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ダナ・ボイドはメタバースへの誘いを丁重に断り続ける

www.zephoria.org

ワグナー・ジェームズ・アウの新刊 Making a Metaverse That Matters を献本されたダナ・ボイドが書いているこの文章を読んで、苦笑いを禁じえなかった。

この著者名にかすかに覚えがあったので調べたら、『セカンドライフ 仮想コミュニティがビジネスを創りかえる』(asin:4822246973)の邦訳があった。そして、ワタシはこの本をご恵贈いただき、「仮想現実と拡張現実〜Second Life、Sekai Camera、はてなワールド」という文章で名前を出している。

しかし、15年前(ワオ!)の自分の文章を読み直して、「「すっかり盛り下がってしまった」という印象がある中で本書が刊行されるのは、(中略)いささか気の毒に思えます」とか、率直に書いているねと懐かしい気持ちになる。

ダナ・ボイドの文章に戻ると、実は彼女もなかなか率直である。

ワグナー・ジェームズ・アウは、我々が初めて出会ったゼロ年代半ばから、私にバーチャルリアリティに引き込もうとしてきた。その繰り返しで、彼はずっとバーチャルリアリティに興奮してきた。毎回、彼は特定のブツが前よりクールで、より身近で、より魅力的だと私を説得しようとする。そのたびに私は、この方面にまったく興味がないのを丁重に説明することになる。それでも、私はジェームズのことが好きだ。それに、彼の熱意には感謝している。新しいテクノロジーを目の当たりにし、そんな風にときめきたいと思う自分もいるからだ。

つまり、ダナ・ボイドは、ワグナー・ジェームズ・アウに対して20年近く、いや、私、バーチャルリアリティにはビタイチ興味ないんで、と言い続けているというわけ。

で、実はワグナー・ジェームズ・アウも、ダナ・ボイドのバーチャルリアリティ嫌い、そしてその理由をちゃんと分かっている。そして、今回の新刊において、そのあたりもちゃんとページが割かれている。

実は、ダナ・ボイドは2014年に VR 体験の性差にフォーカスした挑発的なエッセイを書いており、ワタシも当時、それを取り上げた文章を書いている。偉いぞ、9年前のオレ。

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ダナ・ボイド自身、かつて自分が書いたエッセイを読み直し、辛辣な余談を述べている。

(余談:Meta が Meta になる前に、自分が Oculus のメタバース性に苦言を呈したのを忘れていたので、この文章を再読して笑ってしまった。さらに余談ながら、テックブロがディストピア小説に出てくる世界を作り上げておきながら、自分なら違うものにできると思い込みたがるのに呆れを禁じえない。念のため書いておくが、これこそ狂気そのものだ)

彼女は CAVE を体験して VR 酔いで吐いた経験から、VR 体験の性差について研究するのだが、当時(およそ25年前)嫌われた「トランスジェンダー」という言葉が今では一般的で、当時好まれた「トランスセクシャル」が問題視されるようになり、今になって昔の言葉遣いをあげつらい、トランスフォビア呼ばわりする批判が来るのにうんざりするという別の余談も興味深いが、ワグナー・ジェームズ・アウの新刊に話を戻すと、彼はちゃんとダナ・ボイドの研究を踏まえ、性差の問題にきちんと言及している。

しかし、それでもダナ・ボイドにとっては、やはり現状の「メタバース」は、「テックブロがディストピア小説に出てくる世界を作り上げておきながら、自分なら違うものにできると思い込」んでる事例に過ぎないという認識のようだ。そして、ワグナー・ジェームズ・アウに感謝の言葉を述べつつも、「私はメタバースに何ら興味はありません」と改めてキッパリ宣言している。

Meta のメタバースへの取り組みについては、ワタシも「メディアとしてのメタバースのメッセージを(ニコラス・カーが底意地悪く)読み解く」で取り上げているが、2023年のテック界隈の話題の主役は完全に生成 AI になり、「メタバースは失敗」と既に決めつける人もいるのは確か。

そうした中でメタバースについての本を出したワグナー・ジェームズ・アウは今回もいささか気の毒だが、ゲーミングプラットフォーム Roblox が Meta プラットフォームに対応することで、米国の家電量販店で Meta Quest 2 が飛ぶように売れ出したという話もあり、ワタシはまだメタバースにはまだまだ伸びしろがあると思っている。

なので、ダナ・ボイドが指摘する問題点にもページが割かれたワグナー・ジェームズ・アウの新刊の邦訳が出るとよいな。

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