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ブレイディみかこ『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』を恵贈いただいた

ブレイディみかこ『ヨーロッパ・コーリング・リターンズ』を著者より恵贈いただいた。

この本は2016年刊行の『ヨーロッパ・コーリング――地べたからのポリティカル・レポート』の単純な文庫化ではなく、『ヨーロッパ・コーリング』と重なるのは全体の3分の1強で、2016年から2021年秋口までの時評コラムを網羅するハイパー文庫化とでもいえるものだ。

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今年、著者の本では『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』や『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』を読んでいるが、特に後者はコロナ禍前で話が終わってしまうので、コロナ禍における著者の文章をまとめて読めてよかった。以前は一つか二つの媒体を押さえておけばよかったのが、今や売れっ子になった著者の連載をとても網羅できてなかったのもあるし。

こうして2014年から今年にいたる、この10年あまり保守党が政権を握る英国の社会・政治時評を通して読むと、著者が一貫して訴えるのは、緊縮政策は公共サービスを損ない、貧しい者から立ち上がる力を奪い、端的に言えば恵まれない者たちを殺す非人道的なものだということ。それを言葉を変え、何度も何度も叩きつけている。

著者も書くように「緊縮は人を殺す」という一点において、英国と同じことが日本でも起きているのを自覚しないといけない。

 「我慢」は道徳的に聞こえるが、闘わない言い訳になる。それは緊縮を進めたい勢力に容易に取り込まれ、利用される。
 何度でも繰り返すが、緊縮は美徳ではない。新自由主義の呼び名の変わっただけの究極の進化形だ。(263ページ)

前著『ヨーロッパ・コーリング』は、英国の EU 離脱を問うた国民投票の前までで終わっており、本書はその後をカバーしているが、それには緊縮政策に対する抵抗という意味で期待された労働党ジェレミー・コービン前党首やスペインのポデモスの挫折も含まれる。

あとコロナ禍における分析としては、以下の分析が目を惹いた。

 伝統的な政治勢力の対立と言えば「右vs左」だった。イデオロギーの闘いだったのである。それが今では、思想や階級による対立ではなく、「ピープルへの訴求」と「専門知識への訴求」の合成具合によって政治バトルを行う時代になっているというのだ。(428ページ)

この点でボリス・ジョンソン政権のテクノポピュリズムは、右派のうまいイメチェン話や左派が「友愛」をなおざりにした話とともに、自民党政権が続く日本の政治状況を説明にも使えるだろう。あと本書の「あとがき」で触れられている、デヴィッド・グレーバーが語る政治的「毒」の話も。

そうそう、「あとがき」といえば、シティズンシップ教育の授業で、austerity(緊縮財政)の意味を説明できる人を求められ、「ブレイディみかこの子どもとして、僕はこの質問にだけは答えないわけにはいかない」と思わず手を上げて、滔々と三分ぐらい説明してしまったという話に失礼ながら吹き出してしまった。

思えば、近年の文章になるに従い、著者の時評が息子さんとのやりとりがアクセントになるものが増えているのに気づく。そうした意味で、息子さんは著者が社会や政治を考える上で良い対話の相手になるまで成長したのだろう。

何度も書くが、天神の喫茶店で、タブレットでサッカー動画をみながら床を転がりまくっていたケン君も立派になって……(遠い目)。

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