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邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする(2024年版)

さて、私的ゴールデンウィーク恒例企画である「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする」の季節である(過去回は「洋書紹介特集」カテゴリから辿れます)。

以前から書いているが、このブログは一度の更新で5つのエントリを公開するのを通例としており、そうするとそのうちひとつくらいは洋書を紹介するエントリを紛れ込ませることができる。そのおかげで、この一年ブログで紹介してきた洋書をまとめるだけで、今回も全38冊(ワオ!)の洋書を紹介できるわけだ。

ご存じの通りの円安の進行のせいで、これから翻訳書の刊行にブレーキがかかるのかもしれない。それは大きな損失だと思う。また先日ある場所で、日本のネットユーザがますます海外の情報に目を向けなくなったという話が出たのだが、翻訳書が減少したら、その傾向にも拍車がかかるかもしれない。面白そうな洋書を知ったら取り上げることで、その傾向に抗いたいのである。

まぁ、これは毎年書いていることの繰り返しだが、洋書を紹介してもアフィリエイト収入にはほぼつながらないのだけど、それでも、誰かの何かしらの参考になればと思う。

既に邦訳が出ていたり、またこれから出るという情報をご存知の方はコメントなりで教えていただけるとありがたいです。

ケヴィン・ケリー『Excellent Advice for Living: Wisdom I Wish I'd Known Earlier』

ケヴィン・ケリーの本はだいたい邦訳が出ているが、『消えゆくアジア』に続いてこちらも難しいかなぁ。自己啓発書として割り切って出せばよいと思うのだがどうだろう。

そうそう、彼は今月も73歳の誕生日に73個の有益なアドバイスを公開している。

セルヒー・プロヒー(Serhii Plokhy)のウクライナ

いやぁ、↑のエントリを書いたのが昨年5月で、次の「邦訳の刊行が期待される洋書を紹介しまくることにする」エントリ(つまりこれ)を書く頃には、彼の本は少なくとも一冊は邦訳が出ているに決まっていると思い込んでいたが、出てないですな。これはまったくの予想外。なにか問題でもあるのだろうか?

セルヒー・プロヒー教授は昨年に2カ月ほど北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターに特任教授として滞在しており、そのときのインタビュー記事が「ウクライナ戦争と北方領土 ハーバード大・プロヒー教授の視点」全3回にまとめられている。

Scott J. Shapiro『Fancy Bear Goes Phishing: The Dark History of the Information Age, in Five Extraordinary Hacks』

法哲学者が語るサイバーセキュリティというアングルがユニークなので、これは邦訳が出てほしい本である。『情報セキュリティの敗北史』と同じく小林啓倫さんあたりに話がいってないものか。

Cynthia Carr『Candy Darling: Dreamer, Icon, Superstar』

キャンディ・ダーリングの評伝と聞けばかなり興味あるのだが、それこそ↑のエントリでも触れた、彼女の人生が映画化でもされないと邦訳は難しかろうね。そうか、今年は彼女の没後50年なんだね。

New York Times に掲載された書評を読むとやはりシビアな内容を思わせるが、晩年のテネシー・ウィリアムズが、彼の舞台に出たキャンディ・ダーリングに失礼なことを言う粗野な客を「レディになんてことを聞くんだ!」と一喝した話が泣かせる。

ロマ・アグラワル(Roma Agrawal)『Nuts and Bolts: Seven Small Inventions That Changed the World in a Big Way』

これは『世界を変えた建築構造の物語』(asin:4794226047)に続いて邦訳が出るに決まっているが、そういえば WIRED の「THE WORLD IN 2024」特集に彼女は「修理する文化が復活、電子機器の分解・修復が権利となる」という文章を寄稿している。

ジェフ・ジャービスJeff Jarvis)『The Gutenberg Parenthesis: The Age of Print and Its Lessons for the Age of the Internet』

ジェフ・ジャーヴィスの本はだいたい邦訳が出ているが、これはどうさねぇ。彼も今年70歳になる。これあたりが最後の著作になるかもしれんわけだからね。

Ben Smith『Traffic: Genius, Rivalry, and Delusion in the Billion-Dollar Race to Go Viral』

昨年は BuzzFeed News 元編集長として日経に敗軍の将は兵を語っているが、ベン・スミスは2011年から2020年までおよそ10年間 BuzzFeed News の編集長を務めた人で、その後も New York Times に移ったと思ったら、Semafor を起業したりと、つまりはこの20年ばかり米オンラインジャーナリズムの中心にいた人である。これは面白いに決まっている。

イアン・ブレマーやウォルター・アイザックソンといった著名人が推薦の言葉を寄せている。

彼が起業した Semafor は資金調達の面でも人材の面でもかなり恵まれたスタートをきったが、それでもこのご時勢、ジャーナリズムをビジネスにするのはなかなか大変そうだ

