「松嶋×町山 未公開映画祭」においてレンタルした(予告編)。
アメリカのコメディアンのビル・マーが、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教といった宗教の信仰者にインタビューして回るドキュメンタリー映画で、監督は『ボラット』の ラリー・チャールズ。
本作におけるビル・マーは「宗教は有害」という立場に立ち、宗教家が確信を売り込むのに対し、自分が人々に売り込みたいのは疑念だと彼は宣言する。
ビル・マーは飽くまでにこやかに、しかし、宗教の教義、教典の矛盾を突き、信仰者を阿呆のように見せることに成功している。それは例えば「議員に知能は必要ないよ」とほがらかに語った数秒後にしまったという顔をする福音派の民主党上院議員などだが、そういえば『ジーザス・キャンプ』にも出演していたハガード牧師が、男娼とドラッグをやりながらセックスをした聖職者として引き合いに出されていて笑った。
映画本編の後で町山智浩さんが、その宗教の原点から離れてしまったことがいけないと解説していたが、ビル・マーはその原点(教典)そのものが非科学的でナンセンスだと本編で何度も指摘しているのだから端的に的外れだと思う。その点において彼の手法はケン・スミス『誰も教えてくれない聖書の読み方』を思わせるが、ワタシは劇中出てくる教典が作られた時代と近代科学が始まるまでにあまりにも時代差があるのだから仕方ないと説明する学者に説得力を感じたね。
本作の背景に政教分離というアメリカ建国の理念が堂々とないがしろにされたブッシュ政権への危機感があったのは間違いないだろう。それは理解できるし、現代の目からみればナンセンスでしかない教典をそのまま信じ込むことの滑稽さもしかりで、世界の終末がじきに訪れ、自分たちだけは救われると考える原理主義者などはた迷惑以外の何者でもない。しかし、唯一ユダヤ人の話題で激していたビル・マーをみて、ちょっとなんだかなという気分になったのも確かで、人間が弱き存在であることを認め、寛容の心を忘れているのは両方ともではないかという気持ちにもなった。