こないだの企画はどうしても長編が多くなったので、短編小説についてもやりたくなった。これを世界で選ぶと収拾がつかなくなるので、日本文学からのみ選ばせてもらった。
- 上田秋成「樊噲」
- 芥川龍之介「戯作三昧」
- 坂口安吾「白痴」
- 太宰治「駆け込み訴え」
- 谷崎潤一郎「春琴抄」
- 小松左京「くだんのはは」
- 久生十蘭「ハムレット」
- 筒井康隆「都市盗掘団」
- 澁澤龍彦「ダイダロス」
- 町田康「夫婦茶碗」
上田秋成というと何と言っても『雨月物語』で、当方も20年以上愛読しているが(まったく飽きない)、そこでモラルに縛られる人間を描いた秋成が最終的にたどり着いた「樊噲」の地点は感動的ですらある。またこれは上と下に分かれていて、下の最後が通俗に堕したと評価されることが多いが、当方はその部分も含め大好きだ。
芥川で「戯作三昧」を挙げる人は少ないだろうが、20年以上前に読んで驚き、「これが小説なのか」と感動したものである。今読むと当時とは違ったものが見えるのは当然だが、馬琴が「辛抱しているよ。」と孫に思わず口答えしてしまうところなど涙なしには読めない。「樊噲」と「戯作三昧」は、ワタシの中でつながっている。
安吾の「白痴」は、個人的におそらく最も衝撃を受けた小説。最後の数ページは長らく暗唱できたくらいだが、今はもうできない。まぁ、バカですね。
谷崎の「春琴抄」は短編というには長いと言われそうだが、前回「瘋癲老人日記」を入れ損ねた埋め合わせと思っていただきたい。
筒井康隆は「おれに関する噂」や「最後の喫煙者」でも良かったが、当方が未読のもっと良い短編があるだろう。