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ザカリーに捧ぐ

「松嶋×町山 未公開映画祭」から早速レンタルして見た(予告編)。

一言でいえば、カナダ版『そして殺人者は野に放たれる』だった。

本作は、2001年に殺害されたアンドリュー・バッグビィの子供時代からの友人だった監督によるプライベートムービーとして始まる。

ジャック・ブラックにもちょっと似たアンドリューは偶然にもワタシと同い年だが、本当に多くの人に愛されてたところがワタシとは大違い。しかし、彼は十歳以上年上で子持ちのシャーリーという明らかに不釣り合いな女性と付き合い、別れ話のすえ彼女に射殺されてしまう。

そのときシャーリーはアンドリューの子供を妊娠しており、生まれた子供はザカリーと名づけられる。ザカリーはアンドリューの幼児時代の写真と瓜二つで、重ねられた写真に息を呑んだ。

そうしてこの映画は、そのザカリーに対して、父親であるアンドリューがどういう人間だったかを伝えるという目的が生まれた。

しかし、ザカリーの誕生は、シャーリーとアンドリューの両親との間の戦争の始まりでもあった。そして、その果てに待っていたのは……

本作はアンドリューの友人の手によるものだから、シャーリー並びに彼女に与する人間に対する描写には注意を要する。裁判にずるずると時間がかかるのは多くの国で共通する悩みだろう。しかし、「(アンドリューの父親のデヴィッドの言葉を借りれば)殺したい相手は殺したからもう危険はない」とばかりに保釈のための便宜をはかり、保釈金もとらず(なんのための制度なんだ)にまさに野放しにしてしまうカナダの裁判所には呆れるより他なかった。

もうどうしようもない気持ちになる映画だが、その最後にいたってこの映画が実はアンドリューの両親のための映画だと分かる。生き地獄という言葉が大げさでない状況に立ち向かうその忍耐力と気高さには胸を打たれた。

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