コリイ・ドクトロウの Pluralistic で、『いつになったら宇宙エレベーターで月に行けて、 3Dプリンターで臓器が作れるんだい!?』(asin:4759820353)の邦訳があるケリー・ウィーナースミス(生物学者)、ザック・ウィーナースミス(漫画家)夫妻の新刊 A City on Mars が昨秋出ていたのを知る。
「我々は宇宙に移住できるのか? 移住すべきなのか? 我々はこのことをちゃんと考えたことあるのか?」という副題で明らかなように、新刊のテーマは、人類の宇宙への移住である。
「テクノ楽観主義者からラッダイトまで」で紹介した「TESCREAL」にも宇宙主義(Cosmicism)は含まれており、イーロン・マスクやジェフ・ベゾスによる宇宙開拓は今どきなテーマである。
ドクトロウの紹介によると、宇宙への入植は、現状はもちろん、今後可能と予測される技術的能力をはるかに超えていることについて説得力ある主張をしているそうな。端的にいえば、宇宙への移住なんてナンセンスということ。さらには、宇宙開拓に注がれるエネルギーは、人類と地球に利益をもたらすはずの宇宙科学の発展を促進するどころか妨げているという。そうなのか?
月にしろ火星にしろ、宇宙で定住先と見込む場所は、地球よりもはるかに厳しい環境である。それは「現在の」地球より厳しいのはもちろん、人類文明が破壊され、核兵器で破壊された地球でさえ、宇宙に比べれば住みやすい楽園というのだ。
そもそも宇宙に作ったコロニーに必要な人間の数を考えると、そのようなコロニーを作れたとしてもそれを維持できる見込みはとにかく小さい。そもそも地球外で生まれた子供が成人まで成長できると信じる根拠すらほとんどないという。
言っておくが、ウィーナースミス夫妻は決してアンチ宇宙派ではないし、宇宙開拓に反対もしていない。そうではなく、宇宙をベースとした科学の飛躍的進歩や太陽系の探査は、宇宙への入植から始めるべきではないと主張している。ドクトロウの評を読むと、宇宙法(space law)の議論も面白そうだ。
詳しい情報は、本の公式サイトをご覧くだされ。