ワグナー・ジェームズ・アウ『Making a Metaverse That Matters: From Snow Crash & Second Life to A Virtual World Worth Fighting For』

またしても彼は悪いタイミングでメタバース本を出してしまったとみる向きもあるだろうが、何度も書くようにワタシはメタバースはまだまだ伸びしろがあると思っているので、彼の本は今年後半以降に邦訳が出るくらいでちょうどよいと思うのだがどうだろうか。

今回は Second Life に特化していない、メタバースの歴史を網羅している本みたいなので。

Will HermesLou Reed: The King of New York』

正直、またルー・リードの伝記が出る意味あるの? と懐疑的だったが、この本のかなり評価が高くて驚いている。まぁ、ワタシは例によって牛歩の歩みでアンソニー・デカーティス『ルー・リード伝』を読むしかないわけですが。

ジョナサン・タプリン(Jonathan Taplin)『The End of Reality: How Four Billionaires are Selling a Fantasy Future of the Metaverse, Mars, and Crypto』

WirelssWire News 連載復活後にもっとも評判をとった文章の原動力となった本なので、これは邦訳が出てほしいところ。

実は、この本の前に書いた、彼がボブ・ディランが後のザ・バンドを連れたツアーのロードマネージャーだった頃から、マーティン・スコセッシの『ラスト・ワルツ』や『ミーン・ストリート』、そしてヴィム・ヴェンダースの『夢の涯てまでも』などの(エグゼクティブ・)プロデューサーを務めた時代の回顧録の邦訳『マジック・イヤーズ:魔法があった』asin:B0CT3B99F7)が今年出ていてのけぞってしまった。

グレッグ・ルキアノフ(Greg Lukianoff)、Rikki Schlott『The Canceling of the American Mind: Cancel Culture Undermines Trust and Threatens Us All—But There Is a Solution』

これは前作に続いて邦訳が出ると思うのだが、下で紹介するジョナサン・ハイトの新刊の邦訳とセットになりそうな気がする。

ブライアン・マーチャント(Brian Merchant)『Blood in the Machine: The Origins of the Rebellion Against Big Tech』

この本について、WIRED が2回も取り上げていること自体驚くべきことである。言うまでもなく「ラッダイト」とは現在は「軽蔑的な悪口」なのだが、果たしてこれの邦訳が出て、その認識がいくらか変わることもあるでしょうか。

ジェフ・トゥイーディー(Jeff Tweedy)『World Within a Song: Music That Changed My Life and Life That Changed My Music』

Wilco でもコンスタントにアルバムを制作しながら、3冊も本を出すのだから、もはや執筆も余芸ではない。Rolling Stone のインタビューを読むと、ボン・ジョヴィの悪口書いているのか(笑)。あと彼の本と構成が似ているボブ・ディラン『ソングの哲学』を読んで少し失望したとな。

Sarah Lamdan『Data Cartels: The Companies That Control and Monopolize Our Information』

著者の名前で検索してもほとんど日本語記事で言及されているものがないので、邦訳は難しかろうね。それでも The Anti-Ownership Ebook Economy と同じく訳されるべき内容だと思うんですよ。

サーストン・ムーアSonic Life: a Memoir

やはり前妻キム・ゴードンと同じく邦訳出るかというのが興味あるところだが、そういえば彼はちょうど新曲を出したばかりだった。

割といいじゃん。

ベン・メズリックBen Mezrich)『Breaking Twitter: Elon Musk and the Most Controversial Corporate Takeover in History

映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』が公開された後となっては今更という感じなので、一足飛びでイーロン・マスクによる Twitter 本の邦訳を期待したいが、また下に書くが似た題材の本がいくつも控えているので、どれが出るでしょうかね。

Jeff Horwitz『Broken Code: Inside Facebook and the Fight to Expose Its Harmful Secrets』

特に日本では、もはや「Facebookファイル」も今や昔の話になりつつあるので難しいだろうが、これは邦訳が出るべき題材だと思うわけですよ。詐欺広告が放置され続ける国である日本では特に。

ティーブン・ジョンソン(Steven Johnson)『The Infernal Machine: A True Story of Dynamite, Terror, and the Rise of the Modern Detective』

原書が来月発売なのでまだどの程度の出来というのも分からないのだが、彼の本ならやはり来年以降に邦訳出るんですかね。個人的には、彼が Google でどういう仕事をしているのかというところだったりする。

Lol Tolhurst『Goth: A History

この本は、「元キュアーのロル・トルハーストによる」のほうよりも、純粋な「ゴスの歴史本」のほうで需要があると思うので邦訳を期待したいところ。

それはそうと、現在のトルハーストとは関係ないが、15年以上出ていないキュアーの新譜はまだ出ないのかな。

ジェフ・コセフ(Jeff Kosseff)『Liar in a Crowded Theater: Freedom of Speech in a World of Misinformation』

