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信頼なき時代、偽情報についての本が求められているようだ

www.nytimes.com

「信頼なき時代における偽情報の問題」というタイトルの New York Times の記事だが、イーロン・マスクが X(旧 Twitter)における信頼の維持にリソースを割くのをやめ、コンテンツモデレーションチームを解体し、代わりにヘイトスピーチやワクチンに関する有害なデマを流したため停止されていたアカウントを再開させ、データ収集ツールへのアクセスを難しくするという変化がもたらしたカオスの話をまくらに、2023年に刊行された偽情報(misinformation、disinformation)についての本を紹介している。

ポストトゥルース』(asin:4409031104)の邦訳があるリー・マッキンタイアは、ズバリ On Disinformation という本を出している。この記事によると、マッキンタイアはインターネットを偽情報の増長装置として見ており、ソーシャルメディアプラットフォームの規制強化に賛成のようだ。

そして、『ネット企業はなぜ免責されるのか――言論の自由と通信品位法230条』(asin:4622090066)の邦訳があるジェフ・コセフは、Liar in a Crowded Theater という新刊を昨秋出している。

この新刊のタイトルは、混雑した映画館で火事だと叫ぶ自由はないという「明白かつ現在の危険」を指しているが、規制強化を求めるマッキンタイアと違い、コセフは「政府に検閲の権限を与えることは、意図しない結果を招く」と指摘し、既存の対抗言論手段やメディアリテラシー教育を重視する立場とのこと。

この記事には、「偽情報の恐怖を煽ることで、特定の政党が多くの利益を得ると考えるのは、それこそ陰謀論的に映るかもしれない(し、2024年の選挙を前にして、偽情報の研究を中止させようと躍起になっている共和党議員によって、皮肉なまでに推し進められている)」という文章があるのだが、今年の大統領選挙では AI による偽情報が選挙の脅威になるという話は、ブルース・シュナイアー先生も書いていたな。

しかし、この手の話は状況を知れば知るだけ暗い気持ちになるところもある。日本のニュースメディアでも、家族が陰謀論にはまり大変なことに――てな記事は見かけるが、偽情報を信じる人にどのように接すべきものか。

デラウェア大のダナガル・ヤング准教授の昨秋出た新刊 Wrong では、偽情報に対する姿勢についても注意を促している。陰謀論的なデマを信じる人々を非難し、あざける態度は裏目に出ることが多いという(確かにそういう話をつい最近も小耳に挟んだ)。

そうした態度で社会的なつながりを燃やしてしまうのでなく、つながりを育てて信頼を築くべきということだが、そのなんと難しいことか。

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