarin さんからリレーが回ってきたのだが、スカしたチョイスをしている余裕がないので、ここは直球で行きたい。先日ライブを観た Lou Reed から選ばせてもらう。Velvet Underground については、ワタシも一番好きな 3rd アルバムを bon さんが既に取り上げておられるので、1982年の『Blue Mask』(日本盤は ASIN:B00005EHOW、米国盤は ASIN:B00000HZTB)にさせていただく。2ちゃんねるネットウォッチ板で「yomoyomoの音楽の趣味はダサい」で叩かれたこともある当方が自信を持ってお勧めする名盤である。

山形浩生は、かつて Lou Reed の歌詞について、「(文学的脚色と素材への密着の)堂々巡りの逡巡の中にある」と書いているが、実はそうした揺れは歌詞に限った話ではない。『New York』のブックレットに Lou は、"You can't beat 2 guitars, bass, drums." と書いている。彼が一番力を発揮するのは、そうしたベーシックなロックバンドのフォーマットにトーキングスタイルの肉声がのっかったときであることは、本人もファンも分かっている。しかし、それに安住しようとはしない人なのである、この人は。それが魅力でもあり、厄介なところでもある。

本作は、RCA 復帰作にして 2 guitars, bass, drums の4ピース構成に立ち戻った作品であり、現在の彼のサウンドフォーマットの礎となったアルバムと言ってよい。一曲を除いてはオーバーダビングなしのスタジオライブ形式で、バンドサウンドに緊張感が張り詰めており、それが本作を特別なものにしている。バンドメンバーは、ギターが Lou と痙攣ギターの名手 Robert Quine*1、ベースはその後長期に渡り相棒を務める Fernando Saunders、そしてドラムが Doane Perry である*2

本作はレコード会社移籍による心機一転作というだけでなく、それまでの、美少年レイチェル君との婚約、ステージ上のヘロイン注射*3、究極の自暴自棄作『Metal Machine Music』*4…といった逸話で語られる退廃的なライフスタイルからの決別を宣言した意味でも彼の大きな区切りの作品と言える。

詩作における師であるデルモア・シュワルツ*5に捧げる一曲目の "My House" は、健康的な生活と創作へのフォーカスを力強く歌い上げる名曲であるし*6、それに続く "Women" も、かの Patti Smith が Lou に向かって吐き捨てた「どうしてアンタのような最低な奴が美しい曲を書けるの?」という言葉を想起する繊細な優美さを湛える曲である。「オレは女性を愛している」というストレート過ぎる歌詞には失笑させられるが。

しかし本作が素晴らしいのは、「ヤクを止めてクリーンになりました!」みたいな、白々しい80年代的ヘルシー志向に全然留まっていないところである。そうした文脈で語られがちな "Average Guy" は、オカマっぽい歌い方からも分かる通り彼一流のユーモアだし*7、歌われる精神的な危機に呼応するかのように Quine のギターの引き攣りまくる "Waves Of Fear" や、押し入った強盗に銃を突きつけられ、眼前で妻を強姦される "Gun" など、本作は一筋縄にはいかない。

そうしたテンションが最高潮に達するのがタイトル曲で、「連中はあいつに泳ぎ方を教えるのに後ろで両腕をしばった」に始まり、「指を関節から切り落とせ/発情した男根を切り落として/あいつの口に突っこめ」で終わるという、彼の作品の中でも最も過激な詞を持つ強力なロックナンバーである。Lou は詩集「ニューヨーク・ストーリー――ルー・リード詩集」において、この曲について一言「自画像」とだけ記している。クリーンになった、「普通の男」宣言、といった文脈から、彼ははなから逸脱しておるわけだ。彼の表現者としての核、そしてそのタフネスは一貫して揺るぎない。

あと本作について触れておかなければならないのはジャケットデザインで、彼の代表作とされる『Transformer』のジャケットをタイトル通り青に染め上げたものになっている*8。70年代における彼のイメージを過去のものとするあざとくも秀逸なデザインを行ったのは、結婚間もなかった Sylvia 夫人で、この後も90年代の再結成ベルベッツのライブ盤まで、彼女はジャケットデザインをいくつも手がけており、優れたものが多い*9。ちなみにアルバムのラストを飾る "Heavenly Arms" は、サビで彼女の名前が連呼されるという恐ろしい曲で、前述の "Women" 同様の、バイセクシャル時代の反動がモロに出た女性賛美的歌詞にワタシはどうしても抵抗を感じてしまうわけだが、楽曲の美しさを前にすると、もう何も言えなくなる。

まあ要は、緊張感と美に満ちた優れたロックアルバムだということです。

*1:ベルベッツの熱狂的なファンであり、彼が録音したライブテープがオフィシャルブートレグとしてリリースされたのは記憶に新しい。2004年、ヘロインによるオーバードーズにより死去。自殺と見られる

*2:『Live In Italy』などで最高のバックバンドを構成し、『New York』の共同プロデュースも務めた Fred Maher は、本作には未参加。Quine と Maher は、Matthew Sweet のアルバムでも共演していますね

*3:実際に注射したのは水だったという説もあるが、いずれにしろ良い子の皆さんはマネしないよう。そういえば先日お会いした山形さんに伺ったところによると、最近 Lou はアンチドラッグのCMなんぞに出演しているらしい。ううっ…

*4:レコード二枚に渡り、ひたすらギターノイズが続くというとんでもないアルバム。インダストリアルメタルの先駆けとか評価する人もいるが、単なるゴミです

*5:1913-1966, 代表作に "In Dream Begin Responsibilities" がある。Lou が彼に作品を捧げるのは、ベルベッツの 1st の "European Sun" 以来。U2 も "Acrobat" を彼に捧げている

*6:その一方でこの曲は、かなーりオカルト入っている。後の『Magic And Loss』にも降霊術を描いた曲がある

*7:そもそもこの人、異様にこわもてのため、ジョークをかましてもジョークに聞こえないという欠点がある

*8:でも、以前の日本盤は確かこの色が紫だったんだよな。どういうわけだ?

*9:90年代半ばに、二人は離婚。Lou の現在のパートナーは、Laurie Anderson

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