……って、まだないんですか? などと煽ってはいけません。
Block & Mortar という web3 を扱うニュースレターをやっており、『バッドデータハンドブック』(asin:4873116406)の邦訳もある Q McCallum の文章だが、彼は「キラーアプリ」という言葉がドットコムビジネスやら bro culture を連想させるので好きではないとお断りしつつ、web3 という言葉を聞いて「それ何?」よりも「それ何に使えるの?」と言われるようになったのはよい傾向だと認める。
ただ、「web3 のキラーアプリは何か?」という質問に答えるのは難しくて、その理由を四つあげている。
- 「web3」という言葉が「AI」と同じく、複数の異なる概念のアンブレラタームで曖昧なこと
- テクノロジーというものは、大抵あることを行うために作られ(るが中途半端な成果にしかならず)、他の誰かがそれが別の分野で革命をもたらすことに気づく、つまり、後にならないとキラーアプリが何か分からない構図がある
- web3 のユースケースの話になると、大抵「それ既にあるよ」「それにクリプトを使ったら今よりひどくなる」という反応が返ってきて、実際それはだいたい正しいのだけど、新しいものは今とは異なる便利さを提供するもので……という『イノベーションのジレンマ』な話
- 多くの人が「web3」と「クリプト」を同じ意味で使っているがフェアじゃないし、「クリプト」、つまり暗号通貨に関する最近のニュースが、フィッシング詐欺やらトークンのメルトダウンやらファンドの破綻やら「犯罪」と隣り合わせ、しかもクリプトの採掘が環境に与える影響の話など悪い印象ばかりが前にくる
web3 が犯罪者にとってとても有益なのは確かで、そのキラーアプリは人々からお金を奪うことなんて主張もあるくらいだが、飽くまで大衆にアピールできる合法的なユースケースとして Q McCallum が挙げるのは、ファッション分野とポイントプログラム(Loyalty program)の二つである。
うーん、そうなのか。具体的にこの二つがどう web3 に合っており、キラーアプリになれるのかは原文をあたってくだされ。
その後に引用されている「自分がブロックチェーンを使っているのを気づかないままブロックチェーンを構築できた人が勝者になると思う」というマイク・ルキダスの言葉はワタシも正しいと思う。確かに消費者は、自分が好きなアプリがどんな技術で動いているかなんてほとんど気にしないし、便利に使えればそれでよいのだ。しかも、web3 には上にも書いた評判の問題もあるのでなおさらである。
そして、Web 2.0 のキラーアプリだったアドテクが AI のエコシステムにどれだけ還元されたかを考えると、web3 のキラーアプリが生まれたら、その構築と収益化に対する関心が、基盤となるテクノロジーの改良を促し、そしてそれが他の分野にも応用されるだろうという予言もやはり正しいでしょうね。
ワタシ自身は「Web3の「魂」は何なのか?」において、「Web3というコンセプトに厳密に従ったサービスだから成功するのではなく、今後成功を収めたサービスが自然とWeb3の代表格と見なされる」と書いたが、果たしてどうなりますでしょうか。
たまたま『イーサリアム 若き天才が示す暗号資産の真実と未来』を恵贈いただいたので、とりあえずこれを読むところから理解を深めていきましょう(「web3」と「クリプト」を混同するなと Q McCallum に怒られそうだが)。