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マネーボール

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マイケル・ルイスの原作は未読だが、映画化以前からアスレチックスの GM ビリー・ビーン出塁率、長打力、四球の多さといったこれまで重視されなかった数字を重視するというセイバーメトリクスをチーム編成に適用することで……という原作の内容は伝え聞いていた。

そのノンフィクションがどのように映画化されているか見当もつかなかったが、映画全編を通して強くキャラが立った登場人物は主人公ビリー・ビーンだけで、そうした意味で本作は紛れもなくブラット・ピット映画と言える。しかし、本作はある程度野球についての知識と愛着がないと、ブラット・ピットだけがお目当てでは楽しめない。偶然にも公開時期と重なった巨人のお家騒動などと比べ、球団オーナー、GM、監督の関係、日米の相違など考えてみても面白いだろう。「野球は人に夢を見せる」という台詞の裏返しとしての悪夢まで、野球の持つある種の不気味さまで取り込みながらよくできていた映画である。

ブラット・ピットという人はインタビューを読んでもそんなに頭がよさそうには見えないのだが、プロデューサーとしての実績はなかなかで、本作を観て彼はプロデューサーとしてマイケル・ダグラス以上の存在になったのではとすら思った。

経験と勘を重視した選手スカウトをはじめとする既存の野球理論を否定するように見えるビリー・ビーンの方針が周囲の激しい反発を呼び、最初まったく結果に結びつかず、しかし後にチームは快進撃を始めるというスポーツ映画の一つの典型をストーリーはなぞっているが、やはり実話は強し。チームの快進撃の行き着くところは映画を観てもらうとして、まるでマンガのような劇的な展開を迎えるのだ。

単なる娯楽映画なら、ここで終わってもよかっただろう。しかし、その快挙の後もビリー・ビーンは、最後に勝たないと意味がない、とこの映画が勝利で終わらないことを示唆する。マネーボール理論は、アスレチックスのような貧乏球団の弱者の武器なのだが、そうした意味でエンディングのテロップはかなり皮肉で、それが本作に重みを加えていた。映画は金のために進路を決めるという失敗を犯したビーンの過去、メジャーリーグのドライさとシビアさ、そして球団経営の難しさ(トレード期限最終日の電話での駆け引きの場面はよくできていたね)まで織り込みながら娯楽映画として一級の出来で、アーロン・ソーキンが脚本の改稿に携わったと知って納得だった。映画の中盤でビーンの娘が披露する歌が意味を持つラストもよかった。

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