マイク・ミルズの名前は以前から気になっていたのだが、この人の映画を観るのは実はこれが初めてだった。それが『ジョーカー』以来のホアキン・フェニックスの主演作となれば行かない手はない。
ゴールデンウィーク入りの前日にレイトショーで観たが、客はワタシとあともう一人だけだった……。
ワタシは映画初心者なもので、現代劇を白黒で撮る意義というのがいまひとつ分からないところがあり、というかどちらかというと批判的なのだけど、結果的にアメリカのいくつかの都市が舞台となるロードムービーの趣を呈する本作は、画面に落ち着きを加えていたように思う。ニューヨークパートはどうしても『マンハッタン』を想起したが。
ワタシには子供がおらず、また甥や姪もいないため、なるほど、今どきの子育てというのは、このように子供と向き合うべきなのか、というかこんな場面になっても頭ごなしに怒ってはダメで、むしろ自分の態度を謝らなければならないのか、と学ぶところが実はあった。
主人公の甥のジェシー君は利発な子供だが神経過敏でエキセントリックでもあり、やはり大人と同じにはいかない。そのあたりの距離感、もちろんジェシー君はまだ助けは必要だが、それは彼の父親と母親にも助けは必要であり、それを言うなら主人公もそれは同じことだ。しかし、子供と大人は同じではない、というのをちゃんと描いている。
また本作では、主人公とジェシー君の母親である彼の妹の間にできた溝についても、二人が電話で語り合う際の「全人生の妙なクソ状態」という実に良い表現がでてきたあたりでグッと締まるのを感じた。
それにしても本作の主人公の、ラジオ番組のために子供たちへのインタビューを収録するというドキュメンタリー的な設定が強力で、実際にインタビューで語られる内容が、本作のタイトルである「先へ 先へ(C'mon C'mon)」とあいまって、大人たちへのメッセージにもなっているように思う。