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それでも夜は明ける

以下、ストーリーにも触れるので、未見の方はご注意ください。

事実上『ゼロ・グラビティ』と一騎打ちの形でアカデミー作品賞を争い、獲得した作品である。

本作は前から観ることに決めていたが、北部に住む自由黒人が騙されて誘拐され南部に奴隷として売られてからの12年を描くという題材が題材だけに気が重いというのも正直あった。例によって2時間を越える上映時間がワタシの膀胱を悩ます。

しかし、それは杞憂だった。もちろん重い映画だったし、悲惨な描写も多い。自らの素性を明かす主人公に対する主人の態度や、この人ならと信じた相手の裏切りなど主人公の希望を打ち砕くイベントが要所にある。そして、そこから脱することができても、何のプラスもなく、主人公から貴重な時間が失われただけで、しかもその間の記憶は罪悪感とともに残るのである。

本作は時間を忘れさせてくれる傑作だった。そして少し書きにくいのだが、過酷ではあるが自然の美しさをとらえた映像美もあって割りと観やすいのである。これぐらいのさじ加減だからアカデミー作品賞がとれたのかな。木に吊られ、死にそうになっている主人公の背景で他の奴隷たちが普通に立ち働く場面など、映像描写に緩急があってよかった。黒人霊歌がおりなす不気味なリズムもよい。

もちろん主人公のソロモン・ノーサップを演じるキウェテル・イジョフォーの力もあったろう。顔にどこか愛嬌があって、しかも他の奴隷とは違う(そう見えないとおかしいわけだが)知性も感じる。

主人公はまずベネディクト・カンバーバッチ演じる聖職者のもとに売られる。彼は当時としては良心的な白人で、主人公にも報いようとするが、彼を守りきれないという建前、しかし、実際には借金のかたとして主人公を農場主に売り渡す。

本作ではポール・ジアマッティポール・ダノといった芸達者が悪い白人を演じているが、この残虐な農場主を演じるマイケル・ファスベンダーが本作ではピカイチだった。前から彼の名前をよく聞くが、正直そんな大した役者かねと思っていたところもあった。本作でワタシは自分の不明を恥じた。

スティーヴ・マックイーン(数十年後の映画ファンは、「えっ、そんな名前の俳優がいたんだ」と言うようになるのだろうか)の映画を観るのは本作が初めてで、すごくクセのある題材の映画を撮る人というイメージがあり、本作については語る言葉についてはやはり黒人としてのルーツもあってか正論ばかりが耳に残ったが、そうした「反論のしにくさ」は本作の内容にも反映されてしまっているように思う。

とはいえ、こういう自国の恥部をちゃんと映画にし、それがオスカーとるのはすごいことである。プロデューサーとしてのブラット・ピットの偉大さに一層深い敬意を抱いた。

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