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岩谷宏のクソ訳はどうでもいいとして、Aaron Swartzの伝記映画が公開されている

Aaron Swartz についてのドキュメンタリー映画の話は、昨年末に「今年のうちに見ておきたい講演その他(その2):Think different. Think Aaron」を書いたとき触れたし、先月にここでも取り上げているが、遂に一般公開されたようだ。日本からは正規の方法では購入/レンタルはまだできない……と思ったら、Internet Archive で全編視聴可能である。クリエイティブコモンズ表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際ライセンスで公開されているんだね。

TechCrunch 日本版に翻訳記事が公開されているが、タイトルを見た時点でワタシは萎えた。この記事の翻訳者が岩谷宏だとそれだけで分かったからだ。

岩谷宏は co-founder をなぜか「協同ファウンダ」と訳す。ワタシが知る限りこのように訳す人を他にほぼ見たことがない(嘘だと思うならgoogle:協同ファウンダを見てみよう)。企業が対象の話なら、なんで普通に「共同創業者」と訳さないのだろう(正確に書くと、Aaron Swartz は Reddit の co-founder ではないのだが、これについては説明が面倒でワタシもそう書いてしまったことがあるし、原文にもそういう記述があるからここでは置く)。

そして、記事を読んでいて、いちいちひっかかるのである。岩谷宏の翻訳はそんなものだと言われればそれまでだが、この記事は最初の段落からイラつかされる。

若き天才Aaron Swartzは、インターネットはオープンである(べき)と信じていた。彼はRedditの協同ファウンダとして19歳でお金持ちになり、RSSの開発にも参加、その後は活動家のハッカー(hacktivist, hacker+activist)としてSOPAと戦った。

Reddit協同ファウンダAaron Swartzの死が示している重要な問題、映画「インターネットの嫡子」が一般公開へ | TechCrunch Japan

「オープンである(べき)と信じていた」とかあるから、てっきり原文に (should) 〜と括弧書きがあるのかと思ったら、そうではない。

Aaron Swartz was a young, bright genius who believed in the open Internet. A self-made millionaire by the age of 19, he co-founded Reddit, was part of the creation of RSS and became a political organizer and Internet hacktivist who was instrumental in the fight against SOPA.

Watch This Film About Why Aaron Swartz Matters More Than Ever – TechCrunch

普通に「Aaron Swartzは、オープンなインターネットを信じた若き天才だった」と訳せばいいだけだろう。中学生だってそう訳すだろうし、それで何も問題はない。なんで勝手にややこしくするんだ。

「活動家のハッカー(hacktivist, hacker+activist)」という書き方も、いちいち括弧書きで説明しれくれなくても、少なくとも TechCrunch の読者層ならgoogle:ハクティビストが十分流通している言葉だろう。塚越健司『ハクティビズムとは何か ハッカーと社会運動』が新書で出たのは一昨年の話である。

折角なので記事の訳文で気になるところも一点指摘しておく。

そしてその挙句、100万ドルの罰金と35年の懲役、という刑が確定した。

Reddit協同ファウンダAaron Swartzの死が示している重要な問題、映画「インターネットの嫡子」が一般公開へ | TechCrunch Japan

いや、正式には確定してはなかったんじゃない? これの原文は "He was facing $1 million in fines and 35 years in prison." で、罰金と懲役が迫りつつあったということだと思うが、ワタシのほうが間違っていたら指摘していただきたい。

個人的に一番ゲンナリしたのは、問題のドキュメンタリー映画につけた邦題についてのくだり。

Knappenbergerはこう言う、“Swartzは、一つの選択の象徴だ。彼は、インターネットの嫡子*であることを選んだ”。〔*: own boy, 養子ではなく実子。〕

Reddit協同ファウンダAaron Swartzの死が示している重要な問題、映画「インターネットの嫡子」が一般公開へ | TechCrunch Japan

いやさ、養子だろうが実子だろうがどうでもいいって! 「インターネットの子」あるいは「インターネットの申し子」と訳したとして、それが「養子」か「実子」かと誰が問題にするというのだ。

つまり、普通に訳せばそれでいいのに、岩谷宏が一人で勝手にややこしくしているのだ。その文章の論旨を伝えるためのフックとしてひっかかりを作るならまだいいだろう。しかし、そうでもなく、本質的でないところでただ読者の理解の細かい支障となる訳文に見え隠れするのは、ワタシには岩谷宏の自己顕示欲に思える。

岩谷宏が訳文でやる一種のひからかしは、実に見苦しいものがある。岩谷宏というと、google:余計な訳注 site:jp.techcrunch.comもお得意だが、ほとんどどれも見事に余計で、しかも、往々にしてそこに書かれているのは一種の知識のひけらかしである。しかも、どうでもいいようなレベルの。

この手の文章はいろんな人の恨みをかい、自分の執筆活動の妨害につながることは過去何度か経験して分かっているので、書かないほうが利口なのだろう。そうでなくても、ワタシだって翻訳でミスをするわけだしね。しかし、もういい加減うんざりしたので書かせてもらった。

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