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例によってマイケル・ムーアな映画である。彼を嫌いな人であれば、本作にしても彼の「装われた無知」がやはり鼻につくだろう。

イギリスやフランスの保険制度を手放しに評価しすぎだろうとか、グアンタナモ米軍基地からキューバへの渡航など作為がミエミエで、やらせもいい加減にしろよとか、本作にしても突っ込もうと思えばいろいろ突っ込みどころがあるだろう。

しかし、それでもワタシは本作を評価する。本作は『ボウリング・フォー・コロンバイン』のマリマンやチャールトン・へストン、『華氏911』ジョージ・W・ブッシュのように有名人が登場しないのでそうした意味で地味だけど、個人的には『華氏911』よりも好きだ。

ワタシが本作を評価するのは、うまく表現できないが、彼の演出に断罪と同じくらい向上心を重んじる、ある種の寛容さを感じること。それが上に書いた本作の地味さにもつながっているところもあるだろうが、米国の医療が人間よりも金銭と効率性を重視していることを怒りとユーモアをもって容赦なく告発している一方で、アメリカ的暴力を非難するために別のアメリカ的暴力を持ってくる無自覚さが大分薄れている。

本作を見て、当方はポール・クルーグマンがかつて「ぼくは当時もいまも、福祉国家の支持者を任じて恥じることがない。福祉国家は、これまで編み出された中で一番まともな社会体制だと思う」と書いていたのを思い出した。

いまどき「福祉国家」なんて言葉を持ち出すと哂われるのかもしれないが、相互扶助の理念に基づく福祉は、正しく機能すれば費用対効果もあがるはずなのだ。少なくとも保険を受給する段になって難癖をつけられ、意識もおぼつかない患者が病院から路上に捨てられたりする社会よりも、安心して治療に専念できる社会のほうが結果的に生産性は高いはずなのだ。別にお道徳だけが福祉を支える根拠なわけはない。

日本に住む我々としては、例えば宮内義彦といった規制改革関連の審議会に居座る連中が目指す先にこのアメリカの医療の現状があることをしっかりと胸に刻んでおけばよいだろう。

あと本作はエンドロールも最後までちゃんと観るように。

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