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イーロン・マスクはヘンリー・フォードの轍を踏み、過激思想にいたる暗黒面に堕ちつつある?

theintercept.com

二度のピューリッツァー賞受賞経験があり、『戦争大統領―CIAとブッシュ政権の秘密』(asin:4620317802)、『ザ・メイン・エネミー』(asin:4270000082asin:4270000090)の邦訳があるジェームズ・ライゼンが、イーロン・マスクヘンリー・フォードを比較した文章を書いている。

ジェームズ・ライゼンは、(イーロン・マスクヘンリー・フォードの名前を並べるからといって)これは誉めてるんじゃないからな、と最初に釘を刺してから話を始める。

起業した当時のヘンリー・フォードは、現代的な組み立てラインを構築して製造コストを下げ、生産性を向上させて低価格な自動車販売を可能し、アメリカ人の生活の在り方を一変させた革命的な天才だった。1920年代前半、世界の自動車の半分以上がフォード社で製造されてたってすごいね。

時は移り21世紀、自動車業界をリードするイノベーターとなったのは、テスラで電気自動車を成功させたイーロン・マスクである。

しかし、そのマスクは、ヘンリー・フォードがかつて辿った暗路をなぞっているように見えるとライゼンは書く。

巨万の富を築き、世界的な名声を得ると、フォードは偏見とパラノイアに支配された人生を送るようになった。具体的には、労働組合を憎悪して会社にスパイのネットワークを作って従業員を監視し、その生活を支配しようとした。そして、フェイクニュース反ユダヤ的陰謀論を売りにした新聞(ディアボーン・インディペンデント紙)を買い、その新聞は二度の世界大戦期にナチスやヨーロッパのファシストの間で大きな影響力を持った。

フォードはアドルフ・ヒトラーに気に入られ、ヒトラーはフォードの写真をオフィスに飾っていた、という話は知らなかったが、調べてみると、短期間とはいえフォードとヒトラーナチス)が相思相愛だった時期があったと言えそう。

マスクは、フォードを奈落の底に突き落としたのと同じ軌跡を辿っているとライゼンは書く。マスクは調査員を雇って従業員の電話をハッキングしてメッセージを盗み見し、やはり労働組合が嫌いなマスクは、テスラの従業員が組合を結成しようとしたら、広告会社を雇って、従業員の Facebook グループを調査したと報じられている

今年のはじめには、マスクが経営するもう一つの会社であるスペースXで、マスクに対するセクシャルハラスメントの訴えを解決したという報道を揶揄したマスクのツイートを非難した従業員を解雇している

そして今、かつてフォードが新聞社を使ってやったように、マスクは大規模な右翼の憎悪を(フォードの時代の新聞よりも遥かにこえる影響力を持つ)Twitter で広めようとしているとライゼンは主張する。ドナルド・トランプ、右派過激派、QAnon のアカウントブロックの解除だが、返す刀でマスクを批判したジャーナリストのアカウントを停止しているのはご存じの通り。

またマスクはウクライナ戦争の解決に向けたウラジーミル・プーチンの主張を鵜呑みにし、事実上プーチンのメッセンジャーに成り下がった。

ヘンリー・フォードの生涯を参考にするなら、マスクが今解き放っている憎悪は、彼が死んだ後もずっと広がり続けるだろうとライゼンは警告する。フォードの著書『国際ユダヤ人』は、出版から1世紀経った今でも、白人民族主義者や親ナチや反ユダヤ主義者に参照され続けている。

「右翼の火遊び」をしたのが、自身の自動車会社が敵に囲まれようとしていたときなのもフォードとマスクで共通するとライゼンは分析する。世界中の大手自動車メーカー(もちろんフォード・モーターを含む)の大規模な電気自動車市場への参入により、テスラの電気自動車市場におけるシェアは2025年までに70%から11%に落ちると予測されている。

ここからはワタシの感想になるが、ヘンリー・フォードとの符合というのは読み物としては面白いが、どこまで本気にすべきかとも思う。労働組合の敵視はマスクだけでなくアイン・ランドかぶれのシリコンバレー人種に共通するし、Twitter 買収も内輪向けのジョークのつもりの軽率書き込みが大事になってしまい、それがタイミング的に金利引き上げと重なり、低金利下でのアクセル全開の経営しか経験がないマスクにとって裏目裏目に出てしまい、ようやく実業で稼げるところにきたテスラの株価までとばっちりというのが実際のところに近い気もする。

まぁ、自業自得以外のなにものでもないけど。

ネタ元は Pluralistic

そうそう、ジェームズ・ライゼンというと、来年5月に久方ぶりの著書となる The Last Honest Man を出すようだ。

1970年代にたった一人でウォーターゲート事件後の情報機関の権力濫用に立ち向かい、副題にもあるように FBI や CIA を敵に回し、そしてケネディ家のマフィアとのつながりを暴いたフランク・チャーチ上院議員を取り上げる本とのこと。

ジェームズ・ライゼンは、この数十年アメリカの国家安全保障を口実にした情報機関の秘密主義と横暴に対するアンチテーゼとしてこの本を書いたようだ。その横暴に一度だけ勝利した人間がおり、それがフランク・チャーチ、ということですね。

日本人にとって彼は、ロッキード事件の引き金役となった上院における通称チャーチ委員会の委員長を務めたことで知られるので、そのあたりについての話が多ければ、邦訳も期待できるかも。

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