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ユナイテッド93

2001年9月11日からもうすぐ5年になる。あの日は他の多くの人と同様、部屋のテレビで世界貿易センタービルの中継映像を見ていた。ベンジャミンから電話があり、当然彼も興奮していたのだが、一方でワタシの反応は鈍く、今思い出そうとしても鮮明な記憶はない。当時『Wiki Way』の翻訳を引き受けたばかりで、頭はそのことで一杯だったのだ。

驚いたのは、そのことをまったく知らないはずの(当然ウェブサイトにも書いてない)ベンジャミンが、当方がそうした仕事を請け負っていることをその電話でズバリと当ててみせたことで、あの日テレビで観たはずの映像よりもそちらのほうが記憶に残っている。

結局のところワタシは9.11について語る言葉を未だ持たないのだが、本作はあの日ハイジャックされた旅客機4機のうち唯一ターゲットに到達しなかったユナイテッド航空93便に焦点をあてたもので……といった説明は不要か。

管制塔などの出演者が半分ほど「本人」であるという入れ込み方に代表される本作の徹底したドキュメンタリータッチ手法は、作品の題材自体が要請した部分もあるだろうし、もっと功利的な部分、つまり本作を作る上で避けられない批判をかわすところも絶対あったとは思うが、前者のほうに寄っていると評価できるだろう。この映画の場合、結末がどうなるか観客も皆知っている。そして、その現場で起きたことを知る術は恐らく永久にない。その条件下でできるだけリアルな映画を撮るというハードルはクリアしている。そしてそれ以上、当方に書くことはない。

当日の出来事のリアルタイム進行というとドラマ『24』を連想する人も多いだろうが、離陸するまでが長く感じられて最初どうなんだろうと思った。もちろん離陸前後からそんな感想は消え去り、特に飛行機の中だけにフォーカスする最後の数十分は観ていて死ぬかと思った

本作は当日の指揮系統や現場レベルの混乱もしっかり描写しているが、それでもベストを尽す人間がいて、少しずつテロの情報が集まる過程も映し出されていく。日本で同様の事件があったとしても、同じ時間で集まる情報はこれの数分の一ではないかとか思ったりした。

監督はポール・グリーングラスで、脚本も彼の手による。『ボーン・スプレマシー』などを撮っているようだが、恐るべき才人に違いない。同じくドキュメンタリー的手法で撮られた彼の出世作『ブラディ・サンデー』は、ブレイディみかこさんも「今世紀つくられた英国映画の中ではベスト」と書くほどの作品らしいが、そうした映画をものにしている人だからこそ作れた映画なのだろう。

「ゲームの王道」でも書かれているが、エンドロールの最後が翻訳されてないのはふざけた話で、手抜きの謗りを免れない。

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