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デザイン思考は期待外れだったのか?

ssir-j.org

ついこの間「さよなら、さよなら、デザイン思考」という文章を読んだばかりだが、デザイン思考の評価並びに模索すべき方向性についての詳細な記事が Stanford Social Innovation Review(SSIR)で公開されている。

この記事の原文は SSIR で2023年最も読まれた記事の1位のようで、SSIR に限らず(この文章にも書かれているように、当時 IDEO の CEO だったティム・ブラウンらによって書かれ、SSIR に掲載された「デザイン思考 × ソーシャルイノベーション」は重要文献だった)いろんな人が大きな期待をかけてきたトピックであり、結局、デザイン思考ってどうなんだ? という関心は今もとても強いということなのだろう。

この文章はまず、デザイン思考の旗印のもとで行われてきた試みが、複雑な社会問題に対して効果のある持続可能な解決策を生み出せなかった理由を説明している。

以下のあたりが、デザイン思考の落とし穴といったところだろうか。

デザイン思考は誰にでも使える公式という側面があるので、簡単に使えそうに見える。私たちが過去12年間、社会部門で研究者、デザイナー、教育者として働いてきた経験からいえば、多くの組織が複雑な問題に迅速な解決策をもたらすことを期待して、デザイン思考の見た目の単純さに魅かれがちだ。

デザイン思考は期待外れだったのか | スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版

デザイン思考は対象となる問題の文脈(コンテクスト)に敏感であると主唱者たちは標榜しているが、コミュニティや歴史の文脈についての体系的で構造的な理解が不在のまま取り組みが進むこともある。文脈から切り離された問題解決のアプローチは、システムの不具合を、個別の失敗事例と認識することにより、コミュニティや環境に意図しない害を及ぼす可能性がある。

デザイン思考は期待外れだったのか | スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版

イノベーションを加速させたいという願望が、デザイン思考を多用するハッカソンやオープン・イノベーション・チャレンジのような期間限定イベントの増加につながっている。こうしたイベントはアイデア出しに重点を置いていて、そのアイデアをどうするかについては二の次だ。

デザイン思考は期待外れだったのか | スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版

この文章の著者たちは、上記の問題を踏まえた上で、デザインに対して「批判的(クリティカル)」に向き合おう、批判的デザイン思考を受け入れよう、と訴えている。

批判的デザイン思考は単なる方法論ではない。特定のデザインプロジェクトのアプローチと成果を規定するものではなく、どのアプローチを採用するかを見極めるための情報を提供してくれるものだ。次に紹介する事例では、参加、報酬、規模、影響、資金調達などのデザイン上の決定をより批判的に行うことを試みている。ただし、これらは普遍的な大原則として解釈されるべきではない。なぜなら、批判的デザイン思考は、デザイナーが特定の文脈や状況に応じて選択を行うことを可能にするものでもあるからだ。

デザイン思考は期待外れだったのか | スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版

「デザイン思考は終わった」的な決めつけに対する反発はあろうし、著者らによる「批判的デザイン思考」に対する批判もあろうが、思考の枠組みの立て直しは可能なのだろうか?

最後に余談だが、この文章の訳者である中嶋愛さんは、ワタシが知る方なのかな?

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