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収容所のラブレター

「松嶋×町山 未公開映画祭」においてレンタルした(予告編)。
第二次世界大戦においてナチスに侵攻されたオランダからユダヤ強制収容所に送られたヤーブとイナのカップルが本作の主人公である。

しかし、このカップルは当時夫婦ではなかった。男性のヤーブにはマーニャという妻がいたが仮面夫婦状態で、彼が愛していたのはイナだった。この三人が同じユダヤ人収容所に送られてしまい、そこでの奇妙な三角関係、特にヤーブとイナの間で交わされるラブレターに焦点をあてた作品である。

戦争は人間の運命を大きく変える。実は、イナにもルディという恋人がいた。彼はアメリカに逃げられた可能性があったのに二人が反対したことで、結果彼はアウシュビッツで殺されている。本作には生き残ったヤーブとイナの親類、友人も出演しているが、彼らの家族の多くはナチスに殺されている。ヤーブとイナも兄妹を収容所で亡くしている。

主人公の二人にしても、ヤーブは後に別の収容所に移送され、イナはアウシュビッツ送りされそうになる。が、寸前でリストから外れてヤーブと同じ収容所に移るという綱渡りのような際どい偶然を生き延びている。

収容所の待遇は掛け値なしの悲惨さで、ヤーブとイナはラブレターで交わす言葉を(そしてマーニャもヤーブと夫婦であるという事実を)生きる力にしたことが分かる。こんなことが本当にあるのだ。

生き延びた彼らの言葉は重い。ヤーブが語る非常食のパンを妹にも友人にもあげなかった話は残酷そのものだがそれが戦争で生き延びるということなのだろう。オランダから11万人が収容所に送られ、生還できたのはわずか5450人……つまり95%以上が殺されたのだ。

本作は結婚60周年を祝うヤーブとイナの姿で終わる。本作の最後に映画の冒頭で流れた曲がもう一度かかる。しかし、そこについた字幕を見て、その印象はまったく違ったものとなる。

なお、これは実行委員会のミスだと思うが、最初の5分ほどの映像に字幕が入ってなかった。そこは映画本編でないので飛ばしてもよい。

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