ジェフ・コセフは、米国海軍士官学校サイバーセキュリティ法部門准教授で、法律+テクノロジー(サイバーセキュリティ)に専門がまたがるという意味で、↑で紹介しているスコット・シャピロにも通じるところがある。これからそういう人材が求められるんだろうなぁ。

それはそうと、自分のエントリで紹介した他の本も含め、偽情報、誤情報にどう対応していくかを説く本は重要と思うのよね。

Anne Currie, Sarah Hsu, Sara Bergman『Building Green Software』

ワタシは知らなかったのだが、Green computing という項目は昔からウィキペディア英語版にあったのね。しかし、Green Software という言葉は目新しいものであり、それって昔の組み込みプログラミングな感じ? よりも認識を前に進めるためにこの本の邦訳は必要かと思うのだ。

そうそう、この本の共著者3人がこの本について語り倒す全5回のシリーズ動画があるのを知ったので、そのパート1をはっておく。

ケリー・ウィーナースミス(Kelly Weinersmith)、ザック・ウィーナースミス(Zach Weinersmith)『A City on Mars: Can We Settle Space, Should We Settle Space, and Have We Really Thought This Through?

近年、イーロン・マスクジェフ・ベゾスといったテック大富豪による宇宙進出、宇宙移住についてのニュースを見ることが多く、あたかもそれが我々の生きてる間に他の惑星への移住が見られるくらいに思ってしまいそうなるが、そうした意味でこの本は大事な話を扱っていると思うわけですよ。

おそらく来年には邦訳が出ると思うが、それを手がけるのは著者らの前著と同じく化学同人か、それとも早川書房か。それまで本についての情報は、公式サイトをあたってくだされ。

Kyle Chayka『Filterworld: How Algorithms Flattened Culture』

著者のことは WIRED でたまさか名前を見かけるライターという認識だったが、ちょうど「WEIRDでいこう! もしくは、我々は生成的で開かれたウェブを取り戻せるか」を書いたばかりだったので、その符合に驚いた次第。邦訳が出るまで、この本についての情報は著者のサイトの公式ページをあたってくだされ。

ローレンス・レッシグ、Matthew Seligman『How to Steal a Presidential Election』

ローレンス・レッシグの米国の選挙制度に対する危機意識は伝わるし、本当に今度の大統領選挙ではこの本で危惧する問題が災いする可能性が十分にあるのは頭の痛い話だが、米国の選挙事情に依るこの本の邦訳は例によって難しいでしょうな。

クリス・アンダーソン『Infectious Generosity: The Ultimate Idea Worth Spreading』

NHK「スーパープレゼンテーション」やってたのも2018年3月末までだったし、今では TED のことをあまり知らない人も多いのかな。TED のプレゼンテーションスタイルも揶揄の対象になったりし、その神通力はもはやないけど、だからといって TED 自体が無意味とかワタシは思わないのよね。

ジョナサン・ハイトThe Anxious Generation: How the Great Rewiring of Childhood Is Causing an Epidemic of Mental Illness

ジョナサン・ハイトの新刊は早くも批判がビシバシ寄せられており、それに著者が反論しているが、このあたりの Z 世代の問題については、昨年ノア・スミスも書いていたが、「スマホ悪玉論」で先んじたジーン・トゥウェンジは、かつてハイトの共同研究者だったことが WIRED の記事で触れられている。

邦訳は間違いなく出るとして、その際には本書に寄せられた批判を踏まえた解説をつけてほしいところ。

Tom Taulli『AI-Assisted Programming』

これの紙の本、Amazon で1万円超えてるで……。

それはそうと、今回調べてみて、一年以上前にこの本の誕生を予見していた人がいるのを知ってのけぞった。これに続く本もこれから本格化するのだろうな。

ネイト・シルバー『On the Edge: The Art of Risking Everything』

8月に出る本なので、その出来は分からない。これがポーカーの話に終始した本ならノーサンキューだが、テック系のリスクテイカーについての記述もかなり多そうなので、彼の巻き返しに期待したいところである。

アーヴィンド・ナラヤナン(Arvind Narayanan)、Sayash Kapoor『AI Snake Oil: What Artificial Intelligence Can Do, What It Can't, and How to Tell the Difference』

この本だけ、まだ電子書籍のページができていないので、紙の本をリンクしている。とにかくアーヴィンド・ナラヤナンという人は、現代コンピューティングにおける重要な話題をビシバシ押さえている人なので、この人の動向から目が離せないのである。

既にゴールデンウィークは始まっているが、皆さん、楽しい休暇をお過ごしください。

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