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winny_47_arrested

というわけで Winny の作者が逮捕されて一週間になる。この一週間、某氏(名前は出さないでおく)とこの件でメールのやり取りをするのが唯一心の慰めであった。

ワタシ自身は Winny を使ったことがない。だからこのソフトウェアにも、その作者にも思い入れはない。正直47氏を必要以上に持ち上げる言説には違和感を感じるところが多々ある。

しかし、逮捕されてしまったわけである。ワタシ自身が当事者面するわけにはいかないが、ソフトウェア技術者としてもう関係ないでは済まされない。裁判となれば、これは何がなんでも勝たなければならない判例は積み重なる。例えば、今回京都府警が立件の判断材料にしたオービスの事件。弁護側が幇助について否定しなかったため有罪判決、なんてことになってはならないのだ(なんのための弁護だ?)。

だが、この一週間読んだ大方の主張は、裁判での主張としては役に立たないだろう。つまり、「P2P技術自体は悪ではない」「Winny著作権侵害のためのツールではなく、使い道は多様だ」「著作権の仕組み自体が古いのだ」式の弁護のことである(このあたりは山形浩生が部室に書いてますな)。もちろんワタシ自身も上の主張には賛同するところもあるが、判決を下すのは裁判官である。この方向性でいけば、「でも現実の主な用途は著作権侵害だろが」式のごり押しに屈するだろう。

どうも勘違いしている人がいるようだが、ネット上の反応とそれ以外の人たちの世論は、確実に乖離している。FLMask裁判を鑑みても、裁判官は先入観を持って裁判に臨んでいる、ぐらいに思ったほうがいい。古くは「四畳半襖の下張」裁判における、丸谷才一特別弁護人をはじめとするそれこそ文学全集のような面々による証人の証言に対し、検察側、裁判官ともにニヤニヤ笑いのしっぱなしで判決は検察側の主張そのままだったというどっちらけ状態、最近では唐沢俊一が指摘していた、松文館裁判における宮台真司の弁舌が逆効果だったという皮肉(その真偽は当方には分からないが)など残念な事例はいくつもある。この流れに乗らないようにするには難しい。

Winny自体は素晴らしい技術」、「作者の挑発的姿勢が問題」など、京都府警の主張にはなんじゃそりゃとか、お前がそれ言うかねとか思ったわけだが、そうした意味で主張に筋は通っている(正しい、ではない)ように思えてくるから恐いところである。もっとも実はやはりキンタマ・ウィルス情報流出による意趣返しによる逮捕であるという可能性だってまだあるし、ハイテク犯罪対策室の技術レベルは高くないのではないかという話もあるが、自爆してくれることを期待するわけにはいかない。

話を戻して、じゃあどういう論理で弁護すればよいのか――それがズバっと書けるならワタシは場末のウェブサイトなんかやってませんがな。

まずは相手側の立場で考えないといけないわけだが、警察が何を狙い撃とうとしているのかというと、それは「(インターネットの)匿名性」ではないか。この点が他の P2P ソフトウェアと Winny を分かつポイントでもある。実はこのところは某氏の受け売りなのだが、これを分かっている人が少ないのが意外である。というか、その点についての意識がないとまずいと思う。このあたりはマスメディアも実に鈍感、というか悪く言えば警察と共犯関係といえる。この「匿名性」については、「お前らは Winny の匿名性を破ったんだろ」式に逆用して弁護するのも可能なのだが、それは諸刃の刃であって(以下略)

あとやはり作者逮捕、の時点で無理をしているというか、その根拠があやふやなところがあるからそこを突くとか、本件で(片面的)幇助が成り立つのかというあたりを丹念に掘り起こしていくしかないっしょ。以下も某氏からの受け売りなのだが、最近の法律改正、例えば平成11年の著作権法改正において追加された第百二十条の二あたりがヒントになりそう。これを辿ることで正犯→幇助が不成立であることを立証できればよいのだが、まあそれは弁護団の仕事であり、ワタシがあーだこーだ書いても仕方がない。

以上のような観点からすると、結成された弁護団の第一声には期待とともにいささかの不安も感じるのだが、一発目はやはりああ言うしかないのかもしれない。ネットユーザ以外の世論形成もやはり大事であり(前述の裁判官の先入観を覆すためにも)、「作者を逮捕はやりすぎだよね」程度までよりを戻さないといけない。が、一番不安なのが47氏の供述内容だったりする。これまで京都府警がリークした情報がそのまま正しいのなら、やはり裁判は非常に厳しいことになるだろう。まあ、当事者でない人間はとりあえず状況を見守り、予備知識をおさえておくのが先決で、口を出すのはその後にしたほうがよさそうだ。